陽暉楼

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陽暉楼
監督 五社英雄
脚本 高田宏治
原作 宮尾登美子
出演者 緒形拳
池上季実子
浅野温子
音楽 佐藤勝
撮影 森田富士郎
編集 市田勇
製作会社 東映
俳優座映画放送
配給 東映
公開 日本の旗 1983年9月10日
上映時間 144分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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陽暉楼』(ようきろう)は1983年9月10日に公開された日本映画。配給は東映カラーワイド。上映時間は144分。宮尾登美子の同名小説が原作。

概要[編集]

鬼龍院花子の生涯』に次ぐ五社英雄宮尾登美子コンビの二作目で、土佐高知花柳界を舞台に生きる女衒の父と芸妓となった娘との愛憎を描く。

原作のあらすじ[編集]

主人公・房子(桃若)は魚屋の両親のもとに生まれ、12歳で芸妓の世界に入ってから10年経つ。若いエリート銀行員・佐賀野井の子を妊娠するが、男は責任を取ろうとしない。房子は男の子を産んだあと、肺病にかかり、やがて短い生涯を終える。

製作経緯[編集]

宮尾の原作は似た芸妓がたくさん出る話で、ストーリーを動かす役が足らず、脚本の高田宏治がストーリーを大きく改変した[1][2]。高田が五社に映画化を勧めたという[1]。『鬼龍院花子の生涯』で女を書いてお客に受けて自信を付けた高田が、今度は純粋に女を書いてみたいと脚本を執筆した。浅野温子演じる珠子は原作にはなく、勝造の設定やキャラクターも原作(魚屋)とは違う[2]。宮尾からのクレームは当初はなかったが[3]、『櫂』のあとで爆発して新聞紙上で「五社と高田はどうしようもない」とボロクソに批判した[2]。高田は「原作者に"あいつには二度と脚本を書かせるな"と言われるぐらいのつもりでやらないといい脚本は書けない」と解説している[2]

キャスティング[編集]

『鬼龍院花子の生涯』に続き、仲代達矢に主演のオファーを出したが、佐藤正之から「仲代があんまりヤクザばっかりやるのはどうか」と断わられ、菅原文太にも断られた後、緒形になった[3]。ヒロイン役は秋吉久美子に交渉していたが、秋吉側が色々注文を付けるので池上季実子に交代した。[4]

あらすじ[編集]

昭和初期、土佐随一の料亭、陽暉楼を舞台に、女衒の太田勝造、その娘の芸妓・桃若、勝造の愛人・珠子らを中心とした人間模様を描く。(珠子は原作にない人物)

かつて勝造は、娘義太夫の呂鶴と駆け落ちするが、呂鶴は追っ手に斬り殺され、幼い娘が残された。娘は陽暉楼に預けられて成長し、今では売れっ子芸妓・桃若になっている。

勝造は芸妓、女郎をあっせんする女衒である。ある日、稲宗(いなそう)組から、妻の身売りに来た中学教師を紹介される。勝造が男に百円の前金を渡すと、夫婦はそのまま逃げてしまう。勝造は2人を探そうとはしなかった。

勝造の愛人・珠子は、勝造と別れて花を咲かすため芸妓になる、と言いだす。勝造は陽暉楼に連れて行くが、女将に断られる。帰りがけに桃若の姿を見かけた珠子は「これが陽暉楼の芸妓(げいこ)かいな」と捨てぜりふを吐く。桃若への対抗心から、珠子は玉水遊廓に行くことを申し出る。

ある宴席で、桃若は帝大出の銀行員・佐賀野井と出会い、恋心を覚える。一方の珠子は玉水の明月楼に入り、初めての夜にいったんは逃げ出してしまうが、意を決して店に戻る。珠子は売れっ子の女郎となる。 以前、勝造から金を持ち逃げした女は、丸子という芸妓になっており、稲宗組の指図で陽暉楼に入ることになる。

ある日ダンスホールで、桃若ら芸妓とひいき客の一行は、珠子たちに鉢合わせをする。珠子はあてつけるように佐賀野井と一緒にダンスを踊り、皆の喝采を浴びる。ダンスホールの洗面所で、桃若と珠子はつかみあいの喧嘩になる。その夜、桃若と佐賀野井は結ばれる。

桃若はやがて妊娠するが、佐賀野井はヨーロッパに旅立ってしまう。陽暉楼の女将は、桃若の子は旦那の堀川の子だということにして、いずれ桃若に店を継がせようと考えている。しかし桃若は、女将の意に従わず、旦那の堀川と別れ、一人で女の子を産む。胸を病み働けなくなった桃若は、子供を陽暉楼に託す。

陽暉楼の主人はばくち好きで、土佐への進出を狙う稲宗組から借金を重ねる。稲宗組に従わない勝造は命を狙われることになる。 

女の対決[編集]

球子(浅野温子)と桃若(池上季実子洗面所で水浸しになりながら取っ組み合う、15分に及ぶ長回しの喧嘩シーンが見所の一つである[5][6]

また、陽暉楼の主人と丸子(佳那晃子)が温泉旅行に出かけたところに、女将お袖(倍賞美津子)が乗り込み、湯の中でつかみ合いの喧嘩になるシーンもある。

逸話[編集]

1981年フジテレビ大改革の象徴的な位置付けとして新設されたのが、毎週二時間の新作時代劇を放送するという前代未聞のプロジェクト時代劇スペシャル」であったが[7]、『鬼龍院花子の生涯』で芸能界に復帰した五社が、10年ぶりに手掛けたテレビ時代劇『丹下左膳 剣風!百万両の壺』(1982年10月22日放送)の後は、視聴率が低下した[7]1983年、起死回生の賭けとして企画されたのが五社の代表作『三匹の侍』の13年ぶりのリメイクだった。フジのディレクター岡田太郎佐藤正之が中心となって準備し、大野靖子の脚本も完成。キャスティングが終わり、平幹二朗加藤剛長門勇丹波哲郎のオリジナルキャストの特別出演も決定し、長門はの稽古に入り、みんな乗り気になていた[7]。ところが東映岡田茂社長から五社に「『陽暉楼』を撮ってくれ」との要請がきた[7]。五社は芸能界に復帰させてくれた岡田社長に強い恩義を感じており、また宮尾登美子作品に挑戦してみたいという欲求もあり、『三匹の侍』のリメイクは断り、岡田社長の方を取った[7]。さらに五社の盟友・佐藤正之も一緒に東映へ行った。大野靖子ら関係者は激怒し、五社は勿論、大野や岡田太郎、能村庸一プロデューサーらに侘びを入れたが、それは修羅場だったといわれる[7]。結局「時代劇スペシャル」は3年で終了。五社のテレビ界復帰も閉ざされたが、五社はこの後、本格的に映画監督として巨匠の階段を昇っていく。五社にとっても人生を賭けたターニングポイントとなったのが本作であった[7]。五社は「これから一匹狼として映画界を生き抜いていく」と決意し本作の撮影前に全身刺青を彫った[8]

キャスト[編集]

太田勝造
演 - 緒形拳
女衒。あだ名は「だいかつ」。普段は借金を抱える家の娘たちを芸妓や女郎として欲しがる店に斡旋する仕事を淡々とこなしている。顔に凄みがあり喧嘩が強く、怒らせると手のつけようがない。殺人で前科2犯。
稲村から後ろ盾になってやると言われた時は「(組織を作って)いまさら成り上がるつもりはありません」と断り終始一匹狼を貫いている。そのため命を狙われることになる。桃若のことは娘として愛情を持っているものの、桃若の生みの母・鶴が死んだ原因が自身にあったり、愛人を作ったりしているため親子関係は上手く築けていない。
太田房子(桃若)
演 - 池上季実子
陽暉楼のNo.1芸妓。女将お袖に「100年に一人出るか出ないかの芸妓」とその素質を高く評されている。ただし陽暉楼や客の一部からは「見かけとは違って情が薄い、冷たい女や」と思われている。佐賀野井の子を妊娠する。
勝造によって芸妓となるべく幼いころに陽暉楼に連れてこられた。勝造の命を狙う追っ手によって母・鶴が死んだが、桃若にとっては勝造に殺されたようなものとして父に対し激しい憎しみを内に秘めている。母に生写しだといわれるが、生前の母の詳しい話はあまり聞かされていない。
サーカスの唄』(松平晃の歌)が大好きで少しだが歌うシーンがある。
豊竹呂鶴
演 - 池上季実子(二役)
房子の生みの母。娘義太夫。美人で、過去に佐賀野井の父や堀川がのぼせ上がって通いつめたほど。その歌声が絶賛されている。勝造と駆け落ちしたが、まだ乳児だった房子を残して勝造の追っ手によって殺された。
珠子
演 - 浅野温子
勝造に囲われていた愛人。大阪で娘義太夫の修業をした後、カフェーの女給になり勝造と知り合った。勝造と別れ、芸妓になりたいと申し出たが陽暉楼の女将・お袖に断られた。その後玉水遊郭の女郎として働き始め、ほどなくして一番の売れっ子となる。
気が強くやり手のお袖にも動じずに話をしたり、初対面にも関わらず桃若を筆頭とする芸妓たちに向かって「なんやこれが陽暉楼の芸妓かいな、しょーもな(くだらないの意味)!」と言い放った。桃若を敵視し、挑発的な態度を取る球子だが、後に、桃若と心を通わせるようになる。
胡遊
演 - 二宮さよ子
陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。本人によると「金持ちの優しいお爺さんを含めて2、3人の男と付き合っている」とのこと。本気で男を愛したことがないという桃若に本気の恋愛について教える。
吉弥
演 - 市毛良枝
陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。桃若が本気で男に惚れたことがないと指摘している。仲は悪はないが桃若について「元々あの人は一皮むけば自分さえ良ければいい人間なんや」と感想を述べている。
茶良助
演 - 熊谷真実
陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。ダンスホールでひでおからチャールストンのダンスを習っていたところ、踊りの上手い珠子に邪魔をされひでおを取られた。また桃若が妊娠した時に「産むか降ろすか早く決めた方がいい」と助言をする。
助次
演 - 西川峰子
陽暉楼の芸妓、桃若の後輩。作中では「父や母が病気でお金がいる」などと理由をつけては、金を前借りしている。女将お袖について裏では「あの女は鬼かヘビや!」などと嫌っている。14歳の頃から客を取らされており、その割に借金が一向に減らないと勘兵衛に食って掛かった。
とんぼ
演 - 仙道敦子
陽暉楼の若い芸妓。桃若を慕っており、色々と気遣いを見せる。
〆若
演 - 山本ゆか里
米蝶
演 - 弓恵子
今助
演 - 林彰太郎
勘兵衛
演 - 花澤徳衛
陽暉楼の番頭。店の金の管理、雑用などをこなす。
篠山竹造
演 - 大木晤郎
お常
演 - 丸平峰子
お国
演 - 星野美恵子
時江
演 - 松村康世
お粂
演 - 牧よし子
玉水遊郭・明月楼の雑用などをこなす老婆。
久美
演 - 湖条千秋
蝶子
演 - 速水典子
和久田達吉
演 - 内藤武敏
池西
演 - 稲葉義男
高山助役
演 - 疋田泰盛
橋本正明
演 - 中村錦司
ながはま造船の社長。周りからは色々と陰口を言われているが、景気が良く金払いがいいため陽暉楼ではいいお客として迎えられている。
お峯
演 - 園佳也子
勝造の後妻で房子の育ての母、房子の実家で暮らす。房子は離れて暮らしており、勝造はたまにしか帰ってこないためほぼ忠と2人暮らしの生活。桃若が乳児だった頃、母乳をあげていたとのこと。『浪花小唄』や『国境の町』などの歌が好きで作中で歌っている。
演 - 玉野叔史
房子の実家で暮らす弟。目が不自由で、勝造からあまり外に出ないように言われており、ほとんど家の中で過ごしている。房子にかわいがられており、ハーモニカとサングラスをプレゼントしてもらい愛用するようになった。
演 - 井田弘樹
数年後、成長した忠役でラストシーンに出演。
老浪曲師
演 - 高谷舜二
バーテンダー
演 - タンクロー
川之江病院の医者
演 - 平河正雄
高知病院の医者
演 - 浜田寅彦
土建屋風の客
演 - 有川正治
武崎病院の医師
演 - 袋正
床屋の亭主
演 - 岩田直二
大阪駅駅員
演 - 大村崑
ラストシーンで、珠子が終電が行った後も駅の待合室から帰ろうとしないのを説得する。
稲村宗一
演 - 小池朝雄
大阪を拠点とする稲宗(いなそう)組の親分。作中では土佐と高松の土讃線の開通工事を控えており、大金が動くとされる。その事業に関わるためには、土佐を代表する店である陽暉楼が持つ資金が必要だと店を狙っている。
三好辰吉
演 - 成田三樹夫
稲宗組の組員。中学教師古田の妻・昌江が大阪から離れた場所で働きたいと申し出たため、勝造に紹介した。勝造と商売上の付き合いがあるが、邪魔な存在と考えるようになる。
金串武彦
演 - 小林稔侍
稲宗組の組員。武闘派で勝造の命を狙うようになる。
南敏之
演 - 成瀬正
紫雲竜
演 - 荒勢
富塚
演 - 奈辺悟
宮坂留吉
演 - 藤田博
大木
演 - 細川純一
古田徳次
演 - 木村四郎
大阪の天下茶屋で中学校の教師。金を借りるために妻昌江を売ろうとする。勝造から前金の百円を持ち逃げし、まもなくケンカに巻き込まれて死ぬ。
丸子(古田昌江)
演 - 佳那晃子
古田の妻。前金持ち逃げの後、夫を亡くし、別の店で芸妓となり売れっ子となる。稲宗組の親分に気に入られる。元々はしおらしい女性だったが、稲宗組と関わる内に性格が豹変する。稲宗組の親分の命で陽暉楼にスパイとして送り込まれ、陽暉楼の主人を誘惑する。
若衆
演 - 木谷邦臣
お駒
演 - 上月左知子
陽暉楼の芸妓たちの世話をしている。桃若が客に会う前に助言やお願いをしている。
仁王の秀次
演 - 風間杜夫
勝造の舎弟。勝造の指示を受け、玉水で女郎として働き始めた珠子を見守る。優しい人柄で、初めての客から逃げ出そうとした珠子に対し、無理に引き戻さず判断を委ねた。後に、球子と土佐に小料理屋を開く。
佐賀野井守宏
演 - 田村連
南海銀行の御曹司。一目見た時から桃若を気に入り好意を持つ。ダンスホールで居合わせた玉水の女郎たちから「ええ男、活動写真のスターみたいやわ」と褒められる。特技はダンスで、チャールストンを踊れる。
山岡源八
演 - 北村和夫
陽氣楼を経営。表向きは真面目な商売人だが、博打好き。気の強いお袖の尻に敷かれっぱなしだが、実際には血も涙もない情のかけらもない女だと愚痴をこぼしている。
堀川杢堂
演 - 曽我廼家明蝶
銀行協会の会長。桃若の上物の客で、陽暉楼の客の中で特に大事にされている。桃若からは「ほーさま」と呼ばれている。自ら年寄りと認めており、金はあるものの体力的に衰えてきている。綺麗で踊りも上手い桃若が中々客と長続きしないことを不憫に思っている。
前田徳兵衛
演 - 丹波哲郎
お袖
演 - 倍賞美津子
陽暉楼の女将で元芸妓。実質、陽暉楼を取り仕切っている。周りから「お母さん」と呼ばれているが、親しみより恐れられている存在。真偽は不明だが「芸妓だった時に陽暉楼の女将になるために蛇神様を祀って先代の女将を呪い殺した」と芸妓たちから噂されている。また三好からは警察も動かすやり手の女として、一筋縄ではいかない存在となっている。
金串によると芸妓だった頃勝造と恋仲だった。そのため別れた今でも勝造とは仕事や桃若を通じて親しくしている。桃若を幼いころから立派な芸妓にするため手塩にかけて育てており、そのためなら時に手厳しい言動も辞さない。

スタッフ[編集]

文献[編集]

  • 『年鑑代表シナリオ集』1983年版、ダヴィッド社

映像ソフト化[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b 春日太一[総特集] 五社英雄 極彩色のエンターテイナー河出書房新社KAWADE夢ムック 文藝別冊〉、2014年、135-140頁。ISBN 978-4309978512
  2. ^ a b c d 西谷拓哉・高田宏治 『高田宏治東映のアルチザン』 カタログハウス1997年、187-197頁。ISBN 4905943337
  3. ^ a b 春日太一 『[総特集] 五社英雄 極彩色のエンターテイナー』 河出書房新社〈KAWADE夢ムック 文藝別冊〉、2014年、121-125頁。ISBN 978-4309978512
  4. ^ 「消えた主役」名作ドラマ・映画の知られざる“交代劇”(1)「鬼龍院花子の生涯」脚本家・高田宏治インタビュー
  5. ^ 五社巴 『さよならだけが人生さ ー五社英雄という生き方講談社1995年、162頁。ISBN 4-06-20636-1。
  6. ^ 80年代黄金ヒロインたち・最終回 池上季実子 | アサ芸プラス
  7. ^ a b c d e f g 能村庸一春日太一 『時代劇の作り方 プロデューサー・能村庸一の場合辰巳出版2011年、56-73頁。ISBN 978-4-7778-0864-9
  8. ^ 春日太一 『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 文藝春秋2013年、408-409頁。ISBN 4-1637-68-10-6

外部リンク[編集]