ノルウェイの森
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『ノルウェイの森』(ノルウェイのもり)は、村上春樹の長編小説。また、それを原作とした映画作品。
概要
1987年9月、講談社から書き下ろし作品として上下巻が刊行、1991年に講談社文庫として文庫化、2004年に文庫改訂版が出された(なお、単行本にはあとがきが付されているが、文庫版には掲載されていない)。執筆はギリシャ、シチリア、ローマで行われた。そのため、引き続いてロンドンで執筆した『ダンス・ダンス・ダンス』と共に「異国の影のようなものが宿命的にしみついている」「結果として書かれるべくして書かれた小説」「もし日本で書かれていたとしたら、(中略)これほど垂直的に「入って」いかなかったろう」と村上は『遠い太鼓』に書いている。1987年3月7日、早朝から17時間休みなしで第一稿を深夜に書き上げる。直後の日記に「すごく良い」とだけ書き記した。3月26日、第二稿完成。すべてボールペンで手書き。
学生運動の時代を背景として、主人公「僕」と、友人の恋人「直子」を軸に、様々な思春期の葛藤や人間模様、恋愛、喪失感などを巧みに描き、非常に広く読まれている。後述のように上巻は、片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』に抜かれるまで、日本小説単行本の発行部数トップであった。
主人公の通っている「東京の私立大学」は村上の母校早稲田大学を、「主人公が入っていた寮」は入寮していた和敬塾をモデルにしているなど、この作品は村上の実体験を基にした「自伝的小説」であるとも見られるが、本人はこれを否定している。
元となる作品として短編小説の「螢」がある。
アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどの英語圏のほか、ドイツ、フランス、ロシア、中国、台湾、韓国などでも翻訳されている。ノルウェー語にも翻訳された。
2008年、ベトナム系フランス人監督トラン・アン・ユンによる映画化が発表され、2010年12月11日に日本公開された。主人公ワタナベを松山ケンイチ、ヒロイン直子を菊地凛子、緑を演技初挑戦でモデル出身の水原希子が演じている。
登場人物
- 僕
- 主人公。フルネームは「ワタナベトオル」。神戸の高校を卒業後、東京の私立大学文学部に進学(加えて学生運動に関する記述などの設定については、著者のプロフィールと重なる部分が見られる)。
- キズキ
- 「僕」の高校時代の同級生で唯一の親友。直子も交えて3人で遊ぶことが多かったが、17歳の時、自宅のガレージでN360の排気ガスで自殺する。
- 直子
- キズキの幼なじみで恋人。神戸にあるミッション系の女子高校卒業後、東京の武蔵野のはずれにある女子大学に進学。キズキの死後は「僕」との出会いが途絶えていたが、中央線の車内で偶然にも再会、交流を持つようになる。
- 突撃隊
- 「僕」が住む学生寮の同室人だった学生。国立大学で地図学を専攻しており、国土地理院への就職を希望。生真面目で潔癖症ゆえの数々のエピソードで「僕」や直子たちの心を和ませるが、突然退寮している。それ以後は「僕」の話以外で登場しない。
- 永沢さん
- 「僕」が住む学生寮の上級生。学籍は東京大学法学部。実家は名古屋で病院を経営。のちに外務省に入省。独自の人生哲学を持っている。「グレート・ギャツビー」を「僕」が読んでいたことから「僕」と親しくなる。
僕に対しての印象を「出会った人の中で最もまともな人間」だと語っている。プレイボーイ。 - ハツミさん
- 永沢さんの恋人。学籍は「とびきりのお嬢様が通う」東京の女子大。はっと人目を引く美人ではないが、上品な装いに、理知的でユーモアがあり穏やかな人柄で、永沢さんをして「俺にはもったいない女」と言わしめる。ビリヤードが得意。
- 小林緑
- 「僕」と同じ大学で同じ授業(「演劇論 II」)を受講。実家は大塚で書店を経営。両親を脳腫瘍で失う。
- レイコさん
- 「阿美寮」における直子の同室人。フルネームは「石田玲子」。かつてピアニストを目指していたが挫折し、3回にわたって精神病院に入院。「阿美寮」には8年間入所しており、患者たちにピアノを教えている。ギターも得意である。横浜に別れた夫と長女がいる。
タイトルの由来
村上は、この「ノルウェイの森」というタイトルについて、初めは気に入っていなかった。この作品は、「雨の中の庭」というタイトル(ドビュッシーの『版画』より「雨の庭」(Jardins sous la pluie)から)で書き始められ、途中で「ノルウェイの森」というタイトルに変更された。題名に迷った村上が、妻に作品を読ませて意見を求めると、「ノルウェイの森でいいんじゃない?」という返答があった。また、村上自身は特別なビートルズファンではないという。
作中で読まれた文学作品
- 『車輪の下』(ヘルマン・ヘッセ)
- 『魔の山』(トーマス・マン)
- 『グレート・ギャツビー』(スコット・フィッツジェラルド)
- 『八月の光』(ウィリアム・フォークナー)
- 『ケンタウロス』
出版
装幀を村上自身が手がけている。赤と緑のカバーにつけられた金色の帯には「100パーセントの恋愛小説」と書かれていたが、この金色の帯は村上の意図したものではなく、発売後しばらく経ってから出版社の意向で変えられたものである。もともと初版の帯は上下巻ともそれぞれのカバーとまったく同じ色(赤と緑)であり、金色の帯に変わったとき村上は日本にはおらず、もし相談されていたら断っていただろうと書いている。 「100パーセントの恋愛小説」とは、ほんとうは『羊』『世界の終わり』とはラインが違うという意味で「100%のリアリズム小説」と書きたかったが、無理なので洒落っ気で「恋愛小説」という実体のない死語を引っ張り出してきた[1]。 2003年に講談社から出版された『ノルウェイの森 村上春樹全作品1979〜1989 6』には『100パーセント・リアリズムへの挑戦「自作を語る」』という副書が添えられている。
単行本の発行部数は、2008年時点で上巻が238万部、下巻が211万部の計449万部、2009年8月5日時点で上下巻あわせて454万4400部。単行本・文庫本等を含めた日本における発行部数は2008年時点で計878万部[2]、2009年8月5日時点の増刷で1000万3400部[3]となり、1000万部越えを達成した。村上人気が高い中国でも100万部以上が出版されている[4]。上巻は、片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』に抜かれるまで、日本における小説単行本の発行部数歴代1位であった。 『遠い太鼓』の中で、作品が売れ始めた頃は嬉しかったが、それが自分には想像不可能な人の数になるにつれて、むしろ自分は憎まれているような孤独を感じたと綴っている。
映画
ノルウェイの森 | |
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Norwegian Wood | |
監督 | トラン・アン・ユン |
脚本 | トラン・アン・ユン |
製作 | 小川真司 |
製作総指揮 |
豊島雅郎 亀山千広 |
出演者 |
松山ケンイチ 菊地凛子、他 |
音楽 | ジョニー・グリーンウッド |
主題歌 | ザ・ビートルズ『ノルウェイの森』 |
撮影 | リー・ピンビン |
編集 | マリオ・パティステル |
配給 | 東宝 |
公開 |
2010年9月12日 (トロント国際映画祭) 2010年12月11日 |
上映時間 | 133分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
トラン・アン・ユン脚本・監督で製作。日本では2010年12月11日に公開された。映倫PG12指定。主演は『誰かが私にキスをした』の松山ケンイチ、『ナイト・トーキョー・デイ』の菊地凛子。日本を舞台としてロケーション・ハンティング2009年2月に撮影開始、早稲田大学、兵庫県神河町の砥峰高原・峰山高原、香住町の香住海岸(今子浦)、上野桜木の東叡山 浄名院などで撮影された。フジテレビが協力する[5]。また2010年7月29日、ヴェネツィア国際映画祭最高賞である金獅子賞などの対象となるコンペティション部門に、『十三人の刺客』と共に出品。ウクライナ、ロシア、ノルウェーなど世界50カ国地域での配給も決定している。
公式サイトでは『ノルウェイの森 Scenes from Norwegian wood』と題した、台詞と場面写真で展開する原作世界観を表現したスペシャルコンテンツが掲載された。また映画の16のセリフと映像を再現したiPhone/iPod touch対応アプリ『てのひらノルウェイの森』も無料配信。
キャッチコピーは「深く愛すること。強く生きること。」。
全国312スクリーンで公開され、2010年12月11,12日初日2日間で興収1億8,371万4,500円、動員は13万2,220人になり映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第3位となった[6]。40代前後の世代を中心に幅広い世代から支持を受け、ぴあ初日満足度ランキング(ぴあ映画生活調べ)でも第4位となった。
キャスト
- ワタナベ - 松山ケンイチ
- 直子 - 菊地凛子
- 小林緑 - 水原希子
- キズキ - 高良健吾
- 永沢 - 玉山鉄二
- レイコ - 霧島れいか
- 突撃隊 - 柄本時生
- ハツミ - 初音映莉子
- 大学教授 - 糸井重里
- レコード店店長 - 細野晴臣
- 阿美寮門番 - 高橋幸宏
スタッフ
- 原作 - 村上春樹『ノルウェイの森』(講談社刊)
- 監督・脚本 - トラン・アン・ユン
- 音楽 - ジョニー・グリーンウッド
- エグゼクティブ・プロデューサー - 豊島雅郎、亀山千広
- プロデューサー - 小川真司
- アソシエイト・プロデューサー - 松崎薫、池田穣
- コー・エグゼクティブ・プロデューサー - マイケル・J・ワーナー、パウター・パウントレクト
- 共同プロデューサー - 福島聡司
- ライン・プロデューサー - 宿崎惠造
- アシスタントプロデューサー - 小川未央子
- 撮影 - 李屏賓(リー・ピンビン)
- 美術 - イェンケ・リュゲルヌ、安宅紀史
- 照明 - 中村裕樹
- 録音 - 浦田和治
- 編集 - マリオ・バティステル
- キャスティング - 杉野剛
- 助監督 - 片岡章三
- 製作担当 - 田口雄介
- 音楽プロデューサー - 安井輝
- 製作事業統括 - 寺嶋博礼、石原隆
- 製作会社 - アスミック・エース、フジテレビジョン
- 製作プロダクション - アスミック・エース エンタテインメント
- 提供 - 「ノルウェイの森」パートナーズ
- 配給 - 東宝
主題歌
脚注
- ^ 「そうだ、村上さんに聞いてみよう」P54
- ^ “「ノルウェイの森」映画化”. 読売新聞. (2008年7月31日)
- ^ “「1Q84」効果、「ノルウェイの森」1千万部”. 読売新聞. (2008年8月5日)
- ^ “中国的“村上春樹熱”「ノルウェイの森」100万部突破”. 読売新聞. (2004年11月22日)
- ^ “村上春樹の大ベストセラー「ノルウェイの森」映画化”. バラエティ・ジャパン. (2008年7月31日)
- ^ 『ハリポタ』首位奪還!『ノルウェイの森』は初登場3位にランクイン!!シネマトゥディ 2010年12月15日