ちくご型護衛艦
ちくご型護衛艦 | ||
---|---|---|
1番艦「ちくご」 | ||
艦級概観 | ||
艦種 | 護衛艦(DE) | |
建造期間 | 1968年 - 1977年 | |
就役期間 | 1971年 - 2003年 | |
前級 | DE:いすず型護衛艦 | |
次級 | DE:いしかり | |
性能諸元 | ||
排水量 | 基準: 1,470トン(DE-215、217~219) 1,480トン(DE-216、220) 1,500トン(DE-222~25) | |
満載: 1,800トン | ||
全長 | 93 m | |
全幅 | 10.8 m | |
吃水 | 3.5 m | |
3.6 m(DE-216、220、222~) | ||
深さ | 7 m | |
機関 | CODAD方式(16,000ps) | |
ディーゼルエンジン(4,250ps) | 4基 | |
推進器(3翼; 330rpm) | 2軸 | |
速力 | 25kt 24.8kt (DE-221~) | |
乗員 | 166名 160名(DE-222、223、225) | |
兵装 | 68式3インチ連装速射砲 | 1基 |
Mk.1 40mm連装機関砲 | 1基 | |
74式アスロックSUM 8連装発射機 | 1基 | |
68式3連装短魚雷発射管 | 2基 | |
FCS | FCS-1B (3インチ砲用) | 1基 |
Mk.51 GFCS (40mm砲用) | 1基 | |
SFCS-4 UBFCS | 1基 | |
レーダー | OPS-14 対空捜索 | 1基 |
OPS-17 対水上捜索 | 1基 | |
ソナー | OQS-3A 艦首装備式 | 1基 |
SQS-35(J) 可変深度式 | 1基 | |
ESM | NOLR-1B(DE-215〜218) | |
NOLR-5(DE-219〜225) |
ちくご型護衛艦(ちくごがたごえいかん、英語: Chikugo-class destroyer escort)は、海上自衛隊の護衛艦(DE)の艦級。第3次防衛力整備計画で計画・建造されており、ネームシップの建造価格は32億円(昭和42年度予算)であった[1]。
来歴
日本の防衛力整備は、昭和42年度からの第3次防衛力整備計画において安定期に入り、装備の近代化に正面装備の近代化が進められることとなったが[2]、本計画においては、主要項目の一つとして海上交通保護や海峡防衛能力の強化が挙げられていた[3]。
本型は、地方隊において沿岸警備、護送、対潜作戦を行っていた、くす型護衛艦が退役する時期になっていたため、その代替艦として計画された。当初、DEとしては最多の14隻の建造が予定されていたが、オイルショックによって建造費が高騰したため、(1番艦と11番艦では約3倍の差が有る)11隻に削減された。
建造は、7隻が三井造船玉野事業所、3隻が日立造船舞鶴工場、1隻が石川島播磨重工業東京第1工場で行なわれた。
船体・機関
船体・機関については、前級のきたかみ型(いすず型後期建造艦)を多くの面で踏襲している。ただし、安定性確保のため平面型の寸法はやや幅広く太短くなった。しかしDDK・DDA型護衛艦と同大のバウ・ソナー・ドームを装備したため、凌波性や巡航能力の確保には相当の苦労がはらわれたものと言われている[3]。
-
左がきたかみ型。本型は断面が台形で、やや幅広となった
-
2番艦の「あやせ」(1986年)
主機関においては、きたかみ型をほぼそのまま踏襲しており、4,000馬力の2サイクルV型12気筒中速ディーゼルエンジン4基を流体継手と減速機を介して2基ずつ2軸にまとめるというCODAD(マルチプル・ディーゼル)方式が採用された。機関のシフト配置について、従来の護衛艦とは異なり右軸用が前に、左軸用が後側に配されている点も同様である[4]。
また搭載する機関も同様であり、日立舞鶴と石播東京が建造した艦では「きたかみ」と同じ三菱長崎製の12UEV30/40N型が、三井玉野が建造した艦では「おおい」と同じ三井玉野製の1228V3BU-38V型(のちに三井造船とバブコック・アンド・ウィルコックス社との提携解消に伴って12V28N型に改称)が搭載されている。また本型では機関部の騒音対策が強化されており、消音器も能力強化されている[4]。
発電機は全てディーゼル駆動であり、出力400 kWの主発電機2基、120 kW(2番艦以降では200 kWに強化)の補助(停泊)発電機1基とされた[5]。
装備
本型の装備は、多くの点で、やまぐも型護衛艦(37~39DDK)のそれを本型の艦体規模に適合化したものとなっている。
C2・センサー
戦闘指揮所(CIC)は、やまぐも型(37〜39DDK)やたかつき型(38〜41DDA)と同等の指揮・情報処理能力を備えていた[3]。またアナログ式の目標指示器(TDS)としてTDS-1を備えているが、これは「ながつき」(41DDA)、「なつぐも」(41DDK)で搭載されたものと同系列の装備であった[6]。
レーダーとしては、対空捜索用はOPS-14、対水上捜索用はOPS-17と、いずれも国産化されている。特にOPS-14は本型において初採用の装備であり、後にははつゆき型護衛艦(52~57DD)やあさぎり型護衛艦(58/59DD)などDD型護衛艦にも採用されている[5]。
ソナーとしては、対潜火力の強化に伴い、これを活用できるよう、大出力・低周波(5kHz級)の66式探信儀OQS-3Aをバウ・ソナーとして搭載している。OQS-3Aはアメリカ製AN/SQS-23を元にした国産機で、昭和40年度計画以降のDDK・DDA型護衛艦で搭載されているものである。また変温層下の目標を探知できるよう可変深度式のSQS-35(J) IVDSの装備も計画されたが、予算上の制約により、11隻中6隻のみの装備にとどまった[3]。
電波探知装置(ESM)は、前期型ではNOLR-1B、後期型では性能向上型のNOLR-5が搭載されており、きたかみ型のものを更新してDDK・DDA型護衛艦と同等のものとなっている[7]。
武器システム
兵装に関しては大幅に増強されており、特に、対潜火力に重点がおかれた。対潜戦に関しては、おおむねやまぐも型護衛艦と同等の装備が備えられており、きたかみ型の71式ボフォース・ロケット・ランチャーより強力なアスロック対潜ロケットが搭載されている。このように1,000トン級の艦にアスロックを搭載した例は他にないが、予備弾の収容スペースを設ける余裕がなかったため、搭載弾は、74式 8連装発射機に装填された8発のみとなっている[3]。
また、対潜火力を強化した代償として、砲熕火力は若干弱くなっており、きたかみ型で3インチ連装速射砲が2基搭載されていたのに対し、本型では、後部の砲塔(32番砲)を持たないようになっている(ただし機種は、きたかみ型の57式に対して、改良型の68式となっている)。このかわりにMk.1 40mm連装機関砲が搭載されたが、これは上陸支援艇(LSSL)からの流用品で、高速の攻撃機や対艦ミサイルに対する阻止火力としてはほとんど期待しえないものであった。このことから、最終艦では機銃をL90 35mm連装機関砲に変更するように要求がなされたが実現しなかった。砲射撃指揮装置(GFCS)としては、3インチ砲用には国産の新しい72式射撃指揮装置1型B(FCS-1B)が搭載されたが、40mm機関砲は砲本体と同様にLSSLから流用されたMk.51による指揮を受けていた[3]。
「てしお」以降の艦では、汚染処理装置が搭載され、それによって排水量が増大している。また、レーダーの虚像防止のために「とかち」以後の艦では、マストに電波吸収体(RAM)が取り付けられている[3]。
配備
本型は、1971年に就役を開始して、順次に第33、34、35、7護衛隊を編成した。このうち、第35護衛隊のみが1982年まで第4護衛隊群に編入されていたが、他の各隊は地方隊に配属された(33隊は横須賀、34隊は佐世保、7隊は呉)。33隊は全艦がVDS非装備艦であったが、他の3隊には2隻ずつのVDS搭載艦が配分された[5]。1982年には第35護衛隊が地方隊に隷属換えを受けるとともに第37護衛隊が新編され、5個護衛隊として地方隊の主力を担った。[脚注 1]
その後、はつゆき型汎用護衛艦の地方隊への配置に伴い、1996年(平成8年)から退役が開始され、2003年(平成15年)に全艦退役した[3]。
艦番号 | 艦名 | 建造 | 起工 | 進水 | 就役 | 除籍 | 最終所属 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
DE-215 | ちくご | 三井造船 玉野事業所 |
1968年 (昭和43年) 12月9日 |
1970年 (昭和45年) 1月13日 |
1971年 (昭和46年) 7月31日 |
1996年 (平成8年) 4月15日 |
第34護衛隊 佐世保地方隊 |
DE-216 | あやせ | 石川島播磨重工業 東京第1工場 |
1969年 (昭和44年) 12月5日 |
1970年 (昭和45年) 9月16日 |
1971年 (昭和46年) 5月20日 |
1996年 (平成8年) 8月1日 |
第33護衛隊 横須賀地方隊 |
DE-217 | みくま | 三井造船 玉野事業所 |
1970年 (昭和45年) 3月17日 |
1971年 (昭和46年) 2月16日 |
1971年 (昭和46年) 8月26日 |
1997年 (平成9年) 7月8日 |
第23護衛隊 佐世保地方隊 |
DE-218 | とかち | 1970年 (昭和45年) 12月11日 |
1971年 (昭和46年) 11月25日 |
1972年 (昭和47年) 5月17日 |
1998年 (平成10年) 4月15日 |
第38護衛隊 呉地方隊 | |
DE-219 | いわせ | 1971年 (昭和46年) 8月6日 |
1972年 (昭和47年) 6月29日 |
1972年 (昭和47年) 12月12日 |
1998年 (平成10年) 10月16日 |
第23護衛隊 佐世保地方隊 | |
DE-220 | ちとせ | 日立造船 舞鶴工場 |
1971年 (昭和46年) 10月7日 |
1973年 (昭和48年) 1月25日 |
1973年 (昭和48年) 8月31日 |
1999年 (平成11年) 4月13日 |
第33護衛隊 横須賀地方隊 |
DE-221 | によど | 三井造船 玉野事業所 |
1972年 (昭和47年) 9月20日 |
1973年 (昭和48年) 8月28日 |
1974年 (昭和49年) 2月8日 |
1999年 (平成11年) 6月24日 |
第23護衛隊 佐世保地方隊 |
DE-222 | てしお | 日立造船 舞鶴工場 |
1973年 (昭和48年) 7月11日 |
1974年 (昭和49年) 5月29日 |
1975年 (昭和50年) 1月10日 |
2000年 (平成12年) 6月27日 |
第21護衛隊 横須賀地方隊 |
DE-223 | よしの | 三井造船 玉野事業所 |
1973年 (昭和48年) 9月28日 |
1974年 (昭和49年) 8月22日 |
1975年 (昭和50年) 2月6日 |
2001年 (平成13年) 5月15日 |
第22護衛隊 呉地方隊 |
DE-224 | くまの | 日立造船 舞鶴工場 |
1974年 (昭和49年) 5月29日 |
1975年 (昭和50年) 2月24日 |
1975年 (昭和50年) 11月19日 |
2001年 (平成13年) 5月18日 | |
DE-225 | のしろ | 三井造船 玉野事業所 |
1976年 (昭和51年) 1月27日 |
1976年 (昭和51年) 12月23日 |
1977年 (昭和52年) 6月30日 |
2003年 (平成15年) 3月13日 |
登場作品
漫画・アニメ
- 『ジパング』(アニメ版)
- 主人公である角松洋介の回想シーンで、彼の父角松洋一郎の勤務するちくご型護衛艦「DE-220ちとせ」が登場する。
脚注
- ^ 1985年には第35護衛隊が解隊されたが、かわって第38護衛隊が新編されたため、5個護衛隊体制は維持された。
参考文献
- ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第22回)ポスト4次防の新装備(FCS-2,62口径76ミリ速射砲),いしかり/ゆうばり型DE」『世界の艦船』第805号、海人社、2014年10月、157-165頁、NAID 40020191677。
- ^ 廣瀬克哉『官僚と軍人 - 文民統制の限界』岩波書房、1989年。ISBN 978-4000034623。
- ^ a b c d e f g h 阿部安雄「最後の一隻が退役した「ちくご」型DEを回顧する」『世界の艦船』第610号、海人社、2003年5月、92-97頁、NAID 40005739123。
- ^ a b 阿部 安雄「2.推進システム (護衛艦の技術的特徴)」『世界の艦船』第742号、海人社、2011年6月、106-111頁、NAID 40018815745。
- ^ a b c 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第14回)3次防(その2)護衛艦建造実績,地方隊改編,「ちくご」型 4個護衛隊群体制,「たちかぜ」型(その1)」『世界の艦船』第792号、海人社、2014年2月、141-149頁、NAID 40019928089。
- ^ 山崎眞「わが国現有護衛艦のコンバット・システム」『世界の艦船』第748集、海人社、2011年10月、98-107頁、NAID 40018965310。
- ^ 多田智彦「4 レーダー/電子戦機器 (海上自衛隊の艦載兵器1952-2010)」『世界の艦船』第721号、海人社、2010年3月、100-105頁、NAID 40016963809。
関連項目
- ウィキメディア・コモンズには、ちくご型護衛艦に関するカテゴリがあります。