LST-1級戦車揚陸艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Panda 51 (会話 | 投稿記録) による 2015年5月31日 (日) 02:38個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎設計)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

LST-1級戦車揚陸艦
艦級概観
艦種 戦車揚陸艦
次級 タルボット・カウンティ級戦車揚陸艦
性能諸元
排水量 基準:1,625t
満載:4,050t
全長 100m
全幅 15.3m
吃水 4.4m
機関 ディーゼルエンジン(900PS) 2基
スクリュープロペラ 2軸
速力 最大11ノット
航続距離 6,000海里(11,000km)
定員 約211名 他に兵員約150名
兵装 40mm連装機関砲 2基
40mm単装機関砲 4基
20mm単装機関砲 12基

LST-1級戦車揚陸艦(LST-1きゅうせんしゃようりくかん)は、アメリカ合衆国第二次世界大戦中に建造された戦車揚陸艦 (LST: Landing Ship, Tank)。ビーチングにより車両を揚陸する揚陸艦であり、1,052隻が建造された。アメリカ海軍イギリス海軍連合国各国で運用され、大戦後は友好国各国にも供与された。

来歴

1940年のナチス・ドイツのフランス侵攻により、イギリスヨーロッパ大陸本土から撤退し、大陸反攻のために重車両揚陸艦を欲していた。艦首に揚陸ランプを取り付ける方法が考案され、試験として改装された艦もあったが、当時のイギリスは量産する余裕を持っていなかった[1]

このことから、アメリカ合衆国の参戦に伴い、アメリカがこの種の艦の建造を請け負うこととなった。設計は、イギリスの協力の下にギブス&コックス社により行われ、試験艦の実績を基にして、ビーチングと航洋性の双方を満たすためのバラストタンク拡大による喫水調整システムの装備や艦尾に離岸用のアンカー設置などの改良設計が行なわれた。当初、艦首呼称はATLであったが、後にLSTに変更され、設計案としての名称はLST(2)となった[1]

設計

本級は、艦首を海岸に擱座して兵員・車両を揚陸することを前提に設計されている。このため、船体は吃水を浅くし、艦首部には観音開きの門扉(バウ・ドア)とその中に歩板(バウ・ランプ; 長さ4.7メートル×幅4.3メートル)を有している。バウ・ランプが防水扉を兼ね、バウ・ドアは水切りを良くするためのものである。このため艦首部は造波抵抗の大きな肥えた形状となっており、このために艦は鈍足となることを余儀なくされている[1]。当初よりトリムがつけられており、航行時にも吃水は艦首で2.4メートル、艦尾で4.4メートルであるが、ビーチング時にはそれぞれ0.9メートルと2.9メートルとなる[2]

機械室は第4甲板後部に設けられており、右舷側に1番主機、左舷側に2番主機が並列に設置されている。主機としては、無気噴射式のゼネラルモーターズ社製12-567A型2サイクル12気筒ディーゼルエンジンが用いられる。舷側排気方式とされており、煙突はなく、排気は第3甲板両舷の消音器を経て第2甲板から外舷へ導かれる[3]。また車両甲板の搭載車両の排気ガス対策として、上部甲板には排気筒が多数設けられている[2]

船体内の第3甲板には、バウ・ランプの直後に連続して、2層分の高さをもつ車両甲板が設けられている。全長の9割弱に達する長さ87.8メートル×幅9.2メートル、搭載余面594m²が確保されており、M24軽戦車なら24両、GMCトラックなら27両を搭載できる。両脇は揚陸部隊居住区となっている。また上甲板にも軽車両甲板が設定されており、搭載余面470m²で、GMCトラックなら14両、ジープなら44両を搭載できる[3]。第3甲板と上甲板の間の連絡は、当初は前部にエレベーターを設けておこなっていたが、これでは移送速度が遅かったため、後期建造艦ではランプに変更された[2]。載荷重量は2,100トンとされていたが、ビーチング揚陸任務時は500トンに減少し、また後期型では造水能力増強に伴って1,900トンとされた[4]

配備

LST(2)案はLST-1級として1942年6月に起工されている。一番艦LST-1が1942年12月に竣工し、1,152隻の建造計画が建てられた。実際に建造されたのは1945年6月竣工のLST-1152までの1,052隻である。当初の艦名は記号と番号のみであるが、1955年に在籍艦艇に群名(カウンティ)をもとにした固有艦名が与えられた[4]

1943年のソロモン諸島の戦いへの投入を皮切りに、ヨーロッパ太平洋の両戦域における上陸作戦に用いられ、迅速な車両・物資の揚陸により、連合国の勝利に貢献した。LSTH(Landing Ship, Tank (Hospital))の名称で病院船として運用されたり、航空機補修艦に改修された艦もあった。

運用上の短所として、艦首部の形状が航洋性に適しておらず、最大速度が11ノットと遅いことがあった。そのため、他艦種との艦隊行動には慎重な調整が必要となり、後継のタルボット・カウンティ級等では高速化が求められている。

参考文献

  1. ^ a b c 阿部安雄「アメリカ揚陸艦の歩み」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、137-143頁、NAID 40015212119 
  2. ^ a b c 「アメリカ揚陸艦のメカニズム」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、144-151頁、NAID 40015212119 
  3. ^ a b 「無煙突航洋水上艦 米大戦型LST」『世界の艦船』第437号、海人社、1991年6月、102-103頁。 
  4. ^ a b 「アメリカ揚陸艦史」『世界の艦船』第669号、海人社、2007年1月、1-135頁、NAID 40015212119 

関連項目