ミストラル級強襲揚陸艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ミストラル級強襲揚陸艦
BPC Dixmude.jpg
艦級概観
建造期間 2003年 - 建造中
就役期間 2006年 -
前級 フードル級揚陸艦
次級 最新
性能諸元
艦種 強襲揚陸艦
または指揮艦戦力投射[1]
排水量 基準:16,500t
満載:21,500t
バラスト使用時:32,300t
全長 199m
全幅 32m
吃水 6.3m
機関 ディーゼル・エレクトリック方式
ディーゼルエンジン(20.8Mw)[1] 4基
ポッド式推進器(14Mw) 2基
バウスラスター(1.5Mw) 1基
速力 最大18.8ノット
航続距離 10,700海里 (15kt巡航時)
乗員 160人(医療要員40人、士官20人を含む)
兵装 30mm機関砲 2基
12.7mm機銃 4基
SIMBAD連装近SAM発射機 2基
C4I 海軍戦術情報システム
SENIT-9+リンク 11/16

ミストラル級強襲揚陸艦(ミストラルきゅうきょうしゅうようりくかん Bâtiment de Projection et de Commandement Type Mistral、ミストラル級指揮・戦力投射艦、BPC type Mistral)は、フランス海軍強襲揚陸艦の艦級。また準同型艦4隻がロシア海軍向けに建造される予定である。

マルチハザード化およびグローバル化に伴う任務の多様化に対応して、水陸両用作戦以外にも人道援助など戦争以外の軍事作戦も考慮した多目的母艦とされている。

来歴[編集]

計画時には「Nouveaux Transports de Chalands de Débarquement」(NTCD)と呼ばれていた。フランス海軍の正式な艦種呼称は指揮・戦力投射艦Bâtiment de Projection et de Commandement, BPC)とされているが、NATOペナント・ナンバーでは従来同様に揚陸艦を意味する"L"ではじまる艦番号が付与されている[1]

艦名は1番艦、2番艦ともに気象現象から取られている。

「ミストラル」と「トネール」の建造においては、船体は、中央と後部をブレスト(Brest)で、前部3分の1はサン=ナゼール(Saint-Nazaire)で分割建造され、ブレストにおいて結合された[2]。「ディズミュド」のみ、全体がサン=ナゼールで建造された。

フランス海軍の新鋭の航空母艦型多目的母艦である本級は、3隻が建造された。2004年10月に1番艦の進水が行なわれ、2006年に1番艦「ミストラル」と2007年に2番艦「トネール」がそれぞれ就役した。2番艦「トネール」の就役により、古くなったウラガン級揚陸艦2隻は同年に退役した。3番艦「ディズミュド」は2012年に就役した。

ロシア海軍への配備[編集]

2009年9月には、ロシアのポポフキン国防次官が自国のラジオ番組に出演した際に「フランス製の強襲揚陸艦の導入を進める協議をフランス当局と行っている」と発言した。これによれば、ミストラル級の1隻を購入する他、ロシア国内で4隻を建造する計画も打診している、という。価格は一隻あたり7億3,800万ドルから8億8,600万ドル程度になると報道されていた[3]2011年6月17日に前年12月の予備的合意の下、ロシアサンクトペテルブルクにて正式な契約が締結された。(契約にはドミートリー・メドヴェージェフ大統領も同席)本契約では最初の2隻をフランス側で(一部部品はロシアでも生産との報道もある)、残り2隻をロシアとフランスの共同での製造とされている。価格に関してはロシア側は取材に対し「12億ドル」・フランス側は「16億ドル」と回答しており、はっきりとしていない。

ロシア向け1番艦は2012年2月1日に起工した。2月24日にタス通信が報じた所では、ロシアは同艦に単艦での対空・対艦・対潜攻撃及び防衛能力を付与することを求めて、ロシア製対空対艦対潜ミサイルの発射機を装備し、また艦載機として対潜ヘリコプターも搭載する予定であるとした[4][5]

ロシア海軍は、「2008年のグルジア紛争の際に、黒海艦隊の輸送能力の不足で増援部隊の揚陸に26時間を要したが、ミストラル級だと同任務を40分で遂行できる。」としており、揚陸能力の機動性向上に期待している。しかし2009年11月、ブルジェフ副司令官はミストラル級を北方艦隊太平洋艦隊に配備すると述べ、外洋でのパワー・プロジェクションに本級を用いることを示唆した[6]

ロシア海軍のミストラル配備については、2013年6月2日イタルタス通信が日本の小野寺五典防衛大臣シンガポールジャン=イヴ・ル・ドリアン仏国防相との会談で、極東の勢力均衡を崩すとの懸念を示したことを報道した[7]

設計[編集]

2万tを越える大きな船体の本級は、強襲揚陸作戦においての中核的な指揮能力を保有しながら同時に、単艦でも強襲揚陸作戦を実施できるだけの回転翼機の保有と運用、戦闘用車輌の輸送、揚陸艇の保有と運用、陸戦部隊の輸送、医療といった複合的な機能を有している。

船体[編集]

軍艦ではあるが、軍艦構造ではなく商船としての規格下で建造され、マルポール条約に適合すべく海洋汚染防止に力が注がれている。船体形状は近年の自動車運搬船の様に、水面上には前後左右が切り落とされた大きな箱状を成しており、乾舷は高い。

本級は上甲板(第1甲板)を全通させた、いわゆる全通甲板型の艦型を採用している。上甲板は、そのほぼ全域が飛行甲板とされており、上部構造物はアイランドとして右舷前寄りに位置している。

機関[編集]

機関室内のWartsila 16V32 ディーゼルエンジン

フランス海軍初の電気推進艦として、電化に力が注がれている。機関は、ディーゼル・エレクトリック推進方式を採用している。

ポッド式推進としたことで小回りの効く操艦が可能である。ただし背の高い船体によって風圧側面積が大きく、離着岸や操艦に及ぼす風の影響は大きいとされる。

能力[編集]

C4ISTAR機能[編集]

本型は、フランス海軍の基幹的な作戦級C4Iシステムとして、海洋指揮支援システム(AIDCOMER)を搭載している。群司令部指揮所が設置される指揮通信室は850m2の面積が確保されており、150台のワークステーションを設置することができる。その通信システムとしては、最新の国産シラキューズ-III軍事衛星通信システムが採用されている。[1]

戦術級C4Iシステムとしては、第3世代のSENITシステムであるSENIT-9が搭載されている[1]。またメインセンサーとして、タレス・グループMRR-3D-NG遠距離捜索Cバンド・レーダーを搭載している。30回/分又は60回/分で回転し俯仰70度までのフェーズド・アレイによる電子スキャンを行なう。探知距離180km程度[1]

個艦防御機能[編集]

自衛のための最小限の兵装のみを有している。小型艇対策に、30mm機銃を2門、M2 12.7mm機銃を4挺装備している。また、対空兵装としてミストラル近接防空ミサイル用のシンバッド連装発射機を2基搭載している。

航空運用機能[編集]

上記の通り、上甲板(第1甲板)は全通した飛行甲板とされており、またその直下の艦後半部には2甲板分の高さ(第2・3甲板)でハンガーが設けられている。これらを連絡するエレベータとしては、アイランド後方の右舷寄りと艦尾に各1基のエレベーターが設置されている。前方のエレベータはインボード式で、長さ15m×幅15m、力量13トン。後方のエレベータもインボード式であるが、艦尾側に張り出していることから半ばデッキサイド式となっており、長さ18.5m×幅6.5m、力量17トンとされている。

飛行甲板は面積5,200m²を確保しており、6ヶ所のヘリコプター発着スポットが設定されている。ハンガーは面積1,800m²で、最大16機程度の中型・大型ヘリコプターが収容できる。艦載機としてはNH90SA330「ピューマ」AS532 U2「クーガー」AS665「タイガー」攻撃ヘリコプターの運用が想定されている。

ドック揚陸艦機能[編集]

ハンガーの下方には、第4〜6甲板を2層にわけて車両甲板とウェルドックが設けられている。上層のほぼ全域と下層の前半部は、合計面積2,650m²の車両甲板とされており、上下層はランプで接続されている。主力戦車ルクレールだけなら13輌、他の戦闘車輌で60輌程度の搭載能力があり、航空機を搭載しない場合には格納庫内にさらに230輌程度が搭載できる[1]

下層後半部を占めるウェルドックは長さ120メートル、面積885m²という長大なもので、車両甲板とはランプで接続されている。最大8艇の機動揚陸艇(LCM)、最大4艇の汎用揚陸艇(LCU)又は最大2艇のLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇が搭載出来、艦尾開口部から収容・発進する[8]

医療機能[編集]

病院船としての機能が充実しており、2つの手術室と19床の常設ベッドを含む250m²の病院区画にはさらに50床のベッドの追加設置が可能であり、格納庫内にコンテナ化された医療モジュールを搭載すれば、さらに能力の拡張が行なえる[1]

配備[編集]

2006年の夏、1番艦「ミストラル」は初めての活動として、イスラエルレバノンヒズボラとの間の紛争時の民間人救出活動(l'opération Baliste)に従事した。ベイルートに入港し、フードル級揚陸艦「フードル」、「シロッコ」と共に在留フランス人を含む4,000名を艦内に収容保護してキプロス島まで移送した[1]

同型艦一覧
就役先 # 艦名 起工 進水 就役 母港
 フランス海軍 L 9013 ミストラル
Mistral
2003年7月10日 2004年10月6日 2006年1月 トゥーロン
L 9014 トネール
Tonnerre
2003年8月26日 2005年7月26日 2007年3月1日
L 9015 ディズミュド
Dixmude
2009年4月18日 2010年12月18日[9] 2012年7月27日
 ロシア海軍 ウラジオストク
«Владивосток»
2012年2月1日 2013年10月15日 2014年11月(予定)[10] ウラジオストク[11]
セヴァストポリ
«Севастополь»
2013年6月18日 2014年10月(予定) 2015年(予定)[10] ノヴォロシースク

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j 多田智彦「欧州製の空母型多目的母艦」、『軍事研究』、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2008年10月、 55-57頁。
  2. ^ [1]2008年11月24日確認
  3. ^ http://www.upi.com/Business_News/Security-Industry/2009/11/23/French-warship-Russia-wants-stirs-debate/UPI-40421259022611/
  4. ^ http://arms-tass.su/?page=article&aid=104085&cid=44
  5. ^ http://blogs.yahoo.co.jp/rybachii/43816993.html
  6. ^ 小泉悠『ロシア海軍は生まれ変われるか』ユーラシア・ブックレット166 2011年 東洋書店 ISBN 978-48645-90099
  7. ^ (日本語) 小野寺防衛相:「ミストラル」のロシア輸出は極東のパワー・バランスを崩す”. ロシアの声 (2013年6月2日). 2013年6月3日閲覧。
  8. ^ 「こちらも公試へ!仏新造強襲揚陸艦「ディズミュード」 サン・ナゼールを出港」、『世界の艦船』第743号、海人社、2011年7月、 56-57頁。
  9. ^ Saint-Nazaire : Le BPC Dixmude transféré au bassin C
  10. ^ a b Ce sera bien quatre "Mistral" pour la Russie
  11. ^ France wins tender to build warships for Russia (Update 1)

外部リンク[編集]