栄光のナポレオン-エロイカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

栄光のナポレオン-エロイカ』(えいこうのナポレオン エロイカ)は、池田理代子作の長編漫画作品。ナポレオン・ボナパルトの台頭からその死までを描く。

作者によれば、『ベルサイユのばら』の連載終了後に『ナポレオン』を執筆する予定だったが、当時の作者にはナポレオンの生涯を描ききるだけの知識と力量に欠けていたため、十数年の年月を経て発表されたという。[1]時系列的に『ベルサイユのばら』の続編で、時代的にも『ベルサイユのばら』のクライマックス直後の時代を扱っているため、『ベルサイユのばら』の登場人物の一部が登場し、フランス革命の理想がいかに裏切られていったかを体現している。

婦人公論』1986年5月号から1995年1月号まで「エロイカ」の題で連載され、中公文庫に収められる際、現在の題名に改題した。その後、フェアベル社よりコンビニコミック(レーベル名「フェアベルコミック」)として、『皇帝ナポレオン』の題名で2007年から2008年にかけて全9巻が刊行された。

ストーリー[編集]

1794年のテルミドールの反動ジャコバン派は没落し、勢いを盛り返した王党派は首都パリ反乱を起こした。ロベスピエール亡き後、権力を握ったバラスナポレオンに反乱鎮圧を依頼する。ナポレオンはジャコバン派に与していたために軍から追放されていたが、この反乱鎮圧をきっかけに国内軍総司令官として復権することが出来た。

革命のゆくえに絶望していたアランは、ナポレオンに興味を覚え、ナポレオンのもとに乗り込むと、「フランス共和国をどうするつもりなのか」と迫る。権力欲のないことを笑いながら説明するナポレオンに安心したアランは一時離れていた軍に復帰し、ナポレオンの副官となる。

テルミドールの反動後、穏健共和派が権力を握り、総裁政府を樹立するが、指導部は無能な政治家ばかりでフランスは国家のていをなしていない状況にまで混乱した。そんな混乱を生き抜くため、未亡人でバラスの愛人であったジョゼフィーヌは今をときめくナポレオンに接近し、その妻の座を手に入れる。

ナポレオンはイタリア遠征の成功によって国民の人気を不動のものとし、民衆からは共和制の守護者として期待されるようになる。やがて、ナポレオンはエジプト遠征に出発するが、その間に周辺諸国はフランスを一斉に攻撃し、フランスは存続の危機に陥ってしまう。ナポレオンはエジプトから帰還すると、祖国の危機を救うため、自らが権力を掌握する必要があると痛感し、クーデター計画を立案。それに携わったのは、革命前からジャーナリストして体制を批判してきたベルナールだった。ベルナールは共和制を維持するというただ一点を守るためブリュメール18日のクーデターに協力したのだった。しかし、ナポレオンが武力でクーデターに反対する議員を議会から追放する様子を見たベルナールはナポレオンに民主主義を擁護する気持ちがないことを知り、提示された統領政府官房長官のいすを蹴って、在野のジャーナリストに戻っていく。

統領政府樹立後も王党派によるテロが絶えないことから、ついにナポレオンは王党派の復活を防ぐという理由で自らが皇帝に就任することを宣言する。共和制の守護者としてナポレオンに期待していたアランはナポレオンに失望し、ベルナールとともにナポレオン暗殺を企てるが、失敗して警備の兵士に射殺されてしまう。ナポレオンは、新帝国の名簿にアランの名がないことについて、一抹の寂しさを感じるのであった。

皇帝に就任したナポレオンはヨーロッパ征服をもくろんで次々と外征をおこなうが、それはやがて民衆の生活を圧迫するようになり、民心は次第にナポレオンから離れるようになっていった。外相から侍従長官となったタレーランは国際協調の考えのないナポレオンに見切りをつけ、ナポレオン帝政を崩壊させるべく画策しはじめる。一方、傲慢になっていたナポレオンは、改心して貞淑な妻となっていたジョゼフィーヌと離婚するなど、自分に忠誠を誓ってくれる人々を次々と自分の周辺から追いやり、孤立化を深めていった。そして、唯一友好関係をあたためていたロシアとの関係も決裂し、ナポレオンはロシア遠征に出発する。それが自分の没落の序曲となることも知らずに。

主な登場人物[編集]

実在の人物[編集]

ナポレオン・ボナパルト
貧乏士官からフランス皇帝まで上り詰めた男。皇帝に就任するまでは、野心あふれる有能な軍人として本作では描かれているが、皇帝就任後は権力の維持を考える我侭な男として描かれるようになった。国内の改革に熱心だったのも皇帝就任までで、それ以後はヨーロッパ統一をすることがヨーロッパの幸せと考えて戦争を繰り返し多くの国民が犠牲となる。
作者はナポレオン没落の原因として、「ナポレオンが共和制の守護者として期待されているにも関わらず、皇帝就任を目指したこと」、「タレーランやフーシェといった老練な政治家の手のひらの上で踊り、自分に忠誠を誓う人々を追い出したり、疑ったりしたこと」、「民衆の負担を省みない度重なる外征で民心を失ったこと」などを示唆している。
史実としてはとても美男子には見えない風采があがらない男だったようで、作中でも登場人物にそのようにコメントさせているが、作画上は中々の美男子である。皇帝になって以降、頭髪が後退し肥満気味になっていく様子も史実通りにきっちりと描写されているが、基本的に美男子に描かれている事には変わりが無く、むしろ作中の女性に容姿を称えられる場面すら存在する(もっとも肖像画に描かれたナポレオンは美男子であるため、肖像画に対して忠実に作画されているともいえる)。
ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ
ナポレオン最愛の妻。ナポレオンがエジプト遠征から帰還するまでは浮気を繰り返していたが、それ以後は貞淑な賢夫人としてナポレオンを支えた。
作中ではエジプト遠征まではただただ浪費と浮気を繰り返すだけの女性で、その後はひたすらナポレオンとの平穏な生活を望む女性として描かれ、ナポレオンに有効な忠告をほとんどしていない。また、ナポレオンを支えたといわれる社交の手腕も、作中では描写されなかった(ただし作中のナポレオンの台詞において、彼女の社交の手腕について言及がある)。
マリー・ルイーズ
オーストリアのフランツ2世の長女。ナポレオンの侵略によって宮殿を追い出された経験を持ち、ナポレオンを憎んで成長する。しかしその後、ナポレオンの皇妃となってからは、すっかりナポレオンを愛するようになっていった。しかしナポレオンが退位して強制的に引き裂かれた後は、あっさりと新しい恋人に夢中になってしまう。以上、作中ではいささか描写が簡略化はされているものの、ほぼ史実通りに記述されている。
タレーラン
総裁政府・統領政府の外務大臣で、ナポレオン帝政初期の侍従長官。類まれなる政治力でナポレオン政権を樹立するのに一役買う。ナポレオン帝政初期からナポレオンに見切りをつけ、ナポレオン打倒を画策する。
名門貴族の家柄で亡命先のアメリカから帰国した所から本作に登場する。スタール夫人と親しく、バラスに接近して政界への復帰を果たす。女性遍歴が豊富でポーカーフェイス。ナポレオンの栄光と没落を演出した陰の実力者として描かれている。また、アランやベルナール等が死んでからは、彼が作者の代弁者となっているふしがある。
彼自身は実在の人物だが、妻は架空の人物に置き換えられ、タレーランの政敵フーシェに復讐を企てる人物として描かれた。ただしタレーランはフーシェと手を組む事もあり、妻の期待には応えていない。
ジョゼフ・フーシェ
総裁政府・統領政府の警務大臣。ナポレオンの終身統領就任に異議をはさみ、一時更迭されるが、その後、ナポレオンに取り入って、警務大臣の地位を回復する。フランス一の情報収集力を誇る。権力が誰の手にあるのか察知するのに敏感で政権交代の際にはうまくたちまわって、権力のある側につく。恐怖政治時代は最も権力のあったジャコバン派の急進派の指導者となり、討伐軍の司令官としてリヨンでおこった反革命暴動を徹底的に弾圧した。
非常に愛妻家・家族思いで、家族を守るためには他人を裏切ることをなんとも思っていない風見鶏。ナポレオンの皇帝就任まではタレーランの良きライバルとして描かれ、陰の実力者として登場回数もかなり多い。本作ではタレーランの口車に引っかかって政界から追放された。ナポレオンの百日天下で再び政界に復帰するも既にナポレオンを見切っている。
デジレ・クラリー
ナポレオンの婚約者だったが、ナポレオンがジョゼフィーヌと結婚したため、ナポレオンのライバルだったジャン・ベルナドットと結婚する。
純粋無垢な女性として描かれていくが、ジョゼフィーヌの持つ華やかさに欠けている。
作品後半期では、むしろ地位への執着を示すようになる。ベルナドットがポンテコルヴォ大公になった際は、たかが大公妃ではフランス皇妃とは比べ物にならないと不満を示す。やがてベルナドットがスウェーデン国王に即位したため、デジレもスウェーデン王妃となり、その幸運を喜ぶが、今度は寒冷なスウェーデンでの生活に嫌気を示すようになる。
史実においては、むしろ終生ナポレオンに恋慕を抱いており、王妃などという地位には興味が無かったと言われる。
ウジェーヌ・ド・ボアルネ
ジョゼフィーヌの連れ子。ナポレオンにとっては義理の息子。軍人に憧れ、エジプト遠征ではナポレオンの副官として参戦。その後も有能な軍人として成長し、ナポレオンも実の息子のようにかわいがった。ナポレオンの兄弟よりナポレオンに対して忠誠を誓い、最後までナポレオンを裏切らなかったが、猜疑心にかられたナポレオンはウジェーヌすらも疑うようになる。
ナポレオンの後継者として申し分ないように描かれているが、ナポレオン一族とあくまでも実子に拘泥するナポレオン自身がそれを許さなかったことが示唆されている。
オルタンス・ド・ボアルネ
ウジェーヌの妹で、ナポレオンの弟のルイ・ボナパルトと結婚し、後にオランダ王妃となった。ナポレオン3世の母。
初めはナポレオンを不恰好な軍人として嫌っていたが、そのうちに兄と共にナポレオンの誠実な義理の子供となる。
しかし、夫ルイとの不仲でしばしば悩む。本作品では暴力までふるわれていたように描かれている。結局、ルイとは離婚した。なお、史実では母ジョゼフィーヌとナポレオンの再婚にオルタンスは賛成、兄ウジェーヌは反対だったようである。タレーランの息子シャルル・ド・フラオと恋人で、同棲までしていたこともあったらしい。
ジョゼフ・ボナパルト
ナポレオンの兄。ナポレオンの覇権成就に協力し、ナポレオン帝政の下でナポリ王、ついでスペイン王となる。
反ジョゼフィーヌ派の急先鋒として描かれている。ナポレオンとジョゼフィーヌの仲を引き裂くためにいろいろ画策する。大言壮語の割りに、あまり役に立たない人物として描かれている。しかし、史実では誠実な人物で、ナポレオンの男兄弟の中では一番ナポレオンと親しかったようである。
ポーリーヌ・ボナパルト
ナポレオンの妹達の中では一番の美人で、ナポレオンにも最も可愛がられていた妹。
ボルゲーゼ侯爵と結婚した。ナポレオンが自分の信頼する部下アラン・ド・ソワソンと結婚させようとした。しかしアランに振られた。
ナポレオンの兄弟姉妹の中では、ただ一人だけナポレオンに会いにエルバ島に行った妹だが、本作品ではそのエピソードは省かれていたため、ただのうぬぼれ屋でわがままな女性のように描かれていて、割を食ったきらいがある。恋多き女性だったようである。
ジョアシャン・ミュラ
ナポレオン軍の元帥で騎兵指揮官。後にナポレオンの妹カロリーヌと結婚し、ナポリ国王となった。後にライプツィヒの戦いの後で裏切ってオーストリアに内通するが、百日天下の後に処刑された。主な戦いにはほとんど出陣しているにもかかわらず、前半では活躍の場をアランに持って行かれ、後半ではほとんど彼の戦いぶりは無視されている上にヘマばかりしている面が強調され、おそらく作品中一番割を食っているきらいがある。史実では、有能な騎兵将校だったが思慮には欠けていた。
ジャン・ベルナドット
ナポレオン配下の軍人。文武両道で知られ、スタール夫人と親しい。
手紙が途絶えた婚約者ナポレオンに会いに来たデジレと居合わせ、(ベルナドット本人は事情を知らなかったが)デジレをジョセフィーヌに夢中のナポレオンと引き会わせる。この結果、デジレはナポレオンの心が自分にはないことを知り、故郷マルセイユへ帰る。後にベルナドットはナポレオンの兄ジョゼフを訪ねた際にデジレと再会し、それを機にデジレと交際を始め、結婚する。
ナポレオンが皇帝となると元帥、次いでポンテコルヴォ大公の地位を授けられた。1810年に後継者がいなかったスウェーデン国王カール13世の王太子兼摂政となり、カール・ヨハンに改名。1818年にカール13世が死去するとスウェーデン国王兼ノルウェー国王カール14世ヨハンとして即位した。
ナポレオンの没落と共に、ナポレオン帝政の元で他国の王位・大公位についていた者たちもその地位を失ったが、ベルナドットはスウェーデン国王の地位を維持し続けた。ベルナドットが興したベルナドッテ王朝は途切れることなく続いており、現在のスウェーデン王室の人々は皆ベルナドットとデジレの子孫である。
スタール夫人
フランスの批評家小説家で、革命前夜に財務総監を務めた銀行家ジャック・ネッケルの娘。フランス革命に積極的に参加するなど政治への関心が高い女性。サロンに足を運び多くの知識人と交流してその才能を認められた。タレーランやベルナドットと親しい。
作中では前半は多く登場して早くからナポレオンの才能に注目しており、ジョセフィーヌに対して嫉妬めいた感情を示している。ただしナポレオンが独裁者から皇帝へと進むのを見て、失望する事となる。
史実においては、ナポレオンに異常な好意を示すも冷淡に返されたため、反ナポレオンに転じる事となるが、作中においてはその事は描かれず、後半から登場しなくなった。
ブリューイ
海軍提督。ナポレオンのエジプト遠征艦隊の提督をつとめたが、陸兵をエジプトに上陸させた後、アブキール湾に艦隊を駐留させておいて、ネルソン艦隊に補足、撃滅される(ナイル・アブキール湾海戦)。ビルヌーヴと同様、「ナポレオンの部下」としてより「ネルソンの敵」として語られることの多い人物であり、本作においてもあっけなく海の藻屑と消えることになる。
作中、アブキール湾にとどまっていた事に対して、ナポレオンが(その無能さに)驚くような描写をされているが、これについて史実では意見の分かれるところである。また彼としては当時考えられる最善の防衛策を講じていた。やはり、相手がネルソンであったことが最大の不運であっただろう。
ピエール・ド・ヴィルヌーヴ
海軍提督。フランス・スペイン連合艦隊を指揮したが、トラファルガーでネルソンに大敗し、ナポレオンを激怒させる。けして愚将ではなく、むしろ海戦は素人のナポレオンの命令にふりまわされなければ、老練な名提督であったとするのが史実での評価だが、本作に限らず、ナポレオンを主人公にしたフィクション作品ではおおむね手厳しい扱いを受けることになる(逆に、ネルソンやイギリス海軍に取材した作品では、英国に一大国難をもたらした難敵として、高く評価されることが多い)。
本作でも「ネルソン・タッチ」に動転する姿が描かれるばかりで、良いところがなかった。本来ならば、ネルソンを狙撃する作戦を成功させた、有能な提督であった。

外国人[編集]

君主・政治家[編集]
アレクサンドル1世
ロシア帝国皇帝。同じ池田の作品でエカテリーナ2世を描いた『女帝エカテリーナ』から引き続いて登場。『女帝エカテリーナ』においては、祖母であるエカテリーナ2世にとって期待の孫であり、またエカテリーナ2世が啓蒙思想を放棄した事と老齢による能力の衰えを嘆く、理知的な少年・青年のように描写されている。しかし本作中においての扱いは、あのエカテリーナ2世が期待したほどの才能の持ち主とは思えない、いわゆる引き立て役に終始したが、ともかくもナポレオン終生のライバルと位置づけられていた。
作者は、ナポレオンの皇帝就任の報を聞いたアレクサンドル1世に「愚かな男よ せっかくの名誉あるフランス人民の代表の地位を自らかなぐり捨て宮廷の猿真似をしようとは……」「これで彼は全ヨーロッパの王室を敵にまわすことになるのだ そのことがわからぬとは……」というセリフをしゃべらせているが、このセリフがナポレオン没落の原因を端的に表しているという説もある。
なお、『女帝エカテリーナ』でのアレクサンドルは豪奢な金髪をなびかせた青年であるが、史実のアレクサンドル1世は全く逆であり、頭髪が薄い。そのためナポレオン戦争期を描いた他の漫画に比べると、池田の描くアレクサンドル1世は肖像画に不忠実であるとの指摘が一部にある。その非難のせいか、本作品では登場した当初こそ「女帝エカテリーナ」での描写を引き継いでいたものの、ロシア遠征の頃に再登場した際には、短髪で描かれた(ただし頭髪が薄いとまでは描写されなかった)。
メッテルニヒ
オーストリア外務大臣。作中、1804年時点ですでに外相だったかの様に描かれているが、史実とは食い違う(1809年就任)。フランツ2世の腹心として、タレーランらと通じてナポレオン打倒を目指す重要な役回りを演じている。
そのタレーランとキャラがかぶっているため、割を食っていた印象は否めない。
ウィリアム・ピット
イギリス首相。ナポレオンの皇帝即位に対する第三次対仏大同盟の主導者だったが、アウステルリッツでの墺露軍の大敗を知って憤死する。フルネームをウィリアム・ピット、父のチャタム伯ウィリアム・ピット(大ピット)に対して、「小ピット」と呼ばれる。史実では名宰相だった。
愛人[編集]
マリア・ヴァレフスカ
ポーランド貴族ヴァレフスキ伯爵の妻。
初めはポーランド独立のためにナポレオンの愛人となったが、そのうちナポレオンを本当に愛するようになっていった。温厚で純真な女性。
本作品ではタレーランと仲が悪かったように描かれているが、史実では、むしろタレーランは息子のシャルル・ド・フラオ共々、彼女に好感を抱いたという。また、新しい皇妃であるマリー・ルイーズに夢中になったナポレオンに捨てられたかのように描かれているが、史実では終生ナポレオンはそれなりにマリアを愛していて、可能な限り彼女の面倒を見ている。
軍人ほか[編集]
ネルソン
イギリス海軍提督。当人の登場回数は少ないものの、ナイル・アブキール湾海戦やトラファルガー岬沖海戦で、くりかえしナポレオンの戦略をおびやかした人物として、その存在感は大きく描かれている。エジプト遠征の頃はマンガ作品に登場する彼によく見られるような大きな黒い眼帯を失明した右目に当てた姿で描かれているが、これは後世のイメージによるところが大きい。トラファルガーで再登場した時には現存する肖像画に近い容姿になっている。
有名な「イギリスは各員がその義務を果たすことを期待する」の信号旗は、作中にも引用された。
クトゥーゾフ
ロシアの将軍。ナポレオンのロシア遠征を、いわゆる焦土戦術で敗走へ導いた。本作中では、アレクサンドルから軽んじられながら、ここぞと言うとき真価を発揮する「昼行灯」型の老将というイメージで描かれている。史実では、ロシア国外までナポレオン軍を追撃して、致命的な打撃を与えなかったことを疑問視する見方もあるが、本作では兵員の疲労を考慮してこれ以上の戦闘は無理だとアレクサンドルに哀願する姿が描かれている。結局はナポレオンとの完全決着にこだわるアレクサンドルに押される形になったが、再びフランス軍と交戦する前に病没、ナポレオンからもあっぱれな敵将だったと哀悼された。
クラウゼヴィッツ
プロイセン王国戦術士官。ナポレオンの戦法を研究し、彼のいる本隊は無視して部下の将軍たちを各個撃破する戦術を提案して、ヨーロッパ連合軍を勝利に導く。後年、「戦争論」の著者として歴史に名を残すことになる。
ウェリントン公
ワーテルローの戦いでナポレオンにとどめをさすイギリスの将軍。本作中では登場がやや唐突であり、ひたすらプロイセンの援軍を待ち続ける描写ばかりで割を食っている。スペイン戦役での活躍が全て割愛されているので、作品では降って湧いたような人物。
ユーゼフ・ポニャトフスキ
ポーランド国王スタニスワフ2世の甥で、ポーランド独立の悲願のため、ナポレオン軍に加わって戦う。
いつかナポレオンがポーランドを独立させてくれると信じ続けた。池田理代子の別作品『天の涯まで ポーランド秘史』では主人公になっている。マリア・ヴァレフスカも少女の頃から登場している。ナポレオンの元帥の中でこれだけ描写されているのは彼ただ一人である。
ムーラッド・ベイ
エジプト遠征時にナポレオンの前にたちはだかる、「勇敢さと美貌で知られる」「世界最強の騎兵マムルークの首領。
「勇敢さと美貌で知られる」マムルークの首領である事から、作中ではかなりの美男子に描かれているが、現在も残る肖像画からは美男子にはほど遠い容姿である。また「世界最強の騎兵」のキャッチフレーズから、恐るべき強敵であり、ピラミッドの戦いは双方に甚大な被害をもたらしたとされるが、史実のピラミッドの戦いはフランス軍の圧勝であった。

オリジナルキャラ[編集]

アラン・ド・ソワソン
貧乏貴族出の元フランス衛兵隊士官(階級は少尉だが、過去の不祥事により降格。『ベルサイユのばら』登場時は小隊の班長となっていた)。『ベルサイユのばら』では、オスカルの部下として登場、理想と現実の狭間で苦しむ彼女に惹かれていった。筋金入りのジャコバン派。フランス革命のなりゆきに絶望して軍を離れていたが、ナポレオンに興味を持ち、彼とともに各地を転戦する。ナポレオン側近の将軍にまで取り立てられるが、ナポレオンの皇帝就任に反対し、暗殺を企てて射殺される。オスカルへの思い出に生き、他の女性に心動かされる事は無かったが、唯一カトリーヌには心動かされ、本気で結婚しようとした節がある。ナポレオンの妹のポーリーヌとの結婚を勧められたこともあるが、こちらは拒絶し、逆にポーリーヌに惚れられる結果となる。
テレビアニメ版『ベルサイユのばら』最終回では、軍を離れ農夫となった姿が描かれていた。作者によると「アランはオスカルの思い出を抱きながら、軍人として生きていくのがふさわしい」と、これに不服だったため、『エロイカ』に再登場させたのだという。
ベルナール・シャトレ
パリ在住のジャーナリスト。貴族の落胤だが、幼い頃に平民の母諸共に家を追われ貧しい生活を強いられた為、王侯貴族への憎しみは強い。『ベルサイユのばら』ではロベスピエールの親友として、義賊としての活動や革命運動を展開していた。筋金入りのジャコバン派指導者。王妃処刑の段階では妻をその世話役で送り込むなど一定の影響力を有していたが、本格化した恐怖政治時代にどの立場を有していたかは不明。ただフーシェからは硬骨のジャーナリストとして警戒され、一目置かれる存在ではあった。妻子の愛に支えられ、その後の反動を生き抜く。総裁政府の腐敗にも厳しい批判を向ける。一時、共和制の守護者としてナポレオンに期待、『ブリュメール』では重要な役割を果たし、タレーランからは官房長官の地位すら打診される。しかし議会を武力弾圧したナポレオンに失望し、官房長官の地位を蹴る事となる。アランのナポレオン暗殺計画に加担、失敗した親友を見捨てず、共に銃弾に倒れた。
ロザリー・シャトレ(ロザリー・ラ・モリエール)
ベルナールの妻。ヴァロワ家末裔の貴族とポリニャック伯夫人との間の子。異母姉は首飾り事件ジャンヌ。貧困からオスカル相手に買春を持ちかけた事(当然、女性であるオスカルはこの申し出を断り、ロザリーに金貨を与えて、彼女が売春に身を染めないよう取り計らった)に縁が始まり、再会後には淑女として育て上げられた。オスカルを慕い、その死を見届ける。本編では夫を心から愛し支える良き妻として描かれているが、オスカルへの憧れは未だに健在(「オスカルさまはあたしのよー」との事)。夫同様筋金入りのジャコバン派。ベルナールがナポレオン暗殺を企てた際、夫の指示でスウェーデン亡命する。
フランソワ・シャトレ
ベルナールとロザリーの息子。両親の影響か、やはりジャコバン派的。『ブリュメール』では父とナポレオンらとの間の連絡要員として活躍。スタール夫人サロンで法律の勉強をし、法律家を目指していたが、ベルナールがナポレオン暗殺を企てるとスウェーデンに亡命する。スウェーデン国王の後継者に就けられたベルナドットとデジレの子オスカルの教育係に取り立てられる。その際、ベルナドットに対して、フランスの王政復古に反対し、共和制を復活させるべきだという持論を述べている。
カトリーヌ・ルノーダン
フーシェの手駒のひとりであり、フーシェが硬骨のジャーナリストとして警戒するベルナールの下に、スパイとして送られる。しかし実は、リヨンの商家の娘だったが、フーシェ率いる討伐軍によって家族を惨殺された過去を持ち、復讐の機会を狙い、フーシェと王党派の二重スパイとなっていた。
アランとは相思相愛だったが、イデオロギーの違いからアランへの恋をあきらめ、彼女の才気を認めたタレーランと結婚。結婚後は互いに干渉し合わない主義で、王党派の中心人物となるが、タレーランは見て見ぬふりをしていた。その後はナポレオンを暗殺するため王党派と打ち合わせていたところをフーシェに捕らわれ、夫を庇って(夫に累が及ばないように、あえてフーシェと取引して)ギロチンに掛けられた。
なお、史実におけるタレーラン夫人「カトリーヌ」は、夫とは仲の悪い人物で、名前以外の共通点は無い。

その他[編集]

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
「楽聖」の異名を持つ作曲家。ナポレオンの戴冠に憤り、交響曲第3番のタイトルを「ボナパルト」から「ある英雄の思い出のために」へと変更したエピソードのために、2ページだけ登場した。
池田が当作品を執筆中に、手塚治虫もベートーヴェンを主人公にした『ルードウィヒ・B』を執筆中であり、池田との対談の際にそれを知った手塚は、『エロイカ』にはベートーヴェンは登場するのかと訊ねたという。
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ
『ベルサイユのばら』の主人公。本作の時代にはすでに故人であり、登場はおもにアランらの回想の中でだが、彼らに強い影響を与えつづける人物として描かれている。ナポレオン暗殺へむかうアランは「歴史をつくるのは一人の英雄や将軍ではなく人民だ」という彼女の言葉を思い返していた。
ちなみに、『ベルサイユのばら』において彼女は砲兵大尉時代のナポレオンと出会ったことがあり、彼女を「なんという恐ろしい目をした男だ」と戦慄せしめた。

関連項目[編集]

  • 他の作家による作品
    • ナポレオン -獅子の時代-長谷川哲也) - ナポレオンの生涯に焦点を当てた作品。フランス革命についても触れられているが、特にマリー・アントワネットの処刑(『ベルサイユのばら』連載終了)からヴァンデミエールの反乱(『エロイカ』連載開始)の中間に当たる、恐怖政治テルミドールの反動について詳しく描かれている。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 1987年に発行された中公コミック・スーリ版第1巻裏表紙に掲載された作者の言葉より