英国は各員がその義務を尽くすことを期待する

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信号旗“U・T・Yと終信符号”を掲げているイギリスの旗艦ヴィクトリージョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー『トラファルガーの戦い』、1822年。

英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」(えいこくはかくいんがそのぎむをつくすことをきたいする、: England expects that every man will do his duty)は、1805年10月21日トラファルガー海戦の際、イギリスホレーショ・ネルソン提督が掲げた信号文。イギリス国民に影響を与えた言葉として、現代でもよく用いられる[1]

信号文[編集]

ナポレオン戦争の最中、フランス・スペイン連合艦隊を撃破するために、ネルソン率いるイギリス艦隊は出撃した。海戦を目前にし、艦隊を鼓舞するため、『英国は各員がその義務を尽くすと信ずる』(England confides that every man will do his duty.)という文案を信号士官のジョン・パスコー中尉に提示した。この文は信号旗を用いて、各艦に通報される。パスコーは'confides'は、信号書に定められておらず、一文字分ずつ信号旗を掲揚する必要があるが、'expects'ならば信号書にあり、符号を用いて迅速に掲揚・送信が行なえることを示した。ネルソンはそれに許可を与え、修正した『英国は各員がその義務を尽くすことを期待する』(England expects that every man will do his duty)の信号文が送られた[2][3]

掲揚された信号旗。左からこの順番で全部で12回、通して掲揚することにより、England expects that every man will do his dutyとなる。

信号文の送信時刻は、1805年10月21日の午前11時45分頃[4][5]、また10時半ともされている[6]。信号は各艦に伝達されたが、パスコーが戦闘後に行なった記録が“正午四分の一時間前”(about a quarter to noon、正午15分前のこと)であったため、他の艦の記録もこれに合わせられている[3]

イギリス艦隊は、リチャード・ハウが考案し、ポッパムが改良した海事信号書(Telegraphic Signals of Marine Vocabulary)を用いており[7]、各艦に配布されていた。この信号は0から9の数字を意味する信号旗を用い、数字に対応して単語もしくは文字を意味している[8]。信号文では、主に3桁の数字が一単語を意味している。また、'do'を意味するコードの'220'は'2'の信号旗に続き、'同じ'を意味する黄色と黒の旗を用いている。最後のD・U・T・Yの4文字は信号書内に定められておらず、一文字分ずつ信号旗を掲揚した。これにより、12回の信号旗の掲揚により、信号文を送っている[9]。信号文を受け取った各艦では、歓声が挙がったとされている[10]。この信号旗はミズンマストに次々と掲揚されたと推測されている[11]

ネルソンはその後も信号旗による通信を用いて、艦隊を指揮し、海戦に勝利した。

その後の事例[編集]

1814年のプラッツバーグの戦いにおいて、アメリカのトーマス・マクドノー准将は「(徴兵された)水兵も各員義務を尽くせ」(Impressed seamen call on every man to do his duty)と激励した。イギリス留学経験のある日本海軍の東郷平八郎は、1905年の日本海海戦において、Z旗に同等の文意の「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」の意を込めて掲揚した。

脚注[編集]

  1. ^ Daniel Mandel (2005年12月). “The ‘secret’ history of the Anglosphere”. IPA Review. 2007年12月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月17日閲覧。
  2. ^ Nelson and His Navy — England or Nelson?”. Historical Maritime Society. 2006年9月12日閲覧。
  3. ^ a b England Expects”. The Nelson Society. 2005年3月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月16日閲覧。
  4. ^ England Expects”. aboutnelson.co.uk. 2006年9月16日閲覧。
  5. ^ Trafalgar signals”. Broadside. 2006年9月16日閲覧。
  6. ^ Lieutenant Paul Harris Nicholas, Royal Marines, HMS Belleisle (1805年10月12日). “Battle of Trafalgar”. 2009年8月7日閲覧。
  7. ^ Popham's Signal flags”. Flags of the World (2006年4月29日). 2006年9月16日閲覧。
  8. ^ D.Bolton (2002年6月14日). “Signals”. 2006年4月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月16日閲覧。
  9. ^ Barrie, Kent (1993). Signal! A History of Signalling in the Royal Navy. Hyden House Ltd. pp. 7,100. 
  10. ^ Signal Flags”. National Maritime Museum. 2007年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月16日閲覧。
  11. ^ Gordon, W.J. (1930). Flags of the World. Past and Present: Their Story and Associations. Frederick Warne and Co.: London and New York. pp. 147.