サブリミナル効果

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サブリミナル効果(サブリミナルこうか)とは、意識潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで表れるとされている効果のこと。

サブリミナルとは「潜在意識の」という意味の言葉である。境界領域下の刺激はサブリミナル刺激(Subliminal stimuli)と呼ばれている。

後述するヴィカリーの「Eat Popcorn」に知られるように、刺激による誘導効果が科学的に立証されたことは一度もないが、社会倫理の観点より、放送や映画では規制が講じられている。

概説[編集]

研究は19世紀半ばから始まった。1897年にはイエール大学のE.W. Scriptureが著書のその原理について解説した。1900年、米国の心理学教授Dunlapは瞬間的に見せるshadowがMüller-Lyer illusionの線の長さの判断に影響する、と述べた。20世紀半ばにはマーケティング業者が広告にその技術を用い始めた。だが、うまくいかなかった事例も見られる。1973年には、ゲーム「Hūsker Dū?」の宣伝にサブリミナル刺激が用いられ、それが使われたという事実がウィルソン・ブライアン・キイの著書で指摘されたことで、米国連邦通信委員会で公聴会が開かれ、サブリミナル広告は禁止されることになった。日本では1995年日本放送協会(NHK)が、1999年日本民間放送連盟が、それぞれの番組放送基準でサブリミナル的表現方法を禁止することを明文化した。(→歴史

現在、映画テレビ放送などではほとんどの場合、使用を禁止されている。

当初は心理学、知覚心理学だけの領域であったが、現在は広告研究感情研究社会心理学臨床心理学など幅広く様々な関心から研究されている。

サブリミナル刺激による効果の測定には困難がつきものであるが、現在では各サブリミナル手法ごとの効果の度合いについての研究が徐々に蓄積しつつある[1]

定義[編集]

多くの論文において利用される定義によれば、サブリミナル効果とは、閾値以下の刺激によって生体に何らかの影響があることである。十分に知覚できる長さの刺激によって引き起こされる効果は、スプラリミナル知覚の影響と考える。

一方で、閾値以上の刺激でもサブリミナルを考えることができ、"注意が向いておらず「見えた」という自覚がなければよし" という定義も可能だと主張する研究者もいる[2]。そのような議論の中では、埋込み広告の中にあるパッと見て理解できるメッセージ以外もサブリミナルだとされる。

歴史[編集]

19世紀半ばから研究が始まった。

イエール大学の心理学ラボのE.W. Scripture(博士)は著書The New Psychology(1897)[3]において、サブリミナル・メッセージについての基本的な原理を解説した[4]

1900年、米国の心理学教授Dunlapは、被験者らにMüller-Lyer illusion(二本の線の端に矢印状のものがつくことで長さが異なるとの錯覚が生じるもの)を見せている時に、瞬間的に "imperceptible shadow"を見せてみた。Dunlapは、この瞬間的なshadowによって被験者による線の長さの判断に影響が生じた、とした。

第二次世界大戦中には、タシストスコープ(tachistoscope、非常に短い時間だけ写真を投影する装置)を用いて兵士たちに敵機を認識させる訓練がほどこされた[4]。今日では、この装置は読書速度の向上や視力検査のために用いられている[5]

20世紀半ばには、マーケティング業者などによる宣伝的な言及もあった。宣伝資料に、米国の心理学者ハリー・レヴィー・ホリングワースHarry Levi Hollingworthによる、サブリミナル・メッセージは広告宣伝に使える、とする文章が掲載された[6]

1957年9月から6週間にわたり、市場調査業者のジェームズ・ヴィカリ(James M. Vicary)は、ニュージャージー州フォートリーの映画館で映画「ピクニック」の上映中に"実験"を行なったとされている。ヴィカリによると、映画が映写されているスクリーンの上に、「コカコーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージが書かれたスライドを1/3000秒ずつ5分ごとに繰り返し二重映写(フィルムのフレームを差し替えたと信じている人が多いが誤解である)したところ、コカコーラについては18.1%、ポップコーンについては57.5%の売上の増加がみられたとのことであった。しかし、ヴィカリは、アメリカ広告調査機構の要請にも関らず、この実験の内容と結果についての論文を発表しなかった。1958年2月には、カナダのCBCが「クローズアップ」という番組の中で、ヴィカリの会社に再"実験"をさせた。番組の時間を通して352回にわたり「telephone now(今すぐお電話を)」というメッセージを投影させてみたが、誰も電話をかけてこなかった。また、放送中に何か感じたことがあったら手紙を出すよう視聴者に呼びかけたが、500通以上届いた手紙の中に、電話をかけたくなったというものは一つもなかった。 さらに、1962年には、Advertising Ageが、ヴィカリ自身の「マスコミに情報が漏れた時にはまだ実験はしていなかった、データは十分にはなかった」という談話を掲載した。新潟大学の鈴木光太郎教授は、この実験そのものがなかったと指摘している[7]

1973年には、ゲームHūsker Dū?について、米国とカナダで行われたコマーシャルにおいて、瞬間的なメッセージが利用され、「Get it」と表示された[8]。同年、 ウィルソン・ブライアン・キイの著書 『Subliminal Seduction』で、サブリミナル技術が広告で広く用いられている、とした[9]。人々はサブリミナル技術に対して注意しはじめ、これにより1974年、連邦通信委員会(FCC)で公聴会が開かれることになった。その結果、FCC policy statementが作成され、サブリミナル広告は、”公の利益に反する”とされ、”人を欺こうとしている”とされた[9]。カナダでもサブリミナル広告は禁止された[4]

1995年には日本放送協会(NHK)が、1999年には日本民間放送連盟が、それぞれの番組放送基準でサブリミナル的表現方法を禁止することを明文化した。

1998年刊行の「プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く」では29章にサブリミナル効果が取り上げられ、「ポップコーンとコーラの研究は作り話だと判明している」「多くの記事や論文はあるが効果を実証するものがひとつもない」「1970年の調査では68%の人がサブリミナルが効果的だと信じていると回答した」「メディアで無効だと報道されず、自分の非合理的な行動に説明をつけるのに都合が良いのが信じられている原因」ということが記述されている。 [10]

放送の基準とメディアでのできごと[編集]

日本国内の放送基準[編集]

1995年9月26日日本放送協会(NHK)が、1999年には日本民間放送連盟が、それぞれの番組放送基準でサブリミナル的表現方法を禁止することを明文化した。

  • 日本放送協会 国内番組基準
    • 第1章 放送番組一般の基準
    • 第11項 表現
    • 6 通常知覚できない技法で、潜在意識に働きかける表現はしない。
  • 日本民間放送連盟 放送基準
    • 第8章 表現上の配慮
    • (59) 視聴者が通常、感知し得ない方法によって、なんらかのメッセージの伝達を意図する手法(いわゆるサブリミナル的表現手法)は、公正とはいえず、放送に適さない。

日本のテレビ放送での使用[編集]

オウム真理教事件が日本を震撼させていた1995年5月2日、日本テレビ系列のテレビアニメ『シティーハンター3』第11話(1989年平成元年)12月24日放送)の再放送で教団代表・麻原彰晃の顔が1フレームだけ挿入されていたことがTBS系のニュース番組で報道され、「サブリミナル効果」として問題視される。しかし、同年6月9日には逆に日本テレビ系列のニュース番組で、TBSのオウム真理教関連番組(1995年平成7年)5月放送)に、麻原の顔等の画像が無関係な場面で何度も挿入されていたことが報道された。TBSはサブリミナル手法を番組テーマを際立たせる1つの映像表現として用いたと説明したが、非難が集中し、郵政省は同年7月21日、TBSに対し厳重注意を行った。これを受けて、TBSは「視聴者が感知出来ない映像使用はアンフェアであった」と謝罪した。

当初問題になった『シティーハンター3』も、同じく厳重注意を受け謝罪しているが、番組が放送された1989年時点ではオウムの犯罪性はまだ明らかになっておらず、「奇妙なパフォーマンスをする宗教団体」と思われていた時期だった。麻原の写真は同番組に挿入された複数のカットのうちの一つである(麻原のすぐ後には漫画『伝染るんです。』の登場人物「かわうそ君」が挿入されている)[11]

なお、1980年代から1990年代前半のテレビアニメでは、ビデオデッキで録画した番組をコマ送りしないと確認できないような内容に無関係なカットやメッセージを一瞬だけ挿入したり、群集シーンに別の漫画やアニメの登場人物を紛れ込ませるといった行為は制作スタッフの“お遊び”として当たり前のように用いられており、『シティーハンター3』だけが特殊なわけではなかった[12][13]。しかし、ニュースでは麻原の写真が入っていたことのみがサブリミナル問題として取り上げられ、麻原以外のお遊びカットの存在や、TBS系も含む他のアニメ番組でも同様の無関係な映像が挿入がされていることについてはほとんど触れられることは無かった[11]

この事件以後、テレビ局の規制が厳しくなり[12]、映像の変更が行われる番組もあった[14]が、その後も何度か問題視されている。2004年平成16年)2月テレビ番組マネーの虎」(日本テレビ)のオープニングに一万円札が、同時期の深夜アニメエリア88』(テレビ朝日)のオープニングに倒れている人や「WAR」「ATTACK」といった暴力を連想させる英単語が一瞬映っているとして相次いで報道された(どちらも報道後メッセージ性がないものに差し替えられた)。

番組ネット時の問題[編集]

同時ネットなどにより系列局などが制作した番組を放送する場合、番組送信元を切り替える際のわずかなタイムラグによってコマーシャルなどが一瞬だけ映る現象が発生することがある。通常は問題にならないが、2004年平成16年)に『SMAP×SMAP』(関西テレビからフジテレビ系列各局に同時ネットされる)でこの現象が発生し、『週刊現代[15]で「サブリミナル疑惑」と報じられたことがあった。

その他[編集]

2000年アメリカ合衆国大統領選挙ブッシュ候補のテレビコマーシャルで、ゴア候補の映像と共に「RATS」(ならず者・裏切り者)の文字が一瞬映り、サブリミナル効果ではないかと問題視された。実際は「BUREAUCRATS」(官僚)という単語が現れる瞬間に最後の4文字だけが映ったためであり、行政処分や選挙違反などの対象にはならなかった。

音楽においてもサブリミナル効果による事件と呼ばれるものがあり、代表的なものに1986年、ヘヴィメタルバンド、ジューダス・プリーストの曲を聴いていた少年2人が銃を用いて自殺を図った事件やオジー・オズボーンの曲にサブリミナル効果が含まれているとされたものがある。しかしこれらを含む事件の全ての裁判において、アーティスト側が勝訴している。 2009年平成21年)、NHKスペシャルプロジェクトJAPANJAPANデビューのOPが0.3秒のカット[16] 大河ドラマ天地人において0.2秒のカットが用いたことに対して、サブリミナル効果を指摘する声が上がった[17]

2011年2月にはアフガニスタン駐留アメリカ軍で、ジョン・マケインジョー・リーバーマン、カール・レビン、マイケル・マレンなど視察した上院議員や本土の軍幹部に対し、兵員増強や予算増額を働きかける“心理誘導作戦”が行われていた疑いがあることがローリング・ストーンのスクープで発覚[18]。具体的な作戦内容は明らかにされていないが、国防総省定義では“映像に写真をしのばせて潜在意識に訴えかける手法”などで、これは連邦法により「敵対外国人グループ」以外への使用は禁止されているという[19]

サブリミナル効果を謳った作品[編集]

サブリミナル効果を演出に取り入れた映像作品には次のようなものがある。制作側が謳う効果が実際に上がったかは別問題である。

ドラマ「ケータイ捜査官7」第45話(明日未来~来るべき時代の大人たちへ) 人間との戦いで、並列分散リンクし、サブリミナル効果をもちいり、人間の脳の機能を停止させるというストーリーがある。

脚注[編集]

  1. ^ 坂元章 et al. 1999西村友 & 鈴木宏昭 2006 など。
  2. ^ 下条 信輔 (1998/11). 「サブリミナル効果」は存在するか. pp. pp.122-124. 
  3. ^ The New Psychology in 1897 (The Walter Scott Ltd, London)
  4. ^ a b c The Straight Dope: Does subliminal advertising work?, The Straight Dope, http://www.straightdope.com/classics/a1_187.html 2006年8月11日閲覧。 
  5. ^ tachistoscope – Definitions from Dictionary.com
  6. ^ Pratkanis, Anthony R. (Spring 1992), “The Cargo-Cult Science of Subliminal Persuasion”, Skeptical Inquirer (Committee for the Scientific Investigation of Claims of the Paranormal): pp. 260–272, http://www.csicop.org/si/9204/subliminal-persuasion.html 2006年8月11日閲覧。 
  7. ^ 鈴木光太郎『オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険』第二章 まぼろしのサブリミナル 新曜社、2008年
  8. ^ Lantos, Geoffrey P. (PDF), The Absolute Threshold Level and Subliminal Messages, Stonehill College, http://faculty.stonehill.edu/glantos/Lantos1/PDF_Folder/BA344_PDF/Exercise%2046.pdf 2007年3月1日閲覧。 
  9. ^ a b Urban Legends Reference Pages: Business (Subliminal Advertising), The Urban Legends Reference Pages, http://www.snopes.com/business/hidden/popcorn.asp 2006年8月11日閲覧。 
  10. ^ アンソニー プラトカニス (著), エリオット アロンソン (著)「プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く」 社会行動研究会 (翻訳) 誠信書房 (1998/11/1) ISBN-13: 978-4414302851
  11. ^ a b 外部リンク「TVアニメ資料館・『CITY HUNTER 3』第11話サブリミナル画像?混入事件」
  12. ^ a b アニメ監督佐藤竜雄によるTwitterでのつぶやきまとめ(2010年3月20日)より
    「アクションシーンなどで一瞬白コマや黒コマを入れる代わりに遊びの絵を入れるというアレ。アレに超絶な方の絵を入れて大問題になったという」([1]
    (佐藤の監督した『飛べ!イサミ』でも)「「一コマ遊び」はよくやっていた。アニメーターのお遊びだし、問題ないだろうと。しかし「内容に関わらず今後一コマ絵を見つけたら、即刻番組を打ち切りにします」ときっぱりと言われた。今では笑い話だが、当時は「何でこう、次々と」と途方に暮れた」([2]
  13. ^ http://www.style.fm/as/05_column/365/365_185.shtml WEBアニメスタイルコラム「アニメ様365日」第185回 『愛・おぼえていますか』とバドワイザー(小黒祐一郎
  14. ^ 『シティハンター3』と同じサンライズが制作するロボットアニメ『黄金勇者ゴルドラン』のオープニングには、「おもちゃにやさしいアニメ by サンライズ」というメッセージが背景に書かれているコマが挿入されていたが、『シティハンター』問題の週から無くなっている。
  15. ^ 「フジ『SMAP×SMAP』にサブリミナル“洗脳”CM疑惑!」『週刊現代』2004年3月27日号。
  16. ^ 【映像分析】NHKスペシャル「JAPANデビュー」OPタイトルの工作”. YouTube (2009年4月15日). 2009年9月24日閲覧。
  17. ^ 読売新聞2009年平成21年)5月14日付、NHK、大河ドラマ「天地人」でサブリミナル的?演出
  18. ^ “Another Runaway General:Army Deploys Psy-Ops on U.S.Senators” マイケル・ヘイスティングス、2011年2月23日
  19. ^ アフガン米軍が議員らに禁じ手? 兵員増強や予算増額で 共同通信2011年2月25日

関連文献[編集]

  • 坂元,章; 森,津太子; 坂元,桂; 高比良,美詠子 『サブリミナル効果の科学 : 無意識の世界では何が起こっているか』 学文社、1999年ISBN 4762009067 
  • 西村友、鈴木宏昭「洞察問題解決の制約緩和における潜在的情報処理」、『認知科学 = Cognitive studies : bulletin of the Japanese Cognitive Science Society』第13巻第1号、日本認知科学会、2006年3月1日、 136-138頁、 NAID 10018137387JOI:JST.JSTAGE/jcss/13.136
  • 川口潤「無意識の記憶--プライミングとサブリミナル効果(もの忘れ) -- (記憶と忘却の心理学)」こころの科学 Human mind (138) 2008/3 pp.41-46
  • 浜園幸司「感情特性と気分状態が即時的評価と意図的評価に及ぼす影響について」[[3]]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]