カワサキ・W

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W(ダブリュー、ダブル)とは、カワサキモータース(旧・川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー)が製造販売しているオートバイの車種である。初代の発売から50年以上もの間、製造中断を挟みながらも発売が続いているカワサキの由緒あるシリーズ車種である。

モデル一覧[編集]

650-W1 / W2 / 650RS-W3[編集]

カワサキ W1SS(輸出仕様)

原型は目黒製作所(メグロ)がBSA A7シューティングスターに範をとり製作していたK1(通称スタミナ)という車両であった。メグロがカワサキとの業務提携を経て吸収合併された時点でK1のクランク周りの弱さ(BSAそのままの弱点であった)を改善したK2(497 cc)となる。

その後高速時代に対応させるため624 ccに拡大し1966年(昭和41年)に650-W1として発表された。当時としては最大排気量のオートバイであり[注釈 1]、そのエンジンと独特の排気音がもたらす迫力により、人気車種となった。また北米輸出専用として、ツインキャブ仕様のW2SSや、ストリート・スクランブラータイプのW2TTというモデルも生産されている。

今では考えられないことであるが、W2TT初期型にはマフラーサイレンサー内にバッフルが付いていない。これはエンジンの特性を殺してしまわないための標準仕様であった。国内向けとしてはツインキャブのW2SSが650W1S(スペシャル)として発売、また、W1Sまではメグロ時代の設計を踏襲して右足シフト(踏み込み式)・左足ブレーキであったが、1971年(昭和46年)に発表されたW1SA以降は現在の左足シフト・右足ブレーキに変更されている。

そして1973年(昭和48年)に400RS、750RS(いわゆるZ2)と併せ、3機種でRS(ロードスター)シリーズとして発表された650RS-W3では前輪にデュアルディスクブレーキを採用するなど、車体と電装品を近代化、若干のマイナーチェンジをして翌1974年(昭和49年)にW3Aとなり、これをもって初期のWシリーズは生産終了となった。

このシリーズは当時から型式や機種名からきたニックネームで「W1(ダブワン)」「W1S(スペシャル・エス)」「W1SA(エスエー)」「W3(ダブサン/ダブスリー)」と呼び分けられることが多く、シリーズに共通している英国風デザインの車体、直列2気筒のバーチカルエンジン、そしてシリンダー下にあるメグロの血を受け継ぐ独特な形状のクランクケースにより、多気筒・高性能化が進む当時の国産オートバイの中でも独自の存在感を放ち、カワサキの伝説的オートバイとしてZシリーズマッハ(H、S、KH等の2スト3気筒系)シリーズに並び、現在でも愛好家は多い。

一方、カワサキが主要マーケットとした北米地域では発売当時より「BSAの兄弟車」などとデザイン面での評判が芳しくなく、また、特に高速走行時に発生する振動が凄まじく、オイル漏れや各種部品の脱落に関する苦情が絶えなかったことなどにより、販売成績的には後のH1(マッハIII 500)Z1に比べると見劣りのするものであった。そのため英車のコピーという範疇を出ない。

W650[編集]

カワサキ・W650(アップハンドル仕様)

W650は1998年平成10年)12月発表、翌1999年(平成11年)2月から販売された車種である。

OHVエンジンの旧シリーズとは直接の関連はない新設計車種であるが、外観は、トライアンフBSAといった往年の英国車、もしくは「ネオクラシック」「ネオレトロ」と呼ばれる上述のW1を彷彿とさせる古風なもので、販売戦略上「W」のネーミングが復活した。

こだわりとして専用設計の左右スイッチボックスや、質感を高める一環として外装部品に樹脂製ではなく金属製を採用した。特にハンドルの造形は凝っており、トップブリッジ(上部三叉)に取り付けられる中央部分は外径25.4 mmの「インチバー」と呼ばれる太さであるが、グリップやスイッチボックスが取り付けられる両端の部分のみ「ミリバー」と呼ばれる外径22.2 mm(7/8インチであるので実際にはインチ系列の規格であるが)に絞られるという変則的な太さとした。形状も俗に「コンチネンタルハンドル」と呼ばれるローハンドル仕様と、グリップ3本分ほど高くしたアップハンドル仕様の2種類を用意する。

搭載エンジンは、排気量675 cc空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒の専用に新設計されたものであり、メタル四点軸受けの一体鍛造クランクシャフト、振動低減の為に1軸バランサー及びラバーマウントの採用、カム駆動にハイポイドベベルギアシャフトを用いるなど、特徴的な機構を持つ現代的なエンジンである一方で、見栄えの観点から空冷にこだわり、近年の大排気量車では珍しくキックスターターセルフスターターをともに標準装備する。往年の英国車風にシリンダーを直立させたほか、前述のベベルギアシャフトをOHVプッシュロッド風に見せ、低く水平に伸びた排気管にキャブトン風のマフラーを装備するなど、古風な外観にまとめられた。72 mm x 83 mmのボアストローク比は近年のオートバイ用エンジンとしては稀なロングストローク(ちなみにW1系はややショートストローク)で、排気量に対して重めのフライホイールを採用していることも大きな特徴である。スロットルポジションセンサーや加速ポンプが付いた2連装式キャブレターとの組み合わせにより、低中速域から粘りや力強さを感じさせる出力特性を得ている。

排気量は675 ccであるにもかかわらずW650の名がつけられており、カワサキのWシリーズにとって「650」という数字が特別なものとして捉えられていると考えられている。最大出力は当初50 ps(37 kW)だったが、2004年モデル以降は平成13年騒音規制排出ガス規制などへの対策もあり、48 ps(35 kW)へと引き下げられた。

ユーザーから一定の評価を得た車両ではあるが、2008年(平成20年)9月の排出ガス規制強化により生産終了となった。

W400[編集]

W400は、W650の排気量を縮小してつくられた普通自動二輪車版であり、2006年(平成18年)から販売された。競合車種はSR400CB400SSである。

基本的な外観はW650を踏襲するが、乗りやすさを向上させるために前後のサスペンションの設定を変えて車高を落としたり、シート形状を薄いものへ変更するなどしてW650よりも35 mm低い765 mmというシート高を実現している。

ハンドルはW650で採用された変則的な太さのものではなく、外径22.2 mmの一般的な「ミリバー」となっている。W650に標準装備されていたセンタースタンドやキックスターターは省略され、左右スイッチボックスが専用のものでなくなるなど、コストダウンが図られている。

エンジンはW650のものをもとに、ボアは72mmのままストロークを49mmへ短くすることで排気量を399 ccとしている。この変更によりW650での特徴の一つだったロングストロークとは逆にショートストロークのエンジンとなっており、兄弟車種ながらかなり異なった出力特性となっている。

W650同様、2008年(平成20年)9月の排出ガス規制強化により生産終了となった。

W800[編集]

カワサキ・W800

W800は2010年(平成22年)10月に海外輸出向けモデルとしてヨーロッパで先行して発表され、2011年(平成23年)2月1日より日本国内仕様が発売された。Wシリーズとしては2年ぶりの復活となる。エンジンはW650をベースにボアアップを行い、ボアxストロークを77.0 mm x83.0 mmとして総排気量を773 ccに拡大し、燃料供給装置には新たに電子制御式燃料噴射装置を採用している。エンジン出力はW650からの48 psが維持されているが、極低回転域で最大トルクを発揮させるセッティングが行なわれている。なお車体構成に大きな変更はされていない。

2016年(平成28年)に欧州・日本仕様のファイナルエディションが発表され、生産終了となった。

2019年(令和元年)の東京モーターショーで、先に発売されたSTREET/CAFEモデル(後述)をベースとした新型W800が発表され、同年の12月1日より発売された。無印モデルは2016年の先代モデルの生産終了以来3年ぶりの復活となり、新たにフロントを19インチとしている。

W800 STREET・W800 CAFE[編集]

W800 STREETは、2019年3月1日から発売開始された。従来のW800同様のクラシックな外観・360°クランクの空冷ロングストロークエンジンはそのままに、フレームなどは新設計され、前後とも18インチホイールにディスクブレーキ・ABS・アシスト&スリッパークラッチ・LEDヘッドライト・ETC2.0を標準搭載するなど、中身は現代的なバイクに進化を遂げた。最高出力は、38kW(52PS)/6,500rpmに引き上げられている。

W800 CAFEは、W800 STREETをベースにカフェレーサースタイルの専用フロントカウル、やや前傾気味となる専用形状ハンドル、グリップヒーターを装備している。

MEGURO K3[編集]

2020年11月、本シリーズのバッジエンジニアリング機として「MEGURO K3」が発表され、2021年2月より販売を開始した。かつての「メグロ」ブランドが五十数年ぶりに復活することになる[1]

カワサキ・メグロK3
基本情報
車体型式 2BL-EJ800B
エンジン 773 cm3 
空冷4ストローク並列2気筒/SOHC 4バルブ
内径×行程 / 圧縮比 77.0 mm × 83.0 mm / 8.4:1:1
最高出力 38kW(52PS)/6,500rpm
最大トルク 62N・m(6.3kgf・m)/4,800rpm
      詳細情報
製造国 日本の旗 日本
製造期間 2020年-
タイプ
設計統括
デザイン
フレーム ダブルクレードル
全長×全幅×全高 2,190 mm × 925 mm × 1,130 mm
ホイールベース 1,465 mm
最低地上高 125 mm
シート高 790 mm
燃料供給装置  (フューエルインジェクション)
始動方式 セルフスターター
潤滑方式 ウェットサンプ
駆動方式 1速 2.352 (40/17)

2速 1.590 (35/22) 3速 1.240 (31/25) 4速 1.000 (28/28)

5速 0.851 (23/27)
変速機 常噛5段リターン
サスペンション テレスコピック(インナーチューブ径41mm)
スイングアーム
キャスター / トレール
ブレーキ シングルディスク 320mm(外径)
シングルディスク 270mm (外径)
タイヤサイズ 100/90-19M/C 57H
130/80-18M/C 66H
最高速度
乗車定員
燃料タンク容量
燃費 30.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2 21.1㎞/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時)※3 km/L
カラーバリエーション ミラーコートブラック×エボニー
本体価格 1,276,000円 (本体価格1,160,000円、消費税116,000円)
備考
先代
後継
姉妹車 / OEM W800
同クラスの車
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脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 陸王はすでに倒産。

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]