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「入院した途端、急にボケて([[痴呆]]のように見える)しまって、自分がどこにいるのか、あるいは今日が何月何日かさえもわからなくなってしまった。」というエピソードが極めて典型的である。通常はこういった障害は可逆的で退院する頃にはなくなっているので、安心してよい所見である。
「入院した途端、急にボケて([[痴呆]]のように見える)しまって、自分がどこにいるのか、あるいは今日が何月何日かさえもわからなくなってしまった。」というエピソードが極めて典型的である。通常はこういった障害は可逆的で退院する頃にはなくなっているので、安心してよい所見である。


また、[[高熱]]とともにせん妄を体験する場合があり、とくに子供に多い{{sfn|サックス |2014|pp=217-237}}。
また、[[高熱]]とともにせん妄を体験する場合があり、とくに子供に多い{{sfn|オリヴァー・サックス|2014|pp=217-237}}。
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大半の患者はせん妄を覚えており、苦痛な経験だったとの調査報告がある。せん妄は意識障害だから覚えていない、というのは全くの誤解である<ref name="jspm_nl440903">{{cite web |url=https://www.jspm.ne.jp/newsletter/nl_44/nl440903.html |title=進行性がん患者と介護者における、せん妄のインパクトと苦痛の記憶 |publisher=[[日本緩和医療学会]] |date=2009-8 |accessdate=2016-8-31}}</ref>。


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== 危険因子 ==
== 危険因子 ==
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[[認知症]]、高齢、男性、重症患者、うつ状態、複数薬物、聴視覚障害([[難聴]]や[[白内障]])、感染症、アルコール常飲、[[疼痛]]、手術後、身体抑制などがリスクファクターと言われている。

==予防==
2016年の[[コクラン共同計画|コクラン]]レビューは、{{仮リンク|Bispectral index|en|Bispectral index}}を用いて麻酔の強さを監督することで、せん妄発生率を低下させる質の良い証拠があり、抗精神病薬、コリンエステラーゼ阻害剤、メラトニン、メラトニン受容体作動薬では研究はされているが明確な証拠ではないとした<ref name="pmid26967259">{{cite journal|author=Siddiqi N, Harrison JK, Clegg A, et al.|title=Interventions for preventing delirium in hospitalised non-ICU patients|journal=Cochrane Database Syst Re|pages=CD005563|date=March 2016|pmid=26967259|doi=10.1002/14651858.CD005563.pub3}}</ref>。

2017年のレビューは、5つの[[ランダム化比較試験]] (RCT) と1つの非RCTを見出し、メラトニンでは相反する結果であり、1つのラメルテオンでの試験はせん妄発生率を減少させ、L-トリプトファンでは効果がなく、結論としてメラトニン受容体作動薬の定常的な使用は推奨できないとした<ref name="pmid27539735">{{cite journal|author=Walker CK, Gales MA|title=Melatonin Receptor Agonists for Delirium Prevention|journal=Ann Pharmacother|issue=1|pages=72–78|date=January 2017|pmid=27539735|doi=10.1177/1060028016665863}}</ref>。2016年のRCTの[[メタアナリシス]]は、計669人を含む4つのRCTがあり、[[メラトニン]]の服用は内科病棟ではせん妄発生率を減少させ、外科病棟では差がなかった<ref name="pmid26189834">{{cite journal|author=Chen S, Shi L, Liang F, et al.|title=Exogenous Melatonin for Delirium Prevention: a Meta-analysis of Randomized Controlled Trials|journal=Mol. Neurobiol.|issue=6|pages=4046–4053|date=August 2016|pmid=26189834|doi=10.1007/s12035-015-9350-8}}</ref>。2015年のレビューは、メラトニンの2つのRCTと、タシメルテオンの1つのRCTを発見していた<ref name="pmid24946785">{{cite journal|author=Chakraborti D, Tampi DJ, Tampi RR|title=Melatonin and melatonin agonist for delirium in the elderly patients|journal=Am J Alzheimers Dis Other Demen|issue=2|pages=119–29|date=March 2015|pmid=24946785|doi=10.1177/1533317514539379}}</ref>。


== 治療 ==
== 治療 ==
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* [[不思議の国のアリス症候群]]
* [[不思議の国のアリス症候群]]


== 脚注 ==
==出典==
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2018年5月27日 (日) 09:42時点における版

せん妄
概要
診療科 精神医学, 神経学, 心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F05
ICD-9-CM 293.0
DiseasesDB 29284
eMedicine med/3006
Patient UK せん妄
MeSH D003693

せん妄(譫妄、せんもう、英:delirium)は、意識混濁に加えて奇妙で脅迫的な思考や幻覚錯覚が見られるような状態。健康な人でも寝ている人を強引に起こすと同じ症状を起こす。ICUやCCUで管理されている患者によく起こる[1]

急激な精神運動興奮カテーテルを引き抜くなど)や、問診上明らかな見当識障害で気がつかれることが多い。大手術後の患者(術後せん妄)、アルツハイマー病脳卒中、代謝障害、アルコール依存症の患者にもみられる。通常は対症療法が行われる。振戦せん妄は、アルコールベンゾジアゼピン系薬物からの離脱によって起こり区別され、せん妄とは治療も異なる。

症状

「入院した途端、急にボケて(痴呆のように見える)しまって、自分がどこにいるのか、あるいは今日が何月何日かさえもわからなくなってしまった。」というエピソードが極めて典型的である。通常はこういった障害は可逆的で退院する頃にはなくなっているので、安心してよい所見である。

また、高熱とともにせん妄を体験する場合があり、とくに子供に多い[2]。 大半の患者はせん妄を覚えており、苦痛な経験だったとの調査報告がある。せん妄は意識障害だから覚えていない、というのは全くの誤解である[3]

こういった症状をおこすせん妄という病態の背景には意識障害、幻視を中心とした幻覚、精神運動興奮があると考えられている。

診断基準

DSM-IVでも診断基準はあるが、より実践的なConfusion Assessment Methods (CAM) をここでは記す。

  • 急性の発症と症状の動揺
  • 注意力の欠如
  • 思考の錯乱
  • 意識レベルの変化[4]

2つ目までは必須項目であり、あとひとつをみたせば診断してよい。

鑑別診断

振戦せん妄は、アルコールやベンゾジアゼピン系薬あるいはバルビツール酸系薬の離脱症状できたすせん妄状態である。せん妄とは区別され、治療も異なる。認知症との区別は、血管障害を除き、認知症は緩徐に進行するのに対してせん妄は急激に来ると経過が異なる点があげられる。

危険因子

認知症、高齢、男性、重症患者、うつ状態、複数薬物、聴視覚障害(難聴白内障)、感染症、アルコール常飲、疼痛、手術後、身体抑制などがリスクファクターと言われている。

予防

2016年のコクランレビューは、Bispectral indexを用いて麻酔の強さを監督することで、せん妄発生率を低下させる質の良い証拠があり、抗精神病薬、コリンエステラーゼ阻害剤、メラトニン、メラトニン受容体作動薬では研究はされているが明確な証拠ではないとした[5]

2017年のレビューは、5つのランダム化比較試験 (RCT) と1つの非RCTを見出し、メラトニンでは相反する結果であり、1つのラメルテオンでの試験はせん妄発生率を減少させ、L-トリプトファンでは効果がなく、結論としてメラトニン受容体作動薬の定常的な使用は推奨できないとした[6]。2016年のRCTのメタアナリシスは、計669人を含む4つのRCTがあり、メラトニンの服用は内科病棟ではせん妄発生率を減少させ、外科病棟では差がなかった[7]。2015年のレビューは、メラトニンの2つのRCTと、タシメルテオンの1つのRCTを発見していた[8]

治療

せん妄に関しては予防が一番重要である。患者自身が、「自分は今どんな状況なのか」(今どこにいて、現在の日時はいつで、自分の病名・病状はどんな状態で、自分はどう対処しなければならないのか)を正しく認識できる状態を保たなくてはならないのである。しかし、発症してしまった場合はセレネースハロペリドール[9]などを用いる。ハロペリドールは錐体外路症状悪性症候群などの副作用や、せん妄による興奮の反動としての嗜眠などが予期されるため、それらを避けるためにリスペリドン[9]クエチアピンを用いる場合もある。逆に嗜眠が起きても病態に影響しない場合にはベンゾジアゼピン類のジアゼパムロラゼパム、さらに強力なものとしてはミダゾラムなどを用いる。

関連項目

出典

  1. ^ せん妄”. 2015年8月22日閲覧。
  2. ^ オリヴァー・サックス 2014, pp. 217–237.
  3. ^ 進行性がん患者と介護者における、せん妄のインパクトと苦痛の記憶”. 日本緩和医療学会 (2009年8月). 2016年8月31日閲覧。
  4. ^ 入院中の高齢者のせん妄をボランティアの介入で防ぐ”. 2015年8月18日閲覧。
  5. ^ Siddiqi N, Harrison JK, Clegg A, et al. (March 2016). “Interventions for preventing delirium in hospitalised non-ICU patients”. Cochrane Database Syst Re: CD005563. doi:10.1002/14651858.CD005563.pub3. PMID 26967259. 
  6. ^ Walker CK, Gales MA (January 2017). “Melatonin Receptor Agonists for Delirium Prevention”. Ann Pharmacother (1): 72–78. doi:10.1177/1060028016665863. PMID 27539735. 
  7. ^ Chen S, Shi L, Liang F, et al. (August 2016). “Exogenous Melatonin for Delirium Prevention: a Meta-analysis of Randomized Controlled Trials”. Mol. Neurobiol. (6): 4046–4053. doi:10.1007/s12035-015-9350-8. PMID 26189834. 
  8. ^ Chakraborti D, Tampi DJ, Tampi RR (March 2015). “Melatonin and melatonin agonist for delirium in the elderly patients”. Am J Alzheimers Dis Other Demen (2): 119–29. doi:10.1177/1533317514539379. PMID 24946785. 
  9. ^ a b せん妄”. 2015年8月21日閲覧。

参考文献

外部リンク

せん妄 - 脳科学辞典