ビーフストロガノフ
ビーフストロガノフ(beef stroganoff、ロシア語ではбефстроганов(ベフストロガノフ)またはговядина по-строгановски)とは代表的なロシア料理のひとつである。「ベフ」は英語の「ビーフ」ではなく、ロシア語で「~流」であり、「ストロガノフ流」の意[1]であるとの説もあるが、これを俗説とし、「ビーフ」はフランス語のブフ(Bœuf・牛肉)に由来する、と主張する考察も存在する[2]。ただし、本場ロシアでも鶏肉や豚肉を使用したアレンジ家庭料理は散見される[3]。
起源
16世紀初頭にウラル地方で成功した貴族ストロガノフ家の家伝の一品であったとされるが、考案者と生まれた時代については諸説存在する[4]。
有名なものとしては、アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・ストロガノフ(1733年 - 1811年)の時代に生まれた説が挙げられる[5]。年老いたアレクサンドル・セルゲーエヴィチは歯の多くが抜け落ち、好物のビーフステーキが食べられなくなってしまった。彼のために食べやすい大きさに切った牛肉を柔らかく煮込み、かつ牛肉の風味を生かした料理が考案されたという[5]。
20世紀のロシアの料理研究家ヴィリヤム・ポフリョプキンはこの料理について、アレクサンドル・グリゴリエヴィチ・ストロガノフ(1795年 - 1891年)の時代に生まれたと主張した[5]。ポフリョプキンは、アレクサンドル・グリゴリエヴィチがオデッサに住んでいた時代に開催していた『開かれた食事会』[6]のために、コックが作ったものであると述べた。考案当初のこの料理に名前は無かったが、アレクサンドル・グリゴリエヴィチの没後、料理を気に入ったオデッサの人間は彼を偲んで料理に「ストロガノフ」の名を付けたという[7]。今日ビーフストロガノフの起源について言及される際、このポフリョプキンの説が歴史的に正しいものとされることがしばしばある[8][9][10]。
また、食事と料理が好きな当主が深夜、小腹が空いて起きたものの家人や使用人は全員眠っていたため有り合わせの材料で料理を作ってみたら旨かった事から出来た料理だとも言われている。
さらに別の説では、ストロガノフ家のコックが、誤ってソースを焦がしたことがきっかけで誕生したとも言われる[11]。
考案された時代については、16世紀末にはすでにロシアで食べられており、コサックの首領イェルマークの食卓にものぼっていたという俗説が存在する[12]。
20世紀初頭にロシアの料理本にビーフストロガノフのレシピが載せられ、ソ連時代に一般に普及した[5]。
現在の日本ではロシア料理店の定番メニューになっているほか、食品会社から手頃な値段で固形ルウが売られ、お馴染みの家庭料理になってもいる。
作り方
牛肉の細切りとタマネギ、マッシュルームなどのキノコをバターで炒め、若干のスープで煮込む。仕上げとしてスメタナ(サワークリーム)をたっぷりいれる(その酸味により肉のしつこさが消え、食べやすくなる。煮込むと酸味が飛ぶのであくまで最後に使う)。バターライスや白飯、パスタ、揚げたジャガイモと共に食される場合が多い。ストロガノフ家で提供されていたオリジナルのビーフストロガノフは、煮込みの前に肉をワインを加えた湯で蒸し、マッシュルームとケッパーを加えたものだったという[9]。
ウクライナ風では色は白く、ビーフシチューというよりむしろクリームシチューに味も色も近い。
日本においてはサフランライスを使ったり、トマトやドミグラスソースを使うこともある。また、日本ではサワークリームが食材として一般的ではないため、生クリームを使用する製法も見られる[13]。
脚註
- ^ 21世紀研究会編『食の世界地図』文藝春秋・P202
- ^ ビーフ・ストロガノフの蛇行Stack-Style ほんやくメモ(2007/9/21)
- ^ ロシア料理渋谷ロゴスキーレシピ2
- ^ 沼野充、沼野恭『ロシア』、p90
- ^ a b c d 沼野充、沼野恭『ロシア』、p91
- ^ 身なりを整えたものであれば、誰でも自由に食卓に着くことができた食事会。(沼野充、沼野恭『ロシア』、p91)
- ^ 沼野充、沼野恭『ロシア』、p92
- ^ 沼野充、沼野恭『ロシア』、pp91-92
- ^ a b 小町『ロシアおいしい味めぐり』、p113
- ^ 大富豪、ストロガノフ家! 怖くない、怖くない、インターナショナルクッキング 朝日新聞 2007年10月12日閲覧
- ^ 荒木『ロシア料理・レシピとしきたり』、p52
- ^ 沼野充、沼野恭『ロシア』、p179
- ^ ビーフストロガノフ Yahoo レシピ
参考文献
- 荒木瑩子『ロシア料理・レシピとしきたり』(ユーラシア・ブックレットNo.8, 東洋書店, 2000年11月)
- 小町文雄『ロシアおいしい味めぐり』(勉誠出版, 2004年6月)
- 沼野充義、沼野恭子『ロシア』(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)