防潮堤
防潮堤(ぼうちょうてい)とは、台風などによる大波や高潮、津波の被害を防ぐ堤防のこと。より正確には、高潮による災害を防止するため設置された堤体、壁体、水門等の構造物、及び護岸、取付道路等の附属物をいう。高潮堤(こうちょうてい)とも呼ばれる。
平均、干潮面から4.6-8.0mの高さで整備されている。
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[編集] 概要
防潮堤は常に自然の破壊的な力にさらされているため、長期的な防護を提供するには不断の保守(および時には置換)を必要とする。今日使われている防潮堤の多くの種類は、それが耐える必要のある様々な物理的力と海岸の地形・波の形・保護対象の土地の価値などといったその場所固有の条件を反映している。
広範囲に渡る「硬い」海岸防護策であり、土砂流出を防ぐという意味もあるが、コストが高いため、土砂流出対策としては最近では養浜などの「柔らかい」海岸保護策の採用も増えている。
英語では “seawall” または “sea wall” と呼ぶが、イギリスではこの用語は干拓や堤防の土塁も意味する。
防潮堤は鉄筋コンクリート、巨礫、鋼、蛇篭といった様々な材料で建設される。主材料以外にもビニール、木材、アルミニウム、ファイバーグラス複合材、植物性の繊維で作られた生物分解性の砂袋(土嚢)などが使われる。
北海道浜中町では、総延長17km・高さ3mに及ぶ防潮堤があり、街を全て囲い、三方向海に囲まれた街を津波から防御している。
なお、東海地震による津波被害が懸念されている静岡県では、富士市の富士川河口から沼津市西部まで総延長10km・高さ17mに及ぶ防潮堤が存在する[1][2]。
[編集] 設計の原則と種類
防潮堤の種類は波のエネルギーとの関係で分類でき、海岸地形(断崖や砂浜など)のように様々なものがある。垂直壁型防潮堤は特に無防備な状況で建設される。これは、嵐のような定常波(重複波)が強い状況の波のエネルギーにも対応できる。場合によっては波のエネルギーを若干なりとも低減させるためにパイルを壁の前に置くことがある。
湾曲型または階段型の防潮堤は、波を砕いてそのエネルギーを発散させるもので、波を海に対してはねつけるよう設計されている。壁の前面を湾曲させることで波が壁を越えて内陸に入ることを防ぐので、壁の上部を湾曲させてオーバーハング状態にすることでさらに防護を追加することもできる。
緩傾斜式の構造は、それほど波のエネルギーが強くない場合に用いられる。特に地盤用シートや砂袋を積んで作る防潮堤は最もコストがかからない。そのような防潮堤は海岸の浸食を防ぐことを目的としている。傾斜を完全にコンクリートや防水シートで覆って防水性を持たせる場合もあるが、波エネルギーは発散させて水だけを浸透させるよう多孔性にする場合もある。
[編集] 防潮堤の種類
- 緩傾斜式防潮堤(かんけいしゃしきぼうちょうてい)
- ゆるい勾配で土を盛り、その表面をコンクリートで被覆したもの。
- 棚式防潮堤(たなしきぼうちょうてい)
- 基礎として鋼管杭を打設し、海側に鋼矢板を打設した上部にコンクリート壁を設けたもの。
- 自立矢板式防潮堤(じりつやいたしきぼうちょうてい)
- 陸上部分は胸壁(きょうへき)と呼ばれる。鋼矢板を打設した上部にコンクリート製の壁を設けたもの。[3]
[編集] 歴史
[編集] スマトラ島沖地震(2004年)
2004年12月26日、スマトラ島沖地震で発生した津波によってインドの南東部の海岸で数千名が死亡したが、かつてフランスの植民地だったポンディシェリは難を逃れた。300年弱の植民地時代の間にフランス人技師らが巨大な石積みの防潮堤を作って維持したため、通常の満潮時の水位より24フィート(7.3メートル)の高さの津波からも旧市街地が守られた。
この防潮堤が完成したのは1735年のことである。その後もフランス人らは防潮堤を強化し続け、港に打ち寄せる波による侵食を防ぐために1.25マイル (2km) 沖合いの海岸線に沿ったところに巨礫を積み上げた。最も高いところでは、海抜約27フィート(8.2メートル)ある。積み上げた巨礫は1トンの重さのものもある。防潮堤は毎年検査されていた。すき間が生じたり、石が砂に沈んだりすると、政府はさらに巨礫を追加して強度を維持していた。
インドネシア沖合いで(マグニチュード9.0以上の)巨大海底地震が起き、それによって生じた津波がインドの海岸を襲ったとき、ポンディシェリでは600人が死亡したが、そのほとんどは防潮堤の外側に住む漁師だった。
[編集] 東北地方太平洋沖地震
2011年3月11日の東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震の津波は、日本各地に被害をもたらした。
岩手県宮古市の田老地区(旧田老町)には、津波対策として、世界最大規模の総延長2433m、海抜10mに及ぶ巨大防潮堤が存在しており[4][5]、「万里の長城」とも呼ばれていたが[6]、東北地方太平洋沖地震の津波はそれを破壊し、町は壊滅状態になった。この防潮堤は1960年チリ地震の津波に対しては犠牲者を出すことなく機能しており、犠牲者の中には少なからず、防潮堤に対する過信のために逃げ遅れた者もいたと言われている[7]。
岩手県釜石市には、1200億円をかけた世界最大規模の釜石港湾口防波堤が湾口の海中に設置され[6][8]、海岸に設置された高さ4.0mの防潮堤と併せて市街地を守る構造となっていたが[9][10]、東北地方太平洋沖地震の津波を防ぐことはできず、防波堤を破壊した波が、防潮堤を乗り越えて釜石の市街地を押し流した[6][10]。この際には湾口の防波堤が津波の高さを元の4割に相当する8.0mまで抑え、破壊されつつも6分間だけ市街地への浸水を遅らせたとされ[9]、もし海中の防波堤と海岸の防潮堤がそれぞれあと5m高ければこの被害を食い止めることができたと計算されているが、そこまでの規模のものは実現困難とされる[10]。
一方で岩手県下閉伊郡普代村や同県九戸郡洋野町においては、東北地方太平洋沖地震においても高さ15.5mの普代水門や太田名部防潮堤(以上普代村)や高さ12mの防潮堤(洋野町)が決壊せずに津波を大幅に減衰させ、集落への人的・物的被害を最小限に抑えることができた[11][12][13]。普代村では2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)において被災した民家は無く、死者はゼロである[14]。
[編集] 数値解析
サレルノ大学海洋工学科 (MEDUS)[15] は、CADソフトとCFDソフトを統合することで、防潮堤と波の相互作用を詳細に研究する新たな手法を開発した。
その数値シミュレーションでは、防潮堤に通常存在するすき間の中で流体が流れ込む動きを計算するのに伝統的な多孔質体の方程式を使うのではなく、RNG乱流モデルと組合わせたRANS方程式で近似している。
防潮堤は実物大または実験室での実験用の大きさでモデル化され、3次元メッシュの各点で計算を行うことで流体が防潮堤に対してどのように振る舞うかをシミュレートする(AccropodeTM, Core-locTM, Xbloc®)。
[編集] ギャラリー
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米国テキサス州ガルベストンで建設中の防潮堤(1905年)
[編集] 脚注・出典
- ^ 地震による津波富士市防災情報ポータル
- ^ 日本一の堤防(防潮堤写真あり)富士市議会議員 荻田たけひとのブログ
- ^ 高潮から街を守る施設 東京都港湾局
- ^ 三陸海岸・田老町における「津波防災の町宣言」と大防潮堤の略史 (PDF)(静岡大学)
- ^ 宮古市田老地区(旧田老町)防潮堤 ~万里の長城~(国土交通省東北地方整備局釜石港湾事務所)
- ^ a b c 金子靖志 (2011年3月20日). “ジャンボ機250機分の波、世界一の防波堤破壊”. 読売新聞 2011年4月15日閲覧。
- ^ “日本一の防潮堤を過信 岩手・宮古市田老地区「逃げなくても大丈夫」”. msn産経ニュース (産業経済新聞社). (2011年3月27日) 2011年4月25日閲覧。
- ^ “世界最深・釜石の防波堤、津波浸水6分遅らせる”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年4月2日) 2011年4月18日閲覧。
- ^ a b “釜石港における津波による被災過程を検証”. 港湾空港技術研究所 (2011年4月1日). 2011年4月18日閲覧。
- ^ a b c “浸水想定の津波対策に 震災、防災の転換点に”. 中国新聞 (中国新聞社). (2011年4月8日) 2011年4月18日閲覧。
- ^ 明治の教訓、15m堤防・水門が村守る 読売新聞 2011年4月3日 2011年4月24日閲覧
- ^ 岩手県普代村は浸水被害ゼロ、水門が効果を発揮 日本経済新聞 2011年4月1日 2011年4月24日閲覧
- ^ 『津波で5割超の防潮堤損壊 岩手県が効果検証へ』共同通信 2011年4月12日 2011年4月24日閲覧
- ^ 普代守った巨大水門 被害を最小限に 岩手日報2011年4月24日閲覧
- ^ Maritime Engineering Division University of Salerno
[編集] 参考文献
- De Centre d'études maritimes et fluviales. (2007). Rock Manual. The use of rock in hydraulic engineering. Ciria. ISBN 0860176835.
- N.W.H. Allsop. (2002). Breakwaters, coastal structures and coastlines.Thomas Telford. ISBN 0727730428.
- M. N. Bell, P. C. Barber and D. G. E. Smith. The Wallasey Embankment. Proc. Instn Civ. Engrs 1975 (58) pp. 569--590.