『チャイナタウン』(原題: Chinatown)はロマン・ポランスキーが監督した1974年のアメリカ映画。
概要 [編集]
- 1930年代後半のカリフォルニア州ロサンゼルスを舞台に、私立探偵が偶然にも関わってしまった殺人事件を通じ、誰にも変えられない運命の綾に踊らされる姿を描いた重厚なフィルム・ノワールである。
- タイトルの「チャイナタウン」は、主人公がかつて警官だった時代にパトロールした下町である。場末に押し込められた中国系住民の中にも人間の表と裏の相克があり、その場にいる人間は警官であれ探偵であれただ見ているしかなく、その無力さゆえに虚無観に晒される様子を象徴している。
- 物語の舞台設定や1930年代を忠実に再現した美術が秀逸であり、キャストも個性派を並べた一流揃いであった。全編に渡ってフィルム・ノワール的な虚無感と退廃感を漂わせながら、往年のフィルム・ノワールにはなかった社会史的視点をも盛り込んだことで、1970年代に相応しい現代性を持ち得たミステリー映画の傑作として、高く評価されている。批評家やファンによる様々な人気投票では、常に上位にランクインする。
- 劇中の随所に見られる生々しい暴力描写と、悲劇的結末、そして「アンチヒーロー」なキャラクター設定から、当時すでに勢いを失いつつあったアメリカンニューシネマの匂いのする作品になったが、完成度の高さゆえ、年月を経てもその評価は揺らぐことがない。
- ロバート・タウンにとっても代表作というべき脚本であり、彼は本作によって、アカデミー脚本賞と1975年のエドガー賞(映画脚本賞)を受賞している。
- 1991年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録された。
ストーリー [編集]
ロサンゼルスの私立探偵ジェイク・ギテスは「モーレイ夫人」と名乗る女性に依頼され、市の水道局幹部であるホリス・モーレイの身辺調査をすることになった。
尾行の結果、ジェイクはホリスが若いブロンドの女性と逢っている様子を写真に撮影する。だがホリスのスキャンダルはすぐに新聞にすっぱ抜かれ、更にホリス自身も何者かに殺害されてしまった。しかも最初にモーレイ夫人を名乗って調査依頼してきた女は別人と判明する。
ジェイクは独自に事件の真相に迫ろうとするが、そこで見たのはロサンゼルスの水道利権を巡る巨大な陰謀と、ホリスの妻エヴリン、そして彼女の父である影の有力者ノア・クロスを中心とした人々の、愛憎半ばする異常な過去だった。
キャスト [編集]
- 監督であるロマン・ポランスキーが映画中にカメオ出演している。ジェイクの鼻をナイフで切りつけて脅しを入れる小柄なギャングが彼である(元々ポランスキーは祖国ポーランドで俳優兼業で映画界入りしていた)。
受賞・ノミネート [編集]
受賞 [編集]
ノミネート [編集]
エピソード [編集]
- ロサンゼルス政界の黒幕ノア・クロスを演じたジョン・ヒューストンは、「マルタの鷹」などの古典的フィルム・ノワールの傑作を監督したハリウッドの巨匠として知られるが、その傍ら個性派のバイプレイヤーとして映画出演もこなしていた。彼の娘で女優であるアンジェリカ・ヒューストンは当時ジャック・ニコルソンの恋人であり、その縁もあって本作への出演が実現した。フィルム・ノワールの名監督が「チャイナタウン」というフィルム・ノワールの悪役として出演していることに、キャスティングの妙味がある。さらに劇中でヒューストンがニコルソンに向かって「娘と寝たのか?」と訊くセリフがあるが、これが意味深だということで、話題になった。
- 金も権力も手に入れたずる賢い老人ノア・クロスを実にふてぶてしく演じたヒューストンは、主役のニコルソンにも劣らぬ異様な存在感を漂わせた。本作は彼の俳優としての代表作となり、強欲で冷酷な男ノア・クロスはハリウッド映画史上屈指の悪役キャラクターに数えられている。
- プロデューサーのロバート・エヴァンズは、パラマウントの社長として「ゴッドファーザー」をはじめ数々のヒット作を世に送り出し、カリスマプロデューサーと呼ばれた。退社して独立プロダクションを興し、第一作に本作を選んだ。
- ジャック・ニコルソンは、原案・脚本を担当したロバート・タウンと親しく、タウンのために製作を後押しした。エヴリン役に誰をキャスティングしたらいいか悩んでいたプロデューサーのロバート・エヴァンズには、「何をしでかすかわからない雰囲気がある」とフェイ・ダナウェイを推した。
- ロマン・ポランスキーはロバート・エヴァンズから演出を頼まれたが、気乗りせず、返答を保留していた。ポランスキーが撮影を終えたばかりの「欲望の館」を試写で見たエヴァンズは、この映画の興行収入と同額のギャラを支払うと持ちかけ、契約にこぎつける。「欲望の館」の出来がひどかったので、一計を案じたのだ。後日、公開された映画は、大コケし、ポランスキーを大いに悔しがらせた。撮影中は、ポランスキーの意固地で横暴な性格が次々にトラブルを巻き起こし、エヴァンズの頭を悩まし続けた逸話は、今も語り草になっている。
- 脚本の執筆中、物語の結末を巡って、監督ロマン・ポランスキーと、脚本家ロバート・タウンは激しく対立した。ポランスキーは悲劇的な結末を主張するが、タウンはハッピーエンドにしたいと言って譲らない。物語のラストでエヴリン役のフェイ・ダナウェイが死ななかったら、凡庸な映画になってしまうと、ポランスキーがあくまで主張を曲げなかったため、最終的にタウンは渋々従った。脚本があまりに難解だと業界で話題になり、ロバート・エヴァンズは何人もの親しいプロデューサーから製作を思いとどまるよう勧められたという。
- ジェリー・ゴールドスミスの作曲したテーマ曲には驚異的なエピソードが伴っていた。既に別の作曲家フィリップ・ランブロによって作曲・録音済みだったテーマ曲が検討の結果、プロデューサーのロバート・エヴァンズの命令で急に外されることになり、ピンチヒッターの依頼を受けたゴールドスミスは、作曲から編曲、録音までを、わずか10日ほどでこなしてのけたのである。ランブロによる元の楽曲は予告編で聴くことが出来る。
- 本作に対して「(当時は通常であった黒人差別を批判されたくないため)黒人が殆ど登場しない」という批判が一部にある。
続編 [編集]
本作品の脚本家であるロバート・タウンは、当初私立探偵ジェイク・ギテスを主人公にした「影のロサンゼルス近代史」とも言うべき三部作の構想を持っており、『チャイナタウン』はその第一作目に相当するという。1990年に続編である『黄昏のチャイナタウン』(原題:The Two Jakes)がジャック・ニコルソン主演&監督で公開されたが、作品的にも興行的にも成功したとはいえず、そのためか現在に至るまで第三作目は製作されずじまいである。
外部リンク [編集]
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