チャイナタウン (映画)

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チャイナタウン
Chinatown
当時の新聞広告
監督 ロマン・ポランスキー
脚本 ロバート・タウン
製作 ロバート・エヴァンス
出演者 ジャック・ニコルソン
フェイ・ダナウェイ
ジョン・ヒューストン
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
撮影 ジョン・A・アロンゾ
編集 サム・オスティーン
配給 アメリカ合衆国の旗 パラマウント映画
日本の旗 CIC
公開 アメリカ合衆国の旗 1974年6月20日
日本の旗 1975年4月12日
上映時間 131分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $6,000,000
興行収入 $30,000,000(全世界)(2000年1月)
次作 黄昏のチャイナタウン
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チャイナタウン』(原題: Chinatown)はロマン・ポランスキーが監督した1974年アメリカ映画

概要[編集]

1930年代後半のカリフォルニア州ロサンゼルスを舞台に、私立探偵が偶然にも関わってしまった殺人事件を通じ、誰にも変えられない運命の綾に踊らされる姿を描いたフィルム・ノワールである。

1930年代当時のカリフォルニア州ではロサンゼルス上水路に絡む水利権や供給問題により水不足が深刻化しており、後にカリフォルニア水戦争と呼ばれる社会問題が発生していた(カリフォルニア州の政治を参照)。本作では、水源開発スキャンダル「オーエンズバレーレイプ事件(The Rape of Owens Valley)」をプロットに取り入れることで、ファッションや文化の入念な時代考証と併せて、単なる懐古趣味に留まらないリアリティのあるドラマを構築している。

原案・脚本を手がけたロバート・タウンにとっても代表作というべき作品であり、彼は本作によって、アカデミー脚本賞と1975年のエドガー賞(映画脚本賞)を受賞している。1991年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録された。

タイトルの「チャイナタウン」は、主人公がかつて警官だった時代にパトロールした下町であり、作中でも短いシークエンスながら登場して、印象的なシーンの背景となっている。

ストーリー[編集]

ロサンゼルスの私立探偵ジェイク・ギテスは「モーレイ夫人」と名乗る女性に依頼され、市の水道局幹部であるホリス・モーレイの身辺調査をすることになった。

尾行の結果、ジェイクはホリスが若いブロンドの女性と逢っている様子を写真に撮影する。だがホリスのスキャンダルはすぐに新聞にすっぱ抜かれ、更にホリス自身も何者かに殺害されてしまった。しかも最初にモーレイ夫人を名乗って調査依頼してきた女は別人と判明する。

ジェイクは独自に事件の真相に迫ろうとするが、そこで見たのはロサンゼルスの水道利権を巡る巨大な陰謀と、ホリスの妻エヴリン、そして彼女の父である影の有力者ノア・クロスを中心とした人々の、愛憎半ばする異常な過去だった。

キャスト[編集]

役名 俳優 日本語吹替
テレビ東京
ジェイク・ギテス ジャック・ニコルソン 瑳川哲朗
エヴリン・モーレイ フェイ・ダナウェイ 小沢寿美恵
ノア・クロス ジョン・ヒューストン 上田敏也
カーリー バート・ヤング 峰恵研
エスコバー警部 ペリー・ロペス英語版 玄田哲章
イェルバートン ジョン・ヒラーマン英語版   藤本譲
ホリス・モーレイ ダレル・ツワーリング英語版 石井敏郎
アイダ・セッションズ ダイアン・ラッド 鳳芳野
ローチ リチャード・バカリアン英語版 池田勝
ナイフ男 ロマン・ポランスキー 西村知道
不明
その他
西川幾雄
村越伊知郎
笹岡繁蔵
屋良有作
塚田恵美子
演出
翻訳 飯嶋永昭
効果
調整
制作 東北新社
解説 山城新伍
初回放送 1981年12月31日
木曜洋画劇場

※日本語吹替は2時間半の拡大枠で放映されておりDVD未収録

受賞・ノミネート[編集]

受賞[編集]

ノミネート[編集]

エピソード[編集]

  • ロサンゼルス政界の黒幕ノア・クロスを演じたジョン・ヒューストンは、「マルタの鷹」などの古典的フィルム・ノワールの傑作を監督したハリウッドの巨匠として知られるが、その傍ら個性派のバイプレイヤーとして映画出演もこなしていた。彼の娘で女優であるアンジェリカ・ヒューストンは当時ジャック・ニコルソンの恋人であり、その縁もあって本作への出演が実現した。フィルム・ノワールの名監督が「チャイナタウン」というフィルム・ノワールの悪役として出演していることに、キャスティングの妙味がある。さらに劇中でヒューストンがニコルソンに向かって「娘と寝たのか?」と訊くセリフがあるが、これが意味深だということで、話題になった。
  • 金も権力も手に入れたずる賢い老人ノア・クロスを実にふてぶてしく演じたヒューストンは、主役のニコルソンにも劣らぬ異様な存在感を漂わせた。本作は彼の俳優としての代表作となり、強欲で冷酷な男ノア・クロスはハリウッド映画史上屈指の悪役キャラクターに数えられている。
  • プロデューサーのロバート・エヴァンスは、パラマウントの社長として「ゴッドファーザー」をはじめ数々のヒット作を世に送り出し、カリスマプロデューサーと呼ばれた。退社して独立プロダクションを興し、第一作に本作を選んだ。
  • ジャック・ニコルソンは、原案・脚本を担当したロバート・タウンと親しく、タウンのために製作を後押しした。エヴリン役に誰をキャスティングしたらいいか悩んでいたプロデューサーのロバート・エヴァンスには、「何をしでかすかわからない雰囲気がある」とフェイ・ダナウェイを推した。
  • ロマン・ポランスキーはロバート・エヴァンスから演出を頼まれたが、気乗りせず、返答を保留していた。ポランスキーが撮影を終えたばかりの「欲望の館」を試写で見たエヴァンスは、この映画の興行収入と同額のギャラを支払うと持ちかけ、契約にこぎつける。「欲望の館」の出来がひどかったので、一計を案じたのだ。後日、公開された映画は、大コケし、ポランスキーを大いに悔しがらせた。撮影中は、ポランスキーの意固地で横暴な性格が次々にトラブルを巻き起こし、エヴァンスの頭を悩ませ続けた逸話は、今も語り草になっている。
  • 脚本の執筆中、物語の結末を巡って、監督ロマン・ポランスキーと、脚本家ロバート・タウンは激しく対立した。ポランスキーは悲劇的な結末を主張するが、タウンはハッピーエンドにしたいと言って譲らない。物語のラストでエヴリン役のフェイ・ダナウェイが死ななかったら、凡庸な映画になってしまうと、ポランスキーがあくまで主張を曲げなかったため、最終的にタウンは渋々従った。脚本があまりに難解だと業界で話題になり、エヴァンスは何人もの親しいプロデューサーから製作を思いとどまるよう勧められたという。
  • 本作の音楽をジェリー・ゴールドスミスが作曲した経緯には驚異的なエピソードが伴っていた。既に別の作曲家フィリップ・ランブロによって作曲・録音済みだった音楽をつけての試写に際し、ポランスキー監督と親しかったハリウッド映画音楽業界のベテラン作曲家ブロニスラウ・ケイパーが立ち会ったが、ケイパーは映画を評価したものの音楽が良くないとの意見を示したという。これを受けたロバート・エヴァンスはランブロによるスコアを外し、映画公開まで僅か2週間というタイミングで、急遽ピンチヒッターとしてゴールドスミスに音楽の作曲を依頼した。これに応じたゴールドスミスは、新たな作曲・編曲、トランペッターのユアン・レイシーのソロをフィーチャーした重厚なストリングス演奏を録音までわずか10日ほどで仕上げ、公開に間に合わせた。その結果本作は1974年のアカデミー作曲賞にノミネートされている(ゴールドスミスがアカデミー作曲賞を受賞するのは1976年の「オーメン」である)。ランブロによる元の楽曲は予告編で聴くことが出来る。
  • 本作に対して「(当時は通常であった黒人差別を批判されたくないため)黒人が殆ど登場しない」という批判が一部にある。
  • 脚本家のシド・フィールドは自身の著書にして脚本家のためのテキスト『映画を書くためにあなたがしなければならないこと』(原題: Screenplay–The Foundations of Screenwriting)において、優れた脚本の例として度々本作を挙げ絶賛している。
  • 貯水池で、ジェイクはナイフを持ったチンピラに脅され、鼻を切られるが、この男は監督のポランスキー自身が演じており、「ナイフを持った男」としてクレジットされている。

続編[編集]

本作品の脚本家であるロバート・タウンは、当初私立探偵ジェイク・ギテスを主人公にした「影のロサンゼルス近代史」とも言うべき三部作の構想を持っており、『チャイナタウン』はその第一作目に相当するという。1990年に続編である『黄昏のチャイナタウン』(原題:The Two Jakes)がジャック・ニコルソン主演&監督で公開されたが、興行的に成功したとはいえず、そのためか現在に至るまで第三作目は製作されずじまいである。

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

外部リンク[編集]