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「熱水噴出孔」の版間の差分

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[[File:Blacksmoker_in_Atlantic_Ocean.jpg|thumb|熱水噴出孔の一種、[[ブラックスモーカー]]。]]
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[[File:Black smoker hydrothermal vent.ogg|thumb|熱水噴出孔の音]]
[[File:Black smoker hydrothermal vent.ogg|thumb|熱水噴出孔の音]]
'''熱水噴出孔'''(ねっすいふんしゅつこう、{{Lang-en|hydrothermal vent}})は[[地熱]]で熱せられた[[水]]が噴出する割れ目である。数百度[[熱水]]は、[[重金属]][[硫化水素]]を豊富に含む。熱水噴出孔よく見られる場所は、[[火山]]活動が活発ところ[[プレートテクトニクス#発散型界|発散的プレート境界]][[盆]][[ホッスポット (地学)|ホットスポット]]である。
'''熱水噴出孔'''(ねっすいふんしゅつこう、{{Lang-en|hydrothermal vent}})は[[地熱]]で熱せられた[[水]]が噴出する大地の亀裂である。広義の熱水噴出孔としては[[温泉]][[噴気孔]][[間欠泉]]が含まれる狭義にはこれらの[[陸上]]にあるものでは海底環境、特に深の熱水噴出孔(深海熱水噴出孔)のことを指す。熱水噴出孔の英語表記やその構造物から'''ベン'''(vent)や'''チムニー'''(chinmey)と呼ばれることもある。


熱水噴出孔の大半は、[[火山]]活動が活発なところ([[プレートテクトニクス#発散型境界|発散的プレート境界]]、[[海盆]]、[[ホットスポット (地学)|ホットスポット]])から発見されている<ref name="Colín-García 2016">{{Cite journal|last=Colín-García|first=María|date=2016|title=Hydrothermal vents and prebiotic chemistry: a review|journal=Boletín de la Sociedad Geológica Mexicana|volume=68|issue=3|pages=599-620|DOI=10.18268/BSGM2016v68n3a13}}</ref>。吹き出す[[熱水]]は数百度にも達する事があり、溶存成分として[[重金属]]や[[硫化水素]]を豊富に含むものも知られている。[[海底]]から噴出する[[熱水]]に含まれる[[金属]]などが[[析出]]・[[沈殿]]して'''チムニー'''と呼ばれる構造物ができる場合がある。熱水の溶存成分によってはチムニーから黒色や白色の煙が吹き出しているように見えるため、一部の熱水噴出孔は「ブラックスモーカー」や「ホワイトスモーカー」と呼称される場合もある。また、熱水噴出孔の作用によって形成された岩石および鉱石堆積物を熱水堆積物と呼ぶ。
熱水噴出孔は[[地球]]上ではふんだんにみられるが、その理由は[[地質学]]的活動が活発であることと、表面に水が大量にあることである。[[陸上]]にある熱水噴出孔には[[温泉]]・[[噴気孔]]・[[間欠泉]]があるが、これらについては各項目を参照するとして、ここではおもに深海熱水噴出孔について述べる。


[[深海]]によく見られる熱水噴出孔周辺は生物活動が活発であり、噴出する液体中に[[溶解]]した各種[[化学物質]]を目当てにした複雑な[[生態系]]が成立している。[[有機物]]合成をする[[細菌]]や[[古細菌]]が[[食物連鎖]]の最底辺を支え、そのほかに化学合成細菌と共生したり環境中の化学合成細菌の[[バイオフィルム]]などを摂食する[[チューブワーム|ジャイアントチューブワーム]]・[[二枚貝]]・[[エビ]]などみられる。
深海の大部分と比べて、熱水噴出孔周辺は生物活動が活発であり、噴出する熱水中に[[溶解]]した各種[[化学物質]]に依存した複雑な[[生態系]]が成立している。[[有機物]]合成を行う[[細菌]]や[[古細菌]]が[[食物連鎖]]の最底辺を支える他[[化学合成細菌]]と共生したり環境中の化学合成細菌の[[バイオフィルム]]などを摂食する[[チューブワーム|ジャイアントチューブワーム]]・[[二枚貝]]・[[エビ]]などの大型生物もみられる。


地球外では[[木星]]の[[衛星]][[エウロパ (衛星)|エウロパ]]も熱水噴出孔の活動が活発であるとみられているほか過去には[[火星]]面にも存在したと考えられている<ref>http://www.space.com/missionlaunches/missions/mars_society_conference_010515-1.html</ref>。
地球外では[[木星]]の[[衛星]][[エウロパ (衛星)|エウロパ]]や[[土星]]の月[[エンケラドゥス (衛星)|エンケラドス]]においても熱水活動が活発であり、熱水噴出孔が存在するとみられている<ref name="NYT-20170413">{{Cite news|last=Chang|first=Kenneth|title=Conditions for Life Detected on Saturn Moon Enceladus|url=https://www.nytimes.com/2017/04/13/science/saturn-cassini-moon-enceladus.html|date=13 April 2017|newspaper=[[New York Times]]|accessdate=14 April 2017}}</ref><ref>{{Cite news|url=http://www.nasa.gov/press/2015/march/spacecraft-data-suggest-saturn-moons-ocean-may-harbor-hydrothermal-activity/index.html|title=Spacecraft Data Suggest Saturn Moon's Ocean May Harbor Hydrothermal Activity|newspaper=NASA|date=11 March 2015|accessdate=12 March 2015}}</ref>。また古代には[[火星]]面にも存在したと考えられている<ref name="Colín-García 2016"/><ref>http://www.space.com/missionlaunches/missions/mars_society_conference_010515-1.html</ref>。


== 物理的特性 ==
== 熱水噴出孔の海中探査 ==
[[ファイル:Phase-diag2.svg|左|サムネイル|この[[相図]]では、緑の点線は[[融点]]を、青の線は[[沸点]]を示し、水の状態が圧力によってどのように変化するかを示している。緑の実線は、一般的な物質の典型的な融点の挙動を示している。]]
[[1949年]]に[[紅海]]中部の海底を調査したところ特異な熱水床の存在が報告された。[[1960年代]]になると60 [[セルシウス度|°C]]の塩類を含む水とこれに関係する[[金属]]を含む[[泥]]の存在が確認された。熱い[[水溶液]]は活発な海底下の[[海溝#リフト|リフト]]から噴出していた。[[塩分濃度]]が高すぎて生物の生息は無理な環境であった<ref>Degens, Egon T. (ed.), 1969, ''Hot Brines and Recent Heavy Metal Deposits in the Red Sea,'' 600 pp, Springer-Verlag</ref>。この塩水と泥が[[貴金属]]や[[卑金属]]の供給源でありうるか現在調査中である。
[[ファイル:Bischoff_and_Rosenbauer,_1988_-_Liquid-vapor_relations.pdf||ページ=3|サムネイル|380〜415°Cの臨界領域における気液境界の実験結果]]深海熱水噴出孔は通常、[[東太平洋海嶺|東太平洋]][[大西洋中央海嶺|海嶺]]や[[大西洋中央海嶺|中部大西洋海嶺]]などの、2つの[[プレート|構造プレート]]が分岐し、[[マントルプリューム]]が上昇して新しい地殻が形成される場所で見られる<ref>{{cite journal | author=Weinstein, Stuart A., Olson, Peter L. | title=The proximity of hotspots to convergent and divergent plate boundaries | journal=Geophysical Research Letters | year=1989 | volume=16 | pages=433-436 | url=http://adsabs.harvard.edu/abs/1989GeoRL..16..433W }}</ref>。熱水噴出孔から出てくる水は、主に近辺の火山層中の断層や多孔質堆積物を通じて染み込み火山性の地熱構造で熱せられた[[海水]]と、湧昇する[[マグマ]]から放出されたマグマ水、の2種から構成される<ref name="Colín-García 2016"/>。一方で、[[噴気孔]]や[[間欠泉]]といった陸上の熱水システムにおいては、循環する水の大部分は地表から熱水システムに浸透した天水(雨水)と[[地下水]]であり、一部で[[変成作用|変成水]]やマグマに由来するマグマ水、堆積層中で塩類を溶解した[[塩水]]なども含まれる。その割合は、それぞれの場所によって異なる。


一般的に深海の海水温は約{{Convert|2|C|F}}程度であるのに対し、熱水噴出孔周囲の水温は{{Convert|60|C|F}}になり<ref>{{Cite book|last=Garcia, Elena Guijarro|last2=Ragnarsson, Stefán Akí|last3=Steingrimsson, Sigmar Arnar|last4=Nævestad, Dag|last5=Haraldsson, Haukur|last6=Fosså, Jan Helge|last7=Tendal, Ole Secher|last8=Eiríksson, Hrafnkell|year=2007|title=Bottom trawling and scallop dredging in the Arctic: Impacts of fishing on non-target species, vulnerable habitats and cultural heritage|publisher=Nordic Council of Ministers|page=278|isbn=978-92-893-1332-2}}</ref>、最高で{{Convert|464|C|F}} にも達する例が知られている<ref name="Haas2007">{{Cite journal|last=Haase|first=K. M.|year=2007|title=Young volcanism and related hydrothermal activity at 5°S on the slow-spreading southern Mid-Atlantic Ridge|journal=Geochemistry Geophysics Geosystems|volume=8|issue=11|pages=Q11002|bibcode=2007GGG.....811002H|DOI=10.1029/2006GC001509}}</ref><ref name="Karst2009">{{Cite journal|last=Haase|first=K. M.|year=2009|title=Fluid compositions and mineralogy of precipitates from Mid Atlantic Ridge hydrothermal vents at 4°48'S|journal=Pangaea|DOI=10.1594/PANGAEA.727454}}</ref>。これは、深海ではその水深のため[[流体静力学|静水圧]]が高く、高温であっても水は気体にならずに液体の形で存在しているためである。例えば、218気圧の環境であれば、純水の[[臨界点]]は{{Convert|375|C|F}} である。さらに、純粋ではなく塩分を含む水の場合、高温と高圧の臨界点はさらに上昇する。海水(重量比で3.2%のNaClを含む)の臨界点は、298.5大気圧下で{{Convert|407|C|F}}であり<ref name="bischoff1988">{{Cite journal|last=Bischoff|first=James L|last2=Rosenbauer|first2=Robert J|year=1988|title=Liquid-vapor relations in the critical region of the system NaCl-H2O from 380 to 415°C: A refined determination of the critical point and two-phase boundary of seawater|url=https://zenodo.org/record/1253886|journal=Geochimica et Cosmochimica Acta|volume=52|issue=8|pages=2121-2126|bibcode=1988GeCoA..52.2121B|DOI=10.1016/0016-7037(88)90192-5}}</ref><ref>{{cite web | author = A. Koschinsky, C. Devey |date= 2006-05-22 | url = http://www.iu-bremen.de/news/iubnews/09634/ | title = Deep-Sea Heat Record: Scientists Observe Highest Temperature Ever Registered at the Sea Floor | publisher = International University Bremen | language = English| accessdate = 2006-07-06 }}</ref>、これは深さ{{Convert|2960|m|ft}}の水圧環境下に対応する。したがって、この塩分濃度と深さの場合、熱水の温度が{{Convert|407|C|F}}を超えると超臨界となる。さらに、地殻の相分離のために、熱水噴出孔から吹き出す流体中の塩分は、時おり大きく変動することが知られている<ref name="VonDamm1991">{{Cite journal|last=Von Damm|first=K L|year=1990|title=Seafloor Hydrothermal Activity: Black Smoker Chemistry and Chimneys|url=https://zenodo.org/record/1234953|journal=Annual Review of Earth and Planetary Sciences|volume=18|issue=1|pages=173-204|bibcode=1990AREPS..18..173V|DOI=10.1146/annurev.ea.18.050190.001133}}</ref>。同一の圧力条件下において、塩分濃度の低い液体の臨界点温度は、海水よりも低く、純水よりもも高くなる。たとえば、280.5大気圧下での2.24%のNaCl溶液の臨界点温度は{{Convert|400|C|F}}である。したがって、熱水噴出孔の最も高温の部分から出てくる水は、[[気体|気体の]]物性と[[液体|液体の]]物性の間の物理的性質を持つ、いわゆる[[超臨界流体]]である可能性がある<ref name="Haas20072">{{Cite journal|last=Haase|first=K. M.|year=2007|title=Young volcanism and related hydrothermal activity at 5°S on the slow-spreading southern Mid-Atlantic Ridge|journal=Geochemistry Geophysics Geosystems|volume=8|issue=11|pages=Q11002|bibcode=2007GGG.....811002H|DOI=10.1029/2006GC001509}}</ref><ref name="Karst20092">{{Cite journal|last=Haase|first=K. M.|year=2009|title=Fluid compositions and mineralogy of precipitates from Mid Atlantic Ridge hydrothermal vents at 4°48'S|journal=Pangaea|DOI=10.1594/PANGAEA.727454}}</ref>。実際にいくつかの噴出孔において、超臨界状態が観察されている。しかしながら、熱水循環、鉱物堆積物形成、地球化学フラックス、そして生物活性の点で、この超臨界がどのような意味を持っているのかは、まだよく判明していない。
海中の熱水噴出孔の一種である[[ブラックスモーカー]]は[[東太平洋海嶺]]の支脈にあたる[[ガラパゴス]]リフトのある海域で、海水温を調査中の海洋地質学者のグループが[[1976年]]に発見した。計測温度とその他の証拠から、地質学者はこの発見は熱水噴出孔からの噴出水であると結論付けるに十分な情報を得た。[[1977年]]、リフトに戻った地質学者は[[ウッズホール海洋研究所]]の潜水艇[[アルビン号]]を使って数々の熱水噴出孔を目視確認した。同年、Peter Lonsdaleは熱水噴出孔に関する初の論文を発表した。


== チムニーの成長と熱水の例 ==
[[2005年]]にはある鉱物資源調査会社が、[[ケルマディック諸島|ケルマディック島弧]]で3万5,000km<sup>2</sup>の調査を許可され、熱水噴出孔により形成された[[鉛]]・[[亜鉛]]・[[銅]]の[[硫化物]]の新しい鉱床たりうる海底硫黄鉱床を探査した。[[2007年]][[4月]]には中米[[コスタリカ]]沖合の[[太平洋]]における新しい熱水噴出孔海域([[ギリシア神話]]の怪物 [[メドゥーサ]] にちなんで命名された)の発見が発表された<ref>{{cite news | first= | last= | coauthors= | title=New undersea vent suggests snake-headed mythology | date=April 18 2007 | publisher= | url =http://www.eurekalert.org/pub_releases/2007-04/du-nuv041707.php | work =EurekaAert | pages = | accessdate = 2007-04-18 | language = }}</ref>。
熱水噴出孔によってはチムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。超高温の熱水に溶解している鉱物が0°Cに近い海水と接触すると、接触面で化学反応が進み生成物が析出・沈殿して、このようなチムニーができる。チムニー形成の初期段階は、鉱物の[[硬石膏|無水石膏]]の堆積から始まる。次に、[[銅]]や[[鉄]]、[[亜鉛]]などの[[硫化鉱物|硫化]]物が海水の境界面で析出してチムニーの隙間に沈殿し、時間の経過とともにチムニーの[[ポロシティ|多孔性]]が低下する。今までの研究から、一日あたり{{Convert|30|cm|ft|0}}程度も成長したチムニーが記録されている<ref name="black_smoker">{{cite web|last=Tivey|first=Margaret K.|date=1998-12-01|url=http://www.whoi.edu/oceanus/viewArticle.do?id=2400|title=How to Build a Black Smoker Chimney: The Formation of Mineral Deposits At Mid-Ocean Ridges|publisher=Woods Hole Oceanographic Institution.|language=English|accessdate=2006-07-07}}</ref>。チムニーの例としては、[[オレゴン州]]の沖合にある高さ40mで折れてしまった、通称『ゴジラ』と呼ばれるものが知られる。チムニーのなかには高さ60mに達するものもある<ref>{{cite journal|author=Sid Perkins|year=2001|title=New type of hydrothermal vent looms large|url=http://www.sciencenews.org/articles/20010714/fob3.asp|journal=Science News|volume=160|issue=2|pages=21}}</ref>。2007年4月の[[フィジー]]沿岸沖の深海ベントの調査では、これらのベントが溶存鉄の重要な供給源であることが判明した<ref>{{Cite journal|last=Petkewich|first=Rachel|date=September 2008|title=Tracking ocean iron|journal=Chemical & Engineering News|volume=86|issue=35|pages=62-63|DOI=10.1021/cen-v086n035.p062}}</ref>。
[[ファイル:BlackSmoker.jpg|代替文=|サムネイル|ブラックスモーカーは、1979年に北緯21度の東太平洋海上で最初に発見された。]]
チムニー構造で黒色の熱水を噴出するものは、黒い煙を放出する煙突のように見えるため、'''ブラックスモーカー'''と呼ばれる。ブラックスモーカーは通常、[[海底]][[漸深層|帯]](水深2,500-3,000 m)でよく見られるが、より浅層や深層でも発見されている<ref name="Colín-García 2016" />。ブラックスモーカーは通常、地殻から熱水に溶け混んだ高レベルの硫黄含有ミネラルや硫化物を含む粒子を放出しており、水は400℃以上の高温に達することもある。地球の地殻の下から過熱された水が海底を通過する際に幅数百メートルに広がり、近辺で複数のブラックスモーカーが形成される<ref name="Colín-García 2016" />。冷たい海の水と接触すると、多くのミネラルが沈殿し、各通気孔の周りに黒い煙突のような構造を形成する。この堆積した金属硫化物は、ゆくゆくは塊状の硫化鉱床になる可能性がある。[[大西洋中央海嶺]]の[[アゾレス諸島]]の一部のブラックスモーカーは、24,000μMの[[鉄|鉄を]]含む熱水を放出する[[レインボーベントフィールド]]など、[[金属]]含有量が非常に豊富なことが知られている<ref>{{Cite journal|last=Douville|first=E|last2=Charlou|first2=J.L|last3=Oelkers|first3=E.H|last4=Bienvenu|first4=P|last5=Jove Colon|first5=C.F|last6=Donval|first6=J.P|last7=Fouquet|first7=Y|last8=Prieur|first8=D|last9=Appriou|first9=P|date=March 2002|title=The rainbow vent fluids (36°14′N, MAR): the influence of ultramafic rocks and phase separation on trace metal content in Mid-Atlantic Ridge hydrothermal fluids|journal=Chemical Geology|volume=184|issue=1-2|pages=37-48|bibcode=2002ChGeo.184...37D|DOI=10.1016/S0009-2541(01)00351-5}}</ref>。


ブラックスモーカーは、[[ RISEプロジェクト(海洋学)|RISEプロジェクト]]中に[[スクリップス海洋研究所]]の研究者によって、1979年に[[東太平洋海嶺]]から発見され、[[ウッズホール海洋研究所]]の深海潜水[[アルビン号|艇ALVIN]]を用いて観測された<ref name="Spiess et al 1980">{{Cite journal|last=Spiess|first=F. N.|last2=Macdonald|first2=K. C.|last3=Atwater|first3=T.|last4=Ballard|first4=R.|last5=Carranza|first5=A.|last6=Cordoba|first6=D.|last7=Cox|first7=C.|last8=Garcia|first8=V. M. D.|last9=Francheteau|first9=J.|date=28 March 1980|title=East Pacific Rise: Hot Springs and Geophysical Experiments|journal=Science|volume=207|issue=4438|pages=1421-1433|bibcode=1980Sci...207.1421S|DOI=10.1126/science.207.4438.1421|PMID=17779602}}</ref>。現在、ブラックスモーカーは[[大西洋]]と[[太平洋]]に、平均2,100mの深度で存在することが知られている。最も北に位置するブラックスモーカーは、[[グリーンランド]]と[[ノルウェー|ノルウェーの]]間の[[大西洋中央海嶺]]の[[北緯73度線|北緯73度]]の位置から、[[ベルゲン大学]]の研究者によって2008年に発見された、ロキの城([[:en:Loki's Castle|Loki's Castle]])フィールドの5本のチムニーからなるクラスターである<ref>{{Cite web|url=http://www.livescience.com/environment/080724-black-smokers.html|title=Boiling Hot Water Found in Frigid Arctic Sea|accessdate=2008-07-25|website=[[:en:LiveScience|LiveScience]]|date=24 July 2008}}</ref>。これらのブラックスモーカーは、地殻変動力が少ない安定した地殻領域にあり、熱水噴出孔のフィールドとしてはあまり一般的ではないため、興味がもたれている<ref>{{Cite web|url=https://www.sciencedaily.com/releases/2008/07/080724153941.htm|title=Scientists Break Record By Finding Northernmost Hydrothermal Vent Field|accessdate=2008-07-25|website=[[:en:Science Daily|Science Daily]]|date=24 July 2008}}</ref>。世界で最も有名なブラックスモーカーの一つは[[ケイマントラフ]]にあり、5,000 mの海面下に存在する<ref>{{Cite web|author=Cross|first=A.|url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8611771.stm|title=World's deepest undersea vents discovered in Caribbean|accessdate=2010-04-13|publisher=[[BBC News]]|date=12 April 2010}}</ref>。
[[2010年]][[4月6日]]、[[イギリス国立海洋学センター]]の研究チームが、[[カリブ海]][[ケイマン諸島]]沖合の[[ケイマン海溝]]で、世界で最も深い場所に位置する熱水噴出孔を発見した<ref name ="natio1">{{cite news |title=カリブの海底に世界最深の熱水噴出孔 |newspaper=[[ナショナルジオグラフィック協会|National Geographic News]] | date=2010-04-13 |url =http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2554/ |accessdate=2016-06-14}}</ref><ref name="natio2"/>。それまで確認されていた通常の熱水噴出孔の約2倍、最も深いとされたブラックスモーカーよりもさらに800m深い水深5,000mの海底にある<ref name ="natio1"/>。海洋探検家[[ウィリアム・ビービ]]([[:en:William Beebe]])にちなんで「ビービ(ビーブ噴出孔フィールド<ref name="afpbb"/>)」と名付けられたこの熱水噴出孔は、鉄と銅の鉱石で形成されたチムニーを持つブラックスモーカーのひとつである<ref name ="natio1"/><ref name="natio2">{{cite news |title=噴き出す黒煙、世界最深の熱水噴出孔 |newspaper=National Geographic News | date=2012-01-10 |url =http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5472/ |accessdate=2016-06-14}}</ref>。水温は摂氏400度と推定され、周辺では目を持たず代わりに背中に光受容体を持つ新種の[[エビ|エビ類]]や白い触手を持つ新種の[[イソギンチャク|イソギンチャク類]]など発見が相次いでいる<ref name="afpbb">{{cite news |title=カリブ海の世界最深の噴出孔で新種続々発見、目のないエビなど |newspaper=[[AFPBB News]] | date=2012-01-12 |url =http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2850113/8279391?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics |accessdate=2012-01-12}}</ref>。


一方で、'''ホワイトスモーカー'''と呼ばれるチムニーからは、[[バリウム]]、[[カルシウム]]、[[ケイ素|シリコン]]などの明るい色のミネラルが放出される。これらのベントは、おそらく熱源から一般に離れているため、プルームが低温になる傾向がある<ref name="Colín-García 2016"/>。
== 物理的特徴 ==
深海熱水噴出孔がよくみられるのは[[中央海嶺]]沿いである。ここは2つの[[プレート]]の境界域で[[マントルプリューム]]が上昇するところである<ref>{{cite journal | author=Weinstein, Stuart A., Olson, Peter L. | title=The proximity of hotspots to convergent and divergent plate boundaries | journal=Geophysical Research Letters | year=1989 | volume=16 | pages=433-436 | url=http://adsabs.harvard.edu/abs/1989GeoRL..16..433W }}</ref>。


ブラックとホワイトのチムニーは、同じ熱水フィールドで共存する可能性があり、それぞれ一般的に、熱源に対して近位か遠位かで分かれる。また、マグマ熱源がマグマの結晶化により熱源から次第に遠ざかり、次第に熱水がマグマ水ではなく海水に支配されるようになること、すなわち熱水域の衰退段階に対応する形で、ホワイトスモーカーが成立することもある。このタイプのベントから吹き出す熱水はカルシウムが豊富で、主に硫酸塩( [[重晶石]]と無水石膏)や炭酸塩に富む堆積物を形成する<ref name="Colín-García 2016"/>。
海底の熱水噴出孔から噴出する水は、[[断層]]や透水性の堆積層からしみ込んで火山性の地熱構造で熱せられた[[海水]]が多いが、[[マグマ]]の上昇に伴って放出されたマグマ水も一部含む。


一方で、[[沖縄トラフ]]の[[鳩間海丘]]からは有人潜水調査船[[しんかい6500]]による探査により、新たに'''ブルースモーカー'''が発見された。この色の解明は、今後の調査を待つ段階である<ref>{{Cite web|title=0123|url=http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20070123/|website=www.jamstec.go.jp|accessdate=2020-08-29}}</ref>。
陸上では噴気孔や間欠泉に回る水の多くが[[降水]]と[[地下水]]であり、これらは地表から地熱を受ける深さまでしみ込んだものであるが、一部には変成水、堆積層中で塩類を溶解した水、マグマから放出されたマグマ水を含む。


== 熱水噴出孔周辺の生態系 ==
熱水噴出孔から噴出する水温は400°Cにも達するが、熱水噴出孔がある深海の水温は2°Cくらいである。深海の高い水圧によりこの高温でも水は液体のままで沸騰しない。水深3,000mで407°Cの水は[[超臨界状態]]である<ref>{{cite web | author = A. Koschinsky, C. Devey |date= 2006-05-22 | url = http://www.iu-bremen.de/news/iubnews/09634/ | title = Deep-Sea Heat Record: Scientists Observe Highest Temperature Ever Registered at the Sea Floor | publisher = International University Bremen | language = English| accessdate = 2006-07-06 }}</ref> 。塩濃度が上昇すると、[[臨界点]]は高くなる。
かつては、[[太陽]]エネルギーこそがあらゆる生命エネルギーの源であると考えられてきた。しかしながら深海生物は、太陽光の恩恵を受けることができない深海環境に生息している。以前の[[底生生物]]研究においては、熱水噴出孔周辺の生物のエネルギー獲得は深海生物と同様に[[マリンスノー]]に依存していると考えられてきた。すなわち、マリンスノーの大本である表層海域の[[植物プランクトン]]に依存した、つまり大枠としては太陽に依存した生態系の一部とみなされていた。一部の熱水噴出孔周辺の生物は、たしかにこの太陽からのエネルギー源を消費することが知られている。しかしながら、もし仮にすべてが太陽依存のシステムに存在している状況であれば、熱水噴出孔周辺の生物はもっと疎(低密度)になるはずである。しかしながら実際には、周囲の海底と比較して熱水噴出帯の生物密度は、10,000〜100,000倍ほどもあることが知られている。


そのため熱水噴出孔周辺の生態系は主要なエネルギー源を、[[太陽エネルギー]]ではなく熱水噴出孔(すなわち熱水)に依存していると考えられる。熱水噴出孔からの水は溶解したミネラルが豊富であり、それらを利用する化学独立栄養細菌が繁茂し、大規模な集団を形成する。そして、それらの化学合成細菌に依存するベント周辺の生物が生息することで、熱水ベント周辺では膨大な量の生命を維持することができると考えられる。これらのバクテリアは、硫黄化合物、特に[[硫化水素]]といった、ほとんどの生物種にとって有毒な化学物質を利用して、[[化学合成 (生命科学)|化学合成]]により有機物を生産する。これらのコミュニティは「太陽と独立して存在する」としばしば形容されるが、しかしながら一部の生物は実際には光合成生物によって生成される酸素に依存する、いわゆる好気性生物である。
熱水噴出孔によってはチムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。超高温の熱水に溶解している鉱物が0°Cに近い海水と接触すると、接触面で化学反応が進み生成物が析出・沈殿してこのようなチムニーができる。そのようなチムニーの例としては、[[オレゴン州]]の沖合にある高さ40mで折れてしまった通称『ゴジラ』がよく知られる。なかには高さ60mに達するものもある<ref>{{cite journal | author=Sid Perkins | title=New type of hydrothermal vent looms large | journal=Science News | year=2001 | volume=160 | issue=2 | pages=21 | url=http://www.sciencenews.org/articles/20010714/fob3.asp }}</ref> 。
[[ファイル:Dense_mass_of_anomuran_crab_Kiwa_around_deep-sea_hydrothermal_vent.jpg|左|サムネイル|東スコシアプレートの海嶺にあるチムニー周辺の密集した生態系(写真は''[[:en:Kiwaidae|Kiwa]]'' anomuransと''[[ Vulcanolepas osheai|Vulcanolepas]]の仲間の付着性''フジツボ)。]]
[[ファイル:Riftia_tube_worm_colony_Galapagos_2011.jpg|左|サムネイル|[[ガラパゴス・ホットスポット|ガラパゴスリフト]]のベント周辺に生息する[[チューブワーム]](''Riftia pachyptila'')。]]

=== 微生物生態系 ===
熱水噴出孔が見られるような深度は、通常の海域であれば、一般的には生物活動は非常に希薄である。しかしながらチムニー周辺は、独自の[[生態系]]が形成される。日光は存在しないため、多くの生物、特に[[古細菌]]や[[極限環境微生物|極限環境菌]]などによって駆動される[[化学合成 (生命科学)|化学合成]]プロセスを通じて、チムニーから提供される熱、[[メタン]]、[[硫黄]]化合物などがエネルギーに変換される。そのため、熱水噴出孔周辺の[[生物]]社会は、[[基礎生産|一次生産者]]である[[バクテリア]]と[[古細菌]]に大きく依存していると言える。熱水噴出孔から噴出する水は豊かな[[鉱物]]資源を溶解しており、[[有機物]]合成をするバクテリアの大量増殖を可能にしている。これらのバクテリアは、各種硫化物から有機物を合成するものが多く知られている。また、熱水噴出孔の海底地殻内に生息する好熱性の微生物も、熱水に巻き込まれて大量に噴出している。多くはバクテリアだが、温度の上昇に伴い[[サーモコッカス]](''Thermococcus)''や[[メタノカルドコッカス]](''Methanocaldcoccus)といった''[[古細菌]]の割合が増加する。

[[メキシコ]]沿岸沖の、日光が全く届かない深さ{{Convert|2500|m|ft}}に位置するブラックスモーカー周辺で、光合成細菌の種が発見されている。[[緑色硫黄細菌]]に属するChlorobiaceaeファミリーの一部であるこれらの細菌は、太陽光ではなくチムニーからのかすかな[[赤外光]]を利用して、[[光合成]]を駆動している。これは、太陽光以外の光のみを利用して光合成を行う、自然界で発見された最初の生物である<ref>{{Cite journal|last=Beatty|first=J.T.|year=2005|title=An obligately photosynthetic bacterial anaerobe from a deep-sea hydrothermal vent|journal=[[Proceedings of the National Academy of Sciences]]|volume=102|issue=26|pages=9306-10|bibcode=2005PNAS..102.9306B|DOI=10.1073/pnas.0503674102|PMID=15967984|PMC=1166624}}</ref>。

=== 大型生物 ===
[[File:Nur04512.jpg|thumb|[[ブラックスモーカー]]の周りに棲息する[[チューブワーム]]。]]バクテリアは増殖して厚いマット状に広がり、これを餌にする[[端脚類]]や[[カイアシ類]]などが集まってくる。そして[[巻貝]]・[[エビ]]・[[カニ]]・[[チューブワーム]]・[[魚類]]・[[タコ]]などより大きな生物とともに[[食物連鎖]]を形成する。このようにしてできる[[生態系]]は熱水噴出孔を[[エネルギー]]の供給源として存続し、[[太陽]]エネルギーに依存する地表の生態系とは異なる体系をつくる。ただし、この生物社会は太陽とは無関係に存在するといわれることが多いが、そのなかには[[光合成]]により生じた[[酸素]]に依存するものも混じっている。それ以外のものは太古と変わらぬ[[嫌気性生物]]である。

熱水噴出孔の動物と密接な関係にある微生物社会を嫌気性・金属耐性の観点から計数観察した結果、対象とした熱水噴出孔周辺の[[動物相]]を支えるバクテリア社会の大部分に金属耐性があり、嫌気的に[[金属]]を[[還元]]すること、[[嫌気呼吸|嫌気性金属呼吸]]([[テルル]]酸呼吸)が熱水噴出孔の動物相と共生するバクテリアにおいて重要なプロセスであるらしいこと、などが報告されている[http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=17933915]。

例えば{{Convert|2|m|ft}}以上に成長することもある[[シボグリヌム科|Siboglinidチューブワーム]]のように、チューブワームは熱水噴出孔周りの生物社会ではしばしば重要な位置を占めることが知られている。チューブワームは寄生生物のように、養分を直接体組織に吸収する。チューブワームには口も[[消化管]]もなく、バクテリアを体内に寄生させる。チューブワームの体組織1gあたり1000万<!--(原文)1オンスあたり2.85億-->のバクテリアが寄生しているという。チューブワームは先端の赤い冠毛状の部分で[[硫化水素]]・[[酸素]]・[[二酸化炭素]]などを取り込み、特殊な[[ヘモグロビン]]と結合させて、ワームと共生するバクテリア(硫黄酸化微生物)に供給する。その代償に、このバクテリアは有機化合物を合成してワームに供給する。熱水噴出孔に生息するチューブワームの種としては''Tevnia jerichonana''と''Riftia pachyptila''が知られている。

また[[アメリカ領サモア]]のナファヌア(Nafanua)[[海底火山]]近くでは、[[ウナギ]](''[[:en:Dysommina rugosa|Dysommina rugosa]]'')ばかりが固まって生息する、通称「うなぎ街(Eel City)」が発見されている<ref>[http://www.astrobio.net/news/article1577.html Astrobiology Magazine: Extremes of Eel City] Retrieved 30 August 2007</ref>。ウナギが珍しいわけではないが、熱水噴出孔周辺に生息する生物の主は上述のとおり[[無脊椎動物]]である。

1993年には、すでに100種以上の腹足類が熱水噴出孔で発生することが知られていた<ref name="Sysoev 1995">{{Cite journal|last=Sysoev|first=A. V.|last2=Kantor|first2=Yu. I.|year=1995|title=Two new species of ''Phymorhynchus'' (Gastropoda, Conoidea, Conidae) from the hydrothermal vents|url=http://www.ruthenica.com/documents/Vol5_Sysoev_Kantor_17-26_abstract.pdf|journal=[[:en:Ruthenica|Ruthenica]]|volume=5|pages=17-26}}</ref>。現在までに300種以上の新しい種が熱水噴出孔で発見されており、それらの多くは地理的に離れた噴出域で発見された他のものに「姉妹種」である<ref>{{cite web|last=Botos|first=Sonia|title=Life on a hydrothermal vent|url=http://www.botos.com/marine/vents01.html#body_4|accessdate=2008-05-14}}</ref>。[[北アメリカプレート|北米プレート]]が[[海嶺|中央海嶺を]]乗り越える前の東太平洋海域に、単一の生物地理学的なベント領域の存在を提唱する説が挙げられている<ref>{{Cite web|author=Van Dover|first=C. L.|title=Hot Topics: Biogeography of deep-sea hydrothermal vent faunas|accessdate=2020-09-17|url=http://www.divediscover.whoi.edu/hottopics/biogeo.html|publisher=[[ウッズホール海洋研究所|Woods Hole Oceanographic Institution]]}}</ref>。その説に基づくと、そのベント領域以降への移動には障壁があるため、さまざまな場所での種の進化的分岐が引き起こされたと考えられる。別個の熱水噴出孔で見られる収束的進化の例は、自然選択理論と進化理論を全体的にサポートする主要な実例であるとみなすことができる。

この生態系に息づく動物相特有の珍しい例としては、[[鉄]]と有機物の[[うろこ]]で装甲した鱗状足の[[腹足類]]であるスケーリーフット([[ウロコフネタマガイ]]、''Chrysomallon squamiferum'')がある。スケーリーフットは、2001年に[[インド洋]]の[[カイレイ熱水噴出孔フィールド]]への遠征中に発見された。一般的な巻き貝のように真皮[[硬化剤|強膜]](硬化した体の部分)の構造に[[炭酸カルシウム]]を利用するのではなく、代わりに[[硫化鉄]]([[黄鉄鉱]]と[[グレイジャイト]])を利用することが特徴である。深度2500mの極度の圧力(約25[[パスカル (単位)|メガパスカル]]、すなわち250大気圧)によって、この生物学的目的で利用される硫化鉄は安定化されていると考えられている。この硫化鉄の装甲板は、恐らく同じ生態系に生息する[[捕食|捕食性]]巻き貝が持つ有毒な[[歯舌|歯根]] (歯)に対する防御として機能していると考えられている。

また、80°Cの水温でも生息できるポンペイワーム(''Alvinella Pompeiana)''が1980年代に発見された。

=== 動物と細菌の共生 ===
熱水噴出孔周辺の生態系は、巨大なバイオマスと生産性を持っているが、これはベントという特殊な環境で進化した[[共生]]関係に依るところが大きい。深海の熱水噴出生態系は、無脊椎動物の宿主と化学独立栄養微生物の間で構築される共生環境が重要であり、浅水や陸域の熱水噴出孔環境とは大きく異なっている<ref>Van Dover 2000{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。上述のとおり、太陽光は深海熱水噴出孔に到達しないため、深海熱水噴出孔内の生物は太陽からエネルギーを得て光合成を行うことができない。そのため、熱水噴出孔で見つかった微生物は化学合成からエネルギーを獲得している。このプロセスは、太陽からの光エネルギーとは対照的に、硫化物などの化学物質からのエネルギーを使用して炭素を固定するものである。言い換えれば、共生生物は無機分子(H<sub>2</sub>S、CO<sub>2</sub>、O)を有機分子に変換し、ホストはそれを栄養として使用する。しかしながら、硫化物は地球上のほとんどの生命にとって非常に有毒な物質である。このため、1977年に熱水噴出孔が生命で溢れているのが最初に発見されたとき、大きな驚きを持って科学界に受け止められた。その場所では、動物の[[えら|鰓]]に生息する化学独立栄養生物の共生(内部共生)が発見され、そのことが多細胞生物が熱水由来の毒性に耐えることができる理由であると考えられた。今日、微生物共生生物が硫化物解毒に寄与し宿主が有毒な環境下での生存を可能にしているのかに関して、研究が進められている。[[微生物叢|マイクロバイオーム]]機能に関する研究からは、宿主関連のマイクロバイオームは宿主の発生、栄養、捕食者に対する防御、および解毒において、重要であることを示している。一方でその見返りに、宿主は炭素、硫化物、酸素などの化学合成に必要な化学物質を共生生物に提供している、いわゆる相利共生の関係が構築されている、と考えられている{{要出典|date=August 2019}}。

熱水噴出孔の生態系に関する研究の初期には、これらの環境で多細胞生物が栄養素を獲得するメカニズムと、その極端な環境条件下でどのようにして生き残ることができているのかに関して、さまざまな理論が提唱された。熱水噴出孔での化学独立栄養細菌が二枚貝の食餌に寄与するという仮定が出されたのは、1977年になってからである<ref>{{Cite journal|last=Lonsdale|first=Peter|year=1977|title=Clustering of suspension-feeding macrobenthos near abyssal hydrothermal vents at oceanic spreading centers|journal=Deep Sea Research|volume=24|issue=9|pages=857-863|bibcode=1977DSR....24..857L|DOI=10.1016/0146-6291(77)90478-7}}</ref>。そして1981年に、巨大チューブワームは化学独立栄養細菌の内部共生によって栄養の獲得していることが明らかになった<ref>Cavanaug eta al 1981{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref><ref>Felback 1981{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref><ref>Rau 1981{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。そしてさらなる研究から、このような化学独立栄養生物と大型動物相の無脊椎動物種の間の共生関係は、他の様々な生物においても構築されていることが判明してきた。たとえば1983年には、ハマグリの鰓組織に細菌の内部共生体が含まれていることが確認された<ref>Cavanaugh 1983{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。1984年には、bathymodiolidムール貝とvesicomyid科のアサリも、内部共生生物を持つことが判明した<ref>{{Cite journal|last=Fiala-Médioni|first=A.|year=1984|title=Ultrastructural evidence of abundance of intracellular symbiotic bacteria in the gill of bivalve molluscs of deep hydrothermal vents|journal=Comptes rendus de l'Académie des Sciences|volume=298|issue=17|pages=487-492}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Le Pennec|first=M.|last2=Hily|first2=A.|year=1984|title=Anatomie, structure et ultrastructure de la branchie d'un Mytilidae des sites hydrothermaux du Pacifique oriental|journal=Oceanologica Acta|volume=7|issue=4|pages=517-523|language=French}}</ref>。

ただし、代謝関係と同様に、生物が共生生物を獲得するメカニズムは異なる。たとえばチューブワームには口も腸もないが、栄養に対処を取り込む栄養膜(トロフォソーム、[[:en::Trophosome|trophosome]])が存在し、そこで内部共生生物が見つかる。そして、O、H <sub>2</sub> S、およびCO <sub>2</sub>などの化合物を取り込んでトロフォソームの内部共生生物に栄養を与えるように、チューブワームの先端にある赤い「飾り羽」が利用されている。驚くべきことに、チューブワームのヘモグロビン(飾り羽が明るい赤色になる原因である)は、通常は酸素と硫化物は非常に反応性であるにもかかわらず、硫化物による干渉や阻害なしに酸素を運ぶことができる。この理由は2005年に判明し、チューブワームのヘモグロビン内の硫化水素に結合する亜鉛イオンのために、硫化物が酸素と反応することが阻害されることが原因であることが明らかになった。またこのことは、チューブワームの体組織が硫化物にさらされる機会を減らし、効率的に細菌に硫化物を与えて化学独立栄養を誘導することに繋がっている<ref>{{Cite journal|last=Flores|first=J. F.|last2=Fisher|first2=C. R.|last3=Carney|first3=S. L.|last4=Green|first4=B. N.|last5=Freytag|first5=J. K.|last6=Schaeffer|first6=S. W.|last7=Royer|first7=W. E.|year=2005|title=Sulfide binding is mediated by zinc ions discovered in the crystal structure of a hydrothermal vent tubeworm hemoglobin|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=102|issue=8|pages=2713-2718|bibcode=2005PNAS..102.2713F|DOI=10.1073/pnas.0407455102|PMID=15710902|PMC=549462}}</ref>。また、チューブワームは2つの異なる方法でCO <sub>2</sub>を代謝でき、環境条件の変化に応じて必要に応じて2つを交互に切り替えることができることも明らかになった<ref>{{Cite journal|last=Thiel|first=Vera|last2=Hügler|first2=Michael|last3=Blümel|first3=Martina|last4=Baumann|first4=Heike I.|last5=Gärtner|first5=Andrea|last6=Schmaljohann|first6=Rolf|last7=Strauss|first7=Harald|last8=Garbe-Schönberg|first8=Dieter|last9=Petersen|first9=Sven|year=2012|title=Widespread Occurrence of Two Carbon Fixation Pathways in Tubeworm Endosymbionts: Lessons from Hydrothermal Vent Associated Tubeworms from the Mediterranean Sea|journal=Frontiers in Microbiology|volume=3|pages=423|DOI=10.3389/fmicb.2012.00423|PMID=23248622|PMC=3522073}}</ref>。

1988年に、大型のベント軟体動物である''Alvinochonca hessleriから、''[[チオトロフィック]](硫化物酸化)細菌が確認された<ref>Stein et al 1988{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。硫化物の毒性を回避するために、貝はまずそれを[[チオ硫酸塩]]に変換してから、共生生物に送る<ref>Biology of the Deep Sea, Peter Herring{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。ペクチノイドホタテ貝(pectinid scallops)などの熱水噴出孔フィールドの端に住んでいる生物も、鰓に共生生物を生息させているが、細菌の密度は噴出口の近くに住んでいる生物に比べて低い。そして、ホタテガイ自身の内部共生微生物への依存性も低下する{{要出典|date=August 2019}}。

一方で、すべての宿主動物が内部共生体を持っているわけではなく、宿主の内部ではなく表面に住む、いわゆる外部共生菌を持つ場合もある。[[中部大西洋海嶺]]の通気孔で見つかったエビは、かつてベントで共生細菌をもたない例外的な大型無脊椎動物とみなされていたが、1988年に彼らが外部共生菌を持つことが判明した<ref>Van Dover et al 1988{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>。それ以来、ベントで生息する他の生物、たとえば''Lepetodrilis fucensis''<ref>Desbruyeres et al 1985{{Full citation needed|date=August 2019}}</ref>も外部共生細菌をもつことが判明している<ref>{{Cite journal|last=de Burgh|first=M. E.|last2=Singla|first2=C. L.|date=December 1984|title=Bacterial colonization and endocytosis on the gill of a new limpet species from a hydrothermal vent|journal=Marine Biology|volume=84|issue=1|pages=1-6|DOI=10.1007/BF00394520}}</ref>。

さらに、一部の共生生物は硫黄化合物を消費するが、他の[[メタノトロフ]]として知られている生物は炭素化合物、すなわち[[メタン]]を消費している。Bathmodiolid musselsは、メタノトロフ内部共生体を持つ宿主の例である。ただし、このような生物は熱水噴出孔よりも、主にコールドシープで見つかることが多い{{要出典|date=August 2019}}。

深海環境下でも、このようにして化学合成が行われることで、生物は太陽光なしの環境で生きることができる。しかしながら、海水中の酸素は光合成の副産物であるため、間接的には太陽に依存した生態であるとみなす事もできる。もし仮に太陽が突然消え、光合成が地球上で発生しなくなった場合、深海の熱水噴出孔での生命は海中の酸素がなくなるまで数千年は続く可能性がある{{要出典|date=August 2019}}。

=== 生命の起源 ===
熱水噴出孔で[[無機物]]や[[有機物]]から[[生命の起源|生命が誕生した]]という仮説も複数存在する。日本の[[海洋研究開発機構]]と[[理化学研究所]]は、熱水噴出孔の周囲で微弱な[[電流]]を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性があるとの研究結果を2017年5月に発表した<ref>{{Cite news|url=https://mainichi.jp/articles/20170507/k00/00m/040/113000c|title=熱水噴出孔 周囲で電流確認 有機物に影響、生命誕生か|work=|publisher=[[毎日新聞]]朝刊|date=2017年5月7日}}</ref>。しかし、この仮説に対しては「熱水の組成には必須元素の[[マグネシウム]]が欠落している」という反論もある。

2017年3月、地球上でおそらく[[生命の起源|最も古い生命体]]の形跡を報告した。この古代微生物は、カナダの[[ケベック州]]の[[ヌブアギトゥク緑色岩帯|ヌブアギトゥクベルト]]にある熱水噴出孔の沈殿物中から発見され、42億8000万年前に生息していた可能性があり、すなわち44億年前に[[大洋|海]]が形成されてから間もなく、そして45億4000万年前に地球が形成されてから間もなく存在していた微生物である可能性がある<ref name="NAT-20170301">{{Cite journal|last=Dodd|first=Matthew S.|last2=Papineau|first2=Dominic|last3=Grenne|first3=Tor|last4=Slack|first4=John F.|last5=Rittner|first5=Martin|last6=Pirajno|first6=Franco|last7=O'Neil|first7=Jonathan|last8=Little|first8=Crispin T. S.|date=2 March 2017|title=Evidence for early life in Earth's oldest hydrothermal vent precipitates|url=http://eprints.whiterose.ac.uk/112179/1/ppnature21377_Dodd_for%20Symplectic.pdf|journal=Nature|volume=543|issue=7643|pages=60-64|bibcode=2017Natur.543...60D|DOI=10.1038/nature21377|PMID=28252057}}</ref><ref name="NYT-20170301">{{Cite news|last=Zimmer|first=Carl|authorlink=:en:Carl Zimmer|title=Scientists Say Canadian Bacteria Fossils May Be Earth's Oldest|url=https://www.nytimes.com/2017/03/01/science/earths-oldest-bacteria-fossils.html|date=1 March 2017|newspaper=[[New York Times]]|accessdate=2 March 2017}}</ref><ref name="BBC-20170301">{{Cite news|last=Ghosh|first=Pallab|title=Earliest evidence of life on Earth 'found'|url=https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-39117523|newspaper=[[BBC News]]|date=1 March 2017|accessdate=2 March 2017}}</ref>。

== 熱水噴出孔の海中探査 ==
[[ファイル:Classic_VMS_Deposit2.png|サムネイル|堆積記録に見られる典型的な[[火山成塊状硫化物鉱床|火山性塊状硫化物(VMS)鉱床]]の断面図<ref>{{Cite book|doi=10.1016/B978-0-08-095975-7.01120-7|chapter=Volcanogenic Massive Sulfide Deposits|title=Treatise on Geochemistry|pages=463-488|year=2014|last=Hannington|first=M.D.|isbn=978-0-08-098300-4}}</ref>]]
[[1949年]]に[[紅海]]中部の海底を調査したところ、特異的な熱水床の存在が報告された。[[1960年代]]には、60 [[セルシウス度|°C]]の塩類を含む水と、これに関係して[[金属]]を含む[[泥]]が存在することが確認され、そしてこの熱い[[水溶液]]は海底下の[[海溝#リフト|リフト]]から活発に噴出していることが判明した。[[塩分濃度]]が高すぎて生物の生息は無理な環境であった<ref>Degens, Egon T. (ed.), 1969, ''Hot Brines and Recent Heavy Metal Deposits in the Red Sea,'' 600 pp, Springer-Verlag</ref>。この塩水と泥が[[貴金属]]や[[卑金属]]の供給源でありうるか、現在調査中である。


最初に発見された熱水噴出孔は、[[東太平洋海嶺]]の支脈にあたる[[ガラパゴス]]リフトのある海域で、''Pleiades II遠征において ディープ・トウ海底イメージングシステム を用いて''海水温を調査中であった[[スクリップス海洋研究所]]の海洋地質学者のグループが[[1976年]]に発見した[[ブラックスモーカー]]である<ref>{{Cite book|title=Sea legs : tales of a woman oceanographer|last=Kathleen.|first=Crane|date=2003|publisher=Westview Press|isbn=9780813342856|location=Boulder, Colo.|oclc=51553643|url=https://archive.org/details/sealegstalesofwo00cran}}</ref>。計測温度とその他の証拠から、熱水噴出孔からの噴出水であると結論付けられ、[[1977年]]にPeter Lonsdaleは熱水噴出孔に関する初の論文を発表した<ref>{{Cite web|url=https://oceanservice.noaa.gov/facts/vents.html|title=What is a hydrothermal vent?|website=National Ocean Service|publisher=National Oceanic and Atmospheric Administration|accessdate=10 April 2018}}</ref>。Peter Lonsdaleがディープ・トウのカメラから撮った写真を公開し<ref>{{Cite journal|last=Lonsdale|first=P.|year=1977|title=Clustering of suspension-feeding macrobenthos near abyssal hydrothermal vents at oceanic spreading centers|journal=[[:en:Deep-Sea Research|Deep-Sea Research]]|volume=24|issue=9|pages=857-863|bibcode=1977DSR....24..857L|DOI=10.1016/0146-6291(77)90478-7}}</ref>、博士課程の学生の{{仮リンク|キャスリーンクレーン|en|Kathleen Crane}}が地図と温度異常データを公開した<ref>{{Cite journal|last=Crane|first=Kathleen|last2=Normark|first2=William R.|date=10 November 1977|title=Hydrothermal activity and crestal structure of the East Pacific Rise at 21°N|journal=Journal of Geophysical Research|volume=82|issue=33|pages=5336-5348|bibcode=1977JGR....82.5336C|DOI=10.1029/jb082i033p05336}}</ref>。サイトには「クラムベイク(Clam-bake)」というニックネームが付けられ、トランスポンダが設置された。翌年、[[ウッズホール海洋研究所]]の潜水艇[[アルビン号]]を使って再びサイトに赴き、数々の熱水噴出孔を目視確認した。
熱水チムニーの生成には、硫化鉱物と[[硬石膏]]の沈殿が伴う。これらの鉱物はチムニーと海水の境界面で析出して沈殿し、長い間には透水性が低下する。チムニーが一日30cmずつ成長したという記録もある<ref name="black_smoker">{{cite web | last = Tivey | first = Margaret K. |date= 1998-12-01 | url = http://www.whoi.edu/oceanus/viewArticle.do?id=2400 | title = How to Build a Black Smoker Chimney: The Formation of Mineral Deposits At Mid-Ocean Ridges | publisher = Woods Hole Oceanographic Institution. | language = English | accessdate = 2006-07-07 }}</ref>。


ガラパゴスリフトの海底熱水噴出孔を取り巻く化学合成生態系は、[[アメリカ国立科学財団]]から資金提供を受けた海洋地質学者のグループがクラムベイクのサイトに戻った1977年に、初めて直接観察された。潜水調査の主任研究者は[[オレゴン州立大学]]の [[ジャック・コーリス]]であった。[[スタンフォード大学]]のCorlissとTjeerd van Andelは、1977年2月17日に[[ウッズホール海洋研究所]] (WHOI)が運営する潜水船[[アルビン号|DSV ALVIN]]でダイビングしながら、ベントとその生態系を観察し、サンプリングした<ref name="divediscover.whoi.edu">{{Cite web|title=Dive and Discover: Expeditions to the Seafloor|url=http://www.divediscover.whoi.edu/ventcd/vent_discovery/thediscovery/timeline_p.html|website=www.divediscover.whoi.edu|accessdate=2016-01-04}}</ref>。調査クルーズの他の科学者には、WHOIの Richard (Dick) Von Herzenと Robert Ballard、オレゴン州立大学のJack Dymondと Louis Gordon、マサチューセッツ工科大学の John EdmondとTanya Atwater、[[アメリカ地質調査所|米国地質調査所]]のDave Williams、[[スクリップス海洋研究所|スクリプス海洋研究所]]のKathleen Craneがいた<ref name="divediscover.whoi.edu" /><ref>{{Cite news|url=https://www.npr.org/2011/12/05/142678239/the-deep-sea-find-that-changed-biology|title=The Deep-Sea Find That Changed Biology|last=Davis|first=Rebecca|date=December 5, 2011|newspaper=NPR.org|accessdate=2018-04-09|author2=Joyce|first2=Christopher|language=en}}</ref>。このチームは[[サイエンス|Science誌]]に、ベント、生物、ベント熱水の組成に関する観察結果を発表した<ref>{{Cite journal|last=Corliss|first=John B.|last2=Dymond|first2=Jack|last3=Gordon|first3=Louis I.|last4=Edmond|first4=John M.|last5=von Herzen|first5=Richard P.|last6=Ballard|first6=Robert D.|last7=Green|first7=Kenneth|last8=Williams|first8=David|last9=Bainbridge|first9=Arnold|date=16 March 1979|title=Submarine Thermal Springs on the Galápagos Rift|journal=Science|volume=203|issue=4385|pages=1073-1083|bibcode=1979Sci...203.1073C|DOI=10.1126/science.203.4385.1073|PMID=17776033}}</ref>。1979年、当時[[ウッズホール海洋研究所|WHOI]]にいたJ. Frederick Grassleが率いる生物学者のチームが同じ場所に戻り、2年前に発見された生物群集を調査した。
チムニー構造で黒色の熱水を噴出するものを特に「[[ブラックスモーカー]]」とよぶ。ブラックスモーカーが噴出するのは、黒色の硫化物の微細結晶を多量に含むためである。一方、「[[ホワイトスモーカー]]」が噴出するのは、無色に近い[[バリウム]]・[[カルシウム]]の硫酸塩鉱物や[[石英]]などを多量に含むためである。ホワイトスモーカーの熱水はブラックスモーカーの熱水より温度が低い傾向がある。また[[沖縄トラフ]]の鳩間海丘では有人潜水調査船[[しんかい6500]]による探査で「ブルースモーカー」が発見されたが、この色の解明は今後の調査を待つ段階である。


高温の熱水噴出孔である[[ブラックスモーカー]]は、1979年春に潜水艇ALVIN号を使用して、スクリップス海洋研究所のチームによって発見された。RISE探検隊は、ALVIN号を使用して海底の地球物理学的マッピングをテストし、ガラパゴスリフトベントのさらに先で別の熱水フィールドを見つけることを目的として、21°Nの東太平洋海膨を探索した。遠征はFred Spiessと Ken Macdonaldが主導し、米国、メキシコ、フランスからの参加者が含まれていた<ref name="Spiess et al 19802">{{Cite journal|last=Spiess|first=F. N.|last2=Macdonald|first2=K. C.|last3=Atwater|first3=T.|last4=Ballard|first4=R.|last5=Carranza|first5=A.|last6=Cordoba|first6=D.|last7=Cox|first7=C.|last8=Garcia|first8=V. M. D.|last9=Francheteau|first9=J.|date=28 March 1980|title=East Pacific Rise: Hot Springs and Geophysical Experiments|journal=Science|volume=207|issue=4438|pages=1421-1433|bibcode=1980Sci...207.1421S|DOI=10.1126/science.207.4438.1421|PMID=17779602}}</ref>。ダイビング地域は、1978年のフランスのCYAMEX遠征による硫化鉱物の海底マウンドの発見に基づいて選択された<ref>{{Cite journal|last=Francheteau|first=J|year=1979|title=Massive deep-sea sulphide ore deposits discovered on the East Pacific Rise|url=https://archimer.ifremer.fr/doc/1979/publication-5278.pdf|journal=Nature|volume=277|issue=5697|page=523|bibcode=1979Natur.277..523F|DOI=10.1038/277523a0}}</ref>。潜水作業の前に、遠征隊員のRobert Ballardは、深く牽引された計器パッケージを使用して、海底近くの水温異常を見つけた。最初のダイビングは、これらの異常の1つを対象としたものであった。イースターの日曜日の1979年4月15日、ALVIN号から2600メートルへのダイビング中に、Roger Larsonと Bruce Luyendyk は、ガラパゴスベントに似た生物群集の熱水ベントフィールドを発見した。4月21日のその後のダイビングで、William NormarkとThierry Juteauは、煙突から黒い鉱物粒子ジェットを放出する高温の[[ブラックスモーカー]]のベントを発見した[https://www.whoi.edu/feature/history-hydrothermal-vents/discovery/1979-2.html (WHOIウェブサイト)]。この後、温度プローブをALVINにリギングして、黒い喫煙者の通気口の水温を測定した。これにより、深海の熱水噴出孔で記録された最高温度(380±30 °C)<ref>{{Cite journal|last=Macdonald|first=K. C.|last2=Becker|first2=Keir|last3=Spiess|first3=F. N.|last4=Ballard|first4=R. D.|year=1980|title=Hydrothermal heat flux of the "black smoker" vents on the East Pacific Rise|url=|journal=Earth and Planetary Science Letters|volume=48|issue=1|pages=1-7|bibcode=1980E&PSL..48....1M|DOI=10.1016/0012-821X(80)90163-6}}</ref>。ブラックスモーカーとそれらに供給されたチムニーの分析から、熱水とチムニー構成物の一般的な鉱物は硫化鉄沈殿物であることを明らかにした<ref>{{Cite journal|last=Haymon|first=Rachel M.|last2=Kastner|first2=Miriam|date=1981|title=Hot spring deposits on the East Pacific Rise at 21°N: preliminary description of mineralogy and genesis|journal=Earth and Planetary Science Letters|volume=53|issue=3|pages=363-381|language=en|bibcode=1981E&PSL..53..363H|DOI=10.1016/0012-821X(81)90041-8}}</ref>。&nbsp;
== チムニー ==
'''チムニー'''は、[[海底]]から噴出する[[熱水]]に含まれる[[金属]]などが[[析出]]・[[沈殿]]してできる構造物。海底から柱状に突きだした構造物となり、柱の突端から金属や[[硫化水素]]等を多く含んだ黒い熱水をあたかも煙突のように噴出する様から名付けられた([[硫化物]]や金属成分の少ない白いチムニーも存在する)。[[プレート|海洋プレート]]の境界部、[[火山島]]周辺の海底で観察される。


[[2005年]]にはNeptune Resources NLという鉱物資源調査会社が、[[ニュージーランド]]の[[排他的経済水域]]における[[ケルマディック諸島|ケルマディック島弧]]で3万5,000km<sup>2</sup>の調査を許可され、熱水噴出孔により形成された[[鉛]]・[[亜鉛]]・[[銅]]の[[硫化物]]の新しい鉱床たりうる海底硫黄鉱床を探査した。[[2007年]][[4月]]には中米[[コスタリカ]]沖合の[[太平洋]]における新しい熱水噴出孔海域であるMedusa熱水フィールド([[ギリシア神話]]の蛇の髪を持つ怪物 [[メドゥーサ]] にちなんで命名された)が発見された<ref>{{cite news | first= | last= | coauthors= | title=New undersea vent suggests snake-headed mythology | date=April 18 2007 | publisher= | url =http://www.eurekalert.org/pub_releases/2007-04/du-nuv041707.php | work =EurekaAert | pages = | accessdate = 2007-04-18 | language = }}</ref>。
本来、[[地質学]]の面からアプローチが行われてきたが、チムニー周辺に、本来、生物に有害であるはずの硫化水素や[[メタン]]などを材料に[[有機物]]を合成する熱水生物群集や、[[鎧]]のような[[硫化鉄]]の皮膚を持つ生物などが発見されるに至り、[[生物学]]的見地からも注目を浴びるようになった。チムニーの[[生態系]]はそれぞれに固有のもので、わずか数メートル程の距離の隣り合うチムニーでも生態が異なることが確認されている。まさに[[鉱床]]が造られている場所であり、有用金属の採取などからも注目を浴びている。


Ashadze熱水フィールド(大西洋中央海嶺の北緯13度、深度4200 m)は、それまで最も深い場所にある熱水フィールドであった<ref>{{Cite web|title=Beebe|accessdate=2020-09-17|url=http://vents-data.interridge.org/ventfield/beebe|publisher=Interridge Vents Database}}</ref>。[[2010年]][[4月6日]]、イギリス国立海洋学センター、NASA[[ジェット推進研究所]]、および[[ウッズホール海洋研究所]]のの研究チームが、[[カリブ海]][[ケイマン諸島]]沖合の[[ケイマン海溝]]で、世界で最も深い場所に位置する熱水噴出孔を発見した<ref name="natio1">{{cite news|title=カリブの海底に世界最深の熱水噴出孔|newspaper=[[ナショナルジオグラフィック協会|National Geographic News]]|date=2010-04-13|url=http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2554/|accessdate=2016-06-14}}</ref><ref name="natio2">{{cite news|title=噴き出す黒煙、世界最深の熱水噴出孔|newspaper=National Geographic News|date=2012-01-10|url=http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5472/|accessdate=2016-06-14}}</ref><ref>{{Cite journal|last=German|first=C. R.|date=2010|title=Diverse styles of submarine venting on the ultraslow spreading Mid-Cayman Rise|url=http://www.geology.wisc.edu/astrobiology/docs/German_et_al_2010_PNAS.pdf|journal=[[Proceedings of the National Academy of Sciences]]|volume=107|issue=32|pages=14020-5|accessdate=2010-12-31|bibcode=2010PNAS..10714020G|DOI=10.1073/pnas.1009205107|PMID=20660317|PMC=2922602}}</ref>。それまで確認されていた通常の熱水噴出孔の約2倍、最も深いとされたブラックスモーカーよりもさらに800m深い水深5,000mの海底にある<ref name="natio1" />。海洋探検家{{仮リンク|ウィリアム・ビービ|en|William Beebe}}にちなんでBeebe熱水サイト({{Coord|18|33|N|81|43|W|}}、深度5000 m)と名付けられたこの熱水噴出孔は、鉄と銅の鉱石で形成されたチムニーを持つブラックスモーカーのひとつである<ref name="natio1" /><ref name="natio2" /><ref name="afpbb">{{cite news|title=カリブ海の世界最深の噴出孔で新種続々発見、目のないエビなど|newspaper=[[AFPBB News]]|date=2012-01-12|url=http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2850113/8279391?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics|accessdate=2012-01-12}}</ref>。水温は摂氏400度と推定され、周辺では目を持たず代わりに背中に光受容体を持つ新種の[[エビ|エビ類]]や白い触手を持つ新種の[[イソギンチャク|イソギンチャク類]]など発見が相次いでいる<ref name="afpbb" />。2010年にサイトにおいて、グループによって熱水プルームの信号が検出された。さらに2013年の初めには、[[カリブ海地域|カリブ海]]の深度約5000 mの場所から熱水噴出孔が発見された<ref>{{Cite news|url=https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-21520404|title=Deepest undersea vents discovered by UK team|newspaper=BBC News|date=21 February 2013|accessdate=21 February 2013|last=Shukman|first=David}}</ref>。
=== 外部リンク ===
*[http://www.gsj.jp/Muse/minitour/rm02/chimney.html 海底熱水鉱床:チムニー](地質標本館)


[[プレートテクトニクス|構造プレート]]が互いに離れている[[ファンデフカプレート|フアンデフカ]]中部海嶺の火山と熱水噴出孔が研究されている<ref>{{Cite news|title=The 40,000-Mile Volcano|url=https://www.nytimes.com/2016/01/12/science/midocean-ridges-volcano-underwater.html|newspaper=The New York Times|date=2016-01-12|accessdate=2016-01-17|issn=0362-4331|first=William J.|last=Broad}}</ref>。また、メキシコの[[バハ・カリフォルニア・スル州|バハカリフォルニアスル州]]のコンセプシオン湾(Bahía de Concepción)においても、熱水噴出孔やその他の地熱現象が調査されている<ref>{{Cite journal|last=Leal-Acosta|first=María Luisa|last2=Prol-Ledesma|first2=Rosa María|date=2016|title=Caracterización geoquímica de las manifestaciones termales intermareales de Bahía Concepción en la Península de Baja California|journal=Boletín de la Sociedad Geológica Mexicana|volume=68|issue=3|pages=395-407|language=Spanish|DOI=10.18268/bsgm2016v68n3a2|JSTOR=24921551}}</ref>。
== 熱水噴出孔まわりの生物社会 ==
[[File:Nur04512.jpg|thumb|[[ブラックスモーカー]]の周りに棲息する[[チューブワーム]]。]]


== 分布 ==
熱水噴出孔周辺の[[生物]]社会は[[基礎生産|一次生産者]]である[[バクテリア]]と[[古細菌]]に大きく依存している。熱水噴出孔から噴出する水は豊かな[[鉱物]]資源を溶解しており、[[有機物]]合成をするバクテリアの大量増殖が可能である。これらのバクテリアは各種硫化物から有機物を合成する。また、熱水噴出孔近傍の海底下に生息している好熱性の微生物も熱水に巻き込まれて大量に噴出している。多くはバクテリアだが、温度の上昇に伴い''Thermococcus''や''Methanocaldcoccus''を代表とした古細菌の割合が増加する。
[[ファイル:Distribution_of_hydrothermal_vent_fields.png|代替文=|サムネイル|600x600ピクセル|熱水噴出孔の分布。このマップは[http://vents-data.interridge.org/ InterRidge ver.3.3データベース]を利用して作成された[http://vents-data.interridge.org/。]]]
熱水噴出孔は、地球のプレート境界に沿って分布する傾向があるが、一方でホットスポット火山などのプレート内の場所にも見られる場合もある。2009年の時点で、約500の既知のアクティブな海底熱水噴出孔フィールドが知られており、半分は海底で視覚的に観察され、残りの半分は水柱インジケーターや海底堆積物から疑われている<ref>{{Cite journal|last=Beaulieu|first=Stace E.|last2=Baker|first2=Edward T.|last3=German|first3=Christopher R.|last4=Maffei|first4=Andrew|date=November 2013|title=An authoritative global database for active submarine hydrothermal vent fields|journal=Geochemistry, Geophysics, Geosystems|volume=14|issue=11|pages=4892-4905|bibcode=2013GGG....14.4892B|DOI=10.1002/2013GC004998}}</ref>。InterRidgeプログラムでは、既知のアクティブな海底熱水噴出孔フィールドの場所に関するグローバルデータベースを纏めている(http://vents-data.interridge.org/<nowiki/>)。


Rogers et al. (2012) <ref>{{Cite journal|last=Rogers|first=Alex D.|last2=Tyler|first2=Paul A.|last3=Connelly|first3=Douglas P.|last4=Copley|first4=Jon T.|last5=James|first5=Rachael|last6=Larter|first6=Robert D.|last7=Linse|first7=Katrin|last8=Mills|first8=Rachel A.|last9=Garabato|first9=Alfredo Naveira|date=3 January 2012|title=The Discovery of New Deep-Sea Hydrothermal Vent Communities in the Southern Ocean and Implications for Biogeography|journal=PLoS Biology|volume=10|issue=1|pages=e1001234|DOI=10.1371/journal.pbio.1001234|PMID=22235194|PMC=3250512}}</ref>では、熱水噴出システムの11の生物地理学的地域を定義している:
バクテリアは増殖して厚いマット状に広がり、これを餌にする[[端脚類]]や[[カイアシ類]]などが集まってくる。そして[[巻貝]]・[[エビ]]・[[カニ]]・[[チューブワーム]]・[[魚類]]・[[タコ]]などより大きな生物とともに[[食物連鎖]]を形成する。このようにしてできる[[生態系]]は熱水噴出孔を[[エネルギー]]の供給源として存続し、[[太陽]]エネルギーに依存する地表の生態系とは異なる体系をつくる。ただし、この生物社会は太陽とは無関係に存在するといわれることが多いが、そのなかには[[光合成]]により生じた[[酸素]]に依存するものも混じっている。それ以外のものは太古と変わらぬ[[嫌気性生物]]である。


# [[大西洋中央海嶺|中部大西洋のリッジ]]州、
<blockquote>
# [[スコシアプレート|東スコシアリッジ]]州、
熱水噴出孔の動物と密接な関係にある微生物社会を嫌気性・金属耐性の面から計数観察した結果、対象とした熱水噴出孔周辺の[[動物相]]を支えるバクテリア社会の大部分に金属耐性があり嫌気的に[[金属]]を[[還元]]すること、[[嫌気呼吸|嫌気性金属呼吸]]([[テルル]]酸呼吸)が熱水噴出孔の動物相と共生するバクテリアにおいて重要なプロセスであるらしいことがわかる[http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=17933915]。
# [[東太平洋海嶺|北東太平洋ライズ]]州、
</blockquote>
# 中央東太平洋ライズ州、
# 東パシフィックライズ州南部
# [[イースタープレート|イースターマイクロプレートの]]南、
# インド洋州、
# 西太平洋の4つの州。


== 鉱物資源探査 ==
熱水噴出孔で[[無機物]]や[[有機物]]から[[生命の起源|生命が誕生した]]という仮説も複数存在する。日本の[[海洋研究開発機構]]と[[理化学研究所]]は、熱水噴出孔の周囲で微弱な[[電流]]を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性があるとの研究結果を2017年5月に発表した<ref>{{Cite news|url=https://mainichi.jp/articles/20170507/k00/00m/040/113000c|title=熱水噴出孔 周囲で電流確認 有機物に影響、生命誕生か|work=|publisher=[[毎日新聞]]朝刊|date=2017年5月7日}}</ref>。
熱水噴出孔は、場合によっては、海底の大量の硫化物堆積物の堆積を介して、利用可能な鉱物資源の形成をもたらす。[[オーストラリア]]の[[クイーンズランド州]]にある[[マウント・アイザ|マウントアイザ]]鉱体は、その良い例である<ref>{{Cite journal|last=Perkins|first=W. G.|date=1 July 1984|title=Mount Isa silica dolomite and copper orebodies; the result of a syntectonic hydrothermal alteration system|journal=Economic Geology|volume=79|issue=4|pages=601-637|DOI=10.2113/gsecongeo.79.4.601}}</ref>。多くの熱水噴出孔には、電子部品に不可欠[[希土類元素|な]] [[コバルト]]、[[金]]、[[銅]]、および[[希土類元素|希土類金属]]が豊富に含まれている<ref name="Mining 2015">[http://nautil.us/blog/we-are-about-to-start-mining-hydrothermal-vents-on-the-ocean-floor We Are About to Start Mining Hydrothermal Vents on the Ocean Floor]. ''Nautilus''; Brandon Keim. 12 September 2015.</ref>。[[太古代|始生代]]海底の熱水噴出孔は、[[鉄鉱石]]の供給源であった[[アルゴマ型|アルゴマタイプ]]の[[縞状鉄鉱床|縞状鉄鉱層]]を形成したと考えられている<ref>{{Cite web|url=https://goldschmidtabstracts.info/2014/807.pdf|title=Categorizing mineralogy and geochemistry of Algoma type banded iron formation, Temagami, ON|author=Ginley|first=S.|year=2014|accessdate=2017-11-14}}</ref>。


2000年代半ばから続く卑金属類の価格高沸に伴い、特に鉱物資源が主に国際的な輸入に由来する[[日本]]などの国において、海底の熱水フィールドからの鉱物資源の探査と採掘に関して注目が集まっている<ref>{{Cite news|title=Liberating Japan's resources|url=https://www.japantimes.co.jp/opinion/2012/06/25/commentary/japan-commentary/liberating-japans-resources/|newspaper=The Japan Times|date=25 June 2012}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.tradecommissioner.gc.ca/japan-japon/market-reports-etudes-de-marches/0001460.aspx?lang=eng|title=Mining Sector Market Overview 2016 - Japan|author=Government of Canada|first=Global Affairs Canada|date=2017-01-23|website=www.tradecommissioner.gc.ca|accessdate=2019-03-11}}</ref>。世界初の大規模な熱水噴出鉱物鉱床の採掘は、2017年8月〜9月に日本の[[石油天然ガス・金属鉱物資源機構]](JOGMEC)によって実施された。JOGMECは、調査船[[白嶺 (探査船)|白嶺]]を使用してこの作業を実施した。この採掘は、InterRidge Vents Databaseによると、15の確認されたベントフィールドを含む[[沖縄トラフ]]として知られている熱水活動背弧盆地内に位置する、「Izenaホール/コールドロン」ベントフィールドで行われた。
しかし、この仮説に対しては「熱水の組成には必須元素の[[マグネシウム]]が欠落している」という反論もある。


現在、2社が海底の大量硫化物(SMS)の採掘を開始する後期段階に取り組んでいる。[[ノーチラスミネラル|ノーチラス・ミネラル]]社([[:en:Nautilus_Minerals|Nautilus Minerals]])は、[[ビスマルク諸島|ビスマルク群島]]の[[ソルワラ鉱床]]から採掘を開始する段階にあり、[[ネプチューンミネラル社]](Neptune Minerals)は、[[ケルマディック諸島|ケルマデック諸島]]近くの[[ケルマデックアーク]]に位置するランブルIIウェスト鉱床の開発初期の段階にある。どちらの会社も、既存のテクノロジーをベースとして開発を進めている。ノーチラス・ミネラルは、提携して[[プレーサードーム|プレーサー・ドーム]] (今の一部[[バリック・ゴールド]] )、10の上に戻って2006年に成功した&nbsp;世界初のROVに取り付けられた改造ドラムカッターを使用して、表面にメートルトンの採掘されたSMSを送る方法である<ref>{{Cite press release|title=Nautilus Outlines High Grade Au - Cu Seabed Sulphide Zone|publisher=[[Nautilus Minerals]]|date=25 May 2006|url=http://www.nautilusminerals.com/s/Media-NewsReleases.asp?ReportID=138787&_Type=News-Releases&_Title=Nautilus-Outlines-High-Grade-Au-Cu-Seabed-Sulphide-Zone|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090129204714/http://www.nautilusminerals.com/s/Media-NewsReleases.asp?ReportID=138787&_Type=News-Releases&_Title=Nautilus-Outlines-High-Grade-Au-Cu-Seabed-Sulphide-Zone|archivedate=29 January 2009}}</ref>。2007年のネプチューンミネラル社は、世界で初めてROVに搭載された改造された石油産業の吸引ポンプを使用して、SMS堆積物サンプルを回収することに成功した<ref>{{Cite web|url=http://www.neptuneminerals.com|title=Neptune Minerals|accessdate=August 2, 2012}}</ref>。
チューブワームは熱水噴出孔周りの生物社会では重要な位置にある。チューブワームは寄生生物のように養分を直接体組織に吸収する。チューブワームには口も[[消化管]]もなく、バクテリアを体内に寄生させる。チューブワームの体組織1gあたり1000万<!--(原文)1オンスあたり2.85億-->のバクテリアが寄生しているという。チューブワームは先端の赤い冠毛状の部分で[[硫化水素]]・[[酸素]]・[[二酸化炭素]]などを取り込み、特殊な[[ヘモグロビン]]と結合させて、ワームと共生するバクテリアに供給する。その代償にこのバクテリア(イオウ酸化微生物)は有機化合物を合成してワームに供給する。熱水噴出孔に生息するチューブワームには''Tevnia jerichonana''と''Riftia pachyptila''がある。


潜在的な海底採掘は、採鉱機械からのダストプルーム(海底堆積物の巻き上げ)<ref name="Mining 20153">[http://nautil.us/blog/we-are-about-to-start-mining-hydrothermal-vents-on-the-ocean-floor We Are About to Start Mining Hydrothermal Vents on the Ocean Floor]. ''Nautilus''; Brandon Keim. 12 September 2015.</ref>、ベントの崩壊や再形成、[[メタンハイドレート]]の放出、海底地すべり、といった様々な要因により、熱水噴出孔周辺の環境や生態系に影響を与えうる<ref>{{Cite web|author=Birney|first=K.|title=Potential Deep-Sea Mining of Seafloor Massive Sulfides: A case study in Papua New Guinea|accessdate=2020-09-16|url=http://www.bren.ucsb.edu/research/documents/VentsThesis.pdf|publisher=University of California, Santa Barbara, B{{リンク切れ|date=2020年9月}}}}</ref>。そのため、採掘を開始する前に、事前に海底採掘の潜在的な環境への影響を明らかにし管理措置を実施するべく、上記の会社では様々な作業が実施されている<ref>{{Cite journal|date=January 2007|title=Treasures from the deep|url=http://www.rsc.org/chemistryworld/issues/2007/january/treasuresdeep.asp|journal=[[Chemistry World]]}}</ref>。しかしながら、今日までの研究では、ベント間で生態系研究の進み具合がまちまちであるため、非常に多くの努力が必要とされている段階に有る。最もよく研究され理解されている熱水ベントのエコシステムは、採鉱の対象となる生態系の代表ではないことに注意を払う必要があるからである<ref>{{Cite journal|last=Amon|first=Diva|last2=Thaler|first2=Andrew D.|date=2019-08-06|title=262 Voyages Beneath the Sea: a global assessment of macro- and megafaunal biodiversity and research effort at deep-sea hydrothermal vents|url=https://peerj.com/articles/7397|journal=PeerJ|volume=7|pages=e7397|language=en|DOI=10.7717/peerj.7397|ISSN=2167-8359}}</ref>。
[[アメリカ領サモア]]の{{仮リンク|ヴァイルルウ|en|Vailulu'u|label=ナファヌア}}(Nafanua)[[海底火山]]近くでは、[[ウナギ]]ばかりが固まって生息する通称Eel Cityが発見された<ref>[http://www.astrobio.net/news/article1577.html Astrobiology Magazine: Extremes of Eel City] Retrieved 30 August 2007</ref>。ウナギが珍しいわけではないが、熱水噴出孔の主だった住人はすでに述べた[[無脊椎動物]]である。


海底の鉱物を利用する試みは、今まで数多くなされてきた。1960年代から70年代にかけて、[[深海平原]]から[[マンガン団塊]]のを回収する多くの研究が進められてきたが、その成功の度合いはさまざまである。しかしながら少なくとも、海底からの鉱物の回収は技術的には可能であることを、これらの研究は示した。[[ハワード・ヒューズ|ハワードヒューズの]]任務に特化した船である[[グロマーエクスプローラー]]を使用して、[[ソビエト潜水艦K-129(1960)|ソビエト潜水艦''K-129'']]を引き上げようとする[[中央情報局|アメリカ中央情報局]](CIA)による1974年の精巧な試みのカバーストーリーとして、マンガン団塊の採掘が行われた<ref>[https://www.bbc.co.uk/news/resources/idt-sh/deep_sea_mining The secret on the ocean floor]. David Shukman, ''BBC News''. 19 February 2018.</ref>。この事業は[[プロジェクト・ジェニファー]](プロジェクトアゾリアン)として知られており、マンガン団塊の海底での採掘のカバーストーリーが、他の企業にこの試みを推進する原動力となった可能性がある。
この生態系に息づく動物相特有の珍しい例としては、[[鉄]]と有機物の[[うろこ]]で装甲した巻貝([[ウロコフネタマガイ]])や80°Cの水温でも生息できるポンペイワーム''Alvinella Pompeiana''がある。


== 環境保全 ==
熱水噴出孔周辺で発見された新種の生物は300種を超える<ref>{{cite web|last = Botos | first =Sonia | title = Life on a hydrothermal vent| url = http://www.botos.com/marine/vents01.html#body_4|accessdate=2008-05-14}}</ref>。
熱水噴出孔の保全は、過去20年間、[[海洋学]]ミュニティにおいて議論の主題となっている<ref>{{Cite journal|last=Devey|first=C.W.|last2=Fisher|first2=C.R.|last3=Scott|first3=S.|year=2007|title=Responsible Science at Hydrothermal Vents|url=http://www.tos.org/oceanography/issues/issue_archive/issue_pdfs/20_1/20.1_devey_et_al.pdf|journal=[[Oceanography (journal)|Oceanography]]|volume=20|issue=1|pages=162-72|DOI=10.5670/oceanog.2007.90}}</ref>。熱水噴出孔という非常に特異かつ希少な環境に対して、最も大きな被害を与えているのは、研究者自身である可能性が指摘されている<ref>{{Cite journal|last=Johnson|first=M.|year=2005|title=Oceans need protection from scientists too|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=433|issue=7022|pages=105|bibcode=2005Natur.433..105J|DOI=10.1038/433105a|PMID=15650716}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Johnson|first=M.|year=2005|title=Deepsea vents should be world heritage sites|url=https://mpanews.openchannels.org/news/mpa-news/mpa-perspective-deep-sea-vents-should-be-world-heritage-sites|journal=[[MPA News]]|volume=6|page=10}}</ref>。ベントサイトを調査する研究者の行動について、なんらかの合意を築こうとする試みもなされ、実際に合意された行動規範も存在するが、正式な国際的かつ法的拘束力のある合意は未だに存在していない<ref>{{Cite journal|last=Tyler|first=P.|last2=German|first2=C.|last3=Tunnicliff|first3=V.|year=2005|title=Biologists do not pose a threat to deep-sea vents|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=434|issue=7029|page=18|bibcode=2005Natur.434...18T|DOI=10.1038/434018b|PMID=15744272}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* [http://www.saudiaramcoworld.com/issue/198205/silver.from.the.sea.htm Glyn Ford and Jonathan Simnett, ''Silver from the Sea'', September/October 1982, Volume 33, Number 5, Saudi Aramco World] Accessed [[10月17日|17 October]] [[2005年|2005]]
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* [http://www.neptuneminerals.com/index.php Neptune Minerals Ltd webpage - Exploring SMS deposits]
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* Ballard, Robert D., 2000, ''The Eternal Darkness'', Princeton University Press.
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* [http://www.newscientist.com/channel/earth/deep-sea Everything you wanted to know about hydrothermal vents and the deep sea] — Provided by ''[[:en:New Scientist]]''.
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* [http://www.nsf.gov/od/lpa/news/press/01/pr0136.htm Images of Hydrothermal Vents in Indian Ocean- Released by National Science Foundation]
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* [http://www.gsj.jp/Muse/minitour/rm02/chimney.html 海底熱水鉱床:チムニー](地質標本館)


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2020年9月16日 (水) 15:38時点における版

熱水噴出孔の一種、ブラックスモーカー
熱水噴出孔の音

熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう、英語: hydrothermal vent)は、地熱で熱せられたが噴出する大地の亀裂である。広義の熱水噴出孔としては温泉噴気孔間欠泉が含まれるが、狭義にはこれらの陸上にあるものではなく、海底環境、特に深海の熱水噴出孔(深海熱水噴出孔)のことを指す。熱水噴出孔の英語表記やその構造物から、ベント(vent)やチムニー(chinmey)と呼ばれることもある。

熱水噴出孔の大半は、火山活動が活発なところ(発散的プレート境界海盆ホットスポット)から発見されている[1]。吹き出す熱水は数百度にも達する事があり、溶存成分として重金属硫化水素を豊富に含むものも知られている。海底から噴出する熱水に含まれる金属などが析出沈殿してチムニーと呼ばれる構造物ができる場合がある。熱水の溶存成分によってはチムニーから黒色や白色の煙が吹き出しているように見えるため、一部の熱水噴出孔は「ブラックスモーカー」や「ホワイトスモーカー」と呼称される場合もある。また、熱水噴出孔の作用によって形成された岩石および鉱石堆積物を熱水堆積物と呼ぶ。

深海の大部分と比べて、熱水噴出孔周辺では生物活動が活発であり、噴出する熱水中に溶解した各種化学物質に依存した複雑な生態系が成立している。有機物合成を行う細菌古細菌食物連鎖の最底辺を支える他、化学合成細菌と共生したり環境中の化学合成細菌のバイオフィルムなどを摂食するジャイアントチューブワーム二枚貝エビなどの大型生物もみられる。

地球外では、木星衛星エウロパ土星の月エンケラドスにおいても熱水活動が活発であり、熱水噴出孔が存在するとみられている[2][3]。また、古代には火星面にも存在したと考えられている[1][4]

物理的特性

この相図では、緑の点線は融点を、青の線は沸点を示し、水の状態が圧力によってどのように変化するかを示している。緑の実線は、一般的な物質の典型的な融点の挙動を示している。
380〜415°Cの臨界領域における気液境界の実験結果

深海熱水噴出孔は通常、東太平洋海嶺中部大西洋海嶺などの、2つの構造プレートが分岐し、マントルプリュームが上昇して新しい地殻が形成される場所で見られる[5]。熱水噴出孔から出てくる水は、主に近辺の火山層中の断層や多孔質堆積物を通じて染み込み火山性の地熱構造で熱せられた海水と、湧昇するマグマから放出されたマグマ水、の2種から構成される[1]。一方で、噴気孔間欠泉といった陸上の熱水システムにおいては、循環する水の大部分は地表から熱水システムに浸透した天水(雨水)と地下水であり、一部で変成水やマグマに由来するマグマ水、堆積層中で塩類を溶解した塩水なども含まれる。その割合は、それぞれの場所によって異なる。

一般的に深海の海水温は約2 °C (36 °F)程度であるのに対し、熱水噴出孔周囲の水温は60 °C (140 °F)になり[6]、最高で464 °C (867 °F) にも達する例が知られている[7][8]。これは、深海ではその水深のため静水圧が高く、高温であっても水は気体にならずに液体の形で存在しているためである。例えば、218気圧の環境であれば、純水の臨界点は375 °C (707 °F) である。さらに、純粋ではなく塩分を含む水の場合、高温と高圧の臨界点はさらに上昇する。海水(重量比で3.2%のNaClを含む)の臨界点は、298.5大気圧下で407 °C (765 °F)であり[9][10]、これは深さ2,960メートル (9,710 ft)の水圧環境下に対応する。したがって、この塩分濃度と深さの場合、熱水の温度が407 °C (765 °F)を超えると超臨界となる。さらに、地殻の相分離のために、熱水噴出孔から吹き出す流体中の塩分は、時おり大きく変動することが知られている[11]。同一の圧力条件下において、塩分濃度の低い液体の臨界点温度は、海水よりも低く、純水よりもも高くなる。たとえば、280.5大気圧下での2.24%のNaCl溶液の臨界点温度は400 °C (752 °F)である。したがって、熱水噴出孔の最も高温の部分から出てくる水は、気体の物性と液体の物性の間の物理的性質を持つ、いわゆる超臨界流体である可能性がある[12][13]。実際にいくつかの噴出孔において、超臨界状態が観察されている。しかしながら、熱水循環、鉱物堆積物形成、地球化学フラックス、そして生物活性の点で、この超臨界がどのような意味を持っているのかは、まだよく判明していない。

チムニーの成長と熱水の例

熱水噴出孔によってはチムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。超高温の熱水に溶解している鉱物が0°Cに近い海水と接触すると、接触面で化学反応が進み生成物が析出・沈殿して、このようなチムニーができる。チムニー形成の初期段階は、鉱物の無水石膏の堆積から始まる。次に、亜鉛などの硫化物が海水の境界面で析出してチムニーの隙間に沈殿し、時間の経過とともにチムニーの多孔性が低下する。今までの研究から、一日あたり30センチメートル (1 ft)程度も成長したチムニーが記録されている[14]。チムニーの例としては、オレゴン州の沖合にある高さ40mで折れてしまった、通称『ゴジラ』と呼ばれるものが知られる。チムニーのなかには高さ60mに達するものもある[15]。2007年4月のフィジー沿岸沖の深海ベントの調査では、これらのベントが溶存鉄の重要な供給源であることが判明した[16]

ブラックスモーカーは、1979年に北緯21度の東太平洋海上で最初に発見された。

チムニー構造で黒色の熱水を噴出するものは、黒い煙を放出する煙突のように見えるため、ブラックスモーカーと呼ばれる。ブラックスモーカーは通常、海底(水深2,500-3,000 m)でよく見られるが、より浅層や深層でも発見されている[1]。ブラックスモーカーは通常、地殻から熱水に溶け混んだ高レベルの硫黄含有ミネラルや硫化物を含む粒子を放出しており、水は400℃以上の高温に達することもある。地球の地殻の下から過熱された水が海底を通過する際に幅数百メートルに広がり、近辺で複数のブラックスモーカーが形成される[1]。冷たい海の水と接触すると、多くのミネラルが沈殿し、各通気孔の周りに黒い煙突のような構造を形成する。この堆積した金属硫化物は、ゆくゆくは塊状の硫化鉱床になる可能性がある。大西洋中央海嶺アゾレス諸島の一部のブラックスモーカーは、24,000μMの鉄を含む熱水を放出するレインボーベントフィールドなど、金属含有量が非常に豊富なことが知られている[17]

ブラックスモーカーは、RISEプロジェクト中にスクリップス海洋研究所の研究者によって、1979年に東太平洋海嶺から発見され、ウッズホール海洋研究所の深海潜水艇ALVINを用いて観測された[18]。現在、ブラックスモーカーは大西洋太平洋に、平均2,100mの深度で存在することが知られている。最も北に位置するブラックスモーカーは、グリーンランドノルウェーの間の大西洋中央海嶺北緯73度の位置から、ベルゲン大学の研究者によって2008年に発見された、ロキの城(Loki's Castle)フィールドの5本のチムニーからなるクラスターである[19]。これらのブラックスモーカーは、地殻変動力が少ない安定した地殻領域にあり、熱水噴出孔のフィールドとしてはあまり一般的ではないため、興味がもたれている[20]。世界で最も有名なブラックスモーカーの一つはケイマントラフにあり、5,000 mの海面下に存在する[21]

一方で、ホワイトスモーカーと呼ばれるチムニーからは、バリウムカルシウムシリコンなどの明るい色のミネラルが放出される。これらのベントは、おそらく熱源から一般に離れているため、プルームが低温になる傾向がある[1]

ブラックとホワイトのチムニーは、同じ熱水フィールドで共存する可能性があり、それぞれ一般的に、熱源に対して近位か遠位かで分かれる。また、マグマ熱源がマグマの結晶化により熱源から次第に遠ざかり、次第に熱水がマグマ水ではなく海水に支配されるようになること、すなわち熱水域の衰退段階に対応する形で、ホワイトスモーカーが成立することもある。このタイプのベントから吹き出す熱水はカルシウムが豊富で、主に硫酸塩( 重晶石と無水石膏)や炭酸塩に富む堆積物を形成する[1]

一方で、沖縄トラフ鳩間海丘からは有人潜水調査船しんかい6500による探査により、新たにブルースモーカーが発見された。この色の解明は、今後の調査を待つ段階である[22]

熱水噴出孔周辺の生態系

かつては、太陽エネルギーこそがあらゆる生命エネルギーの源であると考えられてきた。しかしながら深海生物は、太陽光の恩恵を受けることができない深海環境に生息している。以前の底生生物研究においては、熱水噴出孔周辺の生物のエネルギー獲得は深海生物と同様にマリンスノーに依存していると考えられてきた。すなわち、マリンスノーの大本である表層海域の植物プランクトンに依存した、つまり大枠としては太陽に依存した生態系の一部とみなされていた。一部の熱水噴出孔周辺の生物は、たしかにこの太陽からのエネルギー源を消費することが知られている。しかしながら、もし仮にすべてが太陽依存のシステムに存在している状況であれば、熱水噴出孔周辺の生物はもっと疎(低密度)になるはずである。しかしながら実際には、周囲の海底と比較して熱水噴出帯の生物密度は、10,000〜100,000倍ほどもあることが知られている。

そのため熱水噴出孔周辺の生態系は主要なエネルギー源を、太陽エネルギーではなく熱水噴出孔(すなわち熱水)に依存していると考えられる。熱水噴出孔からの水は溶解したミネラルが豊富であり、それらを利用する化学独立栄養細菌が繁茂し、大規模な集団を形成する。そして、それらの化学合成細菌に依存するベント周辺の生物が生息することで、熱水ベント周辺では膨大な量の生命を維持することができると考えられる。これらのバクテリアは、硫黄化合物、特に硫化水素といった、ほとんどの生物種にとって有毒な化学物質を利用して、化学合成により有機物を生産する。これらのコミュニティは「太陽と独立して存在する」としばしば形容されるが、しかしながら一部の生物は実際には光合成生物によって生成される酸素に依存する、いわゆる好気性生物である。

東スコシアプレートの海嶺にあるチムニー周辺の密集した生態系(写真はKiwa anomuransとVulcanolepasの仲間の付着性フジツボ)。
ガラパゴスリフトのベント周辺に生息するチューブワームRiftia pachyptila)。

微生物生態系

熱水噴出孔が見られるような深度は、通常の海域であれば、一般的には生物活動は非常に希薄である。しかしながらチムニー周辺は、独自の生態系が形成される。日光は存在しないため、多くの生物、特に古細菌極限環境菌などによって駆動される化学合成プロセスを通じて、チムニーから提供される熱、メタン硫黄化合物などがエネルギーに変換される。そのため、熱水噴出孔周辺の生物社会は、一次生産者であるバクテリア古細菌に大きく依存していると言える。熱水噴出孔から噴出する水は豊かな鉱物資源を溶解しており、有機物合成をするバクテリアの大量増殖を可能にしている。これらのバクテリアは、各種硫化物から有機物を合成するものが多く知られている。また、熱水噴出孔の海底地殻内に生息する好熱性の微生物も、熱水に巻き込まれて大量に噴出している。多くはバクテリアだが、温度の上昇に伴いサーモコッカスThermococcus)メタノカルドコッカスMethanocaldcoccus)といった古細菌の割合が増加する。

メキシコ沿岸沖の、日光が全く届かない深さ2,500メートル (8,200 ft)に位置するブラックスモーカー周辺で、光合成細菌の種が発見されている。緑色硫黄細菌に属するChlorobiaceaeファミリーの一部であるこれらの細菌は、太陽光ではなくチムニーからのかすかな赤外光を利用して、光合成を駆動している。これは、太陽光以外の光のみを利用して光合成を行う、自然界で発見された最初の生物である[23]

大型生物

ブラックスモーカーの周りに棲息するチューブワーム

バクテリアは増殖して厚いマット状に広がり、これを餌にする端脚類カイアシ類などが集まってくる。そして巻貝エビカニチューブワーム魚類タコなどより大きな生物とともに食物連鎖を形成する。このようにしてできる生態系は熱水噴出孔をエネルギーの供給源として存続し、太陽エネルギーに依存する地表の生態系とは異なる体系をつくる。ただし、この生物社会は太陽とは無関係に存在するといわれることが多いが、そのなかには光合成により生じた酸素に依存するものも混じっている。それ以外のものは太古と変わらぬ嫌気性生物である。

熱水噴出孔の動物と密接な関係にある微生物社会を嫌気性・金属耐性の観点から計数観察した結果、対象とした熱水噴出孔周辺の動物相を支えるバクテリア社会の大部分に金属耐性があり、嫌気的に金属還元すること、嫌気性金属呼吸テルル酸呼吸)が熱水噴出孔の動物相と共生するバクテリアにおいて重要なプロセスであるらしいこと、などが報告されている[2]

例えば2メートル (6.6 ft)以上に成長することもあるSiboglinidチューブワームのように、チューブワームは熱水噴出孔周りの生物社会ではしばしば重要な位置を占めることが知られている。チューブワームは寄生生物のように、養分を直接体組織に吸収する。チューブワームには口も消化管もなく、バクテリアを体内に寄生させる。チューブワームの体組織1gあたり1000万のバクテリアが寄生しているという。チューブワームは先端の赤い冠毛状の部分で硫化水素酸素二酸化炭素などを取り込み、特殊なヘモグロビンと結合させて、ワームと共生するバクテリア(硫黄酸化微生物)に供給する。その代償に、このバクテリアは有機化合物を合成してワームに供給する。熱水噴出孔に生息するチューブワームの種としてはTevnia jerichonanaRiftia pachyptilaが知られている。

またアメリカ領サモアのナファヌア(Nafanua)海底火山近くでは、ウナギDysommina rugosa)ばかりが固まって生息する、通称「うなぎ街(Eel City)」が発見されている[24]。ウナギが珍しいわけではないが、熱水噴出孔周辺に生息する生物の主は上述のとおり無脊椎動物である。

1993年には、すでに100種以上の腹足類が熱水噴出孔で発生することが知られていた[25]。現在までに300種以上の新しい種が熱水噴出孔で発見されており、それらの多くは地理的に離れた噴出域で発見された他のものに「姉妹種」である[26]北米プレート中央海嶺を乗り越える前の東太平洋海域に、単一の生物地理学的なベント領域の存在を提唱する説が挙げられている[27]。その説に基づくと、そのベント領域以降への移動には障壁があるため、さまざまな場所での種の進化的分岐が引き起こされたと考えられる。別個の熱水噴出孔で見られる収束的進化の例は、自然選択理論と進化理論を全体的にサポートする主要な実例であるとみなすことができる。

この生態系に息づく動物相特有の珍しい例としては、と有機物のうろこで装甲した鱗状足の腹足類であるスケーリーフット(ウロコフネタマガイChrysomallon squamiferum)がある。スケーリーフットは、2001年にインド洋カイレイ熱水噴出孔フィールドへの遠征中に発見された。一般的な巻き貝のように真皮強膜(硬化した体の部分)の構造に炭酸カルシウムを利用するのではなく、代わりに硫化鉄黄鉄鉱グレイジャイト)を利用することが特徴である。深度2500mの極度の圧力(約25メガパスカル、すなわち250大気圧)によって、この生物学的目的で利用される硫化鉄は安定化されていると考えられている。この硫化鉄の装甲板は、恐らく同じ生態系に生息する捕食性巻き貝が持つ有毒な歯根 (歯)に対する防御として機能していると考えられている。

また、80°Cの水温でも生息できるポンペイワーム(Alvinella Pompeiana)が1980年代に発見された。

動物と細菌の共生

熱水噴出孔周辺の生態系は、巨大なバイオマスと生産性を持っているが、これはベントという特殊な環境で進化した共生関係に依るところが大きい。深海の熱水噴出生態系は、無脊椎動物の宿主と化学独立栄養微生物の間で構築される共生環境が重要であり、浅水や陸域の熱水噴出孔環境とは大きく異なっている[28]。上述のとおり、太陽光は深海熱水噴出孔に到達しないため、深海熱水噴出孔内の生物は太陽からエネルギーを得て光合成を行うことができない。そのため、熱水噴出孔で見つかった微生物は化学合成からエネルギーを獲得している。このプロセスは、太陽からの光エネルギーとは対照的に、硫化物などの化学物質からのエネルギーを使用して炭素を固定するものである。言い換えれば、共生生物は無機分子(H2S、CO2、O)を有機分子に変換し、ホストはそれを栄養として使用する。しかしながら、硫化物は地球上のほとんどの生命にとって非常に有毒な物質である。このため、1977年に熱水噴出孔が生命で溢れているのが最初に発見されたとき、大きな驚きを持って科学界に受け止められた。その場所では、動物のに生息する化学独立栄養生物の共生(内部共生)が発見され、そのことが多細胞生物が熱水由来の毒性に耐えることができる理由であると考えられた。今日、微生物共生生物が硫化物解毒に寄与し宿主が有毒な環境下での生存を可能にしているのかに関して、研究が進められている。マイクロバイオーム機能に関する研究からは、宿主関連のマイクロバイオームは宿主の発生、栄養、捕食者に対する防御、および解毒において、重要であることを示している。一方でその見返りに、宿主は炭素、硫化物、酸素などの化学合成に必要な化学物質を共生生物に提供している、いわゆる相利共生の関係が構築されている、と考えられている[要出典]

熱水噴出孔の生態系に関する研究の初期には、これらの環境で多細胞生物が栄養素を獲得するメカニズムと、その極端な環境条件下でどのようにして生き残ることができているのかに関して、さまざまな理論が提唱された。熱水噴出孔での化学独立栄養細菌が二枚貝の食餌に寄与するという仮定が出されたのは、1977年になってからである[29]。そして1981年に、巨大チューブワームは化学独立栄養細菌の内部共生によって栄養の獲得していることが明らかになった[30][31][32]。そしてさらなる研究から、このような化学独立栄養生物と大型動物相の無脊椎動物種の間の共生関係は、他の様々な生物においても構築されていることが判明してきた。たとえば1983年には、ハマグリの鰓組織に細菌の内部共生体が含まれていることが確認された[33]。1984年には、bathymodiolidムール貝とvesicomyid科のアサリも、内部共生生物を持つことが判明した[34][35]

ただし、代謝関係と同様に、生物が共生生物を獲得するメカニズムは異なる。たとえばチューブワームには口も腸もないが、栄養に対処を取り込む栄養膜(トロフォソーム、trophosome)が存在し、そこで内部共生生物が見つかる。そして、O、H 2 S、およびCO 2などの化合物を取り込んでトロフォソームの内部共生生物に栄養を与えるように、チューブワームの先端にある赤い「飾り羽」が利用されている。驚くべきことに、チューブワームのヘモグロビン(飾り羽が明るい赤色になる原因である)は、通常は酸素と硫化物は非常に反応性であるにもかかわらず、硫化物による干渉や阻害なしに酸素を運ぶことができる。この理由は2005年に判明し、チューブワームのヘモグロビン内の硫化水素に結合する亜鉛イオンのために、硫化物が酸素と反応することが阻害されることが原因であることが明らかになった。またこのことは、チューブワームの体組織が硫化物にさらされる機会を減らし、効率的に細菌に硫化物を与えて化学独立栄養を誘導することに繋がっている[36]。また、チューブワームは2つの異なる方法でCO 2を代謝でき、環境条件の変化に応じて必要に応じて2つを交互に切り替えることができることも明らかになった[37]

1988年に、大型のベント軟体動物であるAlvinochonca hessleriから、チオトロフィック(硫化物酸化)細菌が確認された[38]。硫化物の毒性を回避するために、貝はまずそれをチオ硫酸塩に変換してから、共生生物に送る[39]。ペクチノイドホタテ貝(pectinid scallops)などの熱水噴出孔フィールドの端に住んでいる生物も、鰓に共生生物を生息させているが、細菌の密度は噴出口の近くに住んでいる生物に比べて低い。そして、ホタテガイ自身の内部共生微生物への依存性も低下する[要出典]

一方で、すべての宿主動物が内部共生体を持っているわけではなく、宿主の内部ではなく表面に住む、いわゆる外部共生菌を持つ場合もある。中部大西洋海嶺の通気孔で見つかったエビは、かつてベントで共生細菌をもたない例外的な大型無脊椎動物とみなされていたが、1988年に彼らが外部共生菌を持つことが判明した[40]。それ以来、ベントで生息する他の生物、たとえばLepetodrilis fucensis[41]も外部共生細菌をもつことが判明している[42]

さらに、一部の共生生物は硫黄化合物を消費するが、他のメタノトロフとして知られている生物は炭素化合物、すなわちメタンを消費している。Bathmodiolid musselsは、メタノトロフ内部共生体を持つ宿主の例である。ただし、このような生物は熱水噴出孔よりも、主にコールドシープで見つかることが多い[要出典]

深海環境下でも、このようにして化学合成が行われることで、生物は太陽光なしの環境で生きることができる。しかしながら、海水中の酸素は光合成の副産物であるため、間接的には太陽に依存した生態であるとみなす事もできる。もし仮に太陽が突然消え、光合成が地球上で発生しなくなった場合、深海の熱水噴出孔での生命は海中の酸素がなくなるまで数千年は続く可能性がある[要出典]

生命の起源

熱水噴出孔で無機物有機物から生命が誕生したという仮説も複数存在する。日本の海洋研究開発機構理化学研究所は、熱水噴出孔の周囲で微弱な電流を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性があるとの研究結果を2017年5月に発表した[43]。しかし、この仮説に対しては「熱水の組成には必須元素のマグネシウムが欠落している」という反論もある。

2017年3月、地球上でおそらく最も古い生命体の形跡を報告した。この古代微生物は、カナダのケベック州ヌブアギトゥクベルトにある熱水噴出孔の沈殿物中から発見され、42億8000万年前に生息していた可能性があり、すなわち44億年前にが形成されてから間もなく、そして45億4000万年前に地球が形成されてから間もなく存在していた微生物である可能性がある[44][45][46]

熱水噴出孔の海中探査

堆積記録に見られる典型的な火山性塊状硫化物(VMS)鉱床の断面図[47]

1949年紅海中部の海底を調査したところ、特異的な熱水床の存在が報告された。1960年代には、60 °Cの塩類を含む水と、これに関係して金属を含むが存在することが確認され、そしてこの熱い水溶液は海底下のリフトから活発に噴出していることが判明した。塩分濃度が高すぎて生物の生息は無理な環境であった[48]。この塩水と泥が貴金属卑金属の供給源でありうるか、現在調査中である。

最初に発見された熱水噴出孔は、東太平洋海嶺の支脈にあたるガラパゴスリフトのある海域で、Pleiades II遠征において ディープ・トウ海底イメージングシステム を用いて海水温を調査中であったスクリップス海洋研究所の海洋地質学者のグループが1976年に発見したブラックスモーカーである[49]。計測温度とその他の証拠から、熱水噴出孔からの噴出水であると結論付けられ、1977年にPeter Lonsdaleは熱水噴出孔に関する初の論文を発表した[50]。Peter Lonsdaleがディープ・トウのカメラから撮った写真を公開し[51]、博士課程の学生のキャスリーンクレーン英語版が地図と温度異常データを公開した[52]。サイトには「クラムベイク(Clam-bake)」というニックネームが付けられ、トランスポンダが設置された。翌年、ウッズホール海洋研究所の潜水艇アルビン号を使って再びサイトに赴き、数々の熱水噴出孔を目視確認した。

ガラパゴスリフトの海底熱水噴出孔を取り巻く化学合成生態系は、アメリカ国立科学財団から資金提供を受けた海洋地質学者のグループがクラムベイクのサイトに戻った1977年に、初めて直接観察された。潜水調査の主任研究者はオレゴン州立大学ジャック・コーリスであった。スタンフォード大学のCorlissとTjeerd van Andelは、1977年2月17日にウッズホール海洋研究所 (WHOI)が運営する潜水船DSV ALVINでダイビングしながら、ベントとその生態系を観察し、サンプリングした[53]。調査クルーズの他の科学者には、WHOIの Richard (Dick) Von Herzenと Robert Ballard、オレゴン州立大学のJack Dymondと Louis Gordon、マサチューセッツ工科大学の John EdmondとTanya Atwater、米国地質調査所のDave Williams、スクリプス海洋研究所のKathleen Craneがいた[53][54]。このチームはScience誌に、ベント、生物、ベント熱水の組成に関する観察結果を発表した[55]。1979年、当時WHOIにいたJ. Frederick Grassleが率いる生物学者のチームが同じ場所に戻り、2年前に発見された生物群集を調査した。

高温の熱水噴出孔であるブラックスモーカーは、1979年春に潜水艇ALVIN号を使用して、スクリップス海洋研究所のチームによって発見された。RISE探検隊は、ALVIN号を使用して海底の地球物理学的マッピングをテストし、ガラパゴスリフトベントのさらに先で別の熱水フィールドを見つけることを目的として、21°Nの東太平洋海膨を探索した。遠征はFred Spiessと Ken Macdonaldが主導し、米国、メキシコ、フランスからの参加者が含まれていた[56]。ダイビング地域は、1978年のフランスのCYAMEX遠征による硫化鉱物の海底マウンドの発見に基づいて選択された[57]。潜水作業の前に、遠征隊員のRobert Ballardは、深く牽引された計器パッケージを使用して、海底近くの水温異常を見つけた。最初のダイビングは、これらの異常の1つを対象としたものであった。イースターの日曜日の1979年4月15日、ALVIN号から2600メートルへのダイビング中に、Roger Larsonと Bruce Luyendyk は、ガラパゴスベントに似た生物群集の熱水ベントフィールドを発見した。4月21日のその後のダイビングで、William NormarkとThierry Juteauは、煙突から黒い鉱物粒子ジェットを放出する高温のブラックスモーカーのベントを発見した(WHOIウェブサイト)。この後、温度プローブをALVINにリギングして、黒い喫煙者の通気口の水温を測定した。これにより、深海の熱水噴出孔で記録された最高温度(380±30 °C)[58]。ブラックスモーカーとそれらに供給されたチムニーの分析から、熱水とチムニー構成物の一般的な鉱物は硫化鉄沈殿物であることを明らかにした[59]。 

2005年にはNeptune Resources NLという鉱物資源調査会社が、ニュージーランド排他的経済水域におけるケルマディック島弧で3万5,000km2の調査を許可され、熱水噴出孔により形成された亜鉛硫化物の新しい鉱床たりうる海底硫黄鉱床を探査した。2007年4月には中米コスタリカ沖合の太平洋における新しい熱水噴出孔海域であるMedusa熱水フィールド(ギリシア神話の蛇の髪を持つ怪物 メドゥーサ にちなんで命名された)が発見された[60]

Ashadze熱水フィールド(大西洋中央海嶺の北緯13度、深度4200 m)は、それまで最も深い場所にある熱水フィールドであった[61]2010年4月6日、イギリス国立海洋学センター、NASAジェット推進研究所、およびウッズホール海洋研究所のの研究チームが、カリブ海ケイマン諸島沖合のケイマン海溝で、世界で最も深い場所に位置する熱水噴出孔を発見した[62][63][64]。それまで確認されていた通常の熱水噴出孔の約2倍、最も深いとされたブラックスモーカーよりもさらに800m深い水深5,000mの海底にある[62]。海洋探検家ウィリアム・ビービにちなんでBeebe熱水サイト(北緯18度33分 西経81度43分 / 北緯18.550度 西経81.717度 / 18.550; -81.717、深度5000 m)と名付けられたこの熱水噴出孔は、鉄と銅の鉱石で形成されたチムニーを持つブラックスモーカーのひとつである[62][63][65]。水温は摂氏400度と推定され、周辺では目を持たず代わりに背中に光受容体を持つ新種のエビ類や白い触手を持つ新種のイソギンチャク類など発見が相次いでいる[65]。2010年にサイトにおいて、グループによって熱水プルームの信号が検出された。さらに2013年の初めには、カリブ海の深度約5000 mの場所から熱水噴出孔が発見された[66]

構造プレートが互いに離れているフアンデフカ中部海嶺の火山と熱水噴出孔が研究されている[67]。また、メキシコのバハカリフォルニアスル州のコンセプシオン湾(Bahía de Concepción)においても、熱水噴出孔やその他の地熱現象が調査されている[68]

分布

熱水噴出孔の分布。このマップはInterRidge ver.3.3データベースを利用して作成された[1]

熱水噴出孔は、地球のプレート境界に沿って分布する傾向があるが、一方でホットスポット火山などのプレート内の場所にも見られる場合もある。2009年の時点で、約500の既知のアクティブな海底熱水噴出孔フィールドが知られており、半分は海底で視覚的に観察され、残りの半分は水柱インジケーターや海底堆積物から疑われている[69]。InterRidgeプログラムでは、既知のアクティブな海底熱水噴出孔フィールドの場所に関するグローバルデータベースを纏めている(http://vents-data.interridge.org/)。

Rogers et al. (2012) [70]では、熱水噴出システムの11の生物地理学的地域を定義している:

  1. 中部大西洋のリッジ州、
  2. 東スコシアリッジ州、
  3. 北東太平洋ライズ州、
  4. 中央東太平洋ライズ州、
  5. 東パシフィックライズ州南部
  6. イースターマイクロプレートの南、
  7. インド洋州、
  8. 西太平洋の4つの州。

鉱物資源探査

熱水噴出孔は、場合によっては、海底の大量の硫化物堆積物の堆積を介して、利用可能な鉱物資源の形成をもたらす。オーストラリアクイーンズランド州にあるマウントアイザ鉱体は、その良い例である[71]。多くの熱水噴出孔には、電子部品に不可欠 コバルト、および希土類金属が豊富に含まれている[72]始生代海底の熱水噴出孔は、鉄鉱石の供給源であったアルゴマタイプ縞状鉄鉱層を形成したと考えられている[73]

2000年代半ばから続く卑金属類の価格高沸に伴い、特に鉱物資源が主に国際的な輸入に由来する日本などの国において、海底の熱水フィールドからの鉱物資源の探査と採掘に関して注目が集まっている[74][75]。世界初の大規模な熱水噴出鉱物鉱床の採掘は、2017年8月〜9月に日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によって実施された。JOGMECは、調査船白嶺を使用してこの作業を実施した。この採掘は、InterRidge Vents Databaseによると、15の確認されたベントフィールドを含む沖縄トラフとして知られている熱水活動背弧盆地内に位置する、「Izenaホール/コールドロン」ベントフィールドで行われた。

現在、2社が海底の大量硫化物(SMS)の採掘を開始する後期段階に取り組んでいる。ノーチラス・ミネラル社(Nautilus Minerals)は、ビスマルク群島ソルワラ鉱床から採掘を開始する段階にあり、ネプチューンミネラル社(Neptune Minerals)は、ケルマデック諸島近くのケルマデックアークに位置するランブルIIウェスト鉱床の開発初期の段階にある。どちらの会社も、既存のテクノロジーをベースとして開発を進めている。ノーチラス・ミネラルは、提携してプレーサー・ドーム (今の一部バリック・ゴールド )、10の上に戻って2006年に成功した 世界初のROVに取り付けられた改造ドラムカッターを使用して、表面にメートルトンの採掘されたSMSを送る方法である[76]。2007年のネプチューンミネラル社は、世界で初めてROVに搭載された改造された石油産業の吸引ポンプを使用して、SMS堆積物サンプルを回収することに成功した[77]

潜在的な海底採掘は、採鉱機械からのダストプルーム(海底堆積物の巻き上げ)[78]、ベントの崩壊や再形成、メタンハイドレートの放出、海底地すべり、といった様々な要因により、熱水噴出孔周辺の環境や生態系に影響を与えうる[79]。そのため、採掘を開始する前に、事前に海底採掘の潜在的な環境への影響を明らかにし管理措置を実施するべく、上記の会社では様々な作業が実施されている[80]。しかしながら、今日までの研究では、ベント間で生態系研究の進み具合がまちまちであるため、非常に多くの努力が必要とされている段階に有る。最もよく研究され理解されている熱水ベントのエコシステムは、採鉱の対象となる生態系の代表ではないことに注意を払う必要があるからである[81]

海底の鉱物を利用する試みは、今まで数多くなされてきた。1960年代から70年代にかけて、深海平原からマンガン団塊のを回収する多くの研究が進められてきたが、その成功の度合いはさまざまである。しかしながら少なくとも、海底からの鉱物の回収は技術的には可能であることを、これらの研究は示した。ハワードヒューズの任務に特化した船であるグロマーエクスプローラーを使用して、ソビエト潜水艦K-129を引き上げようとするアメリカ中央情報局(CIA)による1974年の精巧な試みのカバーストーリーとして、マンガン団塊の採掘が行われた[82]。この事業はプロジェクト・ジェニファー(プロジェクトアゾリアン)として知られており、マンガン団塊の海底での採掘のカバーストーリーが、他の企業にこの試みを推進する原動力となった可能性がある。

環境保全

熱水噴出孔の保全は、過去20年間、海洋学ミュニティにおいて議論の主題となっている[83]。熱水噴出孔という非常に特異かつ希少な環境に対して、最も大きな被害を与えているのは、研究者自身である可能性が指摘されている[84][85]。ベントサイトを調査する研究者の行動について、なんらかの合意を築こうとする試みもなされ、実際に合意された行動規範も存在するが、正式な国際的かつ法的拘束力のある合意は未だに存在していない[86]

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク