生物

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生物(せいぶつ、: life, organism, living being, : Organismus, Lebewesen[1][2])または生き物(いきもの)は、生命現象を示す自然物である。動物菌類植物原生生物古細菌細菌などの総称。多くの場合ウイルスを含めないが、立場によっては含めることもある。

定義[編集]

ウイルスが生物なのか非生物なのか、生命を持つのか持たないか、については議論がある。(左)正二十面体様 (中)らせん構造 (右)無人探査機のような形状のファージ

「生命現象を示すもの」[1]というのが一応の定義であるが、これ以外の定義も存在し、統一は困難であるとされる[3]。生物が持ち、無生物が持たない能力や特徴としては一応自己増殖能力エネルギー変換能力自己と外界との明確な隔離があるとされる。これに進化する能力を加えることも多い[4]。また、生物は外界とのやりとりを絶やすことのない開放系を取りながら、恒常性(ホメオスタシス)を維持する能力を持ち、常に変化する[5]。生物はすべて細胞を基礎としており、細胞によって構成されていないウイルスなども寄生する細胞がなくては増殖できない[6]

生物と地球環境[編集]

現在の地球の大気組成は、窒素が78%、酸素が21%、二酸化炭素が0.036%というような構成になっているが、生物が現れる前は、二酸化炭素が多くを占める構成であった。その温室効果によって地表の温度も高かった。ここに生物が出現することによって、光合成による有機物の生成や、生物由来の石灰岩の生成がなされ、炭素固定がなされた結果、今のような酸素が多く含まれた窒素主体の大気組成となった(ただし、大気組成の変化は生物だけによるものではない。地球の大気#地球大気の「進化」も参照のこと)[7]

また、酸素の多い大気になったことによって、オゾン層が形成され、生物にとって有害な宇宙線や紫外線の遮断がなされ、生物の陸上進出が可能になった。また、海水中の酸素が増えることによって、海水に溶け込んだ鉄が酸化鉄となって沈降し鉄鉱床を堆積させた[8]

また、現在においては、人類が(大気組成の変化ほどではないにしても)地球の環境に様々な大きな変化をもたらせているとも言える。

地球上の全ての生物の共通の祖先があり(原始生命体共通祖先)、その子孫達が増殖し複製するにつれ遺伝子に様々な変異が生じることで進化がおきたとされている。結果、今日の生物多様性が生まれ、お互いの存在(他者)や地球環境に依存しながら、相互に複雑な関係で結ばれる生物圏を形成するにいたっている。ガイア理論(ガイア仮説)によると、このような地球は自己調節能力を持ったひとつの巨大な生命体である[9]

生物の分類[編集]

現在生きている生物は少なくとも300万種、おそらくは1000万種に達する[10]が、これらをその特徴に応じて大小の分類階級に所属させ、それによって生物を整理し秩序を与えることを分類という[11]。分類階級のうち、次に掲げるものは必ず設置される(基本分類階級)。すなわち大きいほうから順にである[12]

歴史的に最も古くは生物は植物動物からなるとした二界説(植物界、動物界)[13]があり、その後の生物観の進展とともに、三界説、五界説、八界説[14]などが登場した。現在、一般には生物全体をモネラ界原生生物界、植物界、菌界動物界に分類する五界説[15]が広く流布しているが、これはいわゆる人為分類である。分類学は系統を反映した自然分類を目指して現在も研究がされ続けている[16]。近年では、界の上の枠組みとして、ドメインが設けられていて、細胞特性に従い生物全体を真核生物細菌(バクテリア)、古細菌(アーキア)に分類する三ドメイン説が知られるようになってきている[17]

生物を成り立たせる生体物質[編集]

タンパク質脂質多糖核酸は生物の主要な構成成分である[18]

生きているという状態は、無数の化学反応の総和であるという見方もできる。これら化学反応がおこる場を提供しているのがである。生物は水の特殊な物性に多くの事を依存しており、極めて重要でかつ主要な構成成分である。どの生物でも、体の約70%は水であり、その他の物質が30%ほどを占める[18]

タンパク質は量の上で多数を占める生体高分子である。20種類のアミノ酸が通常100 - 1000個重合してタンパク質となる。あるものは細胞を支える骨格となり、あるものは生体内化学反応の触媒となる(酵素[19]

必要なタンパク質を必要な場所で産生するための情報を記録する生体高分子が核酸である。この情報は遺伝によって次の世代に引き継がれる[20]

ロバート・フックがコルクを顕微鏡観察して見出した小さな区画に小部屋(cell=細胞)と名付けたように、細胞とはある区画化された空間を指す。この区画をしているのが細胞膜であり、脂質がその主要な成分である。脂質はエネルギーとして効率が良く[21]、また貯蔵するのによい物質でもある。

生物は区画された空間ではあるが、完全に外界から遮断されているわけではない。外部からエネルギーを取り入れ内部で消費し、化学反応で物質を作り出す[5]。生物間でのエネルギーの流通に炭水化物は重要であり、主に植物光合成によって生産している。

地球外生命体[編集]

地球以外の天体に生物が発見された事例は記録されていない。だからと言って、地球のそれと同様の生物、あるいは全く異なった性質の生物が地球以外の場所に存在する可能性は否定できない。太陽系内においても、火星には生命が存在する可能性が指摘されている。2018年7月には、イタリア国立宇宙物理学研究所などからなる国際天文学チームがマーズ・エクスプレスの観測データに基づき、「火星の南極の厚さ1.5kmの氷床の下に幅20kmにわたって水とみられる層が存在する」との論文を発表した。この地底湖は、液体の状態が維持されていると推測されている。研究チームは、「生命にとって厳しい環境ながら単細胞生物が生存している可能性がある」と述べている[22]

系外惑星としては、2007年に発見されたグリーゼ581cに生物が生存可能な環境の存在が期待されたことがある(その後の研究によるとこの天体はハビタブルゾーンの外にある)[23]。2008年現在、太陽系外における[注釈 1]地球型惑星の観測成果も少しずつあがってきている。

有機物以外を構成要素とする生物も想定される。このような仮想理論は「代わりの生化学」と呼ばれている。とくにケイ素は、炭素と同じ族に含まれ化学的性質も似ていることから、「代わりの生化学」のベースとして比較的頻繁に言及される(ケイ素生物[24]

サイエンス・フィクションの世界では、ガス・電磁波から成る生物などが登場する。他に純粋知性、精神あるいは物質によらない意識が登場するが、現在のところ物質的な実体に依拠しない意識は確認されていない。

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 木星型惑星だけでなく

出典[編集]

  1. ^ a b 世界大百科事典 2007, p. 413.
  2. ^ 岩波生物学辞典 1979, p. 651.
  3. ^ 高井 2018, p. 148-149.
  4. ^ 小林 2013, p. 11-12.
  5. ^ a b 亀井 2015, p. 23.
  6. ^ 亀井 2015, p. 4.
  7. ^ 阿部豊、田近英一「大気の進化」『天気』第54巻第1号、日本気象学会、2007年、 7-8頁。
  8. ^ 川上 2003, p. 37.
  9. ^ ガイア仮説”. eic.or.jp. 一般財団法人環境イノベーション情報機構 (2009年10月14日). 2012年7月30日閲覧。
  10. ^ マルグリスetシュヴァルツ 1995, p. 15.
  11. ^ 岩波生物学辞典 1979, p. 1087.
  12. ^ 相見 2019, p. 120.
  13. ^ キャンベル 2007, p. 596-597.
  14. ^ T. Cavalier-Smith (1993). “Kingdom protozoa and its 18 phyla”. Microbiology and Molecular Biology Reviews 57 (4): 953-994. doi:10.1128/mr.57.4.953-994.1993. 
  15. ^ マルグリスetシュヴァルツ 1995, p. 7.
  16. ^ 相見 2019, p. 107-108.
  17. ^ C. R. Woese; O. Kandler; M. L. Wheelis (1990). “Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya”. Proc Natl Acad Sci U S A 87 (12): 4576–9. doi:10.1073/pnas.87.12.4576. 
  18. ^ a b 亀井 2015, p. 3.
  19. ^ 分子細胞生物学 2019, p. 5-6.
  20. ^ 分子細胞生物学 2019, p. 6-7.
  21. ^ 亀井 2015, p. 206.
  22. ^ 浜田祥太郎 (2018年7月26日). “火星、氷床の下に大量の水? 「生命生き残れる環境」”. asahi.com. 2021年6月26日閲覧。
  23. ^ W. von Bloh (2007). “The Habitability of Super -Earths in Gliese 581”. Astronomy and Astrophysics 476 (3): 1365–1371. doi:10.1051/0004-6361:20077939. 
  24. ^ Norman R. Pace (2001). “The universal nature of biochemistry”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 98 (3): 805–808. doi:10.1073/pnas.98.3.805. 

参考文献[編集]

  • 『世界大百科事典』15、平凡社、2007年9月1日、改訂版、413頁。
  • 『岩波 生物学辞典 第2版』山田常雄, 前川文夫, 江上不二夫, 八杉竜一, 小関治男, 古谷雅樹, 日高敏隆、岩波書店、1979年10月25日。
  • 木村資生『生物進化を考える』岩波書店〈岩波新書〉、1988年。ISBN 4-00-430019-3
  • 『生命の起源はどこまでわかったか―深海と宇宙から迫る』高井研、岩波書店、2018年3月15日。ISBN 978-4-00-006284-8
  • 亀井碩哉『ひとりでマスターする生化学』講談社、2015年9月24日。ISBN 978-4-06-153895-5
  • 小林憲正『生命の起源 宇宙・地球における化学進化』講談社、2013年5月20日。ISBN 978-4-06-153144-4
  • 相見滿『分類と分類学:種は進化する』東海大学出版部、2019年3月20日。ISBN 978-4-486-02161-2
  • リン・マルグリス、カーリーン・V・シュヴァルツ『図解・生物界ガイド 五つの王国』川島誠一郎, 根平邦人訳、日経サイエンス社、1995年2月3日。ISBN 4-532-06267-5
  • 川上紳一『全地球凍結』集英社〈集英社新書〉、2003年。ISBN 4-08-720209-7
  • H. Lodish、A. Berg、C. A. Kaiser、M. Krieger、A. Bretscher, H. Ploegh, A. Amon, K. C. Martin『分子細胞生物学 第8版』榎森康文, 堅田利明, 須藤和夫, 富田泰輔, 仁科博史, 山本啓一訳、東京化学同人、2019年12月6日。ISBN 978-4-8079-0976-6
  • Neil A. Campbell、Jane B. Reece『キャンベル生物学』小林興(監訳)、丸善、2007年3月30日。ISBN 978-4-621-07836-5

関連項目[編集]

外部リンク[編集]