リニアモーターカー

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1970年に開催された大阪万博で展示された国鉄のリニアモーターカーの模型や古河パビリオンを描いたシャールジャの切手。

リニアモーターカー (和製英語:linear motor car、略語:リニア) とは、リニアモーターにより駆動する鉄道車両のこと。超電導リニアの最初の開発者であった京谷好泰が名付けた和製英語である。

概要

リニア (linear) とはlineの形容詞で「直線の」という意味である。リニアモーターとは、円筒状の交流モーターを帯状に展開し、回転運動の代わりに直線運動をするようにしたものである。

軌道一次式リニアモータは、車両の電磁石と、軌道上の推進用コイルの間の、それらの間の反発力と吸引力により進む。一方、車上一次式リニア誘導モータの場合には推進用のコイルは軌道上には敷設されず、リアクションプレートのみである。

磁気で車体を浮上させて推進する磁気浮上式と、リニアモーターで車輪を駆動させる(浮上しない)鉄輪式がある。

日本では、日本の超伝導リニアやドイツのトランスラピッドが有名なこともあり、単に「リニアモーター」と言えば磁気浮上式のみを指すことが多い。

また、英語圏では磁気浮上式鉄道をMaglev(読み:マグレブ、磁気浮上を表わす“magnetic levitation”を略したもの)と呼ぶ。鉄輪式も含めた、日本語の「リニアモーターカー」に相当する言葉はない。

磁気浮上式リニアモーターカー

磁気浮上式リニア(超電導リニア L0系) - 鉄道の試験走行として世界最高速度の603km/hを記録している
磁気浮上式リニア(上海トランスラピッド) - 世界最高速の営業運転 (430km/h) を行っている
磁気浮上式リニア (HSST) - 愛知高速交通100L形(リニモ)

磁気浮上式リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)とは、磁力の反発・吸引力により浮上し、リニアモーターで駆動する移動車両の総称である。推進にはリニア同期モーターが用いられ、高速化が可能である。磁気浮上式リニアモーターカーは、浮上にも駆動にも磁気を使うので、原理設備の面から相性がいいが、駆動だけでなく浮上にも新技術を用いるため、技術的ハードルが高い。2つの代表的な磁気浮上式鉄道はそれぞれ技術が異なっており、日本の超電導リニアは反発式の電磁誘導浮上支持方式(EDS)、ドイツのトランスラピッドは吸引式の電磁吸引支持方式(EMS)である。浮上式車両であっても、U字形のガイドウェイを走行する超電導リニアの車両には、引込式のゴムタイヤ車輪を装備しており、停車・低速時や緊急停止時に使用する[1]

日本初営業運転は1989年(平成元年)の横浜博覧会におけるYES'89線である。運行されていたのは博覧会の期間中であったが、展示走行ではなく、磁気浮上式鉄道として運輸当局第一種鉄道事業・営業運転免許を得た旅客輸送であった。

現在営業運転を行っているものは、日本では愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)、その他の国では中国上海トランスラピッド韓国大田広域市エキスポ科学公園線のみであり、他は実験試験段階にとどまるか、すでに廃止されている。将来においては日本で、2027年を目処に首都圏品川駅) - 中京圏名古屋駅)間を結ぶ中央新幹線の営業運転開始を目指している。

世界で開発されている磁気浮上式リニアモーターカー

鉄輪式リニアモーターカー

鉄輪式リニア(横浜市営地下鉄グリーンライン)
鉄輪式リニア(広州地下鉄4号線
鉄輪式リニアのリアクションプレート(レール間に敷設されている) - 馬込車両検修場
リムトレン 鉄輪式リニア in さいたま博

鉄輪式リニアモーターカーとは、推進力(動力)には、リニア誘導モーターを使用し、車両の支持・案内には、レールと車輪を使用して走行する列車のことで、地下鉄で多く実用化されている。鉄車輪式、接地式ともいい、鉄輪式以外にゴム輪なども可能である。車体側の台車底面には、誘導電動機の固定子に相当する1次側コイルを取付け、地上側には、誘導電動機の回転子に相当する2次側のリアクションプレートを軌道中央に取付けて固定している。走行の際には、1次側コイルに3相交流を流すと、誘導電動機の回転磁界に相当する移動磁界が発生し、それによりリアクションプレートに渦電流が誘導される、それにより発生する磁界によって、車体とリアクションプレートの間で磁力の吸引・反発が働き車体に推進力を発生させる。また、集電方式には、直流1500Vの電力を架空電車線または剛体架線に流してパンタグラフにより集電する架空電車線方式を採用しており、車両の制御方式には、リニア誘導モーターを使用するため、3相交流を制御可能なVVVFインバータ制御を採用している。

以下のような長所がある。

  1. リニアモーターは非常に薄いため通常の電車よりも台車を薄くでき、車両断面を小型化できる。このためトンネル断面を小さくでき、建設費を削減可能(ミニ地下鉄)。
  2. 駆動力を車輪とレールの摩擦に頼らないため、急勾配での走行性能が高く[2]、急曲線での走行が可能である[3]。大都市では地下鉄路線の過密化により直線的路線空間の確保が困難になっており、急勾配・急カーブを多く持つ線形にせざるを得ないが、そのような場合に有効である。
  3. ギアボックス、撓み継ぎ手等の可動部分が無いので保守が容易。

一方、以下のようなデメリットがある。

  1. リアクションプレートと車両側の電磁石との間隔(ギャップ)が狭い(12mm程度)ため、地上区間や駅部ではゴミなどが挟まりやすい。
  2. 従来の粘着式推進に比べるとリニア誘導モーター固有の損失、及び、一次側コイルとリアクションプレート間の隙間が従来の回転式の誘導電動機に比べ大きいのでエネルギーの損失が大きく(磁界の強度は距離の2乗に反比例する)効率が低い、そのため、単位輸送量あたりの消費電力が従来型に比べ大きい。

日本の鉄輪式リニアモーターカー

世界の鉄輪式リニアモーターカー

その他、香港の地下鉄などでも採用計画があるとされる。

空気浮上式リニアモーターカー

駆動方式の種類

リニアモーターも通常のモーターと同様、以下のように分類できる。

  • リニア同期モーター (LSM) - 軌道にも電磁石または永久磁石を並べなくてはならないため、軌道敷設・保線のコストがかさむ。効率や出力には優れる[8]
  • リニア誘導モーター (LIM) - 車上一次式の場合、軌道側には電磁石が不要で、「リアクションプレート」と呼ばれる単なる金属板ですむ。LSMと比較した場合、効率が低い。ただし、車上一次式であれば軌道上にコイルを敷設する必要がなく、軌道上のコイルを励磁必要がないので推進効率は同種の推進方式のミニ地下鉄と同水準である[9]
  • リニア整流子モーター - エネルギー効率はLSMよりも高いが、機械的接触がある、寿命が短いなどの問題があるため、実用レベルではほとんど使われない。

脚注

  1. ^ 停車・低速時においては磁力による浮上力が得られないため、引込式の車輪が車体から降りて車体を支持するが、速度が増すと、磁力による安定な浮上力が車体に得られ、浮上走行が可能となるため、車体を支持する引込式の車輪を車体に引込み、その後、浮上による高速走行となる。
  2. ^ 最大で60‰まで可能。
  3. ^ 本線で曲線半径100mまで可能。
  4. ^ 新交通システム. 保育社. (1990). p. 72. ISBN 9784586508037 
  5. ^ 当時のリニアモーターヤード:1982年塩浜操(2009.4 急行越前の鉄の話)
  6. ^ この時のリニアモータの経験が後に役立った。
  7. ^ 電車線構造研究室(公益財団法人鉄道総合技術研究所
  8. ^ ただし、軌道一次式、車上一次式にかかわらず、軌道側の磁石を励磁しなければならないので効率は車上一次式よりも劣る
  9. ^ リニア誘導モータには「すべり」があり、反発にも吸引にもなる。この位相を切り替えるタイミングを速度に応じて上手に切り替えるように制御している。

参考文献

関連本・参考図書


関連項目

外部リンク