混血

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

混血(こんけつ、Mixed blood)とは、何らかの分類上において、異なると考えられている枠組み(人種民族等)に属する同士の交配または性交の結果によってが生まれること。またはその生まれた子を指してこう呼ぶ。

特に人間)を指してこのように呼ぶ場合は蔑称として使われる危険性が伴う[1]

生物においてこのように言われる場合は交雑種(雑種)またはあいのこといい、家畜の場合は人間にとって都合のいい形質を作るために、人為的に行われる。

概説[編集]

人間の場合は人種または民族の異なる父母の間に生まれた子を指してこのように呼ぶ。人種や民族といった形質や文化を、血液遺伝子)に象徴させた語で、「血と血が混ざり合う」というイメージで捉えられることが多い。違う人種や民族の父母の間から生まれた子供を混血児という。動物の場合も同様である。

一般に生物は、近隣種を除いては交雑できないか、子が生まれても不妊になる場合が多い。これは生殖的隔離と呼ばれ、配偶行動、生殖器の構造、精子卵子の表面にあるタンパク質によるカギ構造など、多層的な仕組みに由来するとされる。ただ亜種のような近いレベルでは交配が可能で、生まれた子には双方の遺伝的性質が現れる場合が多い。

人間社会における混血[編集]

人間における混血とは、人種や民族などの単位で、異なるグループに属する者同士を親として持つ人々のことを指す。

現在残っているヒトはすべて同じ生物種(ホモ・サピエンス)であり、完全な交配が可能である。このため人の混血とはあくまでも文化的な概念と考えられる。

人間社会は古くから人種差別民族紛争民族差別などの問題を持っているが、人種の違いはわずかな遺伝形質(皮膚の色髪の色・顔付き・体格といったような物)の組み合わせによる差異であり、民族は本質的に文化によって構築され、区別されている。

しかしヒトは社会的動物であり、各々の人種・民族の単位で結束が固い社会にあっては、または封建的な社会において所定の氏族の政治的・社会的地位の格差がある場合などには族内婚で生まれた子供に比して、これら混血の人々が差別の対象とされやすい。特に双方の人種・民族の間に深い軋轢(あつれき)のある社会においては、彼ら混血の立場にある人の社会的地位が問題になる場合がある。一方で、相互の人種・民族間において友好関係がある場合や、一方の人種・民族にもう片方の人種・民族が憧憬(どうけい・しょうけい、心奪われるほどにあこがれること)を抱いている場合、その憧憬を抱く側が、混血者を尊重や憧憬の対象と見なす場合ある。

また、2種類の人種・民族だけではなく何種類の人種・民族から生まれる場合も混血という。特に古くから国際的な交流ないし交易があった地域や、または他民族の流入が激しかった地域では、人種・民族などの混乱や交雑がみられる。この場合は、自らの民族的ルーツを模索し、自らの価値観(好み)に沿う民族文化を選択するケースもある。

混血の対義語は純血である。この表現もまた人種や民族の違いを象徴させた語であるが、世代三代まで遡るという考え方もあるものの「純粋な人種・民族」という事柄の定義は困難である。民族主義ナショナリズムと結びついた用い方がされる場合がある。

日本社会における混血[編集]

日本では一般に「ハーフHāfu)」と呼ばれる。「ハーフ」という呼称は、横浜で生まれ育った作家、北林透馬が昭和5年(1930)に発表した小説『街の國際娘』で初めて使用された[2]。戦後、1960年代からは横浜以外の地域にも広まり始め[3]、当時のザ・ゴールデン・カップスやその後1970年代に活躍した「ゴールデンハーフ」というアイドルグループの名称から全国的に広まったとされる。そのため、初期は「ハーフ」といえば女性を指していると解する人もいた。主に日本籍者と外国籍者の子供、その中でも日本籍者と欧米白人の人々を指す場合が多い。。

日本において特に社会的に注目されるようになったのは、戦後、連合国軍兵士との間に生まれた人々(GIベビー)である。当時は「混血児」や「あいのこ」と呼ばれ、その母親が水商売や当時パンパンと言われる売春婦を行っている場合のみならず、占領軍施設や占領軍向けの小売店などで働く女性が、兵士と自由恋愛の末に出産をしたケースも含めて、周囲から好奇の目を向けられた。やがて、差別やいじめの起因となることから「混血児」という呼称の使用は避けられるようになった。1972年沖縄県が日本政府の施政下に戻ったとき、ここでも「混血児」が注目された。以降、軍事基地と関わる社会問題として語られることが多く、その文脈で語ることは沖縄の当事者にとって不名誉な烙印ともなっている。

1980年代初頭には、無国籍問題などで注目されたが、1984年国籍法改正により、無国籍問題として注目されることはなくなった。1980年代以降、国際結婚で生まれた子供ということから、一部から「国際児」という呼称も使われ始める[4]が、現在は教育学研究者が主に用いている。

1990年代に入り、「ハーフ」という呼称の語源に「半分」という意味があることから、差別用語ではないかとの意見が現れた。そして、2つのルーツ(出自)を持つという意味から「ダブル」という呼称を採用しようとする動きが一部の親などから出始めた。しかし、「ダブル」と言う呼び方は、「二倍の存在であるとはおこがましい」「複数のルーツを持たない人を「シングル」として逆差別している」「実際には一つの文化のもとに育った人や、2つ以上のルーツを持つ人に当たらない表現である」「「ふたつの純血があわさったもの」、というニュアンスへの違和感[5]」、この呼び名は人によってはむしろプレッシャーとなり得る[6]などの批判がある。そのため英語圏で用いられるmixed-racemixed-cultureを起源とする「ミックス(mixed)」を使用する人も増えている(バングラデシュ人の父親と日露クォーターの母親を持つモデル・タレントのローラは、「マッシュアップ」と称している)が、特別な呼称を付けること自体に批判もある。

1998年、沖縄県にアメラジアン・スクール・イン・オキナワ(AASO)が出来たことにより、それ以降、在日米軍の関係者と地元女性との間に生まれた子供について「アメラジアン(アメリカン+アジアン)」と呼ばれることがあるが、これも特別な呼称を付けること自体に批判がある。なお、「ハーフ」と呼ばれる人を片親に持つ人は「クォーター(quarter)」とも呼ばれる。

著名人としてはオペラ歌手声楽家である藤原義江が戦前から国内外で活躍しており、また戦後生まれでは山本リンダ草刈正雄などが挙げられる。モデル業界では1960年代以降に多くの割合で存在し、タレントとしても活躍している人も多い。このような状況から、日本国内で、とりわけ欧米ルーツの人々は美男美女だと考えられている。しかし、ドイツ人の父と日本人の母を持つエッセイストサンドラ・ヘフェリンは「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」というタイトルを自著につけ、その偏見に対して意義申し立を行っている。

ヘフェリンによれば、「ハーフ」と呼ばれる人々に対しては「容姿端麗」、「日本語も英語も話せる」、「海外と日本を行ったり来たりしている」、「インターナショナルスクールに通っている(実際は各家庭の方針や経済力による[7])」、などといったがある[8]。しかし、実際は個人により語学力も異なり[9]、特に容姿についてはメディアに登場する「ハーフ・タレント」は、一部の例外で、多くの場合は上述のイメージに当てはまらないという[10]

外見的に特徴のある場合、警察官による職務質問に会いやすい[11]、両親の馴れ初めを聞きたがる(ヘフェリンによれば、通常、友人の両親の馴れ初めなどは知らなくて当然であるにもかかわらず)[12]、互いに日本語で散々会話を交わしたあとに「日本語は喋れるの?」などと言う質問をされる[13]SNSでやたらに英語混じりのメッセージが来る[14]、日本語で質問しているのに英語で返答される[15]、銀行でローンを組む際に不審者扱いされる[16]、日本では「夏休みは某国に帰る」と言われ、某国では「卒業後は日本に戻るの?」と言われ、どちらの国にも「こっち側の人間」と認めてもらえない[17](ただしこれは「どちらの国にもただいま、といえる」と言う、ポジティブなとらえ方もできる[18]、「ハーフなのに金髪じゃないんですね」などと言われる[19]、ロシアにルーツのある人がオーストラリアフェアにかり出され、オーストラリア人のふりをすることを強要されるようなこともあった(その際、英語での応対を求められたが当該人物は英語などは喋れなかった)[20]。男性が銭湯に行ったときに、股間に過度の注目が集まる[21]などがある。

また、日本で生まれ育った女性が母親になった場合、世間が抱くイメージ、例えば「容姿端麗」に影響され、我が子がそのイメージに合致しなかった場合、母親の言動が子にコンプレックスを植え付ける場合もあるという[22]。一方、その容姿を生かして牧師のアルバイトを行うものもいる[23]。ヘフェリンは、かつて企業に勤めていた際、「日本人的な名前(田中純子と仮称)」を使用していたため、取引先相手との初対面時、その姓名と容姿との差に驚かれたことがあったため、「田中サンドラ純子」(仮名)と名乗っていた[24]

学校においては、校則に髪の色が黒である規定があることで校則違反を疑われたり、いわゆる天然パーマについても生来のものと証明する必要があった者もいるという(なお、成長に伴いある時期より天然パーマの度合いが加速する場合があるが、それに理解を示さない学校・教師もいる)が、これらは差別やいじめを助長するもの人権問題人種差別にあたる。また、外国人の母親が日本風の手作り弁当に慣れていない場合、その弁当が原因でいじめが生じることもあるという[25]

「ハーフ」という呼称で呼ぶ対象は、国籍を基準にしたときは中国、フィリピン、韓国・朝鮮、タイ、ブラジルなどにルーツのある人々も含まれるが、へフェリンが例証したように、多くは日本籍者と欧米系白人の結婚から生まれた人々が「ハーフ」と呼ばれている。

割合など[編集]

厚生労働省の調査では、2006年に生まれた新生児約110万人のうち、少なくとも片親が外国国籍の子供が35651人と約3.2%を占めることが、2008年8月4日の東京新聞などで報道された。その中で、両親とも外国国籍の子供は約9000人とあり、これを差し引いた約26600人の新生児が日本国籍と外国国籍の両親との間に生まれた子供ということになる。夫が日本人、妻が外国人という組み合わせが約36000組と圧倒的に多く、うち妻の国籍は中国、フィリピンがそれぞれ3分の1。6分の1が韓国・朝鮮で、以下タイ、ブラジル、アメリカと続く。[26]

なお日本国籍は父母のいずれかが日本人であれば取得できるが、国籍法により、他国の国籍を離脱する努力義務を負う(罰則はない)。同時に外国の国籍を持ちたい場合には、対応は当該国家により様々である[27]

世界における混血[編集]

日本社会では単に「ハーフ」と呼ばれる人々も、世界(ここでは主に欧米圏)では様々な名称で呼ばれ区別される。日本社会で一般的に「ハーフ」と呼ばれる日本(アジア)人と欧米系白人の混血は「ユーラシアン」と呼ばれ、欧米系白人とアフリカ系黒人の混血は「ムラート」呼ばれている。また、欧米系白人(特にスペイン人)とインディオとの混血は「メスティーソ」と呼ばれ、ラテンアメリカでは人口の多くをメスティーソが占める国も少なくない。同じくラテンアメリカでは黒人とインディオの混血は「サンボ」と呼ばれる。

人間以外の混血[編集]

人間以外、特に家畜作物では、混血(交雑)は様々な優れた形質を家畜や作物に与えようとして(品種改良)、実験的交配が繰り返されてきた。この中には生物学的な問題を無視して、異なる科や属に位置する種族どうしを掛け合わせようとした歴史もある。

掛け合せによって生まれる動(植)物の第一世代を遺伝学でF1(エフワン)世代という。さらにその中で両親の(人間にとって)好ましい形質を受継いでいるものをハイブリッドと呼ぶ。しかし一世代限りで次世代が生まれない(交雑種同士では交配できない)というものも見られる。

古くからマガモアヒルを掛け合わせたアイガモが家畜として知られており、家畜ではないがトラまたはヒョウライオンを掛け合わせた動物が作られている(→レオポンライガータイゴン)。また、ペットのイヌではミックス犬としてシーズー系やマルチーズ系など様々な犬種が存在する[28]

近年ではバイオテクノロジーの発達もあって、遺伝子レベルで人為的に操作して結合させたキメラも、現実的な話になってきている。

ただ、フランケンシュタイン・コンプレックスに見られるようなテクノロジーに対する警戒論も強く、むやみな他種族間の交配を警戒する声はバイオテクノロジー発達以前からある。

その一方で人為的にではなく、予期せずして交雑が発生する場合もある。イエネコヤマネコは極めて近い種であるために交雑が発生し得る。これらでは野猫の問題が良く知られており、野生動物在来種としてのヤマネコを保護する観点から、人為的に持ち込まれたイエネコを捕獲・駆除しなければならないという状態にあり、捕獲後の扱いに関して、これに反対意見を述べる者もあって社会問題にもなっている。このように、在来種の遺伝子プールが、外部から流入した外来種との交雑によって変異することを生物学的保守主義者が批判して遺伝子汚染という。

ハイブリッドという言葉は自動車のハイブリッドカーのように産業科学の分野でも使われ、こちらが一般的になってきている。

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 英語圏ではミックス(mixed)という呼ばれ方をし、これは半分を意味する日本でのハーフより差別的でないのではとされる。いずれにしても、呼称にかかわらず特別に区別すること自体を問題視する意見もある。
  2. ^ 岡村 2013, p. 36.
  3. ^ 山崎洋子 (2001年2月10日). “戦後横浜 華やかな闇”. 有隣堂. 2009年10月10日閲覧。
  4. ^ 昭和55年10月27日の参議院での「沖繩県における国際児(混血児)に関する質問主意書」(喜屋武眞榮)
  5. ^ 李 2008, p. 25.
  6. ^ ヘフェリン 2012, p. 15.
  7. ^ ヘフェリン 2012, p. 44-47.
  8. ^ ヘフェリン 2012, p. 3,28-29.
  9. ^ ヘフェリン 2012, p. 6.
  10. ^ ヘフェリン 2012, p. 28-30, 33.
  11. ^ ヘフェリン 2012, p. 52.
  12. ^ ヘフェリン 2012, p. 55.
  13. ^ ヘフェリン 2012, p. 58.
  14. ^ ヘフェリン 2012, p. 62.
  15. ^ ヘフェリン 2012, p. 67.
  16. ^ ヘフェリン 2012, p. 80-83.
  17. ^ ヘフェリン 2012, p. 200-207.
  18. ^ ヘフェリン 2012, p. 214-217.
  19. ^ ヘフェリン 2012, p. 34.
  20. ^ ヘフェリン 2012, p. 176-177.
  21. ^ ヘフェリン 2012, p. 5.
  22. ^ ヘフェリン 2012, p. 86-89.
  23. ^ ヘフェリン 2012, p. 180.
  24. ^ ヘフェリン 2012, p. 182-184.
  25. ^ ヘフェリン 2012, p. 157.
  26. ^ 30人に1人 親が外国人 06年 日本生まれの子 厚労省調査 過去最高に(東京新聞、2008年8月4日)
  27. ^ ヘフェリン 2012, p. 123-127.
  28. ^ ミックス犬図鑑サーチ
  29. ^ BC級戦争犯罪の廉で処刑された朝鮮人の父と、家族のため苦界に身を沈めた日本人の母との間に生れた人物の生涯が描かれている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]