ネグロイド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ネグロイド (Negroid) は、人種のひとつ。黒人黒色人種などとも言われる。ラテン語のniger(ニゲル、黒)に由来するが、英語風にニグロイドともいう。

現生人類は、生物学ホモ・サピエンスというただ一種に属している。 ただし、過去の自然人類学文化人類学では、及びネグロイド、および北アフリカヨーロッパ西アジアアラブ南アジアなどに見られるコーカソイド(白色人種)、オセアニアに見られるオーストラロイド、東アジア・東南アジア・ポリネシア・南北アメリカ大陸などに見られるモンゴロイド(黄色人種)を4大人種として分類していた。


目次

[編集] 区分

世界の18人類集団の遺伝的近縁関係を23種類の遺伝子の情報をもとに近隣結合法によって作成された「人種」の遺伝的近縁図。2002年

近年のDNA分析の成果によれば、現生人類発祥の地はアフリカにあるとされ、ネグロイドはその直系の子孫とされる。また、人種間の遺伝的距離を計ると、人類集団はアフリカ人(ネグロイド)のグループ、および西ユーラシア人(コーカソイド)とサフール人(オーストラロイド)と旧来モンゴロイドとされた東ユーラシア人(東南・東アジア人)と南北アメリカ人(ネイティブアメリカン)のグループの、二つのグループに大別することができるとされる。[1]

なお、の色はヒトという種の集団の分化の過程で選択圧を受けやすく最も短期間に変化する形質の一つであり、肌の色の類似または相違でいわゆる「人種」を区別することはできない。肌の色を発現させる遺伝子についても同様である。また、言語などの文化をも基準とした「民族」と、生物学的な特徴に基づく「人種」の概念は明確に区別されなければならない。

図はDNA分析により証明された人種の系統である。
アフリカン(ネグロイド)からコーカソイド(白人)が分岐し、コーカソイドからオセアニアン(オーストラロイド)・イーストアジアン(モンゴロイド)が分岐、そしてイーストアジアンからネイティブ・アメリカンが分岐した。

[編集] 伝統的な区分

伝統的な区分によれば、黒人は更に、

  1. メラノ・アフリカ人種
  2. エチオピア人種
  3. ネグリロ人種 (Negrillo)
  4. コイサン人種

などに分けられてきた[2]

ネグロイドをコンゴイドカポイドの二人種にわけ、これとモンゴロイドコーカソイドオーストラロイドを合わせて5大人種とすることがある。また、ネイティブ・アメリカンをモンゴロイドから分け、6大人種とする場合もある。

コンゴイドとカポイドは身体的特徴だけでなく、言語及び(欧米化以前の)生活様式によっても区分された。

[編集] ネグロイド差別の起源

中世イスラムの歴史家や地理家が描く黒人は非常に偏見に満ちたものである。

11世紀の歴史家バクリーは「スーダン人たちは人間よりも動物に近く、彼らはもっぱら物欲に興味を持ち、しばしば食人を行い、ほとんど羞恥心を持たない」と記している。

12世紀の地理学者イドリースィーは「スーダン人たちは最も堕落した人々であるが、子供を生む能力は最もすぐれている人々である。彼らの生活はまるで動物のようで、彼らは物と女以外の欲求以外になんの関心もしめさない」と記している。

14世紀の旅行家イブン・バットゥータは「彼らの教養の無さや白人に対する無礼な態度をみて、つくづくこんなところまで来てしまったことを後悔した」と記している。

中世イスラムの最も偉大な歴史家イブン・ハルドゥーンは「黒人の大半は洞穴や密林に住み、草を食い、野蛮のままで社会的集団生活をせず、たがいに殺して食べる。黒人は一般に軽率で興奮しやすく、非常に情緒的な性格で、メロディを聞けばいつでも踊りたがり、また、黒人はどこにおいても愚か者とされている」と記している。

中世イスラム世界で描かれているネグロイドの姿は今日の英米にある偏見と似通っている。これらイスラムの学者の著作は早くから翻訳され、ヨーロッパに伝えられたことから、近代以降のヨーロッパ社会に形成されるネグロイドに対する歪んだ認識のひとつのルーツとして考えられる。[3]

[編集] オーストラロイドやネグロイドの違い

南インドドラヴィダ人オーストラリアアボリジニメラネシアンなどオセアニアの先住民たちは、その肌の色の濃さ、メラネシア人などに関しては巻き毛の頭髪の形状からも黒人と思われる場合もあるが、彼らはオーストラロイドである。またポリネシアンミクロネシアンはモンゴロイドである。同様にインド亜大陸で人口の70%を占めるアーリア人も同じく肌の色から黒人だと思われる場合があるが、彼らの場合はコーカソイドである。いずれもアフリカ人とは遺伝的に異なる集団である。

[編集] 呼称とポリティカル・コレクトネス

米国などではニグロイド(ネグロイドの英語発音)という言い方は差別用語とされ、最も丁寧な呼び方として「アフリカ系の○○ (African-○○)」を使うことがある。例えばアメリカ人であった場合、アフリカ系アメリカ人 (African-American) という。ネグロイドは元来、人種に対する呼称であり、差別的な意味合いは主に黒人奴隷を使用していた欧米諸国の社会的要因から派生したものである。ニグロと縮めて呼ぶのは前時代的な語法であり、現在では明らかな差別用語とされている。さらに「ニガー (nigger)」 とした場合、その差別的意味は強まる。(This word is insulting to Americans of African descent.)

米国以外の英語圏では、ブラック・パーソン(black person、複数形はブラック・ピープル - black people)と呼ぶのが社会的、政治的に正しいとされている。これは、南アジア、カリブ、太平洋諸島などアフリカ以外の地域にも肌が黒い人種が存在し、彼らを誤って「アフリカ系」と呼んでしまうことを避けるためである。「ブラック」と縮めた場合は、非公式な意味合いが強まる。

最近の米国では「アフリカ系」がよく使われるが、米国においても、必ずしも「ブラック」という呼称が差別用語にあたるとは限らない。実際に黒人は自分達のことをブラックと呼ぶことも多く、テレビのニュース番組でも「ブラック」という言葉はしばしば用いられる。ただし、明確な差別用語であるニガーという呼称も、アフリカ系同士の間では、仲間意識を込めた呼びかけとしても使用されることからもわかるように、こうした用語をアフリカ系の人が使用する場合と他人種の人が使用する場合では意味合いや受け取られ方が異なる。白人黄色人種が用いる際は用いる文脈に考慮し慎重を期さねば差別語的意味を汲み取られる可能性もあることに注意する必要がある。すなわち「ブラック」という呼称はある意味で転換されたスティグマであり、当該の主体が用いる場合と、第三者が用いることには全く意味が違うことに留意すべきである。

さらに米国における黒人自らの文脈で「ブラック」を用いた例として、黒人公民権運動の中で用いられてきたBlack is Beautifulというスローガンは象徴的である。同様に黒人コミュニティに関係した団体組織の多くが自ら名称に「ブラック」を用いている。また『Black Hair Style』という黒人専門のヘアスタイル情報誌や、『Black Enterprise』といった黒人専門のビジネス雑誌の存在もこの用例であろう。

日本では「黒人」の言い換え語として研究者は「アフリカン・アメリカン」を使うことが多いが、アフリカ人全てが黒人ではないため、この用語には疑問も出ている(藤田みどり『アフリカ「発見」』岩波書店など)。

[編集] 脚註

  1. ^ 斎藤成也『DNAから見た日本人』筑摩書房 ちくま新書 525 ISBN 978-4480062253
  2. ^ 米山俊直『アフリカ学への招待』日本放送出版協会 NHKブックス 503 1986年6月 ISBN 9784140015032
  3. ^ 佐藤次高鈴木董『都市の文明イスラーム 』講談社現代新書―新書イスラームの世界史 1993年9月 ISBN 4061491628

[編集] 関連項目