東京都におけるLGBTの権利

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東京都の旗東京都におけるLGBTの権利
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同性間の
性交渉
1880年から合法
性自認/性表現 2004年に、性転換手術不妊手術性別適合手術)を受けた当事者に対する性別の変更を国として許可
同性間の
関係性の承認
東京都としては2022年に制定、市区町村の一部では2015年から
同性カップルによる
養子縁組の引受
制度なし
差別保護 性的指向とジェンダー・アイデンティティ

本項では、東京都におけるLGBTの権利(とうきょうとにおけるエルジービーティーのけんり)について解説する。

東京都は、レズビアンゲイバイセクシャルトランスジェンダーLGBT)が有する市民的権利についての法整備が、日本の自治体のなかで進んでいる地域の一つである。東京都世田谷区渋谷区は、同性カップルパートナーシップ制度条例によって整備した最初の自治体であり、2022年11月には都道府県として10番目に同制度を導入した。また、さかのぼること2018年には、東京都は都道府県としては初めて「性的指向と性自認を理由とした差別を禁止する条例」を制定した。

同性カップルに対する法的承認[編集]

自治体によるパートナーシップ制度[編集]

2015年4月1日、東京都の渋谷区は、同性カップル向けに「パートナーシップ宣誓制度」、または「パートナーシップ証明制度」を提供することを公表した。この証明は法的には結婚証明書英語版と認められないものの、病院での面会や入居などに関する民事問題について効力を発しうる[1][2]。渋谷区役所は、同年10月28日から交付の受付を開始した[3]。渋谷区の動向をうけ、これらの問題について協議するため、日本の政権与党である自由民主党内で「家族の絆特命委員会」が2015年3月に組織された。本件に関連して、法務省の官僚は「同性間のパートナーシップを認めることを禁じる法制になっていないので、(条例案は)法律上の問題があるとはいえない」との見解を示した[4]。同年7月世田谷区は、パートナーシップ証明書を渋谷区と同時の11月5日から発行することを公表した[5][6][7]

2021年5月19日、足立区江戸川区渋谷区世田谷区豊島区中野区港区国立市小金井市国分寺市府中市文京区、以上東京都の12の自治体は、相互にパートナーシップ制度について情報交換を行う連携組織「東京都パートナーシップ制度導入自治体ネットワーク」を立ち上げた[8]北区[9]荒川区[10]多摩市[11]武蔵野市[12]でも同様の制度がすでに整備されているほか、町田市では2023年3月を目標に同制度の導入が進められ[13][14]、同年4月1日にパートナーシップ宣誓制度を盛り込んだ条例を施行する予定[15]

東京都によるパートナーシップ制度[編集]

2021年6月7日、東京都議会はパートナーシップ制度創設の請願を、本会議において全会一致で採択した[16]。この請願は、LGBT活動家らによって呼びかけられ、1万8千筆の署名を集めた。東京都の小池知事は同制度への賛意を示したうえで、「都としてどのような形で進めていくのか、さまざまな調査やすでに実践している自治体も参考にしながら対応していく」とコメントした[17]。翌2022年6月15日、東京都議会は「東京都パートナーシップ宣誓制度」を盛り込んだ改正人権尊重条例を、全会一致で可決させた[18]。同制度は、企業を始めとした団体に対し、同性パートナーシップを婚姻と同様に扱うよう命ずるもので、宣誓したカップルには家族向け住居への入居や病院での面会権が認められるほか、養子が世帯の一員として尊重される。登録を行う条件として、両者のうち片方が東京都の住民、あるいは通勤先が東京都でなくてはならない。東京都パートナーシップ宣誓制度は同年10月10日に受付を開始し[19][20]、11月1日から正式に開始された[21]。これにより、東京都は、都道府県としては10番目に同様の制度を導入した、日本国内で人口最多の自治体となった。東京都は2022年12月31日の段階で、407組の同性パートナーシップ宣誓を、2023年1月31日現在では516組の宣誓を受理している[22]。東京都はまた、2015年以降に同様の制度を設けた都内各市区とのあいだに連携協定を結び、これらの市区で登記されたパートナーシップを都内全域でも承認・確認が行えるよう整備した[23]。なお、2023年現在、都は他府県とのあいだには連携協定を結んでいない。

訴訟[編集]

同性婚訴訟[編集]

同性カップルの不貞行為に関する訴訟[編集]

2020年3月4日、東京高等裁判所は、同棲する同性カップルには異性間の内縁関係(事実婚)と同等の法的利益が認められるべきとする判決を下した。本判決により、原告の同性間の関係に正当性が認められ、これまで事実婚に限られていた、7年間連れ添ったレズビアンのパートナーに対する不貞行為の訴えも同様に認められることとなった[24]最高裁判所は2審判決を支持し、2021年3月18日、不貞行為を働いた女性側の上告を棄却した[25]

養子縁組と家族計画[編集]

日本国内では現在、国単位では同性カップルが里親として養子を迎えることは法的には明確に認められていない。レズビアンのカップルや独身女性が体外受精人工授精を行うことも認められていない[26]

2021年4月、足立区は東京都の区としては初めてパートナーシップ・ファミリーシップ制度を設けた。同制度は、同性カップルの子どもを含めて家族と認めるもので、パートナーにも子どもの医療に関する決定権が与えられるほか、幼稚園・学校への送迎が認められる(以前は実の両親にのみ送迎が認められていた)。世田谷区は2022年11月、既存のパートナーシップ制度を改正し、パートナーの子どもを含めた家族関係の宣誓が可能とした[注釈 1][27]

都のパートナーシップ証明書は、パートナーシップに子どもの名前を含められるよう設計されている。家族内の子どもに対して同性パートナーが有する権利と責任の範囲は、まだ正式には決定されていない。

差別の禁止とヘイトスピーチ規制[編集]

2018年10月、東京都議会は、雇用の場も含めた、性的指向と性自認を理由としたすべての差別を禁止する条例、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」[注釈 2]を制定した[28]。2019年4月に施行された本条例は、都に対し、LGBTに対する関心を高め、「人権の価値を都の隅々にまで根付かせるために必要な施策を行う」ことも義務づけた。同条例はまた、公共の場でヘイトスピーチをおこなうことを違法とした[29][30]。これに先立ち、渋谷区と世田谷区はLGBT当事者に対する保護を明記した条例を制定している[31][32]

1990年4月、東京都教育委員会は、管理下の「青年の家」について、同性愛者の団体「動くゲイとレズビアンの会」は「秩序を乱す恐れ」があるなどとして、その宿泊利用を認めない不承認処分を決定した。これに対し同団体は、「差別的な取り扱いであり人権侵害にあたる」として、翌年2月東京都を提訴、約3年間の法廷闘争の末、1994年3月に団体側が完全勝訴した。同年4月、東京都は東京高裁に控訴するも、1997年9月団体側が再び勝訴、これに対して都側は上告せず、原告団体の勝訴が確定した。この通称「府中青年の家」裁判は、東京に留まらず広く日本全体に、同性愛者の人権を社会や政治の中に定着させる嚆矢となった[33]。またこの判決は、政府主導の他の分野における差別には影響を及ぼしていないものの、民事裁判において市民権に関する判例として参照されている[34]

LGBT史[編集]

政治[編集]

LGBTと政治に関する歴史において、東京都は数々のできごとの舞台となってきた。

2003年、世田谷区議会選挙に出馬した上川あやが、トランスジェンダーを公表した候補者として、日本史上初めて選挙に当選した。上川は無所属で出馬したが、虹と緑(のちにみどりの未来として発展解消)の支援を受けて当選した[35]

2010年、当時の東京都知事石原慎太郎は、ゲイ・レズビアンについて「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」と発言したことで、国際的な批判を浴びた[36][37]

2011年には、日本史上初めてオープンリー・ゲイの議員が2名選出された。一人目である石川大我豊島区議会選挙に出馬し、当選した。石川は、2002年に出版した著書、『ボクの彼氏はどこにいる?』でカムアウトし、日本国内に住む男性同性愛者向けの支援をおこなうNPOを組織した。二人目である石坂わたるは、同時期に行われた中野区議会選挙に出馬し、当選を果たした。

石川はまた、2019年に行われた第25回参議院議員通常選挙立憲民主党から出馬し、オープンリーゲイとしては初めて参議院議員に選出された[38][39]。当選後、石川は、任期6年以内に同性婚を合法化し、差別禁止法を制定させることを公約として誓った[40][41][42]

2017年の第48回衆議院議員総選挙期間中、当時の東京都知事の小池百合子によって新たに結党した希望の党は、LGBTに対する差別の解消を公約とした[43]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 本改正では、同制度の対象範囲が同性パートナーからいずれかがLGBTQ当事者であるパートナーである者同士に拡大したほか、パートナーの実子・実親を含めたファミリーシップ、通称名による宣誓証明書の発行などが認められるように成った。
  2. ^ 平成30年東京都条例第93号。平成30年(2018年)10月15日公布。

出典[編集]

  1. ^ Master Blaster. “Japan government hard at work trying to prevent Shibuya Ward approving same-sex marriages”. Rocket News 24. http://en.rocketnews24.com/2015/03/26/japan-government-hard-at-work-trying-to-thwart-shibuya-wards-move-to-approve-same-sex-marriages/ 
  2. ^ The First Place In East Asia To Welcome Same-Sex Marriage”. NPR.org (2015年5月11日). 2015年6月30日閲覧。
  3. ^ Tokyo's Shibuya and Setagaya wards issue first same-sex partnership papers”. The Japan Times (2015年11月5日). 2021年3月20日閲覧。
  4. ^ 渋谷区の「同性婚」条例案、自民内から異論相次ぐ」『朝日新聞』朝日新聞社、2015年3月26日。2015年3月26日閲覧。オリジナルの2015年3月25日時点におけるアーカイブ。
  5. ^ Murphy, Meg (2015年7月31日). “Tokyo's Setagaya Ward to begin legally recognizing same-sex partnerships” (英語). Rocket News 24. 2023年2月20日閲覧。
  6. ^ Tokyo's Setagaya Ward to begin legally recognizing same-sex partnerships”. Japan Today (2015年7月31日). 2015年9月30日閲覧。
  7. ^ Tokyo's Shibuya and Setagaya wards issue first same-sex partnership papers”. The Japan Times (2015年11月5日). 2021年3月20日閲覧。
  8. ^ 足立区議の差別的発言が契機に…同性カップルらを公的に認める「パートナーシップ制度」導入12市区の連携実現東京新聞、2021年5月19日。2023年2月21日閲覧。
  9. ^ 北区パートナーシップ宣誓制度北区、2022年11月2日。2023年2月21日閲覧。
  10. ^ 荒川区同性パートナーシップ制度荒川区、2023年2月1日。2023年2月21日閲覧。
  11. ^ 多摩市パートナーシップ制度多摩市、2022年1月19日。2023年2月21日閲覧。
  12. ^ 武蔵野市パートナーシップ制度武蔵野市、2022年12月5日。2023年2月21日閲覧。
  13. ^ (仮称)パートナーシップ宣誓制度骨子案」『町田市』町田市、2022年9月28日。2022年10月10日閲覧。
  14. ^ (仮称)パートナーシップ宣誓制度の導入について”. www.city.machida.tokyo.jp. 町田市. 2023年2月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月19日閲覧。
  15. ^ 町田市「パートナーシップ条例」制定へ 「性の多様性」尊重相模原町田経済新聞、2023年2月21日。2023年2月21日閲覧。
  16. ^ 都議会 パートナーシップ制度創設の請願を全会一致で採択”. NHK (2021年6月7日). 2021年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月20日閲覧。
  17. ^ 坪池順 (2021年6月2日). “同性パートナーシップ制度、東京都で導入検討 小池都知事が表明”. HuffPost. 2023年2月21日閲覧。
  18. ^ 東京都パートナーシップ条例が成立 公営住宅など利用可能に 当事者ら「大きな安心になる」と期待 11月から:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 東京新聞. 2023年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月20日閲覧。
  19. ^ “Tokyo adopts 'partnership' status for same-sex couples” (英語). Le Monde.fr. (2022年10月10日). https://www.lemonde.fr/en/international/article/2022/10/10/tokyo-adopts-partnership-status-for-same-sex-couples_5999853_4.html 2022年10月12日閲覧。 
  20. ^ 東京都パートナーシップ宣誓制度 10月11日受付開始|東京都”. www.koho.metro.tokyo.lg.jp. 東京都 (2022年9月30日). 2022年10月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月20日閲覧。
  21. ^ Tokyo Assembly Enacts Same-Sex Partnership System” (英語). Nippon.com (2022年6月15日). 2023年2月20日閲覧。
  22. ^ 東京都パートナーシップ宣誓制度|東京都総務局人権部 じんけんのとびら”. 東京都総務局人権部 じんけんのとびら. 東京都総務局. 2023年2月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月19日閲覧。
  23. ^ 都パートナーシップ宣誓制度 16区市と連携|東京都”. www.metro.tokyo.lg.jp. 2023年1月29日閲覧。
  24. ^ Japanese Court Puts Same-Sex Marriage on the Nation's Agenda”. www.cfr.org (2021年3月30日). 2023年2月20日閲覧。
  25. ^ 山田雄之 (2021年3月19日). “同性カップルも不貞した相手に慰謝料請求できる 最高裁が初の法的保護決定:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 東京新聞. 2023年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月20日閲覧。
  26. ^ Making LGBT Families a Possibility in Japan” (2016年3月7日). 2018年4月8日閲覧。
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  29. ^ Tokyo: New Law Bars LGBT Discrimination. Human Rights Watch, 5 October 2018
  30. ^ Tokyo adopts ordinance banning discrimination against LGBT community. The Japan Times, 5 October 2018
  31. ^ Japan - Out Leadership”. 2018年4月8日閲覧。
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  43. ^ Reynolds, Isabel; Nobuhiro, Emi (2017年10月6日). “Japan's Opposition Unveils 'Yurinomics' Platform to Challenge Abe”. Bloomberg. https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-10-06/japan-s-koike-says-she-may-tax-cash-reserves-of-large-companies 2017年10月6日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 東京:LGBT差別禁止条例の制定”. ヒューマン・ライツ・ウォッチ (2018年10月5日). 2023年2月21日閲覧。
  • 高すぎるハードル 日本の法律上の性別認定制度におけるトランスジェンダーへの人権侵害”. ヒューマン・ライツ・ウォッチ (2019年3月19日). 2023年2月21日閲覧。
  • 三橋順子『歴史の中の多様な「性」』岩波書店、2022年7月14日。ISBN 978-4-00-025-675-9 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]