H&K MP5

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H&K MP5
H&K MP5
概要
種類 短機関銃
製造国 ドイツの旗 ドイツ
設計・製造 ヘッケラー&コッホ
性能
口径 9 mm
銃身長 225 mm
ライフリング 6条右回り
使用弾薬 9x19mmパラベラム弾
装弾数 10, 15, 20, 30, 32発
作動方式 ローラー遅延式ブローバック
全長 550 mm(ストック展開時: 700 mm)
重量 3.08 kg
発射速度 800発/分
銃口初速 400 m/s
有効射程 200 m
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H&K MP5は、ドイツヘッケラー&コッホ(H&K)社が設計した短機関銃(SMG)。第二次世界大戦後に設計された短機関銃としては最も成功した製品の一つであり[1]、命中精度の高さから対テロ作戦部隊などでは標準的な装備となっている[2][3]

来歴[編集]

技術的には、MP5の起源は、第二次世界大戦末期にモーゼル社が設計した「機材06」(Gerät 06)まで遡りうる。ガスピストンを省いて反動利用式とした改良型はStG45(M)としてドイツ国防軍に採用されたものの、量産前に終戦を迎えた。その後、ルートヴィヒ・フォルグリムラーを含む同社の技術者陣は、まずフランスCEAM英語版、ついでスペインCETMEドイツ語版に転職して、StG45(M)を元にした小銃の開発を継続していた。当初は中間弾薬を使用するように設計されていたが、後に、やはりモーゼル社出身者によって西ドイツで設立されたヘッケラー&コッホ(H&K)社の協力のもと、7.62x51mm NATO弾を使用するように設計変更され、1958年、スペインはこのセトメ・ライフルを制式採用した。また西ドイツも早くからセトメ・ライフルに着目しており、1959年1月、ドイツ連邦軍は、H&K社がセトメを元に開発したMD3をG3として制式化した[4]

これと並行して、連邦軍では短機関銃の選定も行っていたが、この時点では政治的な思惑もあり、イスラエル製のUZIが採択された[2]。その後、1960年代になると、連邦国境警備隊(BGS)や州警察といったドイツの警察組織において、大量の短機関銃の需要が生じた。これに応えて、H&K社では1964年より「プロジェクト64」として、G3小銃の短機関銃版の開発に着手した。開発にあたっては、主任設計士はティロ・メーラー、助手をマンフレート・グーリンク、ゲオルク・ザイドル、ヘルムート・バロイターが務めていた。彼らによって開発された短機関銃は、当時の同社の命名規則[注 1]に基づいてHK54と称されていた。そして1966年に、これを元にした量産型として開発されたのが本銃である[4]

設計[編集]

各構成要素[編集]

動作機構[編集]

ローラー遅延式ブローバック機構の断面図

上記の経緯より、基本的にはG3自動小銃を元に、9x19mmパラベラム弾仕様[注 2]に縮小した設計となっている。G3では、StG45アサルトライフルに組み込んだのと同様のローラー遅延式ブローバック(ローラーロッキング)機構が採用されており、これは本銃でも踏襲された。この方式では、圧力が低下してから閉鎖が解除されてボルトが開くことから、反動がマイルドで、軽量のボルトでも9 mmパラベラム弾を安全に射撃できるようになったほか、ボルトを閉鎖した状態から撃発サイクルがスタートする、いわゆるクローズドボルト撃発となったこともあり、当時一般的だったシンプルブローバック方式オープンボルト撃発の短機関銃と比して命中精度が高いというメリットがあった[2][3][注 3]。警察部隊においては簡易狙撃銃としても位置付けられており、命中精度については、100 m以内の近距離射撃であればライフルにも匹敵するとされ[6]建物の角から銃口だけを覗かせるテロリスト眼球を撃ち抜くことが可能とも称された[7]

しかし一方で、この機構によってボルトの構造が複雑になり、単価の上昇にも繋がった[2][3]。また繊細な整備を必要とし、多弾数発射後にはヘッドスペース(包底面から薬莢位置決め部までの間隔)の点検をしなければ銃が作動不良を起こすこともある。点検方法はボルトを閉じてハンマーを落とした状態でマガジンの挿入口から中にあるボルトヘッドとボルトキャリアの隙間にシックネスゲージを差込み、隙間がどのくらい開いているか調べる。隙間はメーカーで指定している範囲内である0.25 mmから0.45 mmの間に収まっていなければならない。隙間が許容範囲を超えるとローラーを大きいものに交換する必要がある。そして、交換可能範囲(最大でも0.25 mmから0.5 mm)を超えた銃はそのまま使用するとローラー遅延の効果が十分に発揮される前にボルトが開放される早期開放による暴発などの危険があるため、H&K社に送って修理するか破棄される[8]

1992年発売のMP5/10など大口径化モデルでは、ボルトキャリアやボルトヘッドなどは標準的なMP5と互換性がなく、リコイル・スプリングはH&K HK53のものが流用されている。また9 mmパラベラム弾モデルでも、1998年発売のMP5Fでは強装弾の使用に対応して内部構造を強化しており、同じリコイル・スプリングを導入したほか、ボルト・グループを強化した。この改良は、後に全ての生産型に導入された[9]

マガジン[編集]

元々は、ダブルカラム式でストレート型のボックスマガジンを使用していた。その後、1977年以降は、やや湾曲したバナナ型マガジンに変更されたが、これはBAT(Blitz Action Trauma)などの特殊弾薬の送弾に対応した設計変更だったと言われている[5]

一般的には30発入りの弾倉が用いられる。またMP5Kでは、本体の小型化に併せて、装弾数15発として短縮した弾倉が好まれる傾向がある。一方、大容量マガジンも開発されており、アメリカ海軍は一時期、MP5のための50連発のドラムマガジンに関心を寄せていたと言われている。また1980年代後半には、100連発のダブル・ドラムマガジン (Beta C-Magが開発された[9]

MP5/10とMP5/40では、ストレート・ボックス型マガジンが採用されており、残弾確認ができるように半透明の合成樹脂製とされている。大口径化に伴い弾薬の重量が増加したのを補うため、マガジンの重量は、従来の金属製マガジンと比べて30パーセント軽量化されている[9]

ストック[編集]

バイザー・ストックとフラッシュライト装着型ハンドガードを装着したMP5

ストックには、MP5/MP5A2で用いられる固定式と、MP5A1/3/5で用いられる伸縮式(テレスコピックストック)があり、クロス・スプリング・ピンでレシーバに固定される。伸縮式ストックには、元々は金属製のバット・プレート(床尾板)が装着されていたが、MP5NやMP5F(MP5E2)ではゴム製の床尾板が装着され、後にこれは標準装備となった[9]。またヘルメットにバイザーを装着する場合に備えて、ブリュガー・アンド・トーメ(B&T)社などでは、バイザーを避けるように湾曲したストックも製造している。

もともとMP5Kはストックを装備しておらず、スリング・スイベル付きキャップ(底板)を装着していた。その後、1991年には、右側に折畳むポリマー製のストックがオプションで追加された。当初はこちらもB&T社製だったが、後にH&K社自身が生産するようになった。アメリカ陸軍の第160特殊作戦航空連隊では、MP5K-Nをもとにこのストックを装備したモデルをMP5K-PDWとして装備しており、後には同様のモデルが一般市場にも投入された[9]

レシーバ[編集]

当初、射撃モードのセレクタは、S-E-F(ドイツ語の"安全"(Sicher)、"単射"(Einzelfeuer)、"全自動射撃"(unbegrenzter Feuerstoß)の頭文字)と表示されており、「S」は白、「E」「F」は赤く塗装されていた。またアメリカ軍向けなどの輸出モデルは、言語を選ばないビジュアル表示に改められた[9][注 4]

なお、MP5A2/3以降、警察用の派生型として、セミオート射撃に限定したモデル(MP5SF[注 5])がラインナップされるようになった。またA4/5では、オプションとして、3点バースト機能を備えた製品もある[9]

リアサイトは、HK54では跳ね上げ式だったが、MP5ではピープサイト(円孔照門)を設けた回転式に変更された。4つのピープサイトは光の条件によって使い分けられる。またMP5Kでは、迅速に照準できるように、回転式リアサイトの照門部分は、丸穴の円孔照門からV字型の切れ込み照門に変更された。更にMP5KA1では、隠匿携行 (Concealed carryに対応して、服などに引っかかりにくいように固定式のリアサイトを採用した[9]

ハンドガード[編集]

バレルをカバーして、熱から手を守る部品であり、当初は細身で握りやすいスリムライン型が用いられていたが、後に、幅広でバレルの冷却効果が高いトロピカル型に変更された。ガラス繊維強化プラスチック製とされている[9]。オプションとして、先端にフラッシュライトを装着したシュアファイア社製のハンドガードを使用する部隊も多い[9]

またMP5Kでは、バレルにあわせて短縮したほか、下部には前部ピストルグリップが付されている。また下方先端には、前部ピストルグリップを握った手が銃口の前に出ないようにする突起が設けられている[9]

バレル[編集]

第一期改良型であるMP5A2/3では、銃身をフローティング・バレルに改良して、命中精度を向上させており[2]、バレル・エクステンションに圧入されてクロス・ピン止めされる。MP5A2では225ミリ長、またMP5Kでは114ミリ長、MP5K-Nでは140ミリ長とされている[9]

銃口外側には3つの突起が付されており、ブランク・アダプターやマズル・コンペンセイター、サプレッサーなどの付属品をバイヨネット式に取り付けることができる。アメリカ海軍モデルでは、更にバレル先端にもサウンド・サプレッサーを装着するねじ山が切られている[9]

またMP5SDのバレルには、根本部分の周囲に直径2.5ミリの穴が30個空けられている。その外側をケーシングが覆っており、後部にガス拡散室、前方に漏斗状のバッフルが内蔵されており、インテグラルタイプのサウンド・サプレッサーとして機能する。通常の超音速弾薬の使用を想定して設計されたが、弾頭147グレインの亜音速弾薬でも問題なく動作する。ただしこの場合、マンストッピングパワーが不足する懸念があり、通常弾薬の使用が推奨されている[9]

ただしこのサプレッサーは密閉固定式であるため、分解掃除が難しいという問題がある。バッフルが漏斗状であることで、火薬の燃焼ガスから生じるカーボンはある程度自動的に排出されるものの、やはり内部は汚れやすく、サプレッサーを外して後端部を木材で軽く叩く方法や、非油性溶剤に浸す方法がある。またH&K社からはクリーニングキットも供給されている[9]

各型の概要[編集]

MP5A2
 
MP5A5

9 mmパラベラム弾モデル[編集]

HK54
プロトタイプ
MP5
最初の量産型のうち固定式ストック装備のもの[9]
MP5A1
最初の量産型のうち伸縮式ストック装備のもの[9]
MP5A2
第一期改良型のうち固定式ストック装備のもの[9]
MP5-SFA2
セミオート射撃に限定したモデル。1986年に発売された[9]
MP5A3
第一期改良型のうち伸縮式ストック装備のもの[9]
MP5-SFA3
セミオート射撃に限定したモデル[9]
MP5A4
第二期改良型のうち固定式ストック装備のもの[9]
MP5A5
第二期改良型のうち伸縮式ストック装備のもの[9]
MP5N
アメリカ海軍向けモデル。銃口はサウンド・サプレッサーの装着に対応してねじ山が切られているほか、フロントサイトには放射性夜光塗料を塗布し、トリガーグループは左右両側からの操作に対応、伸縮式ストックにはゴム製床尾板を装着している[9]
MP5F
フランス国家憲兵隊向けモデル。強装弾(+P弾)に対応して内部構造を強化、伸縮式ストックにはゴム製床尾板を装着している。「過去25年間で最も大きな設計変更」として1998年に発売されたが、MP5Fはセールス上の呼称であり、社内での識別呼称はMP5E2とされる。同様の設計変更は、後に製造されたモデル全てに適用された[9]

MP5Kシリーズ[編集]

MP5K
「ネイビートリガー」型のロアフレームを持つ後期型モデル
 
MP5Kに折畳式ストックを装着したモデル
MP5K[注 6]
要人警護向けのコンパクトモデル[9]
MP5KA1
固定式リアサイトを備えたコンパクトモデル[9]
MP5KA4
3点バースト機能を備えたコンパクトモデル[9]
MP5KA5
MP5KA1の固定式リアサイトとMP5KA4の3点バースト機能を備えたコンパクトモデル[9]
MP5K-N
アメリカ海軍向けコンパクトモデル。銃口やトリガーグループはMP5Nと同仕様とされている[9]
MP5K-PDW
MP5K-Nを元に折畳式ストックを装備した個人防衛火器モデル[9]

MP5SDシリーズ[編集]

MP5SD3
 
MP5SD3(サプレッサーを外した状態)

特殊部隊向けに内装式サプレッサーを装備したモデル。"SD"とは"Schalldämpfer"の略号で、ドイツ語でサプレッサーを意味する。

MP5SD1
A1のSD型。ストックの代わりに、MP5Kと同じスリング・スイベル付きキャップ(底板)を装着していた[9]
MP5SD2
A2のSD型。固定式ストック装備のもの[9]
MP5SD3
A1のSD型。伸縮式ストック装備のもの[9]
MP5SD4
SD1のモデルチェンジ型。3点バースト機能を備え、ストックを装着しないモデル[9]
MP5SD5
SD2のモデルチェンジ型。3点バースト機能を備え、固定式ストック装備のもの[9]
MP5SD6
SD3のモデルチェンジ型。3点バースト機能を備え、伸縮式ストック装備のもの[9]

大口径化モデル[編集]

1980年代後半、アメリカ合衆国の警察では9x19mmパラベラム弾のストッピングパワーに不足を感じていたことから、より強力な実包を使用した拳銃が市場に投入されつつあった。これに対応して、MP5でも、これらの実包を使用する派生型が開発された[9]

MP5/10(MP10)
10mmオート弾を使用するモデル。大口径化に伴って内部構造を強化したほか、ボルトストップを装備した。またマガジンは、弾薬重量の増加を補うため合成樹脂製として軽量化したほか、残弾確認できるように半透明になっている。1992年に発売され、FBIが5,000挺を調達したものの、需要の低迷のために生産終了となり、予備部品の供給も終了している[9]
MP5/40
.40S&W弾を使用するモデル。設計はMP5/10と同様で、やはり同時に1992年に発売された[9]
MP5/357
.357SIG弾を使用するモデル。基本的にはMP5/40のバレルを交換したのみのものである[9]

民間向けモデル[編集]

HK94K

アメリカ合衆国などの民間市場向けに、セミオート限定のモデルが開発された。

HK94からSP5Kまでのモデルはパドル式のマガジンキャッチレバーが廃されている[10]

HK94
カービン・モデル。1983年発売[11]。1989年、輸入禁止措置にともない製造終了[11]。銃身長が420ミリメートルに伸ばされているが、この長過ぎるバレルが不格好であり不評だったため、円筒形のバレルジャケットを装着して見た目だけMP5SDシリーズに似せる方法と、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)に特に申請して「短銃身ライフル」として登録し、合法的にバレルを切り詰める方法とが考えられた。また多くのHK94は、ATFへの登録を経てオートマチック・シアを組み込むことで、合法的にフルオート射撃が可能なように改造された[9]
SP89
ピストル・モデル[12]法的にピストルとして販売するため、ストックやバーティカル・フォアグリップは装着できず、代わりに、誤って手が銃口の前に出ないように拡大されたマズルガードが付されている[11]。1989年からアサルトウェポン規制英語版が制定されるまでの5年間アメリカに輸入・販売されていた[12]が、その多くは、HK94と同様にオートマチック・シアを組み込んで、フルオート射撃が可能なように改造された[9]。2016年にマーナ―チェンジを施したSP5Kを発売した[12]。2020年時点でSP5Kの製造は終了しているが、2020年にハンドガードのデザインを変更したSP5K-PDWが限定販売された[13]
SP5
ピストル・モデル[14]。SP89と異なり、MP5と同じ8.86インチ(225 mm)の銃身となっている[15]SP89と同様法的にピストルとするためストックやバーティカル・フォアグリップは装着できないが、アームブレースを取り付けることは可能[16]。2019年より販売され[16]、これに伴いHK94がSP5Lとして再販された。

訓練用モデル[編集]

1970年、H&K社は、訓練用として.22LR弾への転換キットを発売したが、使用感が異なる上に信頼性に問題があり、400セットも生産されずに販売終了となった。かわりに1984年には、模擬戦用として、プラスチック弾専用のMP5Tが発売された。実包は射撃できず、レシーバーの左右側面に青色で「プラスチック弾のみ」と書かれており、コッキングハンドルも青色になっている[9]

多くの警察組織では、訓練にしか使えないMP5Tではなく、既存のMP5をもとにペイント弾を発射できるようにしたシミュニッション転換キットが用いられている[9]

H&K以外での生産型[編集]

H&K G3と同じ機構ということもあり、G3をライセンス生産している国ではMP5もライセンス生産していることが多い。

SWA5
アメリカ合衆国のスペシャルウエポン社がライセンス生産したもの。MP5Kに相当するMP-10(および民間用のSP-10)が製造されている。
PTR 9
アメリカ合衆国のPTRインダストリーズがコピー生産したもの。
EBO MP5[注 7]
ギリシャのヘラニック・アームズ・インダストリー(EBO)社がライセンス生産したもの。MP5A3、MP5A4、MP5Kが製造されている[18]
トンダール 9mm SMG
イランでライセンス生産されたもの。パフラヴィー朝時代に王立モサルサシ造兵廠で製造が始まったが、イラン革命後に解体され、新たに設立されたD.I.Oサンガフザルサジ・インダストリーズで製造されている[19]
POF MP5
パキスタンの国立パキスタン・オーディナンス・ファクトリーズ(POF)がライセンス生産するもの。パキスタン軍・警察に制式採用され、1980年代より生産が開始された。また海外、特にアフリカへの輸出も行っている[20]
Tihraga
スーダンのミリタリー・インダストリー・コーポレーション(MIC)社が、イランのトンダール 9mmをライセンス生産したタイプ。
MIC MP5
サウジアラビアの国営軍需産業会社であるMIC社のライセンス生産モデル[17]
MKEK シラーサン MP5
トルコのマキナ・ベ・キミヤー・エンデュストリシ・クルム(MKEK)が1983年から生産を始めたMP5。MP5A2、MP5A3、MP5Kが製造されている。MKEKのロゴが刻印されているのが識別点。
NR-08
中国中国北方工業公司(NORINCO)がコピーしたタイプ[17]

諸元・性能[編集]

MP5A4[21] MP5A5[21] MP5SD6[22] MP5KA4[23] MP5K PDW[23]
口径 9×19 mm
全長 675 mm 690 mm
(最小550 mm)
800 mm
(最小660 mm)
320 mm 570 mm
(最小330 mm)
銃身長 225 mm 146 mm 115 mm 148 mm
重量
(非装弾時)
2,895 g 3,100 g 3,400 g 2,000 g 2,530 g
装弾数 15/30発
連射速度 800発/分 900発/分

運用史[編集]

MP5Nを装備したNavy SEALs隊員。マガジンをジャングルスタイルに改造している
シュアファイアM628ウェポンライトを装着したMP5を構えるSAT隊員。
MP5を持つGIGN隊員(右側)。バイザーストックを装着している

まず1966年西ドイツ連邦国境警備隊に採用されたほか、同国の州警察でも多くが採用された。単価の高さから、西ドイツ国外への普及は進まなかったが[2]イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)は、連邦国境警備隊のGSG-9との共同訓練の経験から、1970年代後半ごろよりMP5を導入した[24]

そしてMP5を一躍有名にしたのが1977年ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件である。この事件では西ドイツ政府がテロリストの要求に応じず、GSG-9が人質救出作戦を敢行し、人質の被害を出さずにわずか5分間でテロリスト全員を無力化して解決した。狭い機内での作戦に臨むに当たり、GSG-9隊員の多くはS&W M19・M66回転式拳銃やH&K P9S自動拳銃を携行しており、MP5を持った隊員は比較的少数だったが、拳銃では瞬間制圧力が低くテロリストを無力化するのに手間がかかったのに対し、MP5の短連射を受けたテロリストは即座に行動不能になり、MP5の威力が強く印象付けられた。このため、GSG-9は、その後の作戦でMP5を愛用するようになっていった[25]。そしてまた、作戦後の記者会見のさいに、GSG-9隊長ウェグナー大佐がMP5SDを手にしており、この写真が全世界の紙面を飾ったことで、その知名度は飛躍的に向上し、世界中の対テロ作戦部隊が競ってMP5を導入することになった[26]

これらの特殊部隊がMP5に期待していたのは、短連射で複数弾を正確に撃ち込む精度と、拳銃弾の貫通力の低さによる付随的損害の抑制の両立であった[注 8]。これに対し、高精度のセミオートマチック・カービンとして導入した法執行機関もあった。例えばロンドン警視庁は、突入作戦を担当するSWATにあたる専門射手(SFO)にはフルオート射撃対応モデルを配備する一方、普段から街頭を警邏する武装応召車(ARV)にはセミオート射撃に限定したMP5-SFを配備した[25]日本の警察でも、警備部銃器対策部隊にはMP5Fに準じたフルオート射撃対応モデルを配備する一方[27]刑事部特殊犯捜査係(SIT)にはMP5K PDWに準じたセミオート限定モデルを配備しており、MP5SFKと称される[28]

運用国[編集]

など

登場作品[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 一桁めが銃器の種別を表しており、「1」は軽機関銃、「2」は汎用機関銃、「3」は突撃銃、「4」は半自動小銃、「5」は短機関銃を意味していた。続く二桁めが使用する弾薬を表しており、「1」が7.62x51mm NATO弾、「2」が7.62x39mm弾、「3」が5.56x45mm M193弾、「4」が9x19mmパラベラム弾を意味していた。ただしこれはあくまで社内での便宜的な呼称であり、セールスにあたってはしばしば変更された[4]
  2. ^ イギリス軍では、テスト用に.224 ボズ弾を使用する様、対応改造が施された物も存在した。
  3. ^ クローズドボルト方式のフルオート射撃火器には、コックオフ現象(加熱による暴発)が起きやすいという欠点があるが、9 mmパラベラム弾の実用的な連射ではコックオフを生じるほどの高温は生じないことが実証されており、訓練や通常の試験での連続発射で、MP5がコックオフを起こした記録はない[5]
  4. ^ 弾丸のアイコンによって示されるもので、安全位置が白の弾丸にX、単射が赤の弾丸1つ、点射が赤の弾丸2つもしくは3つ、連射が赤の弾丸7つ、という絵表示となっている[9]
  5. ^ 具体的なモデル名としてはMP5-SFA2/3と称される[9]
  6. ^ Kは"kurz"の略号であり、ドイツ語で"短い"の意味。
  7. ^ ギリシャのEU加盟にあわせて、EBOはヘレニック・ディフェンス・システムズ(EAS)に改称した[17]
  8. ^ 近年では、ボディアーマーの普及もあって、より貫通力が高く射程距離が長いアサルトカービンを使用する機関も増えているが[25]、この場合は過剰貫通や跳弾による付随的損害の問題があるため、着弾時に粉砕する特殊弾丸 (Frangible bulletなども使用される[24]

出典[編集]

  1. ^ トンプソン 2019, pp. 2–10.
  2. ^ a b c d e f 床井 2000, pp. 18–25.
  3. ^ a b c 床井 2005, pp. 200–202.
  4. ^ a b c トンプソン 2019, pp. 14–29.
  5. ^ a b トンプソン 2019, pp. 76–89.
  6. ^ Satoshi Maoka (2007年12月18日). “HK Universal Machine Pistol”. 2012年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月21日閲覧。
  7. ^ 小峯 & 坂本 2005, p. 87.
  8. ^ Morohoshi, Etsuo「アメリカ・マシンガン事情17・MP5雑学ノート」『月刊Gun』、国際出版、2007年11月。 
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au トンプソン 2019, pp. 30–75.
  10. ^ E.Morohoshi 2020, p. 10.
  11. ^ a b c E.Morohoshi 2020, p. 14.
  12. ^ a b c E.Morohoshi 2020, p. 13.
  13. ^ E.Morohoshi 2020, pp. 12, 15.
  14. ^ E.Morohoshi 2020, p. 6.
  15. ^ E.Morohoshi 2020, pp. 6, 25.
  16. ^ a b E.Morohoshi 2020, p. 18.
  17. ^ a b c トンプソン 2019, pp. 156–174.
  18. ^ 床井 2000, p. 190.
  19. ^ 床井 2000, p. 200.
  20. ^ 床井 2000, p. 235.
  21. ^ a b ヘッケラー&コッホ. “Heckler&Koch - Technical Data - MP5” (英語). 2016年2月20日閲覧。
  22. ^ ヘッケラー&コッホ. “Heckler&Koch - Technical Data - MP5SD” (英語). 2016年2月20日閲覧。
  23. ^ a b ヘッケラー&コッホ. “Heckler&Koch - Technical Data - MP5K” (英語). 2016年2月20日閲覧。
  24. ^ a b トンプソン 2019, pp. 120–155.
  25. ^ a b c トンプソン 2019, pp. 90–119.
  26. ^ トンプソン 2019, 監訳者のことば.
  27. ^ ストライクアンドタクティカルマガジン 2017, pp. 60–63.
  28. ^ ストライクアンドタクティカルマガジン 2017, pp. 46–51.

参考文献[編集]

  • 柿谷, 哲也、菊池, 雅之『最新 日本の対テロ特殊部隊』三修社、2008年。ISBN 978-4384042252 
  • ストライクアンドタクティカルマガジン 編『日本の特殊部隊』2017年3月。 NCID BB01834038 
  • 床井, 雅美『最新サブ・マシンガン図鑑』徳間書店、2000年。ISBN 978-4198913427 
  • 床井, 雅美『オールカラー軍用銃事典』並木書房、2005年。ISBN 978-4890631872 
  • トンプソン, リーロイ『MP5サブマシンガン』床井 雅美 (監修), 加藤喬 (翻訳)、並木書房Osprey Weapon Series〉、2019年。ISBN 978-4890633821 
  • E.Morohoshi「H&K SP5 & HK94」『Gun Professionals』2020年11月、6-25頁。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]