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特殊警備隊

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特殊警備隊
(Special Security Team)
創設 前身部隊(海警隊、警乗隊)1985年10月1日
再編成 1996年5月11日
所属政体 日本の旗 日本
所属組織 第五管区大阪特殊警備基地
兵種/任務 特殊部隊
編成地 大阪府
通称号/略称 SST
担当地域 日本全国
特記事項 主な出動事件
EB・キャリア号船内暴動事件(前身部隊が出動)
能登半島沖不審船事件
九州南西海域工作船事件
江の島虚偽通報事件
中国漁船サンゴ密漁事件
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特殊警備隊(とくしゅけいびたい、英語: Special Security Team, SST)は[注 1]海上保安庁特殊部隊[1][2]シージャック毒ガス事案など、高度な知識・技術を必要とする特殊な海上警備事案に対処する[3][4]

来歴

大阪国際空港の公害問題を背景として、1960年代より、大阪圏に第二空港を設置することが検討され始めていた。諸般の検討や地元との調整を経て、建設位置は泉州沖の大阪湾上と決定し、1980年代後半より、関西国際空港として、具体的な計画が着手された。しかし建設への反対運動も激化しており、極左暴力集団消火器爆弾や迫撃弾などを用いて、関西地域で年間数百件ものテロ・ゲリラ事件を引き起こしていた[5]

この状況に対して、1985年10月1日、同地を管轄する岸和田海上保安署(第五管区)に設置されたのが関西国際空港海上警備隊(海警隊)であった[6]。陸地側を警備する大阪府警察機動隊と連携して海側の警備を担っており、隊員は第五管区内に限らず、全国から希望者を募って配置されていた[5]。発足時はわずか8名であったが、1987年には空港の本格的な着工にあわせて24名に増強され、1990年には更に37名に増強された[7]

また1989年には、日米原子力協定の適用を受けてフランスから返還されるプルトニウムの海上輸送が決定され、その際の護衛を海上保安庁が担当することになったことから、そのための体制整備が進められることになった。その一環として、本庁警備第二課に設置されたのがプルトニウム輸送船警乗隊(警乗隊)であった。この部隊には、海警隊からも複数の隊員が参加したが[注 2]、基本的には、やはり全国から選抜された隊員から構成されていた[9]1990年にはアメリカ海軍Navy SEALsによる訓練が施された[7]。その際に、Navy SEALsから射撃狙撃接近格闘術リペリング降下ファストロープ降下など特殊部隊として必要な指導を受けたとされている[10]1992年に輸送が実施され、復路では巡視船「しきしま」の護衛を受けて、フランスから日本まで無寄港で、総日数60日・総航程2万海里の輸送を実施したが、輸送船「あかつき丸」に乗船した警乗隊は、往路や寄港中も含めて、約5ヶ月間150日間にわたって一度も上陸することなく、輸送船の警備を完遂した[9]

そして1996年5月11日に、海警隊と警乗隊を統合して大阪特殊警備基地第五管区)に設置されたのがSSTであった[11][2][3][注 3]

編制

所掌

1997年平成9年)の海上保安白書によれば、「銃器等を使用した凶悪犯罪シージャックサリン等の有毒ガス使用等高度な知識及び技術を必要とする特殊な海上警備事案」に対処することが、SSTの任務とされている[4][12]。2003年にSSTは、PSI(拡散に対する安全保障構想)加盟国による演習に参加し、大量破壊兵器を搭載している容疑船の制圧と検査を担当していることから、こうした臨検も任務とされている[10]。その他対応する事案としては、プルトニウムなどの重要な護衛任務、不審船事案対応、船舶内で発生した暴動の鎮圧海賊事案対応、船舶内における爆発物処理中国蛇頭日本暴力団が絡んだ麻薬密輸船密航船の摘発への出動などが挙げられる[10]

海上保安庁にはNBCテロ対処の専従部隊がないため、東日本では特殊救難隊が、そして西日本では本部隊が対応するように分担している[2]。前述の通り、平成9年(1997年)版の海上保安白書には、SSTが「サリン等の有毒ガス使用事案」に対処する部隊として記載されており、化学テロ客船港湾の施設内で行われた場合は、SSTが出動し、負傷者の救助や証拠品(化学兵器が入っていた容器など)の回収を行い、その後の捜査は、海上保安庁捜査員が警察などと連携して行う[13]。海上保安庁のSSTは、警察におけるNBCテロ対応専門部隊爆発物処理班刑事部突入班特殊部隊(SAT)の機能を併せ持っており、海上での広範囲な任務を担当する点が特徴である。

組織

SST隊員

前述の通り、SSTは第五管区海上保安本部の大阪特殊警備基地として設置されているが、運用は本庁警備課特殊警備対策室が行っている[14]。第一特殊警備隊から第七特殊警備隊までの7個隊で編成され、各隊は8名ずつ、隊長は二等海上保安正、副隊長は三等海上保安正で、隊員の中には救急救命士危険物取扱の有資格者も配属されている[1]。また7個隊のうち、2個隊は爆発物処理・化学防護能力を備えている[1]

SSTは、ヘリコプターからのリペリング降下巡視艇高速艇などによる強行接舷、気泡が出ない循環式潜水器を使用した潜水による接近などによって対象船舶に乗り込み、下記装備等を使用して犯人を制圧する。突入に際しては、公開されている限り自動小銃4名、拳銃4名の編成をとることが多いようである。また任務によっては特別警備隊の支援を受ける場合もある。基本的に2人一組で行動する[10]。機密保持は極めて厳しく、隊員は海上保安庁職員名簿にも掲載されず、人事記録からも名前を消される措置を受けている[15]

装備

海警隊の発足当初は、4インチ銃身モデルのS&W M19回転式けん銃.38スペシャル弾を装填して使用していたが[7]、Navy SEALsから指導を受けた際に、アメリカ軍人は海警隊隊員の優れた射撃精度に驚嘆する一方、装弾数の少なさに伴う火力不足が指摘された。このことから、1992年にはシグ・ザウエルP228自動式けん銃が導入された[8]

拳銃よりも強力な銃器としては、1988年にH&K MP5A5/SD6短機関銃が導入されたほか[16]、1992年には89式5.56mm小銃も導入された[8]。またSST設立後には、M4カービンも導入された[17]

海警隊では、狙撃銃として、64式7.62mm小銃照準器を取り付けたものと豊和M1500を使用していたが、ボルトアクション式の豊和M1500は次弾装填の際に標的を見失うため、海上での狙撃には適さなかったとされている[7]。またSST設立後には、2,000メートル級の長射程を誇るマクミラン社製の対物ライフルも導入された[18]

SSTでは、気泡が出ない循環式潜水器水中スクーターなども使用している。またNBC環境下における事案に対処するため、化学防護服なども装備している[19]

またSST自身の装備ではないが、関西空港海上保安航空基地に配備されているサーブ 340BEC225LP(ヘリコプター)は、通常業務のほか、SSTの移送を考慮した装備となっている[20]工作船対処の際には、これらの航空機がSSTの輸送や上空の監視警戒に当たるのに加えて、ひだ型を指揮船としてあそ型つるぎ型などから構成される巡視船隊とも連携して、SSTによる停船後の工作船への立入検査および工作員逮捕などといった行動も想定されている[21]

活動史

登場作品

映画・テレビドラマ

救命病棟24時
テレビドラマ。2002年のスペシャル番組にSSTが登場する。

アニメ・漫画

S -最後の警官-
漫画版・映画版にて、プルトニウム輸送船がテロリストに乗っ取られたことを受け、SSTが出動。SATNPSと共同作戦を行う。
海猿
貨物船乗っ取り事案でSSTに出動要請が下る。

小説

『感染捜査』
吉川英梨の小説。豪華客船で人をゾンビ化するウイルスが蔓延したことを受け、海上保安庁特別警備隊とともに船内へ展開する。その後、同船の洋上隔離とともに結成された警視庁と海保合同の第一次感染捜査隊に編入され、全編を通して活動することになる。主人公の一人、来栖光もここの出身者。
『交戦規則 ROE』
黒崎視音の小説。北朝鮮工作員らの乗る貨物船への対処のため出動し、ヘリコプターのベル 212「日本海」に搭乗して巡視船「えちご」へと移動する予定だったが、その途中で工作員らが潜水装備を身に着けて貨物船から下りたため出番はなかった。

脚注

注釈

  1. ^ 日本語の部隊名称を略した「特警隊」は、海上保安庁では特別警備隊を指すため、本部隊は「SST」と称される。
  2. ^ 一説には13名が選抜されたとされている[8]
  3. ^ プルトニウム輸送後、警乗隊は海警隊に合流しており、海警隊がそのままSSTに改編されたという説もある[7]

出典

  1. ^ a b c d e f 柿谷 & 菊池 2008, pp. 107–140.
  2. ^ a b c d ストライクアンドタクティカルマガジン 2017, pp. 65–73.
  3. ^ a b c 佐藤 2019, ファイル14 不審船を捕捉せよ.
  4. ^ a b 海上保安庁「Ⅲ 海上紛争等の警備と警衛・警護」『平成9年版海上保安白書』1997年https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/h9haku/2-1-3.htm2015年11月14日閲覧 
  5. ^ a b 佐藤 2019, ファイル9 関西国際空港テロを防止せよ.
  6. ^ 第五管区海上保安本部. “大阪海上保安監部の沿革”. 2019年7月15日閲覧。
  7. ^ a b c d e f 小峯 & 坂本 2005, pp. 45–74.
  8. ^ a b c 小峯 & 坂本 2005, pp. 112–130.
  9. ^ a b c 佐藤 2019, ファイル10 核燃料輸送船を護衛せよ.
  10. ^ a b c d 特集 海上保安庁特殊警備隊(SST) Off Shore Dream 海上保安庁の総合情報サイト
  11. ^ 海人社 2008, p. 129.
  12. ^ 海上保安庁のスペシャリスト集団」海上保安庁、2023年https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2023/html/hatarakuhito/hatarakuhito23_01.html2024年7月15日閲覧 
  13. ^ 柿谷 2012, p. 86.
  14. ^ 黒井 2007, p. 187.
  15. ^ 海人社 2013.
  16. ^ 小峯 & 坂本 2005, pp. 75–106.
  17. ^ 日本も晒されるテロの脅威に自衛隊が出動する場合。治安対策はどこまでなされているのか. 週プレNEWS. (2015年4月14日)
  18. ^ 中名生 2015.
  19. ^ 柿谷 & 菊池 2008, p. 113.
  20. ^ 米田 2019.
  21. ^ 坂本 2008.
  22. ^ 海上保安国際紛争事例の研究 第3号』財団法人海上保安協会、2002年3月https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2001/00499/contents/00076.htm 
  23. ^ 柿谷 & 菊池 2008, p. 117.
  24. ^ 岩尾 2008, p. 124.
  25. ^ 柿谷 & 菊池 2008, pp. 131–132.
  26. ^ 海上保安庁『テロ対処・不審船対処能力の現状及び問題点について』(PDF)首相官邸、2004年9月6日https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai9/9siryou7.pdf2015年11月14日閲覧 
  27. ^ 柿谷 & 菊池 2008, pp. 136–137.
  28. ^ 岩尾 2008, p. 125.
  29. ^ 「子供が遭難」海保にイタズラ電話 虚偽通報なら巨額賠償必至」『東スポWeb』2014年7月25日。
  30. ^ ストライクアンドタクティカルマガジン 2017, pp. 65–67.
  31. ^ 星川 2003, p. 158.
  32. ^ a b c 「週刊文春」編集部 2014.
  33. ^ 岩尾 2008, pp. 32–33.
  34. ^ 山田 2008.
  35. ^ 社会情報リサーチ 2013, pp. 207–208.
  36. ^ 海上保安庁観閲式 写真特集」『JIJI.COM』時事通信社、2010年5月29日。
  37. ^ ANNnewsCH特殊警備隊の訓練も初公開 東京湾で海保の観閲式』(YouTube動画)テレビ朝日、2010年5月29日https://www.youtube.com/watch?v=LG5M8rIP2I0 
  38. ^ 原発テロ想定~福島第2で合同訓練~ 写真特集」『時事通信』2013年5月11日。
  39. ^ 海保、G20へ警備本部設置 テロ訓練で対応確認」『日本経済新聞』2019年5月28日。

参考文献

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  • 海人社 編「写真で振り返る海上保安庁の60年 (創設60周年を迎えた海上保安庁)」『世界の艦船』第692号、海人社、124-131頁、2008年7月。 NAID 40016073809 
  • 海人社 編海上保安庁とは?「海上保安庁100のトリビア」『世界の艦船』、海人社、30頁、2013年3月。 NAID 40019591103 
  • 柿谷哲也; 菊池雅之『最新 日本の対テロ特殊部隊』三修社、2008年。ISBN 978-4384042252 
  • 柿谷哲也『海上保安庁 「装備」のすべて』SBクリエイティブサイエンス・アイ新書〉、2012年。ISBN 978-4797363753 
  • 黒井文太郎『日本の情報機関 知られざる対外インテリジェンスの全貌』講談社講談社+α新書〉、2007年。ISBN 978-4062724555 
  • 小峯隆生; 坂本新一『海上保安庁特殊部隊SST』並木書房、2005年。ISBN 978-4890631933 
  • 坂本茂宏「創設50年から60年 そして70年に向けて (創設60周年を迎えた海上保安庁)」『世界の艦船』第692号、海人社、132-137頁、2008年7月。 NAID 40016073810 
  • 佐藤雄二『波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル』文藝春秋、2019年。ISBN 978-4163910567 
  • 社会情報リサーチ 編『海上保安庁 その装備と実力に驚く本』河出書房新社、2013年。ISBN 978-4-309-49872-0 
  • 「週刊文春」編集部「中国サンゴ密漁船を撃て!」『週刊文春』第56巻、第46号、文藝春秋、24-28頁、2014年11月20日。 NAID 40020257722オリジナルの2014年11月12日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20141112134102/http://shukan.bunshun.jp/articles/-/4544 
  • ストライクアンドタクティカルマガジン 編『日本の特殊部隊』2017年3月。 NCID BB01834038 
  • 住本祐寿; 川口大輔『海上保安官』並木書房、2011年。ISBN 978-4-89063-272-5 
  • 中名生正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、168-173頁、2015年11月。 NAID 40020597434 
  • 星川武『世界の特殊部隊』学習研究社、2003年10月。ISBN 4056032009 
  • 毛利文彦『警視庁捜査一課特殊班』角川書店、2002年。ISBN 978-4043762019 
  • 山田吉彦「捕鯨船10隻を沈めた「環境テロリスト」 シー・シェパードの過激な「海賊行為」」『SAPIO』第20巻、第6号、小学館、95-97頁、2008年3月12日。 NAID 40015894762 
  • 米田堅持「海上保安庁のスペシャリストたち」『世界の艦船』第902号、海人社、2019年6月。 NAID 40021918394 
  • 米田堅持「第5管区」『世界の艦船』第902号、海人社、2019年6月(2019b)。 NAID 40021918394 

関連項目

外部リンク