大切畑ため池
この項目は中長期的なダム開発に関する内容を扱っています。 |
大切畑ダム | |
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熊本地震 (2016年) 前の2013年撮影 | |
左岸所在地 | 熊本県阿蘇郡西原村小森 |
位置 | |
河川 | 白川水系鳥子川 |
ダム湖 | 大切畑ため池【ため池百選】 |
ダム諸元 | |
ダム型式 | アースダム |
堤高 | 23 m |
堤頂長 | 125 m |
堤体積 | 74,000 m3 |
流域面積 | 11.6 km2 |
湛水面積 | 9 ha |
総貯水容量 | 851,000 m3 |
有効貯水容量 | 720,000 m3 |
利用目的 | かんがい |
事業主体 | 熊本県 |
施工業者 | 熊谷組 |
着手年 / 竣工年 | 1970年 / 1975年 |
出典 | [1][2] |
大切畑ため池(おおきりはたためいけ)は、熊本県阿蘇郡西原村にある池。農業用のため池で、高さ23メートルのアースダム・大切畑ダムによって形成される。ため池百選。熊本地震 (2016年) で被災したため、復旧工事が進められている。
歴史
建設・改修
江戸時代、肥後国熊本藩主細川氏は、ため池や用水路の整備を命じ、畑が中心であった当地に多くの水田が開かれた。鳥子川の大切畑ため池もその1つであり、布田手永(現在の大津町の南東部・西原村の北西部・南阿蘇村長陽地区の南部・久木野地区中央部あたり)の惣庄屋・矢野甚兵衛が、安政2年から6年にかけて築造したものである[4]。
大切畑ため池は戦後になって改修が施された。工事は1970年(昭和45年)度に着工し、1975年(昭和50年)度に完成。ため池を形成する大切畑ダムは、高さ23メートルのアースダムで、総貯水容量は85万1,000立方メートルである[1]。水田やサツマイモ畑など、約200ヘクタールの農地を潤す。また、地域の防火用水として利用されたり、さらに近隣の深迫ダムに水を送るなど、当地においてその役割は重要視されている[5]。
2010年(平成22年)3月11日、農林水産省は大切畑ため池をため池百選の1つに選定した[6]。
平成28年(2016年)熊本地震の影響
2016年(平成28年)4月に発生した熊本地震の影響で、大切畑ダムが決壊の危機にあるとして、住民に対し避難勧告がなされた[8]。日本のダムが地震で決壊した例としては、福島県須賀川市、阿武隈川水系江花川に建設された藤沼ダム(藤沼湖)がある(東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)によるもの[9][10])。その後の調査により、大切畑ダムが決壊するおそれはないと確認されたものの、分水施設の破損により大量の漏水が発生。ため池の水を抜き、水を安定して流下させる措置が取られた[11][12]。農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)の専門家による調査では、ダム堤体や洪水吐にひび割れ等の異状が発見されている[13]。また、同じ西原村内の下小森ため池でも被害が発生。池を囲っていた堤防の一部が決壊し、貯水の全量が近隣の農地に流出した。これによる人的被害はない[14][15]。
1996年(平成8年)に熊本県の委託により実施した地質調査で、大切畑ため池をかすめるようにして東西に布田川断層が走っていることが判明している。この断層は地学的知見から活断層であると確実視され、マグニチュード7程度の地震が発生すると推計されていた[16]。西原村ではあらかじめ鳥子地区の住民に対し、大切畑ダムが決壊した際の避難場所として西原村立山西小学校(第1避難場所)、西原村立西原中学校(第2避難場所)、中央公民館および構造改善センター(第3避難場所)を指定している[17]。
大切畑ため池の復旧にあたっては、ダムを元の位置から270メートル南側に移設し、断層を回避する方法が採られた。これに伴い貯水容量が減少するが、受益農家の減少を考慮し、既存の3割減となる60万立方メートルで十分とした。費用は約87億円で、元の位置で復旧する場合(約64億円)よりも高額となるが、大半を国の災害復旧事業でまかなわれるため、県の負担は約2,740万円にとどまる。県は2018年(平成30年)10月9日、西原村小森に大切畑ダム復興事務所を開設。2019年度に着工、2023年度完成、2024年度の供用開始を見込んでいる[18]。
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熊本地震で決壊した下小森ため池[19]
周辺
大切畑ため池の周囲には、池を一周する遊歩道や、展望のよい休憩所、広場などが設けられ、親水公園として整備されている。春は北側に植樹された約80本もの桜の木が花をつけ、夏は湖面を活用したイベント「ふるさと交流会いかだ競争」で賑わい、秋は南西側において紅葉が美しい。環境改善に地域一体となって取り組んでいる。カモやサギ、イノシシ、シカ、タヌキといった鳥獣の姿も見られる[5][20]。
ため池には阿蘇外輪山・俵山の南麓に端を発する鳥子川の水が注ぐ。上流部は雨期においてのみ流水を確認することができる。水源には妙見社・塩井社がまつられている。鳥子川はため池を経て北の鳥子地区へと流れて行き、そのほか用水路が南へと伸びている。俵山の西麓は原野や森林が広がり、その西方に大切畑ため池を始めとするため池群が潤す田畑や集落がある[21]。
交通アクセス
- 公共交通機関[22][23]
- 大切畑ため池の付近に「萌の里・俵山登山口」バス停がある。JR熊本駅から九州産交バス・快速たかもり号に乗車、熊本空港(阿蘇くまもと空港)を経て「萌の里・俵山登山口」バス停で下車。徒歩10分でため池水源の塩井社まで行ける。
- 自家用自動車[22]
- 熊本市から熊本県道28号熊本高森線を俵山方面に向かって進む。駐車場あり。
大切畑ため池に関連する作品
脚注
- ^ a b “ダム便覧 大切畑ダム”. 日本ダム協会. 2016年4月16日閲覧。
- ^ 画像は国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(2013年8月17日撮影)。
- ^ 国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(1964年10月11日撮影)。
- ^ 『角川日本地名大辞典 43 熊本県』500、962、1320ページ。
- ^ a b “大切畑ため池”. 農林水産省 (2010年3月31日). 2016年4月16日閲覧。
- ^ “ため池百選一覧”. 農林水産省 (2010年3月31日). 2016年4月16日閲覧。
- ^ 画像は国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(2016年4月29日撮影)。
- ^ “熊本・西原村 農業用ダム決壊の情報”. NHK (2016年4月16日). 2016年4月16日閲覧。
- ^ “ダム便覧 藤沼ダム(元)”. 日本ダム協会. 2016年4月16日閲覧。
- ^ “全国でただ一つ震災で決壊した「藤沼ダム」 地元農家支える「水の恵み」復旧なるか”. J-CASTニュース (2012年3月17日). 2016年4月16日閲覧。
- ^ “第3回政府現地対策本部会議・第6回災害対策本部会議資料”. 熊本県 (2016年4月16日). 2016年4月17日閲覧。
- ^ “第5回政府現地対策本部会議・第8回災害対策本部会議資料”. 熊本県 (2016年4月17日). 2016年4月17日閲覧。
- ^ “熊本県熊本地方を震源とする地震に関する農林水産省緊急自然災害対策本部第4回会合配付資料”. 農林水産省 (2016年4月22日). 2016年4月25日閲覧。
- ^ “第9回政府現地対策本部会議・第12回災害対策本部会議資料”. 熊本県 (2016年4月19日). 2016年4月21日閲覧。
- ^ “平成28年熊本地震関連資料(地理院地図)西原地区正射画像(4/16撮影)”. 国土地理院 (2016年4月16日). 2016年4月21日閲覧。
- ^ “布田川活断層”. 西原村. 2016年4月17日閲覧。
- ^ “西原村の避難場所”. 西原村. 2016年4月17日閲覧。
- ^ 田端美華 (2018年10月10日). “大切畑ダム、復興事務所開設 熊本県、西原村に”. 熊本日日新聞 (熊本日日新聞社) 2018年10月10日閲覧。
- ^ 画像は国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(2016年4月16日撮影)。
- ^ “自然”. 西原村. 2016年4月17日閲覧。
- ^ 『角川日本地名大辞典 43 熊本県』500、723、1320 - 1321ページ。
- ^ a b “熊本県平成の名水百選”. 熊本県. 2016年4月16日閲覧。
- ^ “快速たかもり号”. 産交バス. 2016年4月16日閲覧。
- ^ 西原村『平成22年度 西原村勢要覧 本編』47ページ。
参考文献
- 「角川日本地名大辞典」編纂委員会・竹内理三編集『角川日本地名大辞典 43 熊本県』角川書店、1987年12月8日。ISBN 4040014308
関連項目
- ダム
- 日本のダム - 日本のダムの歴史 - 日本のダム一覧 - 九州地方のダム一覧
- フィルダム - アースダム
- 人造湖 - 日本の人造湖一覧
- 熊本県の歴史#江戸時代の熊本
- 深迫ダム - 立野ダム
- 阿蘇ジオパーク
- 熊本地震 (2016年) - 布田川・日奈久断層帯
外部リンク
- 大切畑ため池 - ダム便覧
- ため池百選 大切畑ため池
- 建設中のダム 大切畑ダム - ダム工事総括管理技術者協会
- 大切畑ため池の被害 - 熊本災害デジタルアーカイブ