巨神兵

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巨神兵(きょしんへい)は、宮崎駿漫画風の谷のナウシカ』および劇場版アニメ風の谷のナウシカ』、または、特撮映画巨神兵東京に現わる』に登場する架空の巨大人工生命体。英語名 "Giant God Warrior(s)"[1]、"Giant Warrior(s)"[2]、"God Warrior(s)"[3]がある。

原作・映画共に、1000年前に産業文明を崩壊させた「火の七日間」で世界を焼き払ったといわれる巨人。作中の時代ではその全てが化石となり、腐海にその骸をさらしていると考えられていたが、ペジテ市の地下で発掘された一個体が復活する。化石化した個体によっては二本角のあるものや (原・映) 、顎部のデザインなどに違いがある。原・映共に化石の肩に突起はあるが、背中の突起は不明。作品序盤では、化石化した個体の内部に入るためのハッチや計器類と思われる遺構の存在や (原・映) 、原作ではのような構造物を保持している状態で[4]化石化した個体など、機械で構成された「巨大ロボット」と思しき描写をされたものが見られる。火の七日間における巨神兵は光る杖、あるいは槍のような棒状の得物を持ち歩く姿が描写される (原・映) 。原作・映画共に、食事を取らない。

原作ではユパが、滅亡の書において、その名の由来は「光を帯びて空をおおい死を運ぶ、巨いなる兵の神(おおいなるつわもののかみ)」とされていると発言した。その正体は旧世界の人類が多数創造した人工の神。あらゆる紛争に対処すべく「調停と裁定の神」としての役目を担った。

原・映共にナウシカの時代では、一般に世界を破壊した最終兵器という扱いで伝承されている。「火の7日間」以前の世界を知る者(シュワ墓所の主など)からは「巨神」や「世界を滅ぼした悪魔」と呼ばれ、忌み嫌われている。(原)

原作漫画版[編集]

オーマ: Ohma)は、ペジテ市の地下で発掘された個体の一つで、生体型の巨神兵として起動。主人公ナウシカを母親と認識し、彼女から「オーマ」の名を授けられ、土鬼(ドルク)の聖都シュワの墓所を封印するため共に行動した。人間を手の平に乗せることができるほどの巨大な体躯を有し、肩部と背中には複数の突起物が生えており、飛行時には伸張して発光する。頭頂部の尖った戦闘用ヘルメットの様な頭部には2つの丸い眼球があり、口腔部には牙が生ており、ナウシカが商標と推察した (「東亜工廠」と読むと思われる[5]) 古代文字が記されている。原作初登場時であるぺジテ市の地下に安置されている時点では、体は殻だけというか骨格だけになっていたが、ナムリスによる復活途上の時点で、体表面は人体模型のように筋組織が露出している姿に変化している。超硬質セラミックの肉体である[6]

秘石と再生[編集]

ペジテ市の地下坑道で、内部構造やエンジンを持たない特殊な巨神兵の骨格が発掘され、骨格に繋がれた黒い箱の中には秘石が置かれていた。工房技術者はこれを巨神兵を動かす制御装置と考え、中の石を右のくぼみから左のくぼみに移したが、その時には何の変化もなかった。数日後、骨格に心臓と筋肉が形成され、箱は巨神兵の胎盤だと判明する。火の7日間の再現を恐れて秘石を外したため、巨神兵の成長は止まった。その後破壊を試みるも、火や爆薬では傷を付けることも適わず、坑道の奥に放置された。

これを知ったトルメキアが奪取に乗り出し、ペジテ市を壊滅させるが、秘石を王女ラステルによって持ち出されたため蘇生を断念する。秘石は救助に駆けつけたナウシカの手に渡り、ラステルの遺言に従い双子の兄アスベルに返還された。アスベルは腐海の底に捨てたと語りつつ、秘石を隠し持つ。

復活と命名[編集]

巨神兵はトルメキアと敵対する土鬼の手に渡り、聖都シュワの墓所において旧世界の技術によって蘇生が進められる。土鬼の神聖皇帝ナムリスの命によりサナギ人工子宮)の状態でサパタの街に空輸されるが、ガンシップの砲撃に反応して孵化が始まり目覚めてしまった。この時、ナウシカがアスベルから秘石を託されていたため、ナウシカのことを母親と認識し「ママ」「母さん」と呼んだ (念話 (テレパシー) である) 。ナウシカが巨神兵に光る秘石を見せた時、石から出た光線が、巨神兵の額や目に当たり吸い込まれた。その後、この石は砕けてしまった。

秘石を得る前は言葉を発することもできず、気に入らないことがあると癇癪を起こし、ナウシカの笑顔を見て喜ぶなど赤子同然だった。秘石を体内に取り込むと片言の言葉を話すようになり、ある程度の知能を得たが、思考回路は幼いままだった。その後、ナウシカにエフタル語で「無垢」を意味する「オーマ」の名を与えられると急激に知性を発達させ、真の力を覚醒させた。ナウシカの前での一人称は「僕」で、それ以外には「私」。相手に下心があることを見抜くと嘲笑い、生かすに価するかどうか見極める為、あえて知らぬ振りをする。テレパシー能力を持たないトルメキア人に、話しかける場面もあった。

シュワへの旅[編集]

ナムリスのトルメキア侵攻を阻止したナウシカは、目覚めてしまった巨神兵の対処法を探して、また戦争激化の根源であるシュワの墓所を封印するため、オーマと共にシュワの墓所へ赴く。しかし、秘石と黒い箱による正しい手順を完了せず、土鬼の旧世界の技術で無理矢理蘇生させたオーマの肉体は、巨神兵本来の強大なエネルギーと力に耐えられず、ビームの発射や長距離の飛行といった力を使うことで徐々に腐敗し、発作的に体が動かなくなる。また、全身から放たれる生物に有害な「毒の光」によって、ナウシカの肉体も衰弱し、キツネリスのテトは正気を失った挙句死んでしまう。

シュワへの道中、ナウシカ一行はシュワへ侵攻するトルメキア第1・第2皇子の艦隊に遭遇。巨神兵の力を欲した皇子たちにナウシカが捕えられるも、すでに裁定者として目覚めていたオーマは艦隊と同行する。その姿、行動を見て、ナウシカは巨神兵の本性に気付き、巨神兵が死ねば済むのかどうか再考せざるを得なくなる。その後、ナウシカと皇子たちはオーマの掌に乗ってトルメキア艦隊から離脱。しかし、オーマは無理がたたって2度目の発作を起こし、ナウシカと皇子たちが庭の主の元に保護されると「母さんには休養が必要」と言い残し、単身で徒歩でシュワへ向かった。

墓所での最期[編集]

シュワの街に着くとオーマはトルメキア軍と土鬼軍の戦闘に介入。トルメキアのヴ王に戦闘の中止と面会を求めるが、パニックに陥ったトルメキア軍がオーマに発砲したため、ビームを放ちシュワの街の一部を焦土と化した。直後、面会に応じたヴ王に案内され墓所と対峙。この時、ヴ王はオーマの右手の中にいた。ヴ王の要求を無視してナウシカの意志である墓所の封印を宣言するが、墓所とビームの撃ち合いとなる。この撃ち合いのせいで、墓所以外のシュワの街全体が破壊された。この時、墓所の堅固な外壁の正面と上面に一本の亀裂が生じるが、自らは胸を撃ち抜かれて右腕がもげ落ち、墓所の深い空堀へと落下してしまう。

そのまま活動を停止したと思われたが、墓所の主と対峙したナウシカの呼びかけに応じて、彼女の元へと動き出す。額と口のビームで墓所の壁に穴を開け、下半身を失いながらも深部に到達し、墓所の主を握り潰す。最期はナウシカに看取られ、「自慢の息子」との称賛の言葉を贈られながら絶命した。

能力[編集]

プロトンビーム
口腔内の生体陽子粒子加速砲から発射されるほか、額からも出力を弱めたものを発射できる。当初は地平線の彼方にある山を吹き飛ばし巨大なきのこ雲を作るほどの威力であったが、身体の腐敗が進んだ後は 20リーグしか離れていない近距離から小さなきのこ雲が確認できる程度にまで威力が落ちた。それでもシュワの街の一部だけだが焦土と化す破壊力を持つ。
飛行能力
空間を歪めて宙に浮き、高速で移動することができる。飛行の際は、肩と背中の突起が伸張して光を帯び、光輪状または翼状に変形する。当初はガンシップも追いつけない高速を発揮したが、1度目の発作で体が動かなくなった後はナウシカに抑えるように言われて通常の船並みにまで低下し、2度目では飛行能力そのものを失ってしまった。
超常の力
ナウシカや神聖皇帝と同じく超常の力を持っている。言葉を発することはできるが、ナウシカとの意思疎通はこれで行なっている。20リーグ離れた遠距離からの会話や映像の念写も可能で、ナウシカからの念話による問いかけを一方的に遮断できるほどの力を持つ。

劇場版[編集]

ペジテの地下にて、「卵」の状態で発見される。トルメキアが奪取後に大型船で輸送を試みたが、卵の重さに耐えられず腐海へ突っ込んで蟲に襲われ、舵を誤って風の谷へ墜落する。これを捜索に来たクシャナが、風の谷にて蘇生しようと目論む。資料集によると、セラミックの骨格と合成タンパク質の肉体である[7]。秘石は出てこない。

王蟲の大群が風の谷へ迫った際、食い止めるためにクシャナが覚醒させるも、蘇生完了には早すぎたために全身の肉体が安定しておらず、下半身が腐り落ちたために自立歩行すら行えない。言語命令は理解しているが、会話など、知能の度合いを示す描写は無い。そのため、漫画版のような人工の神というより、生物兵器として描かれている。映画オープニングタペストリーの千年前の世界の絵の途中で、鳥のような姿の巨神兵らしきものが、壊れた街の上空を飛ぶ絵があるが、本編に登場する個体は、化石の肩の突起以外に突起がなく、飛行能力を持たない。また、超常の力も持たず、名前をつけられる事もない。額からビームを出さない。クシャナが「世界で最も邪悪な一族の末裔」と呼んだ。

肉体が溶け流れるままに上半身を起こし、王蟲の群れへビームを2発(1発目の威力は群れを長く薙ぎ払って大爆発を起こしたが、2発目の威力は肉体の腐敗がさらに進んでいたために数体を爆発させるまでに落ちた)放った後、肉体が完全に腐り落ちて絶命してしまった。戦闘が収束した後、巨神兵が身を乗り出していた丘の上には巨大な骨格が遺された。

補足[編集]

劇場版作画[編集]

劇場版において巨神兵がビームを発射しながら崩壊するシーンは、庵野秀明原画を担当した。

宮崎駿が描いた初期の絵コンテの段階では完全復活した巨神兵と王蟲が激突するシーンが存在したが、尺に間に合わないということで間に合わせるために絵コンテを描き直したという[8][9]

スタジオジブリ鈴木敏夫は、2010年(平成22年)5月27日、ブルーレイディスク版『風の谷のナウシカ』(同年7月14日発売)の完成披露発表会において、本作で原画を担当した『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明と自身との対談「ナウシカとエヴァンゲリオン!巨神兵の行方は?」がディスクの音声特典として追加収録されたことにちなんで[10]、「あいつ(※庵野)の作りたいことが分かった。エヴァンゲリオンは巨神兵だ!! と今気付きました。」「彼の最初にやった仕事が(※世界を滅ぼした巨大人工生命体である)巨神兵を描いたこと。そして今は(※汎用ヒト型決戦兵器である)エヴァンゲリオンを描いている。何十年たった今でも人間って同じことやるんですね。恐ろしい(笑)。だからお墓には巨神兵って書いときましょう。」と発言した[10]

実写特撮映画[編集]

2012年(平成24年)7月から東京都現代美術館で開催され、その後全国を巡回した「館長 庵野秀明 特撮博物館 -ミニチュアで見る昭和平成の技-」にて、スタジオジブリ製作の短編映画『巨神兵東京に現わる』が特別上映された[11]。企画は庵野秀明、監督は樋口真嗣、プロデューサーは鈴木敏夫、造型デザインは竹谷隆之[11]。撮影はCGを使用せず、ミニチュア特撮で行われた。作者の宮崎駿からは、「ナウシカは出すな」という条件で製作の承諾を得たという[11]

本作に登場する巨神兵は肉体の崩壊を起こしておらず、光の槍や飛行能力も有した「完動品」と言えるものになっている。竹谷隆之によって新たにデザインが起こされており、形状は漫画版のものに近く、エヴァンゲリオンへの逆オマージュとも言えるものになっている。また、口内のプロトンビームの展開シークエンスなども細かく設定されているほか、巨神兵の恐怖を再現するために大きさがエスカレートしていったため、サイズが原作のものよりはるかに巨大となっている。

撮影用に制作された巨神兵は全長180cm程度のもので、着ぐるみなどではなく文楽人形のように後方から棒を介して操作するという手法が取られた。操作には最大で5人を必要とする。実際に制作されたものは1体のみであるが、劇中では合成によって複数の巨神兵が登場している。

脚注[編集]

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出典[編集]

  1. ^ en:Giant God Warrior Appears in Tokyo巨神兵東京に現わる
  2. ^ すかがわ国際短編映画祭実行委員会 (2013年). “巨神兵東京に現わる A Giant Warrior Descends on Tokyo - 第30回開催 上映予定作品”. 公式ウェブサイト. すかがわ国際短編映画祭. すかがわ国際短編映画祭実行委員会. 2020年6月3日閲覧。
  3. ^ ファンダムが使用。God Warrior” (English). Ghibli Wiki. 2020年6月3日閲覧。
  4. ^ 漫画版第1巻P15・4コマ目
  5. ^ 宮崎駿『風の谷のナウシカ ワイド判第七巻』徳間書店、1995年初版、2000年20刷、22頁。
  6. ^ 宮崎駿『風の谷のナウシカ ワイド判第3巻』徳間書店、14頁。
  7. ^ 『スタジオジブリ作品関連資料集型録Ⅰ』ジブリthe artシリーズ、スタジオジブリ、1996年初版、1997年第3刷、19頁。
  8. ^ 『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』 2013 [要ページ番号]
  9. ^ 山田井ユウキ「庵野秀明監督「アニメーターの技術は、今でも『オネアミスの翼』が最高峰」と断言 - 自らのキャリアを語る」『マイナビニュース』株式会社マイナビ、2014年11月5日。2015年3月18日閲覧。
  10. ^ a b ジブリの鈴木プロデューサー、「エヴァンゲリオンは巨神兵だ」と新発見!?」『シネマトゥデイ』株式会社シネマトゥデイ、2010年5月27日。2011年6月22日閲覧。
  11. ^ a b c 庵野秀明が企画、ジブリ短編で“巨神兵”が実写化!」『映画.com』株式会社エイガ・ドット・コム、2012年5月10日。2020年6月3日閲覧。

参考文献[編集]

  • 『風の谷のナウシカ』スタジオジブリ編、文春文庫編、文藝春秋〈文春ジブリ文庫 G-1-1 ジブリの教科書 1〉、2013年4月10日。OCLC 843138700ISBN 978-4-16-812000-8