アニメ監督

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アニメ監督(アニメかんとく)とは、シナリオに従ってアニメーションの制作を指導・統括し、作画及びレイアウトの指導を行い、最終的に一個の作品としてのアニメを完成させる役職。演出家と表記されることもあり、アニメ監督とは言わば演出家の長である(アニメの「監督」は一般的なテレビ番組における「演出」に、同じく「演出」は「ディレクター」に相当する立場である)。本項では日本のアニメ監督について詳述する。

概要[編集]

実写映画の場合、撮影現場はスタッフ、キャストが集まって監督の指示の下に映画を制作する。この場合、監督とは作品の制作の他に現場を統括する管理者である。また人事を監督が行う場合もある。対して演劇の舞台監督は当日の進行を管理し、スケジュールを決定し、キャスト、スタッフの人事管理を行う。演劇の内容を担当するのは主に演出家である。アニメの場合は、アニメ黎明期のアニメ監督は人事やスケジュール管理は関与することがなかったので「監督」とは呼ばれず、演劇と同じように「演出」と呼ばれた。その後初期の日本製のアニメーション映画で実写映画と同じように監督とクレジットされることが慣例化されるようになった。またテレビアニメの場合、3ヶ月〜1年の長期に渡って放映されるため、作品の方向性を統一するために各話別のシナリオや演出家の作業を統括する監修者の存在が必要となった。当初その役職はチーフディレクター、シリーズディレクターとも呼ばれたが、東映アニメーション作品を除き80年代以降は概ね「監督」で統一された。

アニメにおける監督を含めた演出家の仕事(演出処理)は、絵コンテを映像化するための各セクションに演技や仕上がりのイメージなどの指示をすることである。シナリオライターによる脚本を元に絵コンテを作成するのも演出家の仕事であるが、現在は分業化が進み絵コンテ担当者と演出処理担当者が別であるケースが多い。絵コンテの作成はまず監督と演出家との打ち合せ(通称コンテ打ち)により意見をまとめ、作業に入り、2〜4週間程で完成する。絵コンテが完成すると、監督は演出家と演出処理についての打ち合せ(通称演打ち)を行ない、処理の方向性を確認する。ここから先は各話担当の演出家の仕事の範疇となる。演出はまず原画マンや作画監督と打ち合せを行う。その後上がってきたレイアウト、原画をチェックし、美術監督色彩設計、撮影との打ち合せも行う。その後編集(カッティングと呼ばれる)やアフレコダビングといった音響作業に指示を出していく。映像が完成すればスタッフとともにラッシュのチェックを行ない、リテイクを見つけそれを修正するための処理をしていく。全てのリテイクが終りV編と呼ばれるポストプロダクションが行なわれ、ようやく納品となる。

東映アニメーションでは音響作業においての音響監督を演出家が兼ねる体制をとっている。アニメーション黎明期において本来は音響も演出の仕事の範疇であったが、東映以外の会社では分業化されていった歴史があるためである。また東映は他社に比べて演出の権限が強く「各話監督」のような役割が与えられているのも特徴である。故にクレジット上で「監督」を置かず、現場の長には権限の弱い「シリーズディレクター」や「チーフディレクター」といった肩書が与えられる(ただし前述の通り各話演出の権限がやや強い事を除けば作業内容はほぼ他社の監督と同意であり、現場でも「監督」と呼称されている)。

演出家の出身職業[編集]

演出家はアニメーションに携わるクリエイターの現場監督とも言える存在であるが、必ずしも人並み以上に絵が描ける必要があるとはされていない。むしろ全く描けない演出家も少なくない。 アニメーションそのものの黎明期において、アニメーションは個人あるいは少人数での制作がほとんどであり、アニメーター=演出家と言えるものであった。しかしアニメーション文化が映像、商業として発展していくにつれ分業化が進み、専業の演出家が必要とされていった。 初期においてはアニメーターとしてある程度の技量を持った人間がそのまま演出家になることが多く、その傾向は現在も続いている。一方、東映動画は実写映画の助監督のように演出助手(後述)を募集しており、高畑勲のように、絵は描けずともはじめから演出助手として採用された上で演出に昇格するというパターンもあった(現在の東映アニメーションでもそのシステムは引き継がれている。また試験を受ければ社内のどのセクションからも演出に転身出来るようになっている)。1961年に設立された虫プロでは、初期は東映から移籍してきた杉井ギサブローなどアニメーター出身の演出がほとんどであったものの、富野由悠季高橋良輔などの制作進行出身のアニメ演出家が登場し、以降業界では制作進行から演出家になるという流れも一般化した。また、設立当初から分業化を進めていたタツノコプロにおいては、押井守のようにいきなり演出として採用されることもあった。 90年代までは基本的に東映の演出助手経験者、アニメーターあるいは制作進行が演出家になるパターンが多く、それ以外の職種からの転身はそれほど見られなかったが、00年代になってデジタル化が進むと撮影やCG出身の演出家も多く輩出されるようになった。これは現代のアニメの画作りにおいては撮影マンやCGクリエイターの技術に頼る事が多くなってきており、演出家にはデジタル映像技術への理解が必要不可欠となってきているためである。

作業内容[編集]

作画の打ち合わせ(作打ち)
作画監督アニメーターに対し、絵コンテを元にして担当パートの芝居の内容や意図を伝える作業。
レイアウト&原画チェック
出来上がったレイアウトや原画が絵コンテのカットの意図通りになっているかどうかをチェック。意図通りであれば作画監督に回し、そうでなければ修正の指示を入れる。また、カットの意図から大きく外れていたり描き直しが必要な場合はリテイクを出す。
美術色指定の打ち合わせ作業(色背打ち)
そのシーンに置ける背景のイメージやセルの色合い等を決めていく作業である。両者の合わせが必要なため、通常は美術と色の打ち合わせが同時に行なわれる。また、デジタル時代になってからは撮影監督も立ち会って撮影の打ち合わせを並行で行なう場合もある。
撮影出し(撮出し)
上がってきたセル画背景を合わせて撮影前の最終チェック。素材のデジタル化以降は行なわれないことがほとんどであるが、撮影打ち合わせをアナログ時代より綿密に行なうようになっている。
撮影打ち合わせ(撮打ち)
撮影監督との打ち合わせ。シーンやカットにおけるフィルタの具合やCG特殊効果の使い方を決めていく。デジタル化によって撮影の重要性は増している。
カッティング
編集作業のこと。編集スタジオで編集マン、監督と立ち会い、欠番やシート変更などを決めて尺に収まるようにカットを編集していく。全てのカットが色つきで完成(本撮)しているのが理想ではあるが、近年はスケジュールが間に合わず仮編集素材としてラフ原画、原画を撮影した線撮や絵コンテを撮影したコンテ撮をやむを得ず使用する場合が多い。線撮やコンテ撮用の素材を作るのも演出家の仕事である。
アフレコダビング
アフレコはキャラの声の録音。監督や音響監督の立ち会いの元、声優の芝居に指示を出していく。ダビングはアフレコで録音した声、音楽や効果音を絵に合わせていく作業である。音合わせ作業については音響側で基本的な仕込みは済ませてあり、それのチェックが主な仕事である。
ダビング差し替え、マーキング
本来のアニメ制作の流れで行けば音響作業は映像が完全に出来上がってから行なわれるものであったが、上記のスケジュール圧迫の影響もあり不完全な状態で音響に臨むパターンが多い。特にダビングに関しては不完全状態では難しいため、それまでにできるだけ良い状態にする必要があり、その際の編集での映像差し替えに演出家が立ち会って不備がある部分や変更点などに指示を出していく。この時、効果音を入れてほしい場所に印を入れていく作業をマーキングと呼ぶ。この2つの言葉は示す作業内容の意味は違うものの、どちらか一方だけを行なうという状況は考えにくいため、現場ではほぼ同義語である。
ラッシュチェック
ラッシュを見て作画、仕上、撮影のミスがないかチェックする。もし見つかった場合はどの部署でどのように修正するのかの指示を出す。デジタル化以降は小さいミスなら容易に修正できるようになったため、リテイクの数はアナログ時代よりずっと増えるようになった。
予告編カット選び
予告編に使うカットを選ぶのも演出家の仕事である。完成済みのカットがない場合は予告用に予告優先カットを選び、先行で作業するように指示をする。時間がない場合は編集マンにカット選びを一任するケースもある。

演出助手[編集]

通称演助(えんじょ)。その名の通り演出を補佐する職業で、映画で言うところの助監督に近い立場である。演出に付いて全体の作業を助け、撮出しやリテイクなどの雑務を演出に代わって行なう。かつては演出家になるためにはこの仕事を経験する必要があった。 しかし現在、制度としての演出助手が残っているのは東映アニメーションだけで、他社ではこの肩書きを持つ制作がいることがあってもほとんどは勉強中の「演出家見習い」程度の意味である。

関連項目[編集]