乙女ゲーム
乙女ゲーム(おとめゲーム)とは、女性向け恋愛ゲームのうち、主人公(プレーヤー)が女性のゲームの総称である。「乙女ゲー」「乙女ゲ」「乙ゲー」などと略称される。Kim Hyeshinは、「女性向けに制作・販売されてい」て、「男性キャラとの恋愛要素がある」「システムがシンプル」「メディアミックス化されることが多い」という特徴を持つゲームを「女性向けゲーム」(women’s game)と呼んでおり、欧米や中国語圏の学術研究で乙女ゲームの定義としてしばしば引用される[1]。
主人公が男性で恋愛対象が女性である美少女ゲーム(ギャルゲー)とは対照的な構造をもつ。また主人公と恋愛対象が共に男性である作品は、一般に乙女ゲームではなくボーイズラブゲームという別ジャンルに分類される[2]。女性同士の場合はガールズラブ、GL、百合ゲームなどと呼ばれる。
「乙女ゲーム」の呼称自体は2001年ごろから一部のゲームメーカーや女性向け雑誌のゲーム特集などで使用されていたが、翌年に刊行された『B's-LOG』や『電撃Girl'sStyle』などの専門誌によって認知されるようになっていったと考えられる[3][4]。
CERO A(全年齢向け)〜D(17歳以上対象)のタイトルのほか、PC向けには18禁のアダルトゲーム作品も存在する。
概要
[編集]1994年にコーエーから発売された『アンジェリーク』がその嚆矢とされることが多い[5](ただし、それ以前にも『ガールズガーデン』のように女性向けの恋愛がテーマのゲームはいくつかある[6])。『遙かなる時空の中でシリーズ』や『ときめきメモリアル Girl's Sideシリーズ』など、現在まで続く人気シリーズも多数存在する。
『アンジェ』のようにメーカー側が参照元やターゲット層を明言している場合だけでなく[7]、『遙か』や『Girl's Side』を含む多くの作品で、主人公の年齢がしばしば高校生相当(15〜18歳)に設定されている、人気漫画家を作画担当に起用しているなど、全体的な傾向として少女漫画と共通する点が散見される。他方で携帯・スマホ向けアプリや18禁ゲームでは、ターゲット層の違いから会社員や教師など社会人として働いている主人公が相対的に多い[8]。
『アンジェリーク』の発売以降、『卒業M』『アルバレアの乙女』など他社から追随するソフトも発売されたものの、当時の乙女ゲームというジャンル自体の認知度の低さから限定的な人気にとどまり、90年代は「ネオロマンスシリーズ」としてブランドを確立した『アンジェ』とその続編が市場をリードした。
2000年代に入ると、ネオロマンスシリーズの新作である『遙か』(2000)や『Girl's Side』(2002)を皮切りに多くのヒット作が登場し、本格的に女性向け恋愛ゲームの市場が開拓されていくことになる(2008年に市場規模が最初のピークを迎えている[9])。
矢野経済研究所が発表した「オタク市場に関する調査結果2012」では乙女ゲー市場は約146億円であり、ボーイズラブゲーム市場は停滞しているという結果が出た。
歴史
[編集]- 1994年 - コーエー(現・コーエーテクモゲームス)から『アンジェリーク』発売。
- 1995年 - 結婚をテーマにした初の男女兼用恋愛ゲーム『結婚 〜Marriage〜』(セガサターン用ソフト)発売。育成SLG『卒業』、その女性版『卒業M』に登場するキャラクターたちの社会人となった姿を描いたというものだが、後に発売されたPlayStation版では男主人公でしかプレイできず、女主人公視点が削除されるなど、成功したとは言い難い結果となる。
- 1998年 - 富士通からPC用ソフト『ファンタスティックフォーチュン』が発売され、同人方面で人気が出る。PlayStationへの移植署名活動が起き、3年後に実現された。また、この年から2000年にかけて、男女兼用恋愛ゲームが頻繁に発売されるなど、恋愛ゲーム業界において女性ユーザーもターゲットと見なされるようになる。
- 2000年 - AMEDEOから『FIRST/LIVE』発売。PCユーザー層でも女主人公恋愛ゲームファンが増え始める。
- 2002年 - コナミが『ときめきメモリアル Girl's Side』を発売。今まで乙女ゲームをプレイしたことがなかった、存在自体を知らなかったユーザー層も獲得し、女主人公恋愛ゲームの認知度が大幅に上がる。また、この頃から乙女ゲームという単語が雑誌やWeb上で使われることが珍しくなくなり、浸透し始める。
- 2003年 - 美蕾から業界初の18禁乙女ゲーム、『星の王女』が発売された。
- 2004年 - ディースリー・パブリッシャーが2ヶ月ごとに乙女ゲームをリリース、カプコンが他の乙女ゲームではあまり見られなかった要素を盛り込んだ『フルハウスキス』が高評価を得る、年末に発売された『幕末恋華 新選組』、『遙かなる時空の中で3』のヒットなど、乙女ゲーム業界が本格的に賑わうようになる。
- 2005年 - コナミより『テニスの王子様 学園祭の王子様』が発売。少年漫画が題材の本格的な乙女ゲームとして注目された。翌年には『テニスの王子様 ドキドキサバイバル』が発売されている。
- 2006年 - この年に発売された恋愛ゲーム売上TOP20(ファミ通調べ)のうち8本が女性向けゲーム、そのうち7本が乙女ゲームという結果が出る。しかし、コーエーのネオロマンスシリーズや、コナミのGirl's Sideシリーズといった作品以外はなかなか実売本数を伸ばせなかった。
- 2008年 - PS2で人気を得たタイトルのニンテンドーDS・PlayStation Portableへの移植、ギャルゲーから派生した乙女ゲームの発売が相次ぐ。この頃、アイディアファクトリーによるブランドオトメイトより『薄桜鬼』『緋色の欠片』といった現在もシリーズが続く作品が発売された。
- 2010年 - ブロッコリーから『うたの☆プリンスさまっ♪』が発売。キャラクターソングCDがオリコントップ10入りを果たすなど、ヒット作品となる。オトメイトより発売された『薄桜鬼』が様々なゲーム機に移植され、アニメ化や舞台化といった幅広いメディアミックス展開をみせた。
- 2013年 - ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)よりPlayStation Vita本体に『薄桜鬼 鏡花録』『AMNESIA V Edition』のダウンロードコードが同梱された『オトメイトスペシャルパック』が発売された[10]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ Kim, Hyeshin (2009). “Women’s Games in Japan: Gendered Identity and Narrative Construction”. Theory, Culture and Society 26 (2–3): 165–188.
- ^ 木川田朱美 著「BLゲームとアーカイブ」、堀あきこ、守如子 編『BLの教科書』有斐閣、2020年、189-190頁。
- ^ “乙女ゲーム30年のあゆみ 第1回 「乙女ゲーム」という名称はどのように広まったのか?”. メディア芸術カレントコンテンツ. 文化庁. 2025年11月8日閲覧。
- ^ “乙女ゲーム30年のあゆみ 第3回 はじまりの五つのタイプ:三位一体の市場メカニズムが可視化するプレイヤー像(1993年~2004年)”. メディア芸術カレントコンテンツ. 文化庁. 2025年11月8日閲覧。
- ^ 菫野 (2018年4月23日). “『アンジェリーク』が切り拓いた90年代――乙女ゲームの歴史をNo.1とOnly Oneでプレイバック【乙女ゲームLabo】”. 2025年11月8日閲覧。
- ^ “名作アルバム Vol.1: ガールズガーデン”. SEGA. 2025年11月8日閲覧。
- ^ みきーる (2021年8月4日). “女性向けゲームの先駆者は,シリーズ18年ぶりの最新作で今の女性とどう向き合ったのか。「アンジェリーク ルミナライズ」開発者インタビュー”. 4Gamer. 2025年11月8日閲覧。
- ^ アプリマーケティング研究所編集部. “ただの「いい人」はゲームでも現実でもモテない。1本で1億円を稼ぐ「恋愛ゲーム」の裏側と、モテる二次元キャラの法則をアリスマティックが語る。”. アプリマーケティング研究所. 2025年11月8日閲覧。
- ^ 『ファミ通ゲーム白書2011』エンターブレイン、2011年、131頁。
- ^ http://www.jp.playstation.com/psvita/hardware/pchj10011.html