神楽
神楽(かぐら)は、神道の神事において神に奉納するために奏される歌舞。神社の祭礼などで見ることができ、まれに寺院で行うところもある。
概要
「かぐら」の語源は、「神座」(かむくら・かみくら)が転じたものとする説が一般的である。神座とは「神の宿るところ」「招魂・鎮魂を行う場所」を意味し、神座に神々を降ろし、巫・巫女が集まった人々の穢れを祓ったり、神懸かりとなって神の意志を伝えたり、また人の側からは願望が伝えられるなど、神人一体の宴を催す場であり、そこでの歌舞が神楽と呼ばれるようになったと考えられている。古事記および日本書紀においては、岩戸隠れの段でアメノウズメが神懸りして舞ったという神話が神楽の起源であるとされる。アメノウズメの子孫とされる猿女君は宮中において鎮魂の儀に携わっており、このことから神楽の元々の形は招魂・鎮魂・魂振に伴う神遊びであったとも考えられる。
神楽は、宮中で行われる御神楽(みかぐら)と、民間で行われる里神楽(さとかぐら)に分けられる。里神楽は民俗芸能研究の第一人者である本田安次(1906-2001)がさらに大きく巫女神楽・出雲流神楽・伊勢流神楽・獅子神楽に分類した。これらの流れを汲んだ神楽が各地に存在する。しかし、この分類では不都合なことも生じてきており、近年里神楽の分類方法の見直しも考えられている。近代に作られた神楽もあり、その中には多くの神社で行われているものもある。
大きい神社では「神楽殿」が建設され神事が行われる事が多い。
御神楽
宮中の賢所で行われる御神楽(賢所御神楽)のことで、古くは内侍所御神楽と言われた。雅楽(国風歌舞)に含まれる。大嘗祭の清暑堂での琴歌神宴(神楽)、賀茂臨時祭の還立の神楽、園并韓神祭の神楽、石清水八幡宮臨時祭の神楽から成立したと考えられている。長保4年(1002年)あるいは寛弘2年(1005年)から隔年で行われるようになり、後に毎年の行事となった。
明治41年(1908年)の皇室祭祀令により、「小祭」の一つと定められた。賢所御神楽を「小祭」の一つと定めた皇室祭祀令は1947年に廃止となる。
簡略化されてはいるが宮内庁式部職楽部によって、現在も毎年12月中旬に賢所で行われ、大嘗祭でも行われる。
里神楽
一般に神楽と言われているもの。里神楽という語は御神楽との対比に用いられ、狭義では関東での民間の神楽に用いられる。
- 巫女神楽
- 巫女が舞う神楽。神がかりのために行われた舞がもととなり、それが様式化して祈祷や奉納の舞となった。前者の特徴は順・逆に回って舞うことなどで、その古態を残すところもあるが、現在では後者がほとんどである。鈴・扇・笹・榊・幣など依り代となる採物を持って舞う。
- 出雲流神楽
- 佐陀大社の御座替神事を源流とする神楽。この神事(佐陀神能)は取り替えた御座を清めるための採物舞と神話や神社縁起を劇化した神能などから成り、この流れを汲んだうえで演劇性を高めた神楽が中国地方中心に全国へ広がっている。特に島根県西部や広島県北西部に伝わる石見神楽の系流は、子供にも人気のある娯楽芸能として確立されている。
- 伊勢流神楽
- 湯立と神楽が結びついたもの。伊勢外宮の摂末社の神楽役たちが行った物が広まったと考えられている。霜月神楽、花祭とも言われる。釜を据えて湯を沸かし、巫女などが自ら、あるいは周囲の人にその湯を降りかけて清める湯立に、採物あるいは着面の神楽が加わる。
- 獅子神楽
- 獅子舞の一種。風流系とは異なり、獅子頭を神体として各地を巡って祈祷やお払いを行う。二系統あり、東北地方の山伏神楽と、伊勢などの太神楽がある。
上記は大まかな分類であり、また、各地の神楽にはこれらの幾つかの要素が入り混じっている場合がある。
- 太神楽
- 伊勢神宮や熱田神宮の神人が各地を巡って(回檀)、神札を配り、竃祓いや村の辻での悪魔祓いとして行った神楽。大神楽・代神楽とも。獅子舞と曲芸から成る。伊勢太神楽の獅子舞は回檀先の多くの村々に移入され、それらは伊勢太神楽系の獅子舞と呼ばれる。熱田派は江戸開府の際に本拠地を江戸に移した。余興として行われていた曲芸は舞台芸としての太神楽に発展、江戸太神楽や水戸大神楽となった。
曲芸としての神楽
江戸末期から寄席の登場で祭事色の神楽から演芸の曲芸(いわゆるジャグリング)が演じられることが多くなった。 寄席では落語、講談とは違い色物と扱われることが多く太神楽曲芸と言う。
- 主な演目
- 『曲撥』
- 『長撥の曲』
- 『羽子板相生の曲』
- 『曲鞠』
- 『傘の曲』
- 『花籠鞠の曲』
- 『五階茶碗』
- 『相生茶碗の曲』
- 『水雲井の曲』
- 『末広一万燈』
- 主な曲芸師
詳しくは太神楽曲芸協会#所属会員
参考文献
- 民俗の事典(ほるぷ、1977年、ISBN 978-4753402113)P327~331
- 民俗の事典(岩崎美術社、1972年)の再刊(内容は同じ)
- 日本民俗大辞典(全2巻、吉川弘文館、ISBN 4642013334、他)上P327~329
- 精選 日本民俗辞典(吉川弘文館、ISBN 4642014322)P118~121
- 日本民俗事典(大塚民俗学会、弘文堂、1972~80年)P131~132、136~137
- 縮刷版(ISBN 4335570503、内容は同じ)も有り
- 民俗学辞典(柳田国男、東京堂出版、1951~69年)P96~98
- 民俗芸能辞典(三隅治雄・他、東京堂出版、1981年)P109~110
- 「日本の祭り」はここを見る(八幡和郎・西村正裕、祥伝社、ISBN 9784396110536)P90~120
- お神楽―日本列島の闇夜を揺るがす(平凡社、ISBN 978-4582921151)
- 神楽面の彫り方(中村延寿、日貿出版社、ISBN 481705042X)
他、多数
関連項目
- 宮崎県の神楽
- 長崎県の神楽
- その他