独裁政治

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デモクラシー・インデックスによる地域別の政治判断。青色が濃い地域ほど独裁傾向が強い

独裁政治(どくさいせいじ)とは、一個人、少数者または一党派が絶対的な政治権力を独占して握る政治体制を指す。独裁制とも言う。

概要

「独裁政治」という言葉は、戦争内乱などの非常事態において、法的委任の手続きに基づき独裁官に支配権を与える古代ローマの統治方法に由来する。独裁政治は、一般に、戦時や社会の混乱期に多く出現する。

絶対君主制との違いは世襲を伴わないことなどが挙げられる。専制政治では固定的または身分的な支配層が非支配層を支配するが(社会階級)、独裁では支配者と被支配者の身分は基本的には同一である。

軍事的な手続きであるクーデター内戦によって独裁者となる場合が多いが、民主主義的な手続きの結果として独裁者が生まれることもある。ナチス・ドイツアドルフ・ヒトラーは、民主主義、民主憲法であるヴァイマル憲法のもとで独裁化した例である。がそれまでの政府を打倒し直接政治を執る軍事政権も、独裁政治としてはよくみられるタイプのものである。

また、独裁政治をとる場合において政党は必ずしも不要なものではなく、むしろ統治の補助・翼賛機構として支配政党を一つ作り、それ以外の政党を認めない一党制をとることの方が多い。この場合、支配政党のほかにいくつかの衛星政党が存在を許される場合もあるが、こうした衛星政党は支配政党に異議を唱えることは許されず、形式的に存続しているだけのもので、実質的には意義を失っている。こうした形式的複数政党制はヘゲモニー政党制と呼ばれ、人民民主主義をとる社会主義国の一部ではこうした体制が存続している。マルクス・レーニン主義を掲げる社会主義国の一部では、プロレタリア独裁を根拠に共産党による一党独裁制を採用している。朝鮮民主主義人民共和国のように世襲が行われる場合もある。

独裁的な政治体制の下では体制批判は許されず、個人の自由は著しく制限される。民衆の意思表示は抑圧され、反対派は何らかの形で排除される。また、為政者の権力行使に抑制が効かずに、恣意的な国家運営に堕すこともあり、国家としての方向性を失って行く場合も多い。一方で、独裁制はトップの意思の伝達がスムーズであり、有能な独裁者がビジョンに基づき独裁をおこなった場合、国家が大幅に発展することも不可能ではない。こういった体制は20世紀後半の東アジア東南アジアに多く見られ、開発独裁と称された。

普通選挙による議会制民主主義大統領制などに加えて、権力分立や公職の多選禁止(アメリカ憲法修正22条で定める三選の禁止、韓国チリにおける再選禁止など)は、政治の独裁化を防ぐ理念に基づくものと考えられている。

専制政治との違い

共和政ローマ時代の独裁制に注目したドイツ・ワイマール時代の政治学者カール・シュミットは、独裁制と専制政治の違いを「具体的例外性」にみいだしている。シュミットによると、独裁制は、非常時に現行法規を侵犯するが、それは法秩序を回復するという具体的目的に従属し、したがって独裁は、秩序回復ののちには当然に終了する例外的事態である。独裁がこの具体的例外性をうしなえば、専制政治に転化することになる。

さらにシュミットは、独裁を「委任的独裁」と「主権的独裁」に分類した。委任的独裁は、現行の憲法秩序が危機に陥った時、憲法秩序を維持するためにその機能を一時的に停止する独裁をいう。憲法の規定に非常大権が定められていれば、この独裁は形式的にも憲法に違反しておらず、「立憲的独裁」とよばれうる。

これに対して主権的独裁とは、現行憲法ではなく将来実現されるべき憲法秩序、政治イデオロギーにもとづいておこなわれる独裁をいう。この場合の独裁は、主権をもつ人民からその権限を委任されているがゆえに許されるとし、現行法秩序をまったく超越して成立する革命権力がこれに相当する。主権的独裁の歴史的事例としては、フランス革命におけるロベスピエール独裁、ロシア革命や中国革命における共産党独裁があてはまる。

代表例

過去

歴史的に、一般的に広く「独裁」と呼ばれている思想、集団、体制には以下がある。民衆または民主主義より発生したものが、相対的に「独裁」と呼ばれている場合が多い。

現在

現存する国家で、憲法等で公式に「独裁」を明記している主な国は以下の2ヶ国である。

これらはマルクス・レーニン主義を掲げる社会主義国で、共産党(共産党幹部)が独裁している。「プロレタリア独裁」という概念などを根拠としている。ただし、実際には共産党の幹部は多くが世襲化しており、親の代からプロレタリアート(労働者)として働いてもおらず、さまざまな利権を独占していて賄賂などを受け取り、一般大衆とは別格の裕福な生活を送っており、結局、17世紀や18世紀の貴族による支配とほとんど変わらなくなってしまっている(共産貴族ノーメンクラトゥーラ)。

特に、北朝鮮の場合は「党による独裁」というシステムがあるものの、そのシステム全体を、特定の一族が乗っ取ってしまっている。

  • 労働党中央委員会総書記(実質上の最高権力者)の座が、実質上世襲されてしまっている。2代目の金正日、3代目金正恩とも労働者(プロレタリアート)として労働の人生を送ったことなど実際には全くなく、本当はプロレタリアートではない。実質的には、2代目3代目が世襲している段階で、特定の血筋の者が最高権力者として独裁しているということになる。金親子は、一般大衆とはかけ離れて贅沢な生活をしており、宮殿のようなところで暮らしており、実質的には王族と変わりない。むしろ、現代のヨーロッパの貴族・王室などのようにオープンなマスコミによって監視されていない分、やりたい放題で、王政や貴族制の悪い面が強調されてしまったような状態になっている。

脚注

  1. ^ 《中华人民共和国宪法》第一条 中华人民共和国是工人阶级领导的、以工农联盟为基础的人民民主专政社会主义国家。社会主义制度是中华人民共和国的根本制度。禁止任何组织或者个人破坏社会主义制度。(中華人民共和国は、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家である。社会主義制度は、中華人民共和国の基本となる制度である。いかなる組織又は個人も、社会主義制度を破壊することは、これを禁止する。)
  2. ^ 《中华人民共和国宪法》序言 中国共产党领导的多党合作和政治协商制度将长期存在和发展。(中国共産党指導の下における多党協力及び政治協商制度は長期にわたり存在し、発展するであろう。)
  3. ^ 中華人民共和国憲法を読む(2004年、抜粋)
  4. ^ 中国共産党規約
  5. ^ 朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法

関連文献

関連項目