ジャン・チャクムル

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ジャン・チャクムル
生誕 (1997-12-05) 1997年12月5日(26歳)
出身地 トルコ共和国アンカラ市
学歴 フランツ・リスト・ヴァイマル音楽大学
ジャンル クラシック
職業 ピアニスト
担当楽器 ピアノ
事務所

JESC(公益財団法人ジェスク音楽文化振興会) Ikon Arts-Edition Peters

LocksBridge Artist Management
公式サイト cancakmur.com

ジャン・チャクムルトルコ語:Can Çakmur, 1997年12月5日[1] - )は、トルコ出身のピアニスト[2][3][4]2018年の第10回浜松国際ピアノコンクール優勝者[5]

略歴[編集]

1997年トルコの首都アンカラ生まれ[6]。父は政治学者[7]、父方の祖父は元イズミル広域市長[8]。家族や親戚にプロの音楽家はいないが、アマチュアとして父はギターを弾き、母は以前に合唱団で歌を歌っていた音楽好きな家庭に育つ。物心ついたころから週末には家族でコンサートを聴きに行き、家の中には常に音楽があった。必然的に音楽に夢中になり、自分も何か楽器を弾きたいと両親にせがんで3~4歳の頃[注釈 1]音楽教室のドアを叩いた。元々はギターが希望だったが、手が小さいためピアノから始めるよう勧められた[7]

レイラ・ベケンスィル(Leyla Bekensir)、アイシェ・カプタン(Ayşe Kaptan)からピアノの手ほどきを受けた後、2009年から2015年まで6年間、エムレ・シェントルコ語版に師事し、また菅野潤からもレッスンを受けた。アンカラの普通高校に通うかたわら[注釈 2]2012年からはパリスコラ・カントルムマルチェッラ・クルデーリイタリア語版に師事し、2014年首席で卒業。同じく2012年以降、アラン・ヴァイス英語版アリエ・ヴァルディ英語版クラウディオ・マルティネス=メーナー英語版レスリー・ハワードロバート・レヴィン等のマスタークラスに参加。2011年頃から継続してベルギーディアネ・アンデルセン英語版(ダイアン・アンダーセンと表記することもある)の元に通い、個人レッスンを受けている他、現在はドイツヴァイマルにあるフランツ・リスト・ヴァイマル音楽大学グリゴリー・グルツマンドイツ語版に師事している[16]

2013年以来、トルコ出身の有名なピアノデュオ、ぺキネル姉妹トルコ語版が主導するプロジェクト「世界の舞台に立つ若き音楽家たち」のメンバーとして奨学金をはじめ様々なサポートを受けており、スポンサーであるトルコの企業トゥプラシュトルコ語版からはヤマハグランドピアノを貸与されている[17]。またリヒテンシュタイン国際音楽アカデミーの奨学生でもあり、同アカデミーが提供する集中コースや演奏活動にも定期的に参加している[18]

2017年スコットランド国際ピアノコンクール優勝に続き、2018年には浜松国際ピアノコンクールに出場し優勝を勝ち取った。その際に、第1次予選から本選まで一貫して使用[19]した河合楽器製作所のフルコンサートグランドピアノSK-EXを気に入り[20]、その後に日本国内で行われたほぼ全てのコンサートリサイタルでも使用した他、コンクール会場となったアクトシティ浜松(中ホール)で収録したデビューアルバム(2019年[21]と、イギリスモンマスにあるワイアストン・コンサートホールで収録したセカンドアルバム(2020年[22]でもこのモデルを使用している。

受賞歴[編集]

国際ピアノコンクール[編集]

各種音楽賞[編集]

演奏活動[編集]

2017年スコットランド国際ピアノコンクール本選では、グラスゴー王立コンサートホールにおいて、トマス・セナゴー英語版指揮ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団と協演した。優勝後にはサチーレイタリア)のファツィオリ・コンサートホール、ブレーメンドイツ)のディー・グロッケ・ブレーメン・コンサートハウス英語版パリサル・コルトーミュンヘンガスタイクアイントホーフェンミュージックヘボウ英語版をはじめとしたヨーロッパ各地のコンサートホールで演奏を披露した他、ボローニャのピアノフォルティッシモ音楽祭をはじめ、ヨーロッパ各地の音楽祭に招待されている。ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団とは2019年ケンショウ・ワタナベ指揮で再協演した[6][31]

トルコ国内では、第13回アンタルヤ・ピアノフェスティバル(2012年)をはじめとした主要な国内音楽祭への招待経験がある。2014 年にはエンデル・サクプナルトルコ語版指揮エスキシェヒル交響楽団のオープニングコンサートで演奏、翌2015年には第43回イスタンブール国際音楽祭トルコ語版サッシャ・ゲッツェル指揮ボルサン・イスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団トルコ語版との協演でオープニングコンサートを飾った[6]。これまでに、ギュレル・アイカル、ブラク・トゥズン(Burak Tüzün)、アルフォンソ・スカラーノ(Alfonso Scarano)、イブラヒム・ヤズジュトルコ語版レンギム・ギョクメントルコ語版、ジェミイ・ジャン・デリオルマン(Cemi'i Can Deliorman)ら指揮者との協演経験がある[6][31]

日本国内では、2018年の第10回浜松国際ピアノコンクール本選で、高関健の指揮で東京交響楽団と協演。優勝後の2019年から2020年にかけ日本各地で20回以上のコンサートリサイタルを行った。協演したオーケストラには、札幌交響楽団大阪交響楽団名古屋フィルハーモニー交響楽団浜松交響楽団九州交響楽団岡山フィルハーモニック管弦楽団東京フィルハーモニー交響楽団静岡交響楽団がある。また協演した指揮者には、佐藤俊太郎マーティン・ブラビンズ海老原光尾高忠明広上淳一ハンスイェルク・シェレンベルガーがいる[6][31]

室内楽が最も好きだと語り[32]川久保賜紀(ヴァイオリン)、松実健太(ヴィオラ)、長谷川陽子(チェロ)と協演した第10回 浜松国際ピアノコンクールでは室内楽賞も受賞している[5]チェリストジャマル・アリイェフ英語版と協演した2019年セント・マグナス・フェスティバル英語版オークニー/スコットランド) における演奏は、BBC Radio 3によって収録された。アリイェフとは、同年にウィグモア・ホールロンドン)でも協演している[31]2021年にはコントラバス奏者ドミニク・ワグナー(Dominik Wagner)とも協演、同年発売されたワグナーのアルバムではピアノ伴奏を担当した。また2022年には自身のピアノトリオTrio Vecandoを結成。これまでトルコ国内外で室内楽コンサートを行っている[6]

なお2020年中に予定されていたダリア・スタセフスカ英語版指揮BBC交響楽団との協演によるコンサートノッティンガム・ロイヤル・コンサートホール英語版、ミルトンコート・コンサートホール(バービカンセンターロンドン)、 ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター(KKL)コンサートホール、テアトロ・ダル・ヴェルメ英語版ミラノ)、ポメラニアン・フィルハーモニック・コンサ-トホール英語版ビドゴシチ)等でのコンサートおよびリサイタル[6][33]は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、キャンセルまたは延期された[33]

コロナ禍の最中においては、ICMA授賞式への参加およびガラコンサート[34]フォンダシオン・ルイ・ヴィトンパリ)でのリサイタルが実現、ビアリッツ・ピアノフェスティバル(フランス)やラファエル・オロスコ国際ピアノ・フェスティバル(コルドバ/スペイン)に招待された他、日本ツアーのために2度来日し、京都コンサートホールにおいてデイヴィッド・レイランド指揮のもと京都市交響楽団との協演や、サントリーホールにおいて鈴木優人指揮のもと読売日本交響楽団との協演を果たし、岡崎市シビックセンター北九州市立響ホール三井住友海上しらかわホール等でのリサイタルも行った[33]。また、中止となった第11回浜松国際ピアノコンクールの代替イベントとして企画された「浜松国際ピアノフェスティバル」ではオープニング・リサイタルを飾った[35]

レパートリー[編集]

バロックではバッハスカルラッティ古典派ではハイドンモーツァルトベートーヴェンロマン派ではシューベルトメンデルスゾーンリストシューマンブラームスを主なレパートリーとするが、民族音楽を取り入れたバルトークや母国トルコの作曲家アフメト・アドナン・サイグンファジル・サイの作品も機会あるごとに演奏している。また現代音楽作曲家イェルク・ヴィトマンエリック・ドメネク(Eric Domenech)スフェン・ダイガードイツ語版の作品もレパートリーに取り入れている[31][33]

高校時代に行われたインタビューでは、最も好きな作曲家としてシューベルトバルトークの名前を挙げている[7]。また、2019年に行われたインタビューでは、古典派と初期ロマン派にとりわけ親近感を抱いており、モーツァルトハイドン、そして特にシューベルトを演奏するのは楽しいが、その一方でチャイコフスキーラフマニノフのような作曲家の作品は、いかに好きであろうと自分が聴きたいと望むような形で演奏できるとは思えないとも言う[36]古典派とドイツの初期ロマン派作曲家は自分のレパートリーのベースを成しているとともに、おそらく生涯を共にする作曲家となるだろう[37]、特に繰り返し名前が挙がるシューベルトについては、歌曲作品を繰り返して聴いており、自分にとって生涯を共にする作品になることは分かっている[38]、と語っている。2枚目のCDは、リストピアノ独奏用に編曲したシューベルト歌曲作品『白鳥の歌』を収録したものであるが、子供の頃にフィッシャー=ディースカウジェラルド・ムーアの録音に憑りつかれたように夢中になり、毎日学校に行く前に練習をしたことを覚えている[39]と、また、この曲全曲を演奏し録音するのは「子供の頃からの夢だった」と語っている[40]

録音・放送等[編集]

BISレコードからこれまで5枚のスーパーオーディオCDが発売されている。

また、第10回浜松国際ピアノコンクール上位入賞者によるコンクール中のハイライト演奏を集めたCD 『第10回浜松国際ピアノコンクール2018』(ALCD-7233、2019年)にも室内楽曲と協奏曲が収録されている[49]

コントラバス奏者ドミニク・ワグナー(Dominik Wagner)のアルバム『Revolution of Bass』(Berlin Classics、2021年)ではピアノを担当した[50]

その他、若手ソリストの育成活動を行うオルフェウム財団のモーツァルト・プロジェクトではソリストの1人として選ばれ、アルバム『次世代ソリストたちによるモーツァルト Vol.1』(Alpha 794、2022年)も収録されている[51]

2019年8月に東京・すみだトリフォニーホールで行われたリサイタル[31]日本放送協会によって収録され、「クラシック倶楽部[52][53][54]ベストオブクラシック[55]等の番組で繰り返し放映、放送されている。

2021年10月にサントリーホールで収録されたトーマス・アデスの協奏作品「イン・セブン・デイズ英語版」(日本初演)は、日本テレビの番組「読響プレミア」で放送された[56]

執筆、講演、その他の活動[編集]

読書と文章を書くことを好む[57]2015年以来トルコクラシック音楽雑誌『アンダンテ(Andante)』[58]にほぼ毎月投稿しており、現在までに執筆した本数は50本に及ぶ。またコンサートリサイタルでは、自らプログラム[要曖昧さ回避]ノートを執筆することもあり[59][60]、演奏前にはしばしばプログラムの解説も行う[7][61]。2枚のCDのライナーノーツも自ら執筆したものである[62]2016年にはイスタンブール国際音楽祭に招待され、イディル・ビレットの75歳の誕生日を祝う記念リサイタルのプレコンサート・プログラムとして、原稿を読むことなくシューベルト作品について30分間の講演を行った[63]

また高校時代にはオルドゥトカットのような、クラシック音楽に触れる機会の少ないアナトリア中部の都市でもコンサート活動を行ったが、地元学生と交流の機会を持ち、演奏前にプログラムや作曲家についての解説を加えることで聴衆の大きな関心を集めたこの時のコンサートは忘れがたい経験だったと語る[10]など、ピアノやコンサートホールのない場所へと出向いてクラシック音楽コンサートを開き、人々に音楽を届けることにも使命を見出している[64]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ インタビューによっては「おそらく4~5歳の時」[9]、「5歳」[10][11]とも答えている。
  2. ^ 日本国内では「2012年アンカラの高校を卒業後」と記載されたプロフィールが出回っている[12][13][14]が、チャクムル自身が「初等科1年から高等科の最終学年まですべての正規教育を受け、2015年に卒業した」[15]と書き綴っていること、自らの公式サイトに「2012年に、アンカラで継続している高校教育に並行して、パリスコラ・カントルムへの入学が許可され」 というトルコ語のプロフィール[16]を掲載していること、トルコの教育制度は小学校から高校まで12年制であることなどから、現在出回っている日本語のプロフィールは誤訳に基づいた誤表記の可能性が高い。

出典[編集]

  1. ^ Can Çakmurツイッター・アカウント
  2. ^ Can Çakmur”. www.iksv.org. www.iksv.org. 2021年1月24日閲覧。
  3. ^ Can Çakmur”. ikonarts-editionpeters.com. ikonarts-editionpeters.com. 2021年1月24日閲覧。
  4. ^ Can Çakmur”. www.arter.org.tr. www.arter.org.tr. 2021年1月24日閲覧。
  5. ^ a b c 第10回浜松国際ピアノコンクール概要>第10回入賞者
  6. ^ a b c d e f g Can Çakmurバイオグラフィー
  7. ^ a b c d 『アンダンテ』誌2015年6月号からの転載
  8. ^ ヒュリエット紙2018年11月25日
  9. ^ Quick Sigorta “QBlog”インタビュー
  10. ^ a b 9 Eylül紙インタビュー、2017年9月22日
  11. ^ ミッリイェット紙2019年5月19日
  12. ^ 第10回浜松国際ピアノコンクール入賞者披露演奏会プロフィール
  13. ^ りゅーとぴあ ジャン・チャクムル ピアノ・リサイタル
  14. ^ しいきアルゲリッチハウス ジャン・チャクムル ピアノ・リサイタル
  15. ^ 中東工科大学付属学校30周年記念誌p.16
  16. ^ a b Can Çakmurダウンロード版トルコ語バイオグラフィー
  17. ^ Young Musicians on World Stages
  18. ^ International Musikakademie in Liechtenstein
  19. ^ KAWAIニュースリリース2018年11月24日
  20. ^ ONTOMO 2019年11月22日
  21. ^ a b キングインターナショナル 2018年第10回浜松国際ピアノコンクール第1位/ジャン・チャクムル
  22. ^ a b リスト:シューベルトの『白鳥の歌』ジャン・チャクムル
  23. ^ 4th International FRANZ LISZT Competition for Young Pianists
  24. ^ X International BALYS DVARIONAS Competition for Young Pianists and Violinists Prizewinners
  25. ^ Scottish International Piano Competition 2017 Awards
  26. ^ Can Çakmurバイオグラフィー英語バージョン
  27. ^ Can Çakmurのツイート2018年10月20日
  28. ^ Aydın Gün Encouragement Award
  29. ^ ICMA Winners 2020
  30. ^ ICMA Winners 2021
  31. ^ a b c d e f Can Çakmur過去のコンサート・プログラム
  32. ^ 浜松市文化振興財団情報誌 「HCF News」 vol.35
  33. ^ a b c d Can Çakmurコンサート・プログラム
  34. ^ ICMA Preisverleihung und Galakonzert
  35. ^ 浜松国際ピアノフェスティバル
  36. ^ ジュムフリイェット紙2019年1月11日
  37. ^ 『アンダンテ』誌2019年10月号
  38. ^ キング・インターナショナル公式サイト
  39. ^ https://twitter.com/can_piano/status/1312053464004988928?s=20
  40. ^ https://twitter.com/can_piano/status/1310519741484879872?s=20
  41. ^ BIS Records - Can Çakmur - Piano Recital
  42. ^ BIS Records - Can Çakmur - Liszt/Schubert: Schwanengesang
  43. ^ リスト:『白鳥の歌』(シューベルト―ジャン・チャクムルによる再編成)
  44. ^ BIS Records - Can Çakmur – Without Borders
  45. ^ 『国境なきピアノ曲』 ジャン・チャクムル
  46. ^ BIS Records - Can Çakmur - Schubert + Schoenberg
  47. ^ 『シューベルト+シェーンベルク』 ジャン・チャクムル
  48. ^ 『シューベルト+ブラームス』 ジャン・チャクムル
  49. ^ ALM RECORDS 第10回浜松国際ピアノコンクール 2018
  50. ^ Giovanni Bottesini – Revolution of Bass – Dominik Wagner
  51. ^ NEXT GENERATION MOZART SOLOISTS
  52. ^ 日本オーディオ協会 放送日:2019年10月7日
  53. ^ JESCフェイスブック2020年5月13日投稿
  54. ^ キングインターナショナルトピックス 2020年5月20日
  55. ^ 2020年10月1日再放送 ベストオブクラシック 選▽ジャン・チャクムル ピアノ・リサイタル
  56. ^ 読響プレミア バックナンバー
  57. ^ 『音楽の友』2020年3月号、pp.68-69
  58. ^ 『アンダンテ(Andante)』誌
  59. ^ Can Çakmurプログラムノート
  60. ^ 『アンダンテ』誌ポータルサイト2014年2月28日
  61. ^ muzikguncesi.com can çakmur 2018年11月16日
  62. ^ SANATTAN YANSIMALAR 2019年3月14日
  63. ^ https://www.youtube.com/watch?v=QAtvpaDgsG8&t=188s
  64. ^ 2019年9月21日放映Habertürk TV

外部リンク[編集]