運動エネルギー回生システム
運動エネルギー回生システム(うんどうエネルギーかいせいシステム、Kinetic Energy-Recovery System)は、ブレーキング時のエネルギーを回収・蓄積し再利用するシステムの総称。自動車レースのフォーミュラ1(F1)において2009年シーズンに導入され、2010年以降はプロトタイプレーシングカーにも搭載されるようになった。F1では「KERS(カーズ)」の略称で呼ばれる。2014年のF1世界選手権以降はレギュレーションの変更により、運動エネルギーのみならず熱エネルギーの回生を行うことから、名称がエネルギー回生システム(Energy-Recovery System = ERS)となる予定である[1]。
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概要 [編集]
近年の原油価格の高騰や、地球温暖化問題に絡んで省エネルギー・エコロジーに関する世間の関心の高まりから、通常の自動車などと比べてもより多くの化石燃料を消費する[2]モータースポーツに対する風当たりが強まることを恐れた国際自動車連盟(FIA)が、環境保護アピールの一策として導入を発表した。また、2007年シーズンから開発コストの低減を目的に使用するエンジンにホモロゲーションが適用され、シーズン中のアップデートはおろかエンジン開発そのものがほぼ困難となったことに対し、F1に参戦している自動車メーカーの不満が高まったため、新たな技術開発の可能性を提示することで、それらメーカーの不満を抑える目的もあるとされる。
基本構造としては、いわゆる回生ブレーキを導入して電気的にエネルギーを溜める方式と、フライホイールに余剰な運動エネルギーを蓄える方式の2方式が有力とされている。
2009年のF1レギュレーションにおいては、KERSの最大出力は60kW、一周あたり発揮できるエネルギーは最大で400kJと定められており、これを馬力・時間換算すると81.6馬力のパワーアシストを一周につき6.67秒間使える計算になる[3]。 また『スタートラインを通過して、再度スタートラインに到達するまでを一周とする』という解釈のため、KERSが800kJのエネルギーを貯蔵できれば13.34秒ほぼ連続でKERSを使用することが可能である(スタートラインの手前6.67秒の時点でKERSを発動、スタートラインを通過する直前にKERSを停止、スタートラインを通過した直後に再度KERSを発動とすることで13.34秒ほぼ連続でKERSの効果を得られる)。特に富士スピードウェイのようなホームストレートが長いサーキットでは最高速に大きく影響を及ぼすと考えられた[4]。F1関係者の間ではその安全性からKERSの2009年導入開始に対しては賛否両論があったが、予定通りKERSが使われることになった。ただしKERSの使用は義務ではないので、使用するかどうかは各チームやドライバーの意思により決定できた。
一時期は2010年から全車搭載義務化との話もあったが、結局は前年から規則に変更はなくKERSの搭載も任意のままとなった。2010年はフォーミュラ・ワン・チームズ・アソシエーション (FOTA)において「KERSは使用しない」という紳士協定が結ばれたため、採用チームは無くなった(規則上は使用可能)。ただしこれに対しては、FIA会長のジャン・トッドが不満を表明しており、F1へのKERS再導入のためのワーキンググループを設置[5]。2010年6月23日、FIAによる2011年のレギュレーション変更事項を発表し、その条項の中にKERSの使用が記載された[6]。
2011年からは2年前と比べ車体最低重量の増加(約50kg)・燃料給油の禁止による搭載燃料の増加によりKERSの重量的デメリットはほぼ打ち消され、さらに新規導入のドラッグリダクションシステム(DRS)により追い抜き側はKERSとDRSを併用する事で以前より積極的な追い抜きが可能となる一方、抜かれる側もKERSを使わないと抵抗しきれない状況が発生した事で弱小チーム以外すべてがKERS導入する事となった。
問題点 [編集]
各チームがテストを進めている中で、2008年7月にはヘレス・サーキットにおいてBMWザウバーのメカニックがKERS搭載マシンに触れて感電する事故が起きたり、レッドブル・レーシングのファクトリーでKERSのテスト中に煙と有毒ガスが発生するなど[7]、KERSの開発中の事故が続出したため、一時は安全性が確保できるまでKERSの導入を延期すべきだとの意見も出ていた。 2012年スペイングランプリでのレース終了後では、ウィリアムズのガレージでKERSが原因とみられる火災事故が発生した。
またほとんどのKERS搭載チームが採用していた電気式のバッテリーシステムの重量は最大で40kg以上あったため、システムの有無による性能差はあっても僅かであった。サーキットによっては非搭載のマシンの方が速いケースもあった。
具体的には、KERS搭載車がストレートで非搭載車をKERSによるエクストラパワーで追い抜きをしようにも、ストレートの前のコーナーで搭載車が非搭載車よりもコーナリングスピードで負けてしまうためストレートで追い抜くまでに至らないケースが多い。むしろ、KERS搭載車が非搭載車の前に立っているときに搭載車が非搭載車にコーナーで追い詰められても、ストレートでKERSのエクストラパワーを使用することによって追い抜きさせないという防御的な使用が効果的だった。
以上のことから、開幕戦オーストラリアGPでマクラーレン、フェラーリ、ルノーの各2台とBMWザウバーのニック・ハイドフェルドの1台の計7台がKERSを搭載したが、第3戦中国GPではフェラーリとルノーの計4台がKERS搭載を取りやめ[8][9]、第4戦バーレーンGPでは再び当初の7台がKERSを使用したが[10]、ヨーロッパラウンド開幕戦となる第5戦スペインGPではBMWザウバーとルノーがKERS非搭載となりマクラーレンとフェラーリの2チーム計4台のみの使用となった。第13戦イタリアGPではルノーも再び搭載した。
ウィリアムズは独自のフライホイール式KERSを開発しようとしたが実戦投入は見送られた。フォース・インディアは代表のビジェイ・マリヤが2009年度シーズン中のKERS搭載を明言していたもののKERSを搭載することなくシーズンを終え、この年のドライバー・コンストラクターの両タイトルを獲得したブラウンGP、同2位のレッドブル・レーシングも一度も搭載することはなかった。
2009年シーズンにおけるKERS勢を見ると、使いこなせば十分優勝可能な戦闘力を得られる(マクラーレン)ものの、シーズン中の実車走行テスト禁止規定下においてはトップチームでさえ選手権を1シーズン棒に振るほどの開発期間が必要な点、KERS搭載車を使いこなすことがF1ドライバーでも困難な点(フェラーリでのバドエルやフィジケラ)が露見し、後のKERS非搭載紳士協定へと繋がることになった。
KERSの改良点 [編集]
当初、40kg以上とかなりの重量があったKERSシステムは軽量化が最大の課題となった。また、安全性にも問題があるため、どのような安全策を講じるかも問題だった。
その後、2009年8月21日時点には30kgまで軽量化された。また、マクラーレンの発表によれば、同チーム搭載のKERSは2009年シーズン終了時に25kgまで軽量化された。
原理 [編集]
KERSのエネルギー貯蔵システムとしては、バッテリー(電気式)とフライホイール(機械式)の2つが考えられている。
- 電気式
- 制動時の運動エネルギーでモーター・エンジンを回すことによりバッテリーに蓄え、必要なときにホイールの駆動力として放出する。
- 技術的ノウハウ面では機械式に勝るが、軽量化に関しては機械式に比べ容易では無いという欠点もある。
- 機械式
- ブレーキング時の回転とフライホイールの回転をCVTが調整することによって、エネルギー回生と出力が行われる。
- 軽量化と大容量化を両立しやすいのがメリットであるが、高速の回転体にエネルギーを貯めこむため安全性に一抹の不安がある。
他のカテゴリーにおけるKERS [編集]
2012年より開催されるFIA 世界耐久選手権では、最高峰のLMP1クラスにのみエネルギー回生システムの搭載を認めている。2012年度のレギュレーションによれば、1回の稼働で放出されるエネルギーは500kJ、ピットレーンでは回生エネルギーのみで走行しなければならない。また、サーキット毎の使用可能な区間や、場合により制限速度が設定される。
日本のスーパーフォーミュラ(旧フォーミュラ・ニッポン)では、2014年より「System-E」の名称でKERS相当のシステムが搭載される予定である。当初はエネルギー回生を行わないシステムとなる予定だったが、現在は完全なKERS相当のシステムとして開発が進められている。
市販乗用車への応用 [編集]
- スズキ株式会社は、減速時のエネルギーを車内の電気機器を動作させるための電力として回生させる「ENE-CHARGE」と呼ばれるシステムを開発した。これは2012年に第五世代型ワゴンRに初めて搭載された。
- フェラーリは、F1で使用されるKERSの技術を応用した「HY-KERS」を開発した。同社初のハイブリッド車としてHY-KERSを搭載したラ フェラーリを2013年3月5日に発表した。
脚注 [編集]
- ^ “FIAが2014年暫定レギュレーションを発表”. ESPN F1. (2011年7月21日) 2011年7月21日閲覧。
- ^ F1の場合、エンジンの燃費は、2008年現在平均で約1.5km/l程度であると言われる。
- ^ 技術規定変更で大変貌、2009年F1カー
- ^ 2008年2月13日放送『F1GPニュース』での川井一仁の発言
- ^ ジャン・トッド、F1でのコスト削減の必要性を訴える - F1 TopNews・2009年12月28日
- ^ “World Motor Sport Council”. Federation Internationale de l'Automobile(FIA). (2010年6月23日) 2010年6月24日閲覧。
- ^ KERSの問題をチームが協議 - F1-Live.com
- ^ フェラーリの非搭載の理由は「信頼性の欠如」とされている、
- ^ BMWザウバーのロバート・クビサは金曜日のセッションではKERSを搭載したが土曜日以降はKERS搭載を取りやめた。
- ^ フェラーリのキミ・ライコネンは金曜日のセッションではKERSを取り外して走行したが、土曜日以降は再度搭載した。