遠心式圧縮機

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遠心式圧縮機(えんしんしきあっしゅくき、centrifugal compressor, radial compressor)とは、気体を羽根車からディフューザーに流し遠心方向(径方向)に徐々に減速させることにより、運動エネルギーの変換が行われる圧縮機である。遠心圧縮機ともいう[1]。通常は、静圧上昇の半分は羽根車で、残りはディフューザーで上昇するように設計する。用途としては天然ガスのパイプラインの圧送用、大型冷凍機、空気分離器、産業用の高圧乾燥空気製造、航空用のジェットエンジンなど様々である。

遠心式に対する誤解[編集]

  • 遠心式という言葉が遠心力を連想させるため、しばしば遠心「力」圧縮機の意味だと誤解されがちだが、遠心の意味はターボ圧縮機における分類上の違い、すなわち回転軸に対し気流が軸方向[2]遠心方向かの違いでしかない[3]
  • 厳密には羽根車(インペラ)のみで圧縮しているわけではなく、その周りに静止して配置されるディフューザーあるいはボリュートによっても圧縮しているので、しばしば散見される「遠心力で圧縮している」という表現は羽根車のみで圧縮している印象(圧縮=インペラ)を与える恐れがあり大いに問題が有る。実際の設計を見てみると流れを解析する場合、回転系と慣性系を使い分けて複雑な計算をしており、ディフューザーも静圧上昇の半分を占める重要な要素であることがわかる。また、羽根車で強制的に気流を作り昇圧し、ディフューザーで減速して更に昇圧するという作動原理は軸流式と本質的に同じである[4]。すなわち軸流式では羽根車(動翼)で強制的に気流を作り昇圧し、静翼やディフューザーで減速して更に昇圧する。
  • 学術的に羽根車のみに注目して比較した場合、動圧・静圧の変化は遠心式の場合下記の①②③が存在し大きな圧力が得られ、中でも②が支配的である。一方、軸流式は①③だけとなるため低圧・大流量となり昇圧するためには多段式となる[5]。(動圧・静圧に関してはベルヌーイの定理および流体粒子を参照)

① 運動エネルギーの変化(動圧変化)

② 遠心力による圧力変化(静圧変化)

③ 流路面積変化に伴う相対速度変化による圧力変化(静圧変化)

したがって遠心式圧縮機全体を見た場合、羽根車とディフューザーの流路は末広がりで①③が共通である。以上をまとめると昇圧に対しては基本的にベルヌーイの定理で説明され、軸流式圧縮機と比較した場合、遠心力による静圧上昇分が加算されると補足したほうが話がすっきりすることが分かる[6]


(尚、扱う流体液体の場合、圧縮率が低いため[7]遠心ポンプとして扱う[8]。)

軸流式圧縮機との比較 (航空用)[編集]

第二次世界大戦中より開発が始まったターボジェットエンジンに関して、その圧縮機に注目するとイギリスは遠心式、ドイツは軸流式が中心であった。その後、遠心式はチタン合金の登場や航空技術の進歩とあいまって大きな圧力比が実現できるようになった。以下、もう一方の代表的な圧縮方式である軸流式圧縮機との比較で記述する。

優位な点[編集]

小型化しても効率は軸流式ほど落ちないので補助動力装置(APU)等の小型の用途に用いられる。

部品点数が少ないので軽量化、コストダウンに適している。また回転数が変動しても効率は軸流式ほど変動せず、長さを短くする事ができるため小型機のエンジンとしては適している

軸流では問題になりやすいサージングが発生しにくく、異物の吸入にも強い傾向にある。

一部の単段式の遠心圧縮機の圧縮比は10:1を超える。軸流式に比べて1段あたりの圧縮比が大きいので少ない段数で同規模の圧力に達する。

カバーの形によっては逆転でも正転と同じ送風ができる[9]ことから、自冷式ファンとして電動機に使用される。

不利な点[編集]

圧縮比を上げるには多段化する必要があるが、構造上、多段化が難しいため、多くは単段である[10]

多段化せずに圧縮比や推力を増やす為には圧縮機の直径を大きくするか、回転数を高める必要があるが、遠心力の増大に対する強度の問題が生じる。

大型化した際には重量の増加も著しく、大出力エンジンにおいては軸流式との大差が無くなるばかりか、の一点に荷重が集中してバランスを損ねる。さらに大径化によって空気抵抗も増加する[11]。このため、小型、軽量化に適した遠心圧縮式の利点を必要としながら、1段のみでは圧縮比が不足する場合でも、遠心式を多段化するケースは少なく、最終1段のみを遠心式とし、その前に軸流式を数段配置した併用型が多くを占めている。

流入した気体の流れを途中で90度曲げるので気体がスムーズに流れず、流路で損失が生じる。遠心力によるストレス金属疲労)が圧縮機の安全性と耐用年数の限界となる。

用途[編集]

脚注[編集]

  1. ^ JIS B 0132 2005
  2. ^ 軸流式圧縮機
  3. ^ JIS B 0132 2005
  4. ^ ガスタービンの基礎と応用 H.I.H. Saravanamuttoo (著), H. Cohen (著), P.V. Straznicky (著), G.F.C. Rogers (著), 藤原 仁志 (翻訳)
  5. ^ ターボ機械入門編新改訂版 著者: ターボ機械協会
  6. ^ 回転系ではなく慣性系で見た場合は、向心力による静圧上昇分が加算されるという説明になるので注意
  7. ^ 気体と異なり、圧力の変化に対して体積がほとんど変わらない
  8. ^ JIS B 0131 2002
  9. ^ 大気圧の働きで、気体は圧縮よりも吸引に対して容易に移動する性質を持つため、羽根車の回転方向による効率の違いを十分吸収できる。
  10. ^ ヴィッカース ヴァイカウントアームストロング・ホイットワース アーゴシーハンドレページ ヘラルドフォッカー F.27フレンドシップ、YS-11等多くの航空機に搭載されたロールス・ロイス ダートが軸流圧縮エンジンに劣らぬ成功を収めた2段遠心圧縮エンジンとして非常に有名。ダート以外にも2段遠心圧縮を採用したエンジンは小型のものを中心にいくつか存在するが成功作は少ない。3段以上の遠心圧縮を採用した実用機は存在しない模様。
  11. ^ 軸流式であれば多段化や高回転化で容易に圧縮比を上げることができ、いたずらに直径を増す必要はない。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Lakshminarayana, B. Fluid Dynamics and Heat Transfer of Turbomachinery. Wiley-Interscience. ISBN 0-471-85546-4. 
  • Wilson, D.G. and Korakianitis, T. (1998). The Design of High-Efficiency Turbomachinery and Gas Turbines (2nd Edition ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-312000-7. 
  • Cumpsty, N.A. (2004). Compressor Aerodynamics. Krieger Publishing. ISBN 1-57524-247-8. 
  • Whitfield, A. and Baines, N.C. (1990). Design of Radial Turbomachines. Longman Scientific & Technical. ISBN 0-470-21667-0. 
  • Saravanamuttoo, H.I.H., Rogers, G.F.C. and Cohen, H. (2001). Gas Turbine Theory (5th Edition ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-015847-X. 
  • Japikse, David and Baines, N.C. (1994). Introduction to Turbomachinery. Oxford University Press. ISBN 0-933283-06-7. 
  • Japikse, David (1996). Centrifugal Compressor Design and Performance. Concepts ETI. ISBN 0-933283-03-2. 
  • Japikse, David and Baines, N.C. (1998). Diffuser Design Technology. Concepts ETI. ISBN 0-933283-08-3. 
  • Wennerstrom, Arthur J. (2000). Design of Highly Loaded Axial-Flow Fans and Compressors. Concepts ETI. ISBN 0-933283-11-3. 
  • Japiske, D., Marschner, W.D., and Furst, R.B. (1997). Centrifugal Pump Design and Performance. Concepts ETI. ISBN 0-933283-09-1. 
  • Editor:David Japikse (1986). Advanced Experimental Techniques in Turbomachinery (1st Edition ed.). Concepts ETI. ISBN 0-933283-01-6. 
  • Shepard, Dennis G. (1956). Principles of Turbomachinery. Mcmillan. LCCN 56002849. 
  • Baines, Nicholas C. (2005). Fundamentals of Turbocharging. Concepts ETI. ISBN 0-933283-14-8. 
  • ガスタービンの基礎と応用 H.I.H. Saravanamuttoo (著), H. Cohen (著), P.V. Straznicky (著), G.F.C. Rogers (著), 藤原 仁志 (翻訳)

外部リンク[編集]