板垣公一

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板垣 公一(いたがき こういち、1947年11月12日 - )は、山形県山形市在住の日本のアマチュア天文家称号山形大学名誉博士。株式会社豆の板垣(「板垣のピーナッツ」で山形県では良く知られている)代表取締役社長。新天体ハンターとして知られ、超新星発見数の国内最多記録を持つほか、新星の発見も数多い。

人物[編集]

高校卒業後、栃木県の菓子会社で修行後、家業に就く。同社が豆菓子のminiパックを、国内業界で最初に取り入れたのは板垣の発案である。

池谷薫による池谷彗星(C/1963 A1)の発見に刺激を受けて彗星捜索を始め、1968年4月25日に多胡・本田・山本彗星(C/1968 H1)を独立発見した。しかしその後の捜索では成果が上がらず、またNASAが本格的に彗星探査を始めたこともあり、2000年から主な捜索対象を超新星に切り替えた。蔵王山中にある私設板垣天文台の他に、冬場の山形の悪天候を避けるため栃木県塩谷郡高根沢町に山形から遠隔操作が可能な第2観測所を所有している。

元来、学術機関に属する天文台は高性能で大型の機器を備え、観測能力も個人とは隔絶していた。ただし、どこにあるかわからない、いつ出現するかわからない、小惑星や彗星といった天体は、世界中に数多いアマチュア天文家に発見を任せ、天文台は学術的に重要な案件の観測に専念するという、一種の分業体制が続いていた。しかし、1994年7月のシューメーカー・レヴィ第9彗星木星衝突により、可能性として語られるだけだった地球への天体衝突が、現実に起こりうる災禍として捉えられる事となった。ここでNASAをはじめとした積極的な彗星・小惑星の観測が行われ、アマチュア天文家による第一発見は稀なものとなったのである。板垣自身も「木星に彗星が突入した「あの大事件」を境にアマチュアが彗星を発見するのはとても困難になりました。」と語っている[1]。日本人による小惑星発見がほとんど1995年以前であることもこの影響であった。

超新星の観測に重点を移してからの活躍は驚異的なものであり、2013年現在での個人での発見数は、世界歴代4位[2][注 1]となる。また、これまで日本人が発見した超新星の半数近くも板垣によるものである。

2006年に発見した超新星SN 2006jcは、自身が2004年に発見した増光天体と同じ星であることが明らかになり、同一天体が異なる二度の爆発を起こすという初めての実例で、恒星の進化に関するモデルの見直しに大きな影響を与えた。この発見は世界的に高く評価され、その功績をたたえて山形大学より名誉博士号を授与された。この発見による研究論文は、九州大学大学院の山岡均助教と共著の扱いで英国の学術誌「ネイチャー」に掲載された。

2010年には広島大学宇宙科学センターと東京大学数物連携宇宙研究機構の研究チームにより、2005年に発見した超新星SN 2005czが、質量の小さい、いわゆる「軽い星」の爆発であったことが明らかになった。本来、質量が太陽の8-12倍の「軽い星」が超新星爆発を起こす恒星の中でも最も多いと考えられていたが、これらに由来するはずのスペクトル波を示す爆発は発見されてこなかった。理論上、最も多く存在するはずの爆発が全く観測されないことで、天文学理論そのものに影響を与えかねなかった。この研究によって、現在の理論が大筋で正しいことが検証された。これまでに同種の超新星が発見されていなかったのは、SN 2005czの観測で確認された、予想以上に暗いこと、急速に減光すること、が原因の一部だろうと考えられている。 この研究論文は「ネイチャー」に掲載され、板垣も発見者として連名されている[3]

彗星捜索は前述の通り一度は諦めたが、金田宏の助力を得て2008年から再開し[4]、同年9月10日わし座みずがめ座の境界付近で13等級の彗星を発見した。この彗星は、110年以上の間見失われていたジャコビニ彗星(D/1896 R2)の再発見であることが専門家の指摘により判明した[5]。さらに2009年3月14日には新彗星(C/2009 E1)をくじら座に発見した。板垣彗星と命名されたこの彗星は、工藤・藤川彗星(C/2002 X5)以来約6年ぶりに国内で発見された新彗星となった[6]

小惑星(14551) 板垣は彼にちなんで命名された。

受賞歴など[編集]

  • 2003年 - 山形市長賞
  • 2006年 - 文部科学省 ナイスステップな研究者
  • 2007年 - 山形大学名誉博士 第1号
  • 2008年 - 日本天文学会天文功労賞
  • 2008年 - 山形県科学技術賞
  • 2009年 - エドガー・ウィルソン賞

発見した超新星の一覧[編集]

発見した超新星の一覧(独立発見を含む)を以下に記す[1][2][7]

番号 名前 発見日 星座 銀河 発見時光度 タイプ
  UT
1 2001bq 2001年05/175月17日 おとめ座 NGC 5534 15.9 II
2 2001gd 2001年11/2411月24日 りょうけん座 NGC 5033 16.5 IIb
3 2003cg 2003年03/213月21日 ろくぶんぎ座 NGC 3169 14.4 Ia
4 2003ed 2003年05/035月3日 りょうけん座 NGC 5303A 15.2 II
5 2003ia 2003年09/159月15日 かんむり座 NGC 6109 17.3 Ia
6 2003iy 2003年10/2010月20日 りゅう座 NGC 6143 16.8 II?
7 2004A 2004年01/091月9日 へるくれす/ヘルクレス座 NGC 6207 15.7 II
8 2004B 2004年01/121月12日 えりだぬす/エリダヌス座 IC 390 17.8 Ia
9 2004aw[注 2] 2004年03/203月20日 しし座 NGC 3997 15.8 Ic
10 2004dj 2004年07/317月31日 きりん座 NGC 2403 11.2 IIP
11 2004eo 2004年09/179月17日 いるか座 NGC 6928 17.8 Ia
12 2004ez 2004年10/1610月16日 こじし座 NGC 3430 17.8 II
13 2005ab 2005年02/052月5日 りょうけん座 NGC 4617 16.7 II
14 2005ad 2005年02/062月6日 くじら座 NGC 0941 17.4 II
15 2005cz 2005年07/177月17日 りゅう座 NGC 4589 16.0 Ib
16 2005dp 2005年08/278月27日 うしかい座 NGC 5630 16.0  ?
17 2006bp 2006年04/094月9日 おおぐま座 NGC 3953 16.7 II
18 2006ch 2006年05/095月9日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7753 16.5 Ia
19 2006dy 2006年07/257月25日 うしかい座 NGC 5587 16.6 Ia
20 2006ep[注 3] 2006年08/308月30日 あんどろめだ/アンドロメダ座 NGC 0214 17.8 Ib/c
21 2006et 2006年09/039月3日 くじら座 NGC 0232 16.1 Ia
22 2006gi 2006年09/189月18日 りゅう座 NGC 3147 16.3 Ib
23 2006gs 2006年09/229月22日 おおぐま座 NGC 3977 17.0 II
24 2006jc 2006年10/1010月10日 やまねこ座 UGC 4904 13.8 Ib/c?
25 2006my 2006年11/0911月9日 かみのけ座 NGC 4651 15.3 II
26 2006ov 2006年11/2411月24日 おとめ座 M61(NGC 4303) 14.9 II
27 2006qp 2006年11/2511月25日 うしかい座 NGC 5735 17.1 IIb
28 2007B 2007年01/051月5日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7315 16.7 Ia
29 2007C 2007年01/071月7日 おとめ座 NGC 4981 15.9 Ib
30 2007af 2007年03/013月1日 おとめ座 NGC 5584 15.4 Ia
31 2007cd 2007年04/274月27日 おとめ座 NGC 5174 17.5  ?
32 2007gi 2007年07/317月31日 おおぐま座 NGC 4036 16.3 Ia
33 2007gw 2007年08/248月24日 おおぐま座 NGC 4161 16.7 II
34 2007kj 2007年10/0210月2日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7803 17.4 Ib/c
35 2008B 2008年01/021月2日 うしかい座 NGC 5829 16.4 IIn
36 2008R 2008年01/271月27日 えりだぬす/エリダヌス座 NGC 1200 15.5 Ia
37 2008ax[注 4] 2008年03/043月4日 りょうけん座 NGC 4490 16.1 IIP
38 2008bt[注 5] 2008年04/144月14日 うみへび座 NGC 3404 16.6 Ia
39 2008dv 2008年07/017月1日 かしおぺや/カシオペヤ座 NGC 1343 18.2 Ic
40 2008fv 2008年09/279月27日 りゅう座 NGC 3147 16.5  ?
41 2008gz 2008年11/0511月5日 こっぷ/コップ座 NGC 3672 16.2 II
42 2008hz 2008年11/2611月26日 あんどろめだ/アンドロメダ座 (未確定) 18.2 Ia
43 2008ij 2008年12/1912月19日 りゅう座 NGC 6643 15.9 II
44 2008in 2008年12/2612月26日 おとめ座 M61(NGC 4303) 14.9 II
45 2009N 2009年01/241月24日 おとめ座 NGC 4487 16.6 IIP
46 2009ds 2009年04/284月28日 こっぷ/コップ座 NGC 3905 16.8 Ia
47 2009fu 2009年06/016月1日 あんどろめだ/アンドロメダ座 NGC 0846 15.7 Ia
48 2009ga 2009年06/096月9日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7678 16.2 IIP
49 2009gf 2009年06/156月15日 うしかい座 NGC 5525 16.1 Ia
50 2009hi 2009年07/107月10日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7647 18.0 Ia
51 2009im 2009年08/248月24日 えりだぬす/エリダヌス座 NGC 1355 15.6 Ia
52 2009js[注 6] 2009年10/1110月11日 おひつじ座 NGC 0918 17.2 II
53 2009kr 2009年11/0611月6日 うさぎ座 NGC 1832 16.0 II
54 2009md 2009年12/0412月4日 しし座 NGC 3389 16.5 II
55 2009mh 2009年12/1212月12日 しし座 NGC 3839 16.6 Ia
56 2009nk 2009年12/3112月31日 おとめ座 NGC 5491 17.0 Ia
57 2010ai[注 7] 2010年03/113月11日 かみのけ座 PGC 126792 16.9 Ia
58 2010cp 2010年05/095月9日 おとめ座 NGC 4877 17.5 Ia
59 2010cr 2010年05/155月15日 おとめ座 NGC 5177 17.0  ?
60 2010dq 2010年06/036月3日 うお座 NGC 0057 17.3 Ia
61 2010gv 2010年08/098月9日 りゅう座 SDSS J175822.33 + 504733.1 16.4 Ia
62 2010he 2010年08/208月20日 えりだぬす/エリダヌス座 NGC 1120 17.6 Ia
63 2010hh 2010年09/029月2日 へるくれす/ヘルクレス座 NGC 6524 18.1 Ia
64 2010ki 2010年12/0212月2日 うお座 2MASX J23160991 - 0214004 16.9 Ia
65 2010kp 2010年12/0812月8日 きりん座 2MASX J04034059 + 7045116 17.9 II
66 2010kx 2010年12/1912月19日 ちょうこくしつ座 NGC 7645 17.5 ?
67 2011B 2011年01/071月7日 きりん座 NGC 2655 15.8 Ia
68 2011ap 2011年02/212月21日 へるくれす/ヘルクレス座 IC 1277 18.3 IIn
69 2011ek 2011年08/048月4日 おひつじ座 NGC 918 16.4 Ia
70 2011fi 2011年08/278月27日 うさぎ座 NGC 1954 17.8 II
71 2011fp 2011年08/298月29日 うお座 NGC 57 17.9 Ia
72 2011gc 2011年08/068月6日 へるくれす/ヘルクレス座 PGC 1651633 17.7 IIP
73 2011hk[注 8] 2011年10/3110月31日 くじら座 NGC 881 16.1 Ia
74 2011im 2011年11/2611月26日 みずがめ座 NGC 7364 18.5 Ia
75 2011iy 2011年13/0912月9日 おとめ座 NGC 4984 12.7 Ia
76 2012bo 2012年03/273月27日 からす座 NGC 4726 16.4 II
77 2012cu 2012年06/146月14日 おとめ座 NGC 4772 16.3 Ia
78 2012cw 2012年06/146月14日 ろくぶんぎ座 NGC 3166 16.5 Ic
79 2012gb 2012年10/3110月31日 とかげ座 IC 5193 16.4 Ia
80 2012ho 2012年12/0612月6日 みずがめ座 MCG -01-57-21 15.6 IIP
81 2013bu 2013年04/214月21日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7331 16.6 II
82 2013cc 2013年04/214月28日 きりん座 NGC 1961 17.0 II
83 2013fa 2013年08/258月25日 いるか座 NGC 6956 16.2 Ia
84 2013fs 2013年10/0710月7日 ぺがすす/ペガスス座 NGC 7610 16.5 IIP
85 2013ge 2013年11/0811月8日 しし座 NGC 3287 16.8 Ic
86 2013gn 2013年11/1611月16日 うしかい座 NGC 5557 15.3 Ia
87 2013hg 2013年12/1012月10日 かみのけ座 16.9 Ia
88 2013hl 2013年12/1312月13日 しし座 NGC 3910 16.7 Ia
89 2013hq 2013年12/1312月13日 とかげ座 NGC 7276 17.1 Ia
90 2013hu 2013年12/2812月28日 こっぷ/コップ座 NGC 3693 17.4 IIP
91 2014F 2014年01/111月11日 りゅう座 NGC 6667 16.8 II
92 2014G 2014年01/141月14日 おおぐま座 NGC 3448 15.6 IIn
93 2014ai[注 9] 2014年03/233月23日 やまねこ座 NGC 2832 16.8 Ia
94 2014aj 2014年03/233月24日 きりん座 UGC 3252 17.3 Ia
95 2014cx 2014年09/029月2日 くじら座 NGC 0337 15.6 II

(※)2010年1月5日にりょうけん座のNGC 4214近傍にて超新星SN 2010Uを発見したとしたが、その後これは超新星ではなく、LBVの爆発的増光現象の擬似的超新星であることが判明した[8]。同年5月31日に発見したSN 2010dnも同種の変光星である。

脚註[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2013年12月末現在 1位 149個 ボレス (Tom Boles:英国) 2位 125個 モナード(Berto Monard:南ア)3位 123個 ツビッキー(Fritz Zwicky:スイス)
  2. ^ ボレスと独立発見
  3. ^ Lick Observatory Supernova Survey と独立発見
  4. ^ Mostardi, Li, Filippenko と独立発見
  5. ^ Lick Observatory Supernova Survey と独立発見
  6. ^ Lick Observatory Supernova Survey と独立発見
  7. ^ Zheng 他と独立発見
  8. ^ 広瀬洋治と独立発見
  9. ^ Duncan Forbes他と独立発見

出典[編集]

  1. ^ a b 板垣公一さん、25個の超新星発見を振り返る”. AstroArts (2006年11月13日). 2014年1月18日閲覧。
  2. ^ a b List of Supernovae”. IAU Central Bureau for Astronomical Telegrams. IAU. 2014年1月18日閲覧。
  3. ^ ついに発見、「軽い」星の重力崩壊型超新星 ー星の標準理論を検証ー”. 東京大学数物連携宇宙研究機構 (2010年5月10日). 2014年1月18日閲覧。
  4. ^ “幻”のジャコビニ彗星を発見 山形のアマ天文家板垣公一さん”. 山形新聞 (2008年9月12日). 2011年1月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月18日閲覧。
  5. ^ ジャコビニ彗星を再発見 100余年ぶり”. 共同通信社 (2008年9月11日). 2014年1月18日閲覧。
  6. ^ 国内では6年ぶり、板垣さんが新彗星を発見!”. AstroArts (2009年3月16日). 2014年1月18日閲覧。
  7. ^ 日本人が発見した超新星一覧”. 国立天文台 (2014年1月20日). 2014年1月21日閲覧。
  8. ^ 板垣さん発見の超新星らしき天体は、変光星だった”. AstroArts (2010年2月8日). 2014年1月18日閲覧。

外部リンク[編集]