アルジャーノンに花束を

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アルジャーノンに花束を』(アルジャーノンにはなたばを、Flowers for Algernon)は、アメリカ合衆国作家ダニエル・キイスによるSF小説1959年に中編小説として発表し、1966年に長編小説として改作された。本作を原作として映画、同名のテレビドラマ、舞台作品などが制作されている。

概要[編集]

それまでのSFが宇宙や未来などの舞台を前提とした作品であったことに比べ、本作は知能指数を高める手術とそれに付随する事柄という限定した範囲での前提でSFとして成立している[1]ジュディス・メリルは、本作をSFの多様性をあらわす作品のひとつとして位置づけている[1]。また、最後の一文が主眼であり、ここの収束される感動に泣かされる作品でもある[2]

アメリカの雑誌『ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション』1959年4月号で中編小説が発表され、翌年のヒューゴー賞を受賞[3]アイザック・アシモフ編の『ヒューゴー賞傑作選 No.2』にも収録された[3]。1966年に長編小説化され、ネビュラ賞を受賞[3]。また、ヒューゴー賞 長編小説部門候補にも挙げられた[3]。過去の受賞作と同内容のものが候補となることは異例である[3]

受賞[編集]

作品について[編集]

形式[編集]

主人公である「彼(チャーリイ・ゴードン)」自身の視点による一人称で書かれており、主に「経過報告」として綴られている。最初の頃は簡単な言葉や単純な視点でのみ、彼の周囲が描かれる。

あらすじ[編集]

精神遅滞の青年チャーリイは、他人を疑うことを知らず、周囲に笑顔をふりまき、誰にでも親切であろうとする、大きな体に小さな子供の心を持ったおとなしい性格の青年だった。しかし彼には子供の頃、正常な知能の妹に性的な乱暴を働いたと家族に誤解され、母親に見捨てられた過去があった。

彼は引き取ってくれた叔父のパン屋での仕事のかたわら、精神遅滞者専門の学習クラスに通っていた。ある日、そのクラスの監督者である大学教授から、開発されたばかりの脳手術を受けるよう勧められる。先に動物実験で対象となったハツカネズミの「アルジャーノン」は、驚くべき記憶・思考力を発揮し、チャーリイと難関の迷路実験で対決し、彼に勝ってしまう。彼は手術を受けることを承諾し、この手術の人間に対する臨床試験の被験者第1号に選ばれたのだった。

手術は成功し、チャーリイのIQは68から徐々に上昇。ついには185に達し、彼は超知能を持つ天才となった。チャーリイは大学で学生に混じって勉強することを許され、知識を得る喜び・難しい問題を考える楽しみを満たしていく。だがいっぽうで、頭が良くなるにつれ、これまで友達だと信じていた仕事仲間にだまされいじめられていたこと、母親に捨てられたことなど、知りたくもない事実の意味を理解するようになる。

一方で、チャーリイの感情は未発達な幼児のままだった。突然に急成長を果たした天才的な知能とのバランスが取れず、妥協を知らないまま正義感を振り回し、自尊心が高まり、知らず知らず他人を見下すようになっていく。誰もが笑いを失い、周囲の人間が遠ざかっていく中で、チャーリイは手術前には抱いたことも無い孤独感を抱くのだった。また、忘れていた記憶の未整理な奔流がチャーリイを苦悩の日々へと追い込んでいく。

そんなある日、自分より先に脳手術を受け、彼が世話をしていたアルジャーノンに異変が起こる。チャーリイは自身でアルジャーノンの異変について調査を始め、手術に大きな欠陥があった事を突き止めてしまう。手術は一時的に知能を発達させるものの、性格の発達がそれに追いつかず社会性が損なわれること、そしてピークに達した知能は、やがて失われ元よりも下降する性質のものであることが明らかとなった。彼は失われ行く知能の中で、退行を引き止める手段を模索する。だが、もはや知能の退行を止めることはできず、ついにチャーリイは元の幼児並以下の知能を持った知的障害者に戻り、パン屋にすら戻れないと自覚した段階で障害者の収容施設に自ら赴く。

彼は経過報告日誌の最後に、正気を失ったまま寿命が尽きてしまったアルジャーノンの死を悼み、これを読むであろう大学教授に向けたメッセージ(「ついしん」)として、「うらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください」と締め括る。

作者について[編集]

作者であるダニエル・キイスにとってもこの作品は印象深いものであったようである。アイザック・アシモフはヒューゴー賞を彼に手渡したときの逸話として、以下のようなやりとりを記録している。彼は作者に向かって『どうしてこんな傑作が出来たのか』を尋ねたとき、彼はこう答えたという。『その理由がわかるなら、私に教えて欲しい』と答え、さらにこう続けたという。「私ももう一度あんなのを書いてみたいんです」[5]

彼は作家として1952年に最初の作品を発表したが、この作品までは注目されてこず、この作品が彼を「一躍スターダムにのしあげた」。ただ、彼は中編発表後も主人公チャーリーの事が頭を離れず、そんな中から長編化を行った。直後に一人の精神科医から手紙を受け取り、これがきっかけで後に『五番目のサリー』へと繋がった。また『ビリー・ミリガン』のシリーズは、ビリー自身が本作を読み、『自分の人生についてもチャーリーのように、自分の立場から書いて欲しい』と依頼した事に端を発している[6]

主な登場人物[編集]

チャーリイ・ゴードン(Charlie Gordon)
主人公。32歳だが、知能は6歳児並みの精神遅滞者。頭が良くなりたいと強く願っており、脳手術を受けて超天才となる。
アルジャーノン(Algernon)
チャーリイの前に同じ脳手術を受け、超知能を得たハツカネズミ。
アリス・キニアン(Alice Kinnian)
チャーリイが通う精神遅滞者専門の学習クラスの女教師。チャーリイの学習意欲を見込んで、脳手術を勧める。
ハロルド・ニーマー教授(Professor Harold Nemur)
プロジェクトの研究主任で心理学者
ジェイ・ストラウス博士(Doctor Jay Strauss)
精神科医にして脳神経外科医。チャーリイの脳手術を執刀した。
バート・セルドン(Burt Seldon)
大学院生で心理学の専攻学生。プロジェクトの助手を務めており、アルジャーノンの世話をしている。
フェイ・リルマン(Fay Lillman)
女流画家。超天才となったチャーリイに興味を持つ。
アーサー・ドナー(Arthur Donner)
チャーリイが勤めるパン屋の主人。亡き親友ハーマンに頼まれ、その甥であるチャーリイの面倒を見ている。
マット(マシュウ)・ゴードン(Matt Gordon)
チャーリイの父。息子の精神遅滞を受け入れており、妻と口論することが多かった。
ローズ・ゴードン(Rose Gordon)
チャーリイの母。いつまでも知能的に成長しないチャーリイを嫌っていた。
ノーマ・ゴードン(Norma Gordon)
チャーリイの妹。正常な知能の持ち主で、母の影響でチャーリイを嫌っていた。

単行本[編集]

日本語版[編集]

日本での出版は早川書房からなされており、翻訳権独占であった。なお、ハヤカワ文庫版の発売まで10年以上の期間があった。

中編小説版は稲葉由紀(いなば ゆき)訳で『S-Fマガジン1961年2月号に掲載、『世界SF全集』32巻に収録された。長編小説版は1978年小尾芙佐訳で出版、1989年に改訂された。いずれの訳でも、はじめはめちゃくちゃだった英語のつづり・句読法や文法がチャーリーの知能の向上につれて徐々に正しくなっていく(後半ではでたらめになってゆく)原文の表現を、日本語の漢字・句読点テニヲハに移し変えた名訳と言われている。

映画[編集]

1968年[編集]

まごころを君に』(原題"Charly")、アメリカ、1968年

2000年[編集]

まごころを君に』(原題"Flowers for Algernon")、カナダ、2000年

2006年[編集]

アルジャーノンに花束を』(原題"Des Fleurs Pour Algernon")、フランス、2006年

物語の舞台はスイスジュネーヴで、主人公の名前がフランス語圏風にシャルルと改変されている。原作本をベースにしながらも、パン屋ではなく学校の清掃員、手術ではなくて開発中の新薬の注射、後見人ペルノの存在、などの、多くの改変があり。ピアノ教師のアリス・フェルネとの恋愛なども追加されている。物語の後半で、激高したシャルルはネズミのアルジャーノンを強引に研究室から持ち出し、自宅で殺してしまう。

テレビドラマ[編集]

2002年、小説版をもとにしたテレビドラマが、関西テレビで製作され、10月8日 - 12月17日にフジテレビ系の火曜22時枠で放送された。全11回、平均視聴率11.1%。

この作品では、主人公チャーリー・ゴードンは藤島ハルと名前を変え、舞台も日本に変更され、「知的障害者への差別によるいじめが強く描写されている」「主人公が恋する先生にも恋人がいる」など、一部変更されている。また結末も原作より大きく変更されている。

脚本の岡田惠和、音楽の寺嶋民哉など、スタッフ、キャストにドラマ『イグアナの娘』のメンバーが集結している。

日本国外に著作権があったため、ドラマ化をするにあたり交渉に3年かかった。その労苦にもかかわらず、視聴率は振るわなかった。

キャスト[編集]

()は原作での該当人物

テーマソング[編集]

主題歌
ジェニファー・ウォーンズ「ソング・オブ・バーナデット」(BMG FUNHOUSE
※この主題歌は放送当時エンディングテーマに使用されたが、VHS版、DVD版では使用されていない。
挿入歌
ラブハンドルズ「スピード」(Sony Records

スタッフ[編集]

韓国でのリメイク[編集]

2006年、韓国放送公社(KBS)で『おはよう、神様!』(안녕하세요 하느님(アンニョンハセヨ ハヌニム))のタイトルでリメイクされている。主人公の名は日本版ドラマと同じ「ハル」であるが、パン屋に勤務しているのではなく養護学校にいることや、女詐欺師が登場するなど日本版とは違う設定になっている。出演はユ・ゴンキム・オクビンイ・ジョンヒョクなど。

フジテレビ系(関西テレビ制作) 火曜22時枠の連続ドラマ
前番組 番組名 次番組
天体観測
(2002.7.2 - 2002.9.17)
アルジャーノンに花束を
(2002.10.8 - 2002.12.17)
僕の生きる道
(2003.1.7 - 2003.3.18)

ラジオドラマ[編集]

1995年8月7日 - 11日 NHKFM青春アドベンチャー枠で放送された本作品のラジオドラマ版。奇抜な演出も大きな改変もなく、原作小説の内容がほぼ忠実に再現されていた。なお、それ以前にNHKラジオ第一放送で中編版を原作としてラジオドラマ化されたこともある。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

舞台[編集]

様々な形で舞台化されている。

1990年[編集]

9月21日 - 10月7日まで三百人劇場にて上演

劇団昴公演 脚本・演出菊池准

2005年[編集]

6月9日 - 7月1日まで三百人劇場にて上演

劇団昴公演、脚色菊池准、演出三輪えり花

2006年[編集]

2月22日 - 3月10日まで博品館劇場静岡市民文化会館大阪厚生年金会館愛知厚生年金会館にて上演。

2012年[編集]

演劇集団キャラメルボックスより7月21日~8月12日までサンシャイン劇場、8月16日 - 24日まで新神戸オリエンタル劇場にて上演。チャーリィ・ゴードンとアリス・キニアンがダブルキャストになっており、もう一方の上演時は別の役として出演する。また、CMやダンスシーンでandropWorld.Words.Lights.が使用された。

2014年[編集]

9月18日~28日、天王洲銀河劇場、サンケイホールブリーゼほかにて上演。2006年版と同じく浦井健治が出演。キャッチコピーにも「8年の時を経て」とあり、2006年版の再演となる。

翻案[編集]

1971年にフジテレビで放送された『スペクトルマン』の第48話「ボビーよ怪獣になるな!!」、第49話「悲しき天才怪獣ノーマン」のストーリーは「アルジャーノンに花束を」の翻案である。

関連項目[編集]

出典・参考文献[編集]

  1. ^ a b 谷口高夫 「解説」『アルジャーノンに花束を』 早川書房、1991年5月15日、改訂25版、322ページ。ISBN 4-15-203393-2
  2. ^ 谷口(1984),p.241
  3. ^ a b c d e f 谷口高夫 「解説」『アルジャーノンに花束を』 早川書房、1991年5月15日、改訂25版、321ページ。ISBN 4-15-203393-2
  4. ^ ヒューゴー賞公式サイト 1960年
  5. ^ 谷口(1984)
  6. ^ 早川書房編集部(1999)
  7. ^ 谷口高夫 「解説」『アルジャーノンに花束を』 早川書房、1991年5月15日、改訂25版、323ページ。ISBN 4-15-203393-2
  • 谷口高夫 「解説」『アルジャーノンに花束を』(ハードカバー版) 早川書房、(1984)
  • 早川書房編集部、「ダニエル・キイス ――人と作品――」、『五番目のサリー 下』(1999)、早川書房(早川文庫)