特殊空挺部隊
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特殊空挺部隊(とくしゅくうていぶたい)、略称SAS(Special Air Service)は、イギリス陸軍の特殊部隊である。
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概説[編集]
機械化された近代戦争において敵陣内での主要施設(通信、輸送など)の潜入破壊工作専門の特殊部隊としては、世界で二番目の特殊部隊である。「Air」の語から空軍を連想しやすく、「空軍特殊部隊」という誤訳がたまに見られるが、陸軍の部隊で、第二次世界大戦中に空挺作戦による敵陣への進入を想定して生まれた名称である。
現在の各国に置かれている特殊部隊の手本となった。オーストラリアなどイギリス連邦諸国には、合同訓練を実施した上で、名称まで同じSASとした特殊部隊がいくつか存在している。「特殊空挺部隊」と訳されるが、現在の部課は空挺・海挺・偵察・山岳に分かれており、破壊工作や敵陣付近での軍用車による偵察活動だけでなく、イギリス国王など国内外の要人の警護、テロ行為に対する治安維持活動(北アイルランド)、および、人身および捕虜の救出作戦の実行など、幅広い分野で活躍している。
モットーは「Who Dares Wins(挑む者に勝利あり/危険を冒す者が勝利する/敢えて挑んだ者が勝つ)」。 対になる組織として、海兵隊の特殊舟艇部隊 (SBS、Special Boat Service) がある。
沿革[編集]
SASの起源は、第二次世界大戦中の1941年にデビッド・スターリング少佐が創設した特殊空挺旅団L分遣隊に遡る[1]。これは実際には旅団に遥かに満たない規模の部隊であったが、旅団と呼称することで、多数存在していた空挺連隊の一つと誤認させるための名称であった[2][3]。実際には、イギリス軍では1940年より多くのコマンド部隊(ブリティッシュ・コマンドス)を編成しており、本部隊もその系譜に属するものであった。
本部隊では、航空機を破壊するために、その知識や操縦経験を持つ者も多く集められた。そして先に同様の特殊任務を行っていた長距離砂漠挺身隊(LRDG、Long Range Desert Group)と共同し、1941年から実戦投入された。創設当時のSASは戦後のような人質救出訓練などは行われておらず、ドイツアフリカ軍団の補給線や飛行場を攻撃する小規模な部隊であった。
最初の任務では、その名の通りの空挺作戦も実行されているが失敗。その後は、機関銃を取り付けた武装ジープで最前線を大きく迂回して砂漠を踏破、敵の飛行場に機関銃を乱射しながら殴り込み、駐機中の航空機をダイナマイトで爆破し、コックピットに手榴弾を投げ込んで破壊した他、ジープに取り付けた重機関銃を乱射して戦闘機や連絡機などの小型の軍用機を銃撃、爆薬類が尽きると手斧で破壊するなど、文字通り突撃部隊として活動し、最終的に300機以上に損害を与えたという。北アフリカでの任務の終結後、同隊は5個連隊に拡大した。
戦後の軍縮に伴って、1945年10月8日に一度は解散した[4]。しかしSASには軍中枢に少なからぬ支持者がいたこともあり、1950年には、国防義勇軍アーティスツ・ライフル連隊、後に第21特殊空挺連隊として復活した。そして1952年には、当時植民地であったマラヤ連邦での紛争(マラヤ危機)での活躍からマラヤ斥候隊(SAS)と改称し、後に第22SAS連隊として再改称された[1]。
1972年のミュンヘンオリンピック事件を契機として世界各国で対テロ作戦部隊の整備が進められたが、大陸ヨーロッパでは西ドイツ国境警備隊のGSG-9やパリ警視庁のBRI-BACのように法執行機関の所属として発足したのに対し、アングロサクソン諸国では対テロ作戦は軍が担当することになり、SASでは、アンソニー・ピアソン中佐の指揮下に20名の対革命戦部隊(CRWウィング)を発足した。これが後に有名になるパゴダ中隊であった。ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件ではGSG-9の支援にあたり、そして1980年の駐英イラン大使館占拠事件では世界注視のなかで突入を敢行して有名になった[5]。
在ペルー日本大使公邸占拠事件などのテロ事件で現地政府の特殊作戦の側面支援なども行っている。
年表[編集]
- 1941年11月 - 陸軍将校デビッド・スターリングの提案により、北アフリカ戦線の砂漠にて創設される。
- 1942年10月 - 正式にSAS連隊となる。
- 1945年10月 - 第二次世界大戦終結に伴い、一時解体する。
- 1947年 1月 - 国防義勇軍に第21SAS連隊が創立される。
- 1951年 - マラヤ斥候隊が創立される。
- 1952年 - マラヤ斥候隊、第22SAS連隊となる。
- 1965年~1966年 - インドネシア・ボルネオ紛争に投入。
- 1967年 - 旧イエメン・アデン暴動に投入。
- 1969年以降 - 北アイルランドでの治安維持任務に投入。
- 1971年~1976年 - オマーン内戦に投入。
- 1980年 - 駐英イラン大使館占拠事件を解決。
- 1982年 - フォークランド紛争に投入。
- 1991年 - 湾岸戦争に投入。
- 1992年 - ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に投入。
- 1995年 - コロンビアでの人質救出作戦に参加[要出典]。
- 2000年 9月10日 - シエラレオネで捕虜となった英国と現地の友軍兵士を救出。(バラス作戦)
- 2001年以降 - アメリカのアフガニスタン侵攻に伴う作戦に投入。
- 2003年以降 - イラク戦争に投入。
- 2011年 - リビア上空に飛行禁止空域を設定する作戦に投入。
部隊編制[編集]
イギリス陸軍(正規軍)[編集]
- SASは、特殊部隊指揮官(DSF)の下に配置され、第22SAS連隊と国防義勇軍2個連隊より構成される。
国防義勇軍(予備役)[編集]
- 第21SAS連隊
- A中隊
- C中隊
- E中隊
- 第23SAS連隊
- B中隊
- D中隊
- G中隊
- 第63SAS通信中隊 - 第21SAS連隊、第23SAS連隊を支援する。
キリング・ハウス[編集]
「キリング・ハウス」は、SASの訓練施設である。この施設は各種テロ状況を実演できる一連の部屋で、人質救出やCQBの訓練に使用される。または、ここで奇襲攻撃戦術を学び、敵と味方、人質の区別を即座にできるようにする。 このキリング・ハウスは、アメリカ陸軍デルタフォースの訓練施設である「恐怖の館」の手本(見本)となった。
登場作品[編集]
映画[編集]
- 『ガルフ・ウォー/スカッドミサイル爆破指令』
- 『ブラヴォー・ツー・ゼロ』の関連作品。クリス・ライアンのノンフィクションをポール・グリーングラスが映画化したもの。
- 『キラー・エリート』
- 実際の事件を基に、元SAS隊員への報復テロを依頼された殺し屋を題材とした映画。
- 『ファイナル・オプション』
- 1980年のイラン大使館占拠事件をモデルとした映画。
- 『ブラヴォー・ツー・ゼロ』
- SASの「ブラヴォー・ツー・ゼロ」部隊でイラク正規軍に捕らえられた後に生還したアンディ・マクナブによる1993年のノンフィクション映画。
- 『エンド・オブ・キングダム』
- テロリストに捕獲されたアメリカ大統領を救出するために主人公"マイク"と共に協力する。
- 『6日間』
- 1980年の駐英イラン大使館占拠事件を描いた映画。
TV番組[編集]
- 『S.A.S. 英国特殊部隊シリーズ』
- 2002年に放送を開始したイギリスのテレビドラマ。
- 『シエラレオネ人質救出作戦』
- ディスカバリーチャンネル製作のドキュメント番組。
ゲーム[編集]
- 『HIDDEN & DANGEROUSシリーズ』
- 第二次世界大戦時のSASをモチーフとしたタクティカル・シューティングアクション。
- 『The Regiment』
- konami of europeから発売されたPCゲーム。
- 『カウンターストライク』
- カウンターテロリストのキャラクターとしてガスマスクやフード付きスーツを装着したSASを選択する事が可能。
- 『クロスファイア』
- プレイヤーのキャラクターとしてSASを購入、使用する事が可能。
- 『コール オブ デューティシリーズ』
-
- 『CoD』
- イギリス軍キャンペーンでエバンス軍曹とプライス大尉が第6空挺師団から転属してくる。
- 『CoD4』
- プレイヤーのソープが所属している。
- 『CoD:MW2』
- 国際特殊部隊タスクフォース141にソープのほか、数々のSAS隊員が所属している(イギリス海兵隊のSBSやオーストラリアのSAS(SASR)、ニュージーランドのSAS(NZSAS)から来た隊員も所属している)。
- 『CoD:MW3』
- 前作に引き続き、ソープらSAS隊員が登場する。マカロフ率いる超国家主義派が化学兵器を用いたテロを行うとの情報を入手し、化学兵器を搭載しているトラックの追跡を行うほか、ロシア軍に占領されたチェコでレジスタンス運動を行う。
- 『コンフリクト・デルタ 湾岸戦争1991』『コンフリクト・デルタII 湾岸戦争1991』
- 湾岸戦争を舞台に、プレイヤーは最大4名で編成された第22SAS連隊かアメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースのどちらかの部隊を選択する。
- 『スペシャルフォース2』
- プレイヤーのキャラクターとしてSASを購入、使用する事が可能。
- 『メタルギアソリッドシリーズ』
- 登場人物であるザ・ボスとゼロ少佐ことデイビット・オウは、かつて第22SAS連隊の立ち上げに関わったこととなっている。
- 『レインボーシックス シージ』
- 操作可能なレインボー隊員の内4名がSAS所属。
漫画[編集]
- 『Cat Shit One'80』
- 主人公のパッキーが交換将校としてSASに所属。駐英イラン大使館占拠事件とフォークランド紛争に参戦した。
- 『MASTERキートン』
- 主人公の平賀・キートン・太一は、数々の戦果を上げた元SASの兵曹長で、サバイバル教官としても勤務したという設定。
- 『バランサー』
- SAS隊長としてローランド・ブリックス中佐が登場。ハイジャック事件の対応を行う。
同名部隊[編集]
オーストラリアとニュージーランドに同名のSAS部隊が存在し、過去にはローデシア。[疑問点 ]第二次世界大戦前後の自由フランス、ベルギー、カナダにもSASが存在した。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ a b ライアン 2004, pp. 20-29.
- ^ Molinari 2007, p. 22.
- ^ Haskew 2007, p. 39.
- ^ Shortt & McBride 1981, p. 16.
- ^ ライアン 2004, pp. 119-126.
参考文献[編集]
- アンディ・マクナブ『ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る壮絶な湾岸戦記』伏見威蕃訳、早川書房、1995年、ISBN 4-15-207919-3(文庫版:2000年、ISBN 4-15-050242-0)
- アンディ・マクナブ『SAS戦闘員―最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録』伏見威蕃訳、早川書房、1997年、ISBN 4-15-208070-1(文庫版:2000年、ISBN 4-15-050239-0(初版)、ISBN 4-15-050240-4(第2版))
- クリス・マクナブ『SAS・特殊部隊 知的戦闘マニュアル―勝つためのメンタルトレーニング』小路浩史訳、原書房、2002年、ISBN 4-562-03474-2
- クリス・ライアン『ブラヴォー・ツー・ゼロ 孤独の脱出行』関根一彦訳、原書房、1996年、ISBN 4-562-02883-1
- ライアン, マイク 『ヴィジュアル版 世界の特殊部隊―戦術・歴史・戦略・武器』 原書房、2004年。ISBN 978-4562037278。
- Molinari, Andrea (2007). Desert Raiders: Axis and Allied Special Forces 1940–43. Osprey Publishing. ISBN 978-1-84603-006-2.
- Haskew, Michael E (2007). Encyclopaedia of Elite Forces in the Second World War. Pen and Sword. ISBN 978-1-84415-577-4.
- Shortt, James; McBride, Angus (1981). The Special Air Service. Osprey Publishing. ISBN 0-85045-396-8.
関連項目[編集]
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