H-6 (航空機)

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H-6 轟炸六型

H-6(轟炸六型、Hong-6)は、西安飛機工業公司が製造し、中国人民解放軍が装備している大型爆撃機で、ソビエトTu-16 爆撃機を国産化した機体である。空中給油機核攻撃専用機、偵察機電子戦機、海軍機、対潜哨戒機といった派生型がある。

生産の経緯[編集]

1957年中国ソビエト連邦から、相互援助条約の一環としてイリューシン Il-28 ビーグルと共にツポレフ Tu-16を導入することを決定し、ノックダウン生産哈爾浜飛機製造公司にて開始した。1957年9月には組立てられた機体が中国国内で初飛行し、1959年にはソ連との間にTu-16のライセンス生産が取り決められ、西安飛機工業公司(XAC)で生産されることになった。

1956年のソ連共産党第20回党大会におけるフルシチョフの演説をきっかけに始まった中ソ対立により、1959年には技術協定が破棄された。XACで組立てられた1号機が1959年9月27日に初飛行し、続いて2号機も完成したが、1960年6月にはソ連側の技術者が引き揚げてしまったために3号機以降の生産は大幅に遅れ、2号機に遅れること7年の1966年12月24日にようやく国産のエンジンである渦噴8型(WP-8)を搭載したH6Aの生産1号機が初飛行した[1][2]

生産機は轟炸6型(轟炸、とは中国語爆撃の意)の名で人民解放軍に配備されることとなり、1969年2月から部隊配備が開始された。

1971年8月13日にはH-6が爆撃訓練を行っている姿がアメリカ合衆国偵察衛星から確認され、1972年3月までには32機が実運用に入り、さらに19機が完成を待っている、とCIAによって推定されている。その後、改良を重ねながら生産は継続され、1990年代までに各型合わせて少なくとも150機が生産された。2000年代前半には120機を運用していると見られる[1]

特徴[編集]

Tu-16ライセンス生産品であるH-6の当初の目的は、20kt核爆弾を搭載しての核攻撃であり、中国核戦力の一翼を担った。ロプノール湖での核実験にも用いられ、あわせて9個の核爆発装置がH-6から投下された。しかし、弾道ミサイルの発達により核攻撃機としての役割は縮小された。

ちょうどソ連本国のTu-16がそうであったように、中国のH-6はその長大な航続距離と大きな搭載量を生かし、巡航ミサイル発射母機や対艦ミサイル発射母機、機雷投下機などとして数々の派生型が生産されている。

また、エンジンアビオニクスも国産化されており、外国のエンジン/アビオニクス供給政策によって交換部品供給が左右される事がないため稼働率が維持しやすく、部品も安価である。

エンジン[編集]

RD-3M-500を国産化した渦噴8(WP8)ターボジェットエンジンを装備する。このエンジンの最新型は推力101.28kNを発揮する。 H6Kは、D-30KP2ターボファンエンジンを装備する、

搭載兵装[編集]

H-6は、その長大な航続距離と大きな搭載量を生かし、多種にわたる兵装を装備して多様なミッションを遂行できる。

巡航ミサイルによる地上攻撃
2発のKD-63 巡航ミサイル、もしくは4発のHN-3 巡航ミサイル、または4発のYJ-85 巡航ミサイルの運用が可能である。戦闘行動半径は2,000km以上あり、中国沿岸部の基地から台湾大韓民国日本国内の自衛隊在日米軍の航空基地、果てはグアムまでのアメリカ空軍基地、さらに民間の空港や都市およびあらゆるインフラへ対して巡航ミサイルを投射可能である。DF-11/DF-15 GPS補正短距離弾道ミサイル潜水艦・水上艦発射型YJ-85 巡航ミサイル/HN-3 巡航ミサイル/Klubとともに中国人民解放軍の精密誘導対地ミサイル打撃力の一翼を担い、開戦劈頭の航空優勢確保のため、大量の通常弾頭GPS巡航ミサイルを台湾や沖縄の航空基地に投射するプラットホームとして機能すると見られている。
対艦ミサイルによる艦船に対する飽和攻撃
2発のYJ-6系対艦ミサイル、もしくはHN-3 TV誘導巡航ミサイル、または4発のYJ-83K 対艦ミサイルの運用が可能で、YJ-83K 対艦ミサイルを搭載するJH-7 戦闘爆撃機、潜水艦・水上艦発射のYJ-83 対艦ミサイル/HN-3 TV巡航ミサイル/Klubとともにアメリカ空母戦闘群(現 空母打撃群)などを目標とした長射程対艦ミサイル飽和攻撃能力の一翼を担う。2015年8月、YJ-12(鷹撃-12)超音速対艦ミサイルの搭載の可能性があることが報道された。
機雷投下による重要港湾・軍港水道などの封鎖
人民解放軍空軍航空機としては比較的長大な航続力を生かし、沿海部から台湾や韓国の全域、あるいは日本の西半分の近海での機雷投下が可能で、台湾や韓国、日本の重要港湾を封鎖する能力を持ち、日本海東シナ海へのアメリカ海軍侵入阻止線(いわゆる第一列島線)を形成する役割を担う。また、(SEAD後に)軍港周辺海域への封鎖機雷の大量空中投下を行い、明型潜水艦などによって薄く先行設置された機雷の補強を行ったり、台湾海峡の両端に機雷を投下して、中国揚陸艦隊への反撃を阻止する機能を持つ。なお、魚雷放出型機雷はロシアでも製造しており「PMT-1 mine-torpedo。輸出名 PMK-2 system」、個々の機雷の制圧半径は第二次世界大戦の頃の磁気機雷とは比べ物にならないほど拡大されており、比較的少数の機雷で広い海域を封鎖できる事が指摘されている。
大型爆弾投下による面制圧
各種爆弾を最大で9t搭載できる。航空優勢を確保したのち、堅固なバンカーや防空能力を喪失した大型艦艇に大型誘導爆弾を投下して破砕したり、上陸予定地点周辺を燃料気化爆弾クラスター爆弾で面制圧するのに使用されると見られている。

配備[編集]

1969年2月の部隊配備開始以来、現在おおよそ120機程度が運用下にあるとされている。寿命切れで退役すると言う観測もあったが、H-X(次期爆撃機計画)の遅れにより、寿命延長・近代化改修を実施している。爆撃機は高価であり、また、H-6は部品を総て国産で賄えることもあって、アメリカ空軍B-52 戦略爆撃機のように寿命延長しながら使用され続けると推察される。 2016年現在、部隊配備されているのはH-6G、H-6K、H-6H、H-6Mの4機種であり、他に空中給油機としてH-6U(H-6A改造の空軍機)と、H-6DU(H-6D改造の海軍機)がある。H-6Aは数機だけ飛行学院第2訓練旅団に残っている[2]

H-6の輸出活動はきわめて限定的である。エジプトは、1970年代中期に何機かのH-6をスペア部品とともに入手し、Tu-16戦力の補充となった。エジプト最後のTu-16/H-6は2000年に退役している。 H-6Dの輸出型としてB-6Dの外販を企図したが、採用国はない。 イラクイラン・イラク戦争のさなかに4機のH-6を入手したが、1991年湾岸戦争によってすべて破壊されている。

2016年7月18日、中国空軍はK型によるスカボロー礁上空での哨戒飛行を行ったと発表し、今後同空域での哨戒飛行を常態化させるとした[3]

派生型[編集]

H-6A
量産型。中国国内でライセンス生産したもの。前期はHL2(241型)、後期はHL2A(244型)捜索レーダーを搭載[2]1968年12月初飛行。1980年代まで生産が継続された。
H-6AII
H-6Aの発展型であり、1970年代に生産が開始された。エンジンのパワーアップと爆撃/航法コンピューター、ドップラー航法システムが更新された[2]
H-6E
H-6Aを改修した核攻撃専用型。
H-6B
偵察機型。Tu-16Rが搭載するSRS-3電子偵察ポッドに似たものを搭載する[2]
H-6C
H-6Aに電子戦装備などアビオニクスを改修した機体。改革開放政策により西側の電子機器が輸入された。別名「H-6III」[2]
H-6D
H-6Aに続く量産型であり、対艦ミサイルを運用可能にした海軍向けの機体。機種下面に360度全周の監視が可能でIバンド使用のHL6D(245型)「コバルト」捜索レーダーを備え、YJ-61(C-611) 空対艦ミサイルを装備できる。新レーダーに合わせてコックピットのレイアウトも変更されている1981年8月29日に初飛行し1985年12月に海軍部隊に初配備され、計30機が製造された[2]
HD-6(轟電6)
電子戦機型。
H-6F
H-6A/Cの近代化改修型。
H-6G
H-6Dの代替となった海軍型の機体。2000年代に更新された。2016年現在、中国海軍が30機程度保有しているとされる[2]
H-6H
巡航ミサイル搭載型。1998年12月初飛行。
H-6I
他型では2発のエンジンを4発搭載にすることで能力向上を図った試験機。H-6Aの機体の主翼下に追加のパイロンによってロールス・ロイス スペイ 512-5Wを加えた。1機の試作のみ[2]
H-6L
対潜哨戒機型。2009年就役。
H-6U
空中給油機型。1990年初飛行。
H-6M
H-6Fの近代化改修型。2002年の珠海兵器ショーでその開発が明らかにされた機体。翼下に対艦ミサイル4発の搭載が可能。現在少数機が海軍航空隊に配備されている。
H-6K(戦神)
長剣-10(CJ-10A)巡航ミサイル(射程2,500km)搭載型。翼下に6発のDH-10 巡航ミサイルの搭載が可能。エンジンが従来のソ連製ミクーリンAM3M500の中国ライセンス生産版「渦噴8」(WP-8)ターボジェットエンジンから、ロシア製のソロヴィヨーフ D-30KP2ターボファンエンジンに換装され、航続距離も延伸している。機体構造やアビオニクスにも改良が施されている。ペイロードが約9トンから12トンに増え、主翼下のミサイル用パイロンが4カ所から6カ所へ増し、アビオニクスがデジタル化されたことで乗員が5名から4名に減らされた。衛星通信も可能になった。2016年現在も生産が継続中[2]2007年1月5日初飛行[4]

要目[編集]

H-6A 三面図

仕様[編集]

  • 乗員:2名
  • 全長:34.9m
  • 全幅:33.0m
  • 全高:9.85m
  • ペイロード:9.0t
  • 離陸重量:75.8t
  • エンジン:渦噴9 ターボジェット x 2基
  • 推力:10.1t x 2基

性能[編集]

  • 最大速度:1,041km/h
  • 巡航速度:786km/h
  • 戦闘行動半径:3,500km以上
  • 実用上昇限度:13,100m

武装[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b The Federation of American Scientists & The Natural Resources Defense Council Chinese Nuclear Forces and U.S. Nuclear War Planning p. 93, 94 [1]
  2. ^ a b c d e f g h i j 石川潤一『日本は射程内 中国H6巡航ミサイル爆撃機の脅威』「軍事研究」2016年11月号、42-50頁、ジャパン・ミリタリー・レビュー
  3. ^ 中国が哨戒「常態化」…「主権」否定されたスカボロー岩礁上空を爆撃機が飛行 米にも人工島造成継続を強調 産経ニュース 2016年7月19日掲載
  4. ^ 軍事研究 2010年1月号 p166-167 JDW誌短信

関連項目[編集]

外部リンク[編集]