鳥取連続不審死事件
鳥取連続不審死事件 | |
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場所 |
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日付 | 2004年 - 2009年 |
概要 | 強盗殺人(同二項を含む) |
凶器 | 睡眠薬 |
武器 | 睡眠薬 |
死亡者 | 6人(起訴対象は2人) |
犯人 | 事件当時35歳の元スナックホステスU |
動機 | 金銭目的・債務逃れ |
刑事訴訟 | 死刑(未執行) |
鳥取連続不審死事件(とっとり れんぞくふしんしじけん)とは、2004年(平成16年)から2009年(平成21年)にかけ、鳥取県鳥取市を中心に発生した連続不審死事件[1]。
事件の概要[編集]
2009年11月、詐欺罪で逮捕された元スナックホステスの女Uの周辺で、6人の男性が不審死していることが発覚した[2]。
翌2010年1月、Uは強盗殺人罪で逮捕され、最終的に2人を殺害した罪で起訴された。
一連の不審死事件[編集]
- 第1の事件
- 2004年(平成16年)5月13日、当時Uの交際相手である男性Aが、段ボールに詰められた状態で鳥取市内のJR因美線で列車に轢かれ死亡した。
- 段ボールには「出会って幸せだった」などのようなことが書かれており、鳥取県警は文面の様子などから遺書と判断し、Aの死因を「自殺」と処理して、司法解剖などは行わなかった。AはUとの金銭トラブルがあり、同僚などからたびたび借金をしていた[2]。
- 第2の事件
- 2007年(平成19年)8月18日、Uの家族と共に貝を採りに、鳥取砂丘近くの海岸に出かけた27歳の男性Bが海で溺れ、搬送された病院で約10日後に死亡した。
- Bは泳げなかった。Uとは2001年頃にスナックで知り合い、2005年頃から同居するようになった[3]。BはUから日常的に熱湯をかけられるなどの暴行を受けていた。
- 第3の事件
- 2008年(平成20年)2月、鳥取市郊外の山中で男性Cの首吊り死体が発見された。
- CはUが働いていたスナックの常連客であり、2人の間で金銭トラブルがあったという[2]。
- 第4の事件(起訴事案)
- 2009年(平成21年)4月11日早朝、北栄町沖の日本海で47歳男性Dの水死体を発見。
- 遺体からは睡眠導入剤のほか、肺からは(水死の場合、入るはずがない)砂が検出されるなど[4]不自然な点が多く、他殺の可能性が高いと結論づいて、起訴へ至った。
- 第5の事件(起訴事案)
- 同年10月7日、男性Eが自宅から約4km離れた鳥取市内の摩尼川にて、うつ伏せの状態で死亡しているのを発見された。
- 前日、男性Eは家族に「集金に行く」と言い残し、車でどこかへ出かけている[5]。捜査の結果、事件現場から約10m離れた場所にEの車が発見され、カーナビの走行記録を確認ところ、U宅の敷地を何度も出入りしていたことが判明する[6]。
- Uおよび同居人の男性は、Eに対して140万円ほどの未収金があり、前日の発言はこのことだと思われる[5]。また、Eの遺体が発見された事件現場は、決して溺れるはずのない"水深20cm"程度の浅い川で、第三者に顔を押しつけられた可能性が高く、遺体からも睡眠導入剤が検出されたため[7]、起訴へと至った。
- 第6の事件
- 同年10月27日、Uと同じアパートに住んでいた男性Fが、急な体調不良で急逝した。
- 同年9月、FはUの車を借りて運転していた最中、鳥取駅前で乗用車と衝突事故を起こす。その際、Uは「相手と示談する」と言ってFから8万円を受け取るが、話し合いは一向に進展せず、結局Fは示談で揉めることになった。
- その1ヶ月後、Fは昏睡状態に陥って死亡する。Fは生前、Uのスナックの常連客であり、彼女に自宅の鍵を預けていたという[8]。
報道[編集]
この事件は、2009年11月2日に詐欺容疑でUが逮捕された際、鳥取県警は実名を公表し、県警記者クラブに加盟する報道各社に発表資料を配布した。しかし、不審死事件が発覚した5日以降は匿名にきりかわった[9]。これは、殺人容疑で立件されれば裁判員裁判の対象となるため、世間に予断をあたえないための配慮とされている[10]。しかし、ほとんどの週刊誌は実名や顔写真を掲載し、センセーショナルな見出しで女の生い立ちや生活実態を報道した。『週刊新潮』は、『社会的な関心がおおきく、「知る権利」にこたえるため』、『週刊文春』は「事案の重大性をかんがみて」という理由で実名報道を選択した理由を説明している[11]。
一連の報道についてマスコミ研究者の桂敬一は、「実名報道は捜査当局の判断をまってからでもおそくない。興味本位の報道ではよくなく、インターネット上でも情報が氾濫しており、フィクションの世界で犯罪ができあがるような錯覚すらおぼえる」と指摘している[12]。
2010年1月28日にUが強盗殺人罪で逮捕されたのを機に、テレビや大手新聞でも実名報道に切り替えとなった[要出典]。
刑事裁判[編集]
裁判では目撃証言などの直接証拠が存在せず、間接証拠の積み重ねでの判断に注目が集まった[13]。
2012年12月4日、鳥取地裁(野口卓志裁判長、裁判員裁判)は求刑通り死刑を言い渡した。女性被告人に対する死刑判決は、裁判員裁判では首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗に続き2人目だった。被告側は判決を不服として即日控訴した[14]。
2014年3月20日、広島高裁松江支部(塚本伊平裁判長)は第一審の死刑判決を支持し、控訴を棄却した。被告側は最高裁に即日上告した。
最高裁判所第1小法廷(小池裕裁判長)は2017年4月7日までに、上告審口頭弁論公判の開廷日を6月29日に指定した[15][16][17]。
最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)で2017年6月29日、上告審口頭弁論公判が開廷された[18][19][20]。弁護側は2件の強盗殺人について「被告人が睡眠薬の作用でもうろうとしている男性に肩を貸し、犯行場所とされるところまで連れて行くことは不可能だ」と無罪を主張した一方、検察側は「被告人による犯行は十分可能だった」と上告棄却を求めた[18][19][20]。
2017年7月5日までに、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は上告審判決公判開廷日時を7月27日に指定した[21][22][23]。
2017年7月27日、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)はUの上告を棄却する判決を言い渡した[24]。これにより、Uの死刑が確定することとなった[24] [25]。
Uは判決を不服として、最高裁第一小法廷に判決の訂正を申し立てたが、8月23日付で棄却決定がなされたことにより、死刑判決が確定した[26]。Uは戦後16人目、裁判員制度導入後では、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗以来2人目の女性死刑囚となった。
別事件の死刑囚からの提訴[編集]
和歌山毒物カレー事件で死刑が確定した林真須美[注 1](大阪拘置所収監中)の支援誌に、林は本事件の被告人Uと面識がなく、関わりを持ちたくないにもかかわらず、Uとの関係をうかがわせる文章が林の支援誌に掲載されたり、別の雑誌で林がUに親しみを持っているかのような印象を与える表現をされたりして、苦痛を与えられたとして、林は2016年12月28日付で、Uに対し計1000万円の損害賠償を求め、東京地方裁判所に民事訴訟を提訴した[27]。この訴訟は2017年3月に松江地方裁判所で審理されることが決まった[27]。
死刑囚の現在[編集]
2016年時点で、当時上告中だったUは松江刑務所拘置区に収監されていたが[27][28]、死刑が確定した2017年9月23日現在は、広島拘置所に移送されている[29]。
関連書籍[編集]
- 青木理『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』講談社、2013年11月12日。ISBN 978-4062186735。
- 青木理『誘蛾灯 二つの連続不審死事件』講談社+α文庫、2016年1月21日。ISBN 978-4062816397。
- 本事件と首都圏連続不審死事件について取り扱った書籍。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ 林は実名で著書を出版しているため、Wikipedia日本語版にて実名記載が認められている
出典[編集]
- 以下の出典において記事名に死刑囚の実名が使われている場合、この箇所を日本における収監中の死刑囚の一覧との表記矛盾解消のため苗字イニシャル「U」とする。
- ^ 朝日新聞 2009年11月12日30面
- ^ a b c “【鳥取連続不審死】6人全員に不自然な経緯、5人については殺人も視野”. 産経新聞. (2009年11月8日). オリジナルの2009年11月10日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死:女が海に誘い水死 泳げぬ27歳男性を”. 毎日新聞. (2009年11月8日). オリジナルの2009年11月11日時点におけるアーカイブ。
- ^ “鳥取・男性連続不審死:肺に砂、殺人で捜査 47歳男性、海で水死直後から”. 毎日新聞. (2009年11月9日). オリジナルの2009年11月13日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “【鳥取連続不審死】集金トラブルが原因か 遺体で発見の男性”. 産経新聞. (2009年11月9日). オリジナルの2009年11月13日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “【鳥取連続不審死】水死?男性、女の自宅へ立ち寄る 不明当日に”. 産経新聞. (2009年11月11日). オリジナルの2009年11月16日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ “鳥取で男性3人が不審死 遺体から睡眠導入剤”. 中日新聞. (2009年11月5日)[リンク切れ]
- ^ “【鳥取連続不審死】疑惑の女、5人中3人と金銭トラブル”. 産経新聞. (2009年11月6日). オリジナルの2009年11月10日時点におけるアーカイブ。 2010年2月3日閲覧。
- ^ 阪秀樹; 白岩賢太 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 1 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹; 白岩賢太 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 2 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹; 白岩賢太 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 4 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 阪秀樹; 白岩賢太 (2009年11月27日). “【鳥取連続不審死】「報道倫理」匿名か、「知る権利」実名か メディア対応分かれた 報道検証”. 産経新聞: p. 5 2010年2月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “間接証拠のみで判断 “新基準”のモデルケースに”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2012年12月4日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2012年12月13日閲覧。
- ^ “連続不審死、U被告に死刑判決 鳥取地裁「冷酷、身勝手」”. 『47NEWS』 (共同通信社). (2012年12月4日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2013年12月10日閲覧。
- ^ “鳥取不審死 6月に一、二審死刑のU被告弁論、最高裁決定”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ “鳥取の連続不審死事件、6月に弁論へ 最高裁が決定”. 『朝日新聞デジタル』 (朝日新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
“鳥取連続不審死、6月弁論 最高裁”. 『朝日新聞デジタル』 (朝日新聞社). (2017年4月8日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。 - ^ “鳥取連続不審死:最高裁が6月29日に弁論実施”. 『毎日新聞』 (朝日新聞社). (2017年4月7日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “「もうろうとしている男性、犯行場所まで連れて行くのは不可能」と弁護側…最高裁でも2人強殺否定 鳥取連続不審死”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “鳥取連続不審死:被告側、無罪主張 上告審弁論”. 『毎日新聞』 (毎日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ a b “鳥取の連続不審死、U被告は無罪主張 最高裁で弁論”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
“鳥取連続不審死、最高裁で弁論”. 『朝日新聞』 (朝日新聞社). (2017年6月29日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。 - ^ “【鳥取連続不審死事件】U被告の最高裁判決は27日”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ “鳥取連続不審死:U被告、最高裁判決は27日”. 『毎日新聞』 (毎日新聞社). (2017年7月5日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
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- ^ “鳥取連続不審死事件、U被告の死刑確定へ 最高裁が上告棄却「計画的で冷酷な犯行」”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
“【鳥取連続不審死】「最後ぐらい、謝罪あっても…」死刑確定するU被告に、遺族のやるせなさ今も(1/2ページ)”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
“【鳥取連続不審死】「最後ぐらい、謝罪あっても…」死刑確定するU被告に、遺族のやるせなさ今も(2/2ページ)”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月27日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。 - ^ “鳥取連続不審死 元スナック従業員、U被告の死刑確定”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年8月26日). オリジナルの2017年9月26日時点におけるアーカイブ。 2017年9月26日閲覧。
- ^ a b c “林真須美死刑囚、連続不審死事件のU被告を提訴「親しいかのような文章に苦痛」”. 『産経新聞』 (産業経済新聞社). (2017年7月4日). オリジナルの2017年7月12日時点におけるアーカイブ。 2017年7月12日閲覧。
- ^ 年報・死刑廃止編集委員会『死刑と憲法 年報・死刑廃止2016』インパクト出版会、2016年10月10日、236頁。ISBN 978-4755402692。
- ^ 年報・死刑廃止編集委員会『ポピュリズムと死刑 年報・死刑廃止2017』インパクト出版会、2017年10月15日、203頁。ISBN 978-4755402807。
関連項目[編集]
- 首都圏連続不審死事件 - 同時期に発覚した関東地方で起きた連続殺人事件
- 関西青酸連続死事件
- 実名報道