イランにおける死刑
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イランにおける死刑(イランにおけるしけい)では、イランにおける死刑について解説する。
イランはイスラム法に基づく厳しい死刑制度を維持している国であり、死刑執行数は2022年時点で中国に次いで多い[1]。
概要[編集]
イランの創始者でありイスラム聖職者アーヤトッラールーホッラー・ホメイニーはイスラム教の棄教または改宗には死罪を適用するように主張した。
イランには「一般法廷」「革命法廷」「イスラーム法学者特別法廷」の三つの裁判がある。
「革命法廷」「イスラーム法学者特別法廷」の二つは一審制で上訴できない。
主に国家安全保障に関わる犯罪は「革命法廷」で裁かれ、宗教的な問題に関しては「イスラーム法学者特別法廷」で裁かれる。 中華人民共和国(少なくとも3000人(2021年推定)[2])に次いで、死刑執行(アムネスティ・インターナショナルによれば、2022年時点でイランでは少なくとも576人。日本は1人)[1]のペースが速いという。また、国際法違反に当たる公開処刑が2019年6月に少なくとも1件あり、2022年7月にも同年2月に警官を殺した罪で、シーラーズでクレーンでつるし上げての絞首刑が第三者に公開される形で行われた[3]。
また、イランの正確な死刑執行数は、政府による死刑執行の過少報告と秘密裏に死刑執行が行われているため、不明である。しかしながら下表より、いくつかの人権団体により、イランの死刑執行数が推定されているが、前述の秘密裏に執行されている為、推定数より多くなる可能性がある。
死刑執行数の推計行った団体 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アムネスティ・インターナショナル | 335 | 346 | 388 | 252+ | 360+ | 314+ | 369+ | - | 977+ | 567+ |
ヒューマン・ライツ・ウォッチ | - | - | - | 751+ | 676 | 580+ | 687+ | 411+ | 969 | 530+ |
イラン人権文書センター | - | - | - | - | - | - | 624 | 721 | 966+ | 259+ |
Abdorrahman Boroumand財団 | - | - | - | - | - | - | 727 | 801 | 1,052 | 545 |
イラン人権モニター | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - |
外務および英連邦・開発省 | - | - | - | 650 | - | - | - | - | - | - |
死刑執行数の推計行った団体 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 |
---|---|---|---|---|---|---|
アムネスティ・インターナショナル | 507+ | - | - | 246+ | 314+[5] | 576+[1] |
ヒューマン・ライツ・ウォッチ | - | 207+ | 258+ | - | 290+ | - |
イラン人権文書センター | 524+ | - | 267+ | - | - | - |
Abdorrahman Boroumand財団 | 508 | 249 | 214+ | - | 215+ | 492+ |
イラン人権モニター | - | 285+ | 273+ | - | 337+ | 553+ |
注
- 2014年のヒューマン・ライツ・ウォッチの推定数は、上半期のみである。
- 2016年のイラン人権文書センターの推定数は、上半期のみである。
- 2018年のヒューマン・ライツ・ウォッチの推定数は、10月10日までの推定執行数である。
- 2019年は、ヒューマン・ライツ・ウォッチは12月25日まで、Abdorrahman Boroumand財団は12月4日までの推定執行数である。
- 2021年は、ヒューマン・ライツ・ウォッチは12月15日まで、Abdorrahman Boroumand財団は9月まで、イラン人権モニターは12月29日までの推定執行数である。
- 2022年は、イラン人権モニター は12月14日まで、Abdorrahman Boroumand財団は12月7日までの推定執行数である。
未成年犯罪者[編集]
イランは、児童の権利に関する条約に調印しているため、18歳未満への死刑の適用を禁止する義務があるが、多くの子供たちに死刑が執行されている。
2008年に重罪犯人は18歳を過ぎたあと処刑を実行するだけであると断言[誰?]した。
にも関わらず、1990~2022年の間に、18歳未満の少年112人(2022年は5人執行)の死刑執行が報告されている[6][7][8][5][1]。更に、2016年6月時点で18才未満で犯したとされる罪で死刑を受けているイランの死刑囚は、162人いた[9]。
そして、死刑執行された少年死刑囚の中には、51歳男性に不同意性交されたにもかかわらず、「純潔に対する罪」で2004年8月15日、16歳少女がイランの公共広場でクレーンによる絞首刑に処せられた(男性の方は95回の鞭打ち刑で済んでいる。)[10]。更に、他の少年を不同意性交した罪で19才男性が2016年7月18日に死刑執行されている[9]。
また、冤罪による死刑判決が行われており、クルディスタン自由生活党と革命防衛隊の銃撃戦により、革命防衛隊のメンバーを死亡させたとして、神への敵意と地球を堕落させた罪で17歳少年を拷問にかけた上で自白を強要し、2012年1月に死刑判決を下している[11]。
そして、国際批判をかわすために、不同意性交をした罪で17歳少年2人を逮捕した上で、鞭などの拷問をした上で、2017年4月25日に南部シラーズの刑務所で秘密裏に処刑された[6]。
死刑が適用される犯罪[編集]
アムネスティ・インターナショナルによれば、イランで2022年に執行された少なくとも推計576人の死刑の内、最も多い罪状が殺人の279人(約48%)、次いで薬物犯罪が255人(約44%)であり、全体の約93%がこの2つの犯罪によって執行された。他は、不同意性交が21人、モハレベ(神への敵意)が18人、不明は3人であった[1]。
- 背教罪
- 国教であるイスラム教シーア派とその下位に位置するとされるゾロアスター教、キリスト教、ユダヤ教が存在を認められている宗教でそれ以外の宗教は全て非合法とされている。邪教とされるバハイ教の信者は信者であるというだけで背教罪によって死刑になる。無神論者も同様に扱われる。
- 同性愛
- イラン・イスラーム共和国憲法で正式に「ソドミー罪」を設けており、発覚した場合死刑である。
- 姦通罪(ズィナー)
- 石打ちによる死刑が行われている。
- 飲酒
- 飲酒による死刑の執行例は稀であるが、ほとんどの場合は鞭打ちの刑に科せられる。
- 麻薬犯罪
- イランの麻薬取締法によれば、麻薬の所持は、死刑または終身刑で罰せられる重罪である。
- ヘロイン、モルヒネ、コカイン、LSD、メタンフェタミン(覚醒剤)、または類似の薬物を30グラム以上所持していた場合。 ただし売却が完了していないか、取引量が100グラム未満の初犯の場合は死刑は適用されない。取引量が合計で30-100グラムの再犯者は死刑である。
- 5000g / 5kg以上のアヘン、大麻樹脂(ハシシ)または大麻を所持していた場合。 ただし売却が完了していないか、取引量が20キログラム未満の初犯には死刑が適用されない。また、5〜20kgのこれらの薬物所持で三度有罪判決を受けた者は死刑である。
- 違法使用のために、処方薬または工業用薬品を5Kg以上所持していた者、または5〜20キログラムのこれらの薬物所持の再犯者は死刑である。
- 違法薬物製造目的の芥子(アヘン原料)の栽培、または大麻の栽培で有罪判決を受けた者で再犯者は死刑である。
- 麻薬を所持している間に暴力犯罪を犯した者、あるいは麻薬密売組織の一員である者、または麻薬密売組織の一員であると告発されている者は死刑である。
- 殺人
- イランでは殺人罪はイスラム法によって裁かれる。イスラム法では殺人が故意の場合、遺族はキサース(同害復讐刑)とディーヤ(賠償金による和解)のどちらかを選択できる。過失致死の場合はキサースを求めることは出来ず、ディーヤしか求めることが出来ない。裁判官は多くの場合、ディーヤによる解決を選択するよう勧告する。クルアーンにはキサースよりもディーヤを奨励する文言が存在しているため、キサースによる処刑は少数派となっている。多くの場合はディーヤの支払いの機会を与えるために、死刑の執行は5年間猶予される。遺族がキサースを選択し処罰を求めた場合、「生命には生命」の復讐として死刑が執行される。なおディーヤで支払われる賠償金の基準は、イスラム法に基づきラクダ100頭の価格に相当する金額を毎年政府が定めている。また聖なる月として争いが禁じられているラマダーン月からムハッラム月の期間に殺人が行われた場合は賠償金が倍になる。イスラム教徒による非イスラム教徒に対するディーヤの金額は半額とされていたが、2004年の法改定により同じ金額に変更された。
執行方法[編集]
死刑執行人[編集]
- 詳細不明
脚注[編集]
- ^ a b c d e アムネスティ―・インターナショナル (2023-05-16) (PDF). 死刑廃止 - 最新の死刑統計(2022) (Report) 2023年5月28日閲覧。.
- ^ 中米対話基金 (2022-08) (PDF). 2021 Annual Report 年度报告>Death Penalty(2021年度報告>死刑) (Report). pp. 8 2022年9月3日閲覧。.
- ^ “イランで2年ぶり公開処刑 「中世の慣行」とNGO非難” (日本語). 時事通信. AFP通信. (2022年7月24日) 2022年8月3日閲覧。
- ^ Cornell Center on the Death Penalty Worldwide (2021年12月31日). “Database 2.5. Executions Per Year”. 2022年2月20日閲覧。
- ^ a b アムネスティ・インターナショナル (2022-05-24) (PDF). 2021年の死刑状況:国家による殺人が増加 イランとサウジでの執行数増で (Report) 2023年5月28日閲覧。.
- ^ a b “イラン、17歳2人の死刑執行 人権団体が非難” (日本語). CNN. (2019年5月1日) 2020年8月10日閲覧。
- ^ アムネスティ・インターナショナル (2020-04-21). 2019年の死刑状況:死刑廃止の大潮流に逆らう少数国 (Report) 2023年5月28日閲覧。.
- ^ アムネスティ・インターナショナル (2020-04-21) (PDF). 2020年の死刑状況:新型コロナウイルスが猛威を振るう中で死刑に固執する国々 (Report) 2023年5月28日閲覧。.
- ^ a b 『イラン:国際法を無視する少年の死刑執行』(プレスリリース)アムネスティ日本、2016年8月11日 。2020年8月10日閲覧。
- ^ “Execution of a teenage girl(10代少女に死刑執行)” (英語). BBC NEWS. (2006年7月27日) 2020年8月10日閲覧。
- ^ アムネスティ日本 (2017年5月14日). “97日間の拷問の末に・・・ イランの少年死刑囚の実態” (日本語). ハフポスト 2020年8月10日閲覧。