ラマダーン
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1445年ラビーウ=ル=アウワル月15日 |
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2023年9月30日 |
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ラマダーンまたはラマダン(アラビア語: رمضان、フスハー発音:[ra.ma.dˤaːn]、ペルシア語: رمضان、ウルドゥー語: رمضان、発音:[ra.ma.zaːn]、トルコ語: Ramazan、インドネシア語: Ramadan)は「暑い月」の意味[1]で、ヒジュラ暦(イスラム暦)での第9月を指す[2]。この月の日の出から日没までの間、ムスリムの義務の一つ「断食(サウム)」として、飲食を絶つことが行われる。
概要[編集]
「ラマダーン」を、断食のことと誤って捉える人も少なくないが、ラマダーンとは、あくまでもヒジュラ暦における月の名である。ただし、ラマダーンという言葉が断食を今日では意味することも増えてきている。
ヒジュラ暦で9月を意味するラマダーンに、コーランが預言者ムハンマドに啓示され、イスラム教徒にとって、ラマダンは「聖なる月」となった。
この月において、ムスリムは日の出から日没にかけて、一切の飲食を断つことにより、空腹や自己犠牲を経験し、飢えた人や平等への共感を育むことを重視する。また親族や友人らと共に苦しい体験を分かち合うことで、ムスリム同士の連帯感は強まり、多くの寄付(ザカート)や施し(イフタール)が行われる[3]。
断食中は、飲食を断つだけではなく、喧嘩や悪口や闘争などの忌避されるべきことや、喫煙や性交渉などの欲も断つことにより、自身を清めてイスラム教の信仰心を強める。
ラマダーン明けの祭りは「イド・アル=フィトル」と呼ばれ、盛大なものである。
名称[編集]
アラビア語における3文字の語根は「رمض」(R-M-Ḍ)で、「猛暑・灼熱」を意味する。
ペルシア語など、非アラビア語圏における発音に基づけば、ラマザーンないしラマザンとも書ける。ラマダーンのダの音ض(現代標準アラビア語音dˤ)はダードと呼ばれるが、これは他の言語において、近似の難しい音韻である。古典アラビア語の段階(少なくともシーバワイヒが記述・規範両面にまたがる文法を書いたころは)には、ザとダとラの混じったような咽頭化音であった(有声咽頭化側面破裂~破擦~摩擦音)。
そのため、ペルシア語、トルコ語、ウルドゥー語など西アジア、南アジア、中央アジアの諸言語のように、比較的古い時代に、アラビア語から借用した言語では、ダードをzの音で取り入れる例が多いため、「ラマザン」「ラマザーン」となる言語が多い。
インドネシア語など東南アジアの諸言語のように比較的新しい時代にアラビア語から借用した言語では、ダードをdの音で取り入れて「ラマダン」となる例が多い。スワヒリ語ではダードを摩擦子音dh(ð)で取り入れている語が多く、ラマダーンはramadhani(ラマザニ)と呼ばれている。ハウサ語では、dとlのそれぞれで取り入れた語形が共存する。それぞれ古典アラビア語や現代標準アラビア語の発音を各言語なりに借用した結果である。
期間[編集]
ヒジュラ暦は、純粋な太陰暦で閏月による補正を行わないため、太陽暦のグレゴリオ暦では毎年11日ほど早まり、およそ33年で季節が一巡する。そのため「ムスリムは、同じ季節のラマダーンを人生で2度経験する」と言われる。
ラマダーン月の開始と終了はほとんどの国において宗教家らによる新月の観測によって行われるが、トルコなどでは計算に基づいた暦通りに決定される。目視によるラマダーン月突入方式においては、雲などで新月が確認できなかった場合は1日ずれる。夏に白夜になる北極圏や南極圏の極地地方にあっては、近隣国の日の出・日没時間に合わせるなどの調整も図られる。
ラマダーン中には、世界中のイスラム教徒が、同じ試練を共有することから、ラマダーンは、ある種の神聖さを持つ時期であるとみなされている。
ラマダーンの期間中は、رمضان كريم(Ramadan Kareem、ラマダーン・カリーム。「恵み多い月ラマダーンおめでとう」)という挨拶が使われる。
西暦対照表[編集]
以下は、2014年までのラマダーン期間と、2015年以降のラマダーンの予定日である[4]。グレゴリオ暦年、ヒジュラ暦年、グレゴリオ暦開始日、グレゴリオ暦最終日の順で示す。
グレゴリオ暦 | ヒジュラ暦 | 最初の日 | 最後の日 |
---|---|---|---|
2005年 | 1426年 | 10月4日 | 11月2日 |
2006年 | 1427年 | 9月23日 | 10月22日 |
2007年 | 1428年 | 9月13日 | 10月11日 |
2008年 | 1429年 | 9月1日 | 9月29日 |
2009年 | 1430年 | 8月22日 | 9月19日 |
2010年 | 1431年 | 8月11日 | 9月9日 |
2011年 | 1432年 | 8月1日 | 8月29日 |
2012年 | 1433年 | 7月20日 | 8月18日 |
2013年 | 1434年 | 7月9日 | 8月7日 |
2014年 | 1435年 | 6月29日 | 7月27日 |
2015年 | 1436年 | 6月18日 | 7月16日 |
2016年 | 1437年 | 6月6日 | 7月5日 |
2017年 | 1438年 | 5月27日 | 6月25日 |
2018年 | 1439年 | 5月16日 | 6月14日 |
2019年 | 1440年 | 5月5日 | 6月3日 |
2020年 | 1441年 | 4月24日 | 5月23日 |
2021年 | 1442年 | 4月13日 | 5月12日 |
2022年 | 1443年 | 4月2日 | 5月1日 |
2023年 | 1444年 | 3月22日 | 4月20日 |
断食[編集]
断食といっても期間中完全に絶食するわけではなく、日没から日の出までの間(=夕方以降から翌未明まで)に、一日分の食事を摂る。この食事は普段よりも水分を多くした大麦粥であったり、ヤギのミルクを飲んだりする。
旅行者や重労働者、妊婦、産婦、病人、乳幼児、高齢者、精神的な問題を抱える人など、断食できない事情のある場合は免除され、その適用範囲にはある程度の柔軟性と幅を持つ。また、免除される者にも、後で断食をやり直す必要のある者(旅行者や妊婦、月経中の者など)と、必要の無い者(高齢者や乳幼児、回復する見込みの無い重病人など)の2つに分けられる。
すなわち、断食をするかどうかは、原則として宗教的モラルの問題である。旅行者は断食を免除されるというのを拡大解釈して、富豪の一部には、ラマダーンに旅行に出かけ、断食逃れと呼ばれるようなことをする者もいる(ただし、その場合別の日に断食をやり直さなければならない)。また、基本的に異教徒には適用されない。
断食は、ヒジュラの道中の苦難を追体験するために行われるものである。したがって、飲食物の摂取量を減らすことや、苦痛を得ること自体が目的ではない。あくまで宗教的な試練として課される。また、食べ物に対する有難みを感じさせるためとも言われている。
日没になれば、すぐに食事を摂り、日が昇るぎりぎりまで食事を摂っている事が良いとされ、日没後も念のために、しばらく飲食を控えたり、日が昇る遥か前から飲食を止めたりする事はふさわしくないと看做される。
苦しみを和らげるために、あらゆる方法を取ることは全く問題がない。例えば、仕事の無い日は、日中は礼拝をする時などを除いて、寝ていてもかまわない。日中の空腹を和らげるために、日の出前に多めに食事を取っても全く問題はなく、脱水症状にならないように日中に水を飲むなどの対策を採ることも全く禁じられていない。
また、一年を通して断食をすることは完全に禁止され、昼夜を通して断食することも禁じられている(ただし、預言者ムーサー(モーセ)やイーサー(イエス)は、例外的に昼夜を通して断食を行ったことがあるとされている)。慣例的に、ラマダーンの前日は、断食を行わないこととなっている。
断食の成立には、当人の意思が大きくかかわっている。例えば、断食をしているのを忘れうっかり飲食してしまっても、無効にはならない。一方、たとえ飲食を行っていなくても、断食をしているという意思が本人になければ、それは無効になるとされている。例えば、あまりの苦しさに断食をやめ、飲食物を探したが、日没まで見つからなかったとしても、それは断食を行ったことにはならない。
むしろラマダーン中は、日が落ちている間に食い溜めをするため(そのために日が出ていない時刻に人を起こす者が巡回していることさえある)、夜食が盛大になり、通常より食糧品の売れ行きが良くなったり、肥満になる人が多くなるといわれる。
断食期間中に禁止されている行為は、飲食・喫煙・性行為・投薬(ただし健康上支障をきたす者は、断食が免除されるので、認められる)、故意に物を吐く事などである。唾を飲み込む事や、うがい、歯磨き、入浴、昼寝などは許されている(イスラーム文化センター 断食ガイド他、参照)。
日没後も、イスラームで禁止されている物は言うに及ばないが、禁止か否か明確でないような物を食べることも避けるべきだとされている。なお、イスラーム過激派の中には、ラマダーン中、支配地域の電気を止めるなど、市民生活に重大な影響を与える措置を取る場合もある[5]。
非イスラム教徒にとってのラマダーン[編集]
イスラム教徒が多数派となっている国家や地域において、非ムスリムには強要されないものの、外での飲食など自粛が求められる場合もある(ただし、ムスリムが断食によって得られる利益は、非ムスリムが断食を行っても一切無いとされている)。飲食店が営業を控えるなどの影響が出てくる。酒が入手できた地域でも、ラマダーン期間は入手が困難になることがよくある。
また、イスラム教を侮辱したととられかねない言動は、なおさら慎むことを要求される。ラマダーンでの断食を実行しないムスリムも最近は増えているものの、ムスリムと思われる人たちとの共同作業において、ラマダーンについての配慮が求められてくる。ラマダーン中に、ムスリムが多く居るイスラム国家に滞在するときは、注意が必要との指摘がある。
株式相場などでオイルマネーの影響を考えると、ラマダーン期間は、少し低調の方に動くとされている。また、イスラム勢力が関与する地域紛争においては、ラマダーン期間の戦闘行為が自粛される傾向にあったが、最近のアフガニスタンのタリバーン、シリアのISILなどは、ラマダーン期間にもかかわらず、積極的に攻勢に出ることもある。
断食が行えない高齢の者は、断食が免除されるため、イスラム教徒が多数派の国においては、当然高齢者よりも若年者のほうが積極的に断食を行うのが普通である。ところが、ムスリムが少数派の国家では、社会的制約の多い若年者よりも、退職して社会的制約が少ない高齢者のほうが、むしろ積極的に断食を行っている場合がある。つまり高齢者と若年者の立場が逆になっている。イスラム国家なら、もう断食が免除されるような超高齢者が、非イスラム国家では普通に断食を行っていることも珍しい事ではない。
厳格なイスラム法を採用しているサウジアラビアでは、ラマダーンの期間中、非ムスリムの外国人が公共の場で飲食や喫煙をした場合、国外追放すると発表している[6]。
一方、無宗教の立場を取る中華人民共和国(社会主義国)においては、ラマダーンの断食は懲罰の対象である[7](懲罰である点に関しては証拠が不十分であるため、事実確認が必要である)。
ラマダーンとスポーツ[編集]
2012年のロンドンオリンピックと2014 FIFAワールドカップがそれぞれ開催期間とラマダーンが、たまたま同じ期間に重なった(建前上、ラマダーンは長老の確認をもって始まるため事前に確定できないが、月の運行によって決まることから、ラマダーンがいつ頃になるかは事前に把握できる)。この二つの大会がラマダーンと重なることは当初からわかっており、イスラム圏の国は日程のスライドを要望したが、その要望は聞き入れられなかった。 また、2014 FIFAワールドカップでは、イスラム圏の国の選手が、ボトル状の容器に口をつけていた。
日本の大相撲では、エジプト生まれでイスラム世界の出身者では初の関取である大砂嵐が注目を集めた。ムスリムである大砂嵐は、本場所の開催期間とラマダーンの期間が重なった場合、日中の断食を励行していた。
感染症とラマダーン[編集]
2020年2月27日-3月1日にかけてマレーシアで行われたイスラム教の大規模集会で、2019新型コロナウイルスの感染が拡大。結果的に東南アジア各地にウイルスを拡散させる契機の一つとなった。ムヒディン・ヤシン首相は、ラマダーンを前にして「モスクに行くことなく、家族と一緒に家で礼拝を行ってほしい」と国民に呼びかけた[8]。
アラブ首長国連邦では、「医療従事者や症状悪化の危険性がある感染者は断食しなくてもよい」との見解が示された[9]。サウジアラビアでは、3月4日の時点で聖地巡礼を停止しており、ラマダーンの礼拝についてもモスクでなく自宅で行うよう求めた[10][11]。
脚注[編集]
- ^ "ラマダーン". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2022年2月10日閲覧。
- ^ “つらい「断食」にイスラム教徒が熱中する理由”. 東洋経済オンライン (2019年5月11日). 2021年9月15日閲覧。
- ^ “コロナ禍で様変わりするラマダン 連帯感をどう高めるか”. 朝日新聞 GLOBE+ (2020年4月25日). 2020年5月22日閲覧。
- ^ Ramadan (calendar month) - Wikipedia
- ^ “W杯より信仰? 「イスラム国」ラマダーン中は停電”. 東京新聞. (2014年6月18日). オリジナルの2014年6月21日時点におけるアーカイブ。 2017年6月16日閲覧。 現在はインターネットアーカイブ内に残存
- ^ “断食月を軽視する外国人は国外追放、サウジ当局”. フランス通信社. (2014年6月27日) 2014年6月30日閲覧。
- ^ “ウイグル自治区でラマダンの断食を規制 中国当局”. フランス通信社. (2014年7月2日) 2014年7月4日閲覧。
- ^ “イスラム教のラマダン 集団で食事・礼拝「3密」に厳戒”. 産経新聞 (2020年4月19日). 2020年4月19日閲覧。
- ^ “ラマダン、各地で始まる=コロナ感染拡大で様変わり”. AFP (2020年4月24日). 2020年4月25日閲覧。
- ^ “ラマダンの様相一変 コロナか信仰か、悩むイスラム教徒”. 2020-04-24朝日新聞 (2020年4月24日). 2020年4月25日閲覧。
- ^ “サウジ、国民の聖地巡礼も禁止に 新型ウイルス懸念で”. ロイター (2020年3月5日). 2020年4月25日閲覧。
関連項目[編集]
- 五行 (イスラム教)
- ヒジュラ暦
- イスラム教における斎戒
- 断食
- シェイク・ムザファ・シュコア - マレーシア人の宇宙飛行士で、ムスリムとして史上初めて宇宙でラマダーンを過ごした。
- カターイフ - ラマダーンの時期に食される菓子。
- ギュルラッチ - ラマダーンの時期にトルコで食される菓子。
- en:Laylat al-Qadr(ライラトルカドル)
- みいつ (クルアーン)
- ラマダーン革命