司法解剖
司法解剖(しほうかいぼう、英: internal examination, judicial autopsy)は、犯罪性のある死体またはその疑いのある死体の死因などを究明するために行われる解剖[1]。
根拠法規[編集]
刑事訴訟法168条1項「鑑定人による死体の解剖」、同法229条「検視」、および死体解剖保存法の規定に基づいて、刑事事件の処理を目的に行われる。
多くのケースでは被解剖者の遺族への心情的配慮から、その了承を得た上で解剖が行われているが、法律上は裁判所から「鑑定処分許可状」の発行を受ければ、遺族の同意が得られなくても職権で強制的に行うことが可能である。
施行[編集]
司法解剖を行う者の資格について詳細な規定はなく、法的には、学識を有し、かつ捜査当局の嘱託を受けた者なら誰でも行えると解釈できるので、かつては警察協力医などの臨床医によって行われるケースも存在した[1]。
しかし、法医学の分野における科学技術が格段に進歩した今日では、解剖によって得られた情報が刑事事件の真相解明や犯人特定などに重大な影響を与えることから、事件発生現場や死体発見現場に最寄の大学医学部において、高度な専門知識を持つ法医学者の手で執行するのが原則である[1]。この場合、執刀者は前述の「鑑定処分許可状」のもと、捜査を担当する検察官や警察署長などの嘱託を受けて解剖を行う。
そもそも死体に対する解剖が医行為であるかどうかについても明確な判断が示されていなかったが、平成27年3月31日の参議院文教科学委員会における秋野公造参議院議員の質疑に対して、厚生労働省は死亡診断とそれに付随する死亡診断書および死体検案書の交付が医行為であることに触れて、解剖を行ってから死亡診断書を交付するまでの間に解剖の結果を死亡診断書等にどのように反映するか等、医行為が行われ得ることを明確にした[2]。
運用[編集]
犯罪被害死体の全てが司法解剖されるわけではなく、交通事故など受傷状況が明確で外表検査で死因も明らかにし得る場合は解剖せず、検視のみで終わる場合が多い。しかしいったん「解剖必要」との結論に至れば、死因や状況のいかんに関わらず解剖される運用となっており、遺族も事実上拒否できない。事件・事故の場合などはやりきれないという遺族感情が出たとしても無理のないことである。大規模事件・事故の際、この運用を指摘する新聞記事が掲載されることがある。
現状[編集]
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現状として、予算や医師不足などの理由から、警察の死体取扱い件数のほとんどが司法解剖されていない[3]。また、同様の事情により変死と思われるような状況でも、自殺や事故、心不全で片付けられることもあるともいわれている[4]。打開策としてオートプシー・イメージングが提案されているが、運用のための法案等システムが未だ整っていない。
都道府県警察 | 死体取扱数 | 司法解剖数 | 司法解剖率 |
---|---|---|---|
北海道警 | 6346 | 281 | 4.4% |
青森県警 | 1972 | 106 | 5.4% |
岩手県警 | 1892 | 89 | 4.7% |
宮城県警 | 2544 | 232 | 9.1% |
秋田県警 | 1637 | 195 | 11.9% |
山形県警 | 1582 | 134 | 8.5% |
福島県警 | 2932 | 122 | 4.2% |
警視庁 | 19516 | 251 | 1.3% |
茨城県警 | 3745 | 97 | 2.6% |
栃木県警 | 2975 | 149 | 5.0% |
群馬県警 | 2601 | 91 | 3.5% |
埼玉県警 | 8144 | 112 | 1.4% |
千葉県警 | 7041 | 144 | 2.0% |
神奈川県警 | 11640 | 356 | 3.1% |
新潟県警 | 3051 | 77 | 2.5% |
山梨県警 | 1143 | 36 | 3.1% |
長野県警 | 2322 | 93 | 4.0% |
静岡県警 | 4110 | 82 | 1.4% |
富山県警 | 1170 | 59 | 5.0% |
(警察庁刑事局捜査第一課に報告のあったもの。交通関係を除く)
他、神奈川県に於いては、司法解剖などをはじめとする解剖を、横浜市の開業医1人に事実上任せきりにし、この開業医が2012年度に、1人で年3,835件の解剖を行っていたことが判明しており、解剖の質の低下と、それによる犯罪死の見逃しに繋がりかねないと懸念されている[5]。
脚注[編集]
- ^ a b c “法医学の基礎知識 ブルドクター”. 日本テレビ (2011年7月13日). 2018年4月4日閲覧。
- ^ 参議院会議録情報 第189回国会文教科学委員会第3号 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/189/0061/18903310061003c.html
- ^ 「病死」扱いの無念、犯罪被害者は2度殺される〜死因究明に不可欠な解剖が軽視される日本東洋経済オンライン2018年4月20日
- ^ Japan's police see no evil(Los Angeles Times/November 09, 2007)
- ^ 一條優太 (2014年4月3日). “横浜市の監察医:解剖、1人で年3835件…質確保に懸念”. 毎日新聞社. 2014年4月6日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2014年4月6日閲覧。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 司法解剖標準化指針 (PDF) 日本法医学会 司法解剖のあり方検討委員会 2009年(平成21年)4月
- 京都府立医科大学法医学教室
- 東京女子医科大学医学部法医学講座