捜査

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本記事では捜査(そうさ、英:criminal investigation)について解説する。

概説[編集]

ブリタニカ国際大百科事典によると、「捜査とは、犯罪に対し、捜査機関が犯人を発見・確保し、かつ証拠を収集・保全する目的で行う一連の行為」とのことである[1]。捜査とはまた、捜査機関が、犯罪があると思料したときに、公訴の提起及び維持のために、犯人発見・保全し、証拠を収集・確保する行為を言う[2]とのことである。

[3]

捜査は、逮捕・捜索などといった強力な権限行使を含みうるものであり、関係者の人権に強い影響を与えるものである(人権侵害をしかねないものである)ので、法律によって厳格に規制される(されなければならない)[1]。違法な手段・方法により行われた捜査を違法捜査と言う。捜査官がこれを行うと、捜査官の側が犯罪者となる。人権がしっかりと根付いていない国や発展途上国では、いまだに違法な身柄拘留、身体的暴力、自白の強要などが行われていて、冤罪も頻繁に発生している。

(比較的人権が根付いている国では)捜査は社会の変化・進展に対応するかたちで、法医学心理学物理学化学工学精神医学などの助けを借りて、次第に科学的捜査の性格を強めてきている[1]

米国などでは、おとり捜査が広範囲に行われている。

捜査対象者(被疑者)から犯罪組織や犯行に関する情報や証拠を得るために、捜査官が自分の身分(捜査官であること)を隠したり、架空の人物になりすましたりして捜査対象者(対象組織)に接触したり潜入する捜査を潜入捜査と言う。米国では広範囲に行われているが、日本でも麻薬の取り締まりなどでは行われている。

日本[編集]

捜査構造論[編集]

捜査の構造論として、糾問的捜査観と弾劾的捜査観との二つの考え方が説明されてきた。

糾問的捜査観
捜査活動は執行機関が全て行い、被疑者はその客体に過ぎないとするものであり、被疑者は一方当事者としての立場ではないとする考え方である。戦前の旧刑訴法上はこの考え方に基づいた捜査活動、公判維持が行われてきた。国家による事実の究明活動という側面が強い考え方である。
弾劾的捜査観
捜査段階においても、捜査機関と被疑者が対等に争うもので、事実の解明は裁判での争訟によるものとする考え方であり、戦後の刑訴法はこの弾劾的な法制度が取り入れられたものである。

いずれの考え方の一方を取り入れればよいというものではなく、事実の解明・犯罪の防止・人権の尊重との調和の必要性が求められている。なお、上記2つのモデル論の他、訴訟的捜査観(捜査独自性説)とよばれる独自の捜査構造の提唱がある。

捜査の独自性[編集]

通説は捜査を「公判の準備手続的性格」のものと位置付けるが、従来のこの考え方は、捜査機関のみを捜査の主体として捉えており、当事者主義を基調とする現行刑事訴訟法にはそぐわず、捜査機関のみならず、被疑者側も捜査の主体として互いに対立した構造を有するとするされている捜査独自性説も有力に唱えられている[4]。捜査独自性説では、捜査の目的を「起訴・不起訴を決定するための事実関係の有無を明らかにすること」とし、公判前の捜査手続の段階から被疑者側も証拠収集や弁解などの防御活動を行うことにより、被疑者側も捜査機関と並び「捜査の主体」であることから、捜査手続の弾劾化を図る見解である[5]

また、実務家からは、上記の捜査独自性説とは別の視点から捜査の目的を問い直す見解が出されている。捜査活動は犯人に対しての訓戒的役割を果たしており、社会にとっても不安を緩和し、正義が行われたことの満足感を与えていることから、捜査それ自体の実際的効果は重要であり、無視できないとされる。また、実際問題として、犯罪捜査は、当初から「公訴の提起、公判維持」を目的としているといえるのかという疑問も出されている。訴訟条件が整わない場合に於いても捜査活動が行われることがありうる(後述・訴訟条件を欠く場合の捜査の許容性参照)ことから、捜査活動自体が持つ嫌疑の判断・事案の解明等の機能にも着目すべきであるとされる。それによると、公訴提起以前の段階である、事件性・嫌疑の有無を判断するための捜査が行われうるのであって、それに先だって「公訴の提起、公判維持」を目的とする活動が行われているとするのは現実にそぐわないとされる。そのため、捜査の目的を旧来の「公訴の提起・公判維持」に限定する考え方は不合理であり、また限定する必要性に欠けるとの批判がある。公訴に向けた捜査だけではなく、被疑者とされているものの疑いを解き、犯人ではないことを確定させるための捜査や、起訴猶予にするための捜査活動つまり、起訴ではなく不起訴に向けた捜査も行われている。このようにみて、捜査の目的を公訴の提起・遂行の準備のみであるとすることは狭きに失し、むしろ、端的に、「犯人の改善・更生を含めた真相の発見、正義の実現のためにする犯人の検挙・証拠の収集保全」にあるとした方が正しいという主張もなされている[6]

警察関係者からは、警察における捜査の目的を「公訴の提起及び公判維持の準備」に資することだけに限定することは、現実の捜査活動と乖離しているという批判がある。これによると、現実には警察捜査活動それ自体、独立して犯罪の予防・鎮圧・犯人の更生・平穏な社会生活の維持などの機能をも有しているとされる。犯罪の予防・鎮圧をも責務とする警察における捜査を他の捜査機関が行う捜査と分け、警察捜査として「個人の生命、身体及び財産の保護並びに公訴の提起・遂行、の準備その他公共の安全と秩序の維持のため、証拠を発見・収集するほか、犯罪にかかる情報を収集分析するとともに、犯人を制圧し、及び被疑者を発見・確保する活動」と定義づける見解がある[7]

捜査機関[編集]

捜査は、捜査機関によってなされる。刑事訴訟法が規定する捜査機関としては以下が挙げられる。

ほとんどの事件では、司法警察職員が第一次的捜査機関として捜査を担当する(刑事訴訟法189条2項)。この場合の捜査は検察官が担当していないため司法警察活動と同義であり、主として犯罪の予防活動を目的とする行政警察活動とは区別される。もっとも、両者の法による規制は重なり合う部分が多い(司法警察活動と行政警察活動の区別に関する議論については、行政警察活動を参照)。 また、検察官は第二次的捜査機関として、司法警察職員の捜査に対し、必要な指示を出し、指揮監督を行うことができ、司法警察職員の行った捜査に不備がある場合には補完的立場から捜査を行うことができる(刑事訴訟法191条1項)。が、必ずしも検察官の捜査権が二次的なものではない。独自の捜査権を持ち、いわゆる「特捜部」などに所属する検察官が直接捜査を担当する場合もある(検察官の捜査権参照)。

捜査の端緒[編集]

捜査は、捜査機関が犯罪があると思料したときに開始される(刑事訴訟法189条2項、191条1項)。捜査開始の原因となるもの(「捜査の端緒」)には次のようなものが挙げられる。

  • 告訴・告発(刑事訴訟法230条、239条)
  • 自首(刑事訴訟法245条)
  • 検視(刑事訴訟法229条)
  • 職務質問(警察官職務執行法2条1項)
  • 現行犯人の発見(刑事訴訟法212条)
  • 自動車一斉検問(明示条文は存在しないが、最判昭55.9.22により職務質問とは異なることが認められた)
  • その他(他事件の取り調べ、密告風評報道、投書等)

強制捜査と任意捜査[編集]

捜査は、強制捜査と任意捜査とに分けられる。

強制捜査

強制捜査とは、強制処分による捜査のことを言う。強制捜査の具体的内容としては、被疑者の身柄確保のための逮捕勾留物証を確保するための捜索差押え検証などがある。

なお、強制処分について、判例は

有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段

最高裁判所第三小法廷昭和51年3月16日決定

とする。

この判例のうち「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく」の部分は、従来通説であった有形力を用いる手段が強制処分であるとの学説およびこれに基づく被告人の主張への応答、「特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」の部分は強制処分法定主義[8]からの当然の帰結(トートロジー)であるため、その本質は(被処分者の意思に反する)重要な権利・利益を侵害する捜査手段という点にあると考えられている(通説)。しかし、「特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」という要件を判例が要求していることには、法学上批判が強い。

これに対して,重要とは言えなくてもある程度の権利・利益を侵害すればすべて強制処分であるとする見解もいわゆる「新しい強制処分説」と結びついて主張されている。新しい強制処分説とは、刑事訴訟法の規定しない強制処分であっても令状主義の要請が実質的にみたされる場合にはこれを許容すべきであるとの見解である。かかる見解に対しては立法論あるいは連邦憲法修正4条の下のアメリカ法解釈としてはともかく、日本法の解釈論としては無理であるとの批判がある。

なお、強制捜査が違法に行われた場合、その捜査で得られた証拠が証拠能力を有するか否かについては違法収集証拠排除法則の問題となる。

任意捜査

任意捜査とは、任意処分による捜査を言う。任意処分とは強制処分以外の処分をいい、一般的な意味での「任意」という言葉とは若干ニュアンスが異なる。

捜査は任意捜査が原則であり、特別な法的根拠を必要としない[9]ことから、任意処分については任意捜査の限界が重要論点として論じられる。

訴訟条件を欠く場合の捜査の許容性[編集]

訴訟条件とは、刑事訴訟法上、公訴を追行し、事件の実体審理及び裁判をするための要件をいい、このうち起訴(公訴の提起)のための適法要件を特に起訴条件ともいう。

訴訟条件を欠く場合の例として、(a)被疑者が死亡している場合、(b)公訴時効が完成している場合、(c)親告罪被害者告訴を欠く場合などがある。

いずれの場合でも、起訴も公判維持もできない。

では、訴訟条件ないし起訴条件を欠く場合に捜査できるか。

捜査の定義・主要目的を公訴提起(起訴・不起訴の決定)及び公判維持にあると考えると、起訴も公判の維持もできないことから、捜査の目的を満たしえない。このため、このような場合にも捜査を行うことが可能か、解釈上の議論の余地がある。

しかし、訴訟条件は捜査条件とは異なる。また、例えば犯人が犯行後に死亡してしまった場合等でも、そのまま放置しておくことはできず、事件処理は必要であるから合理的妥当性がある範囲内での捜査は許されると解されている。

なお、「訴訟条件が完全に欠ける場合」の強制捜査は、(a)事案解明の要請がそれほど強くないか(公益性の強度)、あるいは(b)対象者の利益を侵害してまで行なう必要性が小さいので(被侵害法益との比較衡量)、極力控えるべきとされる。

脚注[編集]

  1. ^ a b c ブリタニカ国際大百科事典「捜査」
  2. ^ S式生講義入門訴訟法2:柴田孝之,P38,IBSN4‐426‐45001‐2
  3. ^ なお、 英語では「investigation」という表現がforensic investigationにも用いられている。日本語の場合は「法医学調査」と呼んでいる。。 日本の国税犯則事件の調査、公安調査庁公正取引委員会入国管理局税関のそれなどは捜査に類似するが、刑事裁判の実現に向けられたものではないため、「捜査」とは言わない[要出典]。やはり「調査」と呼んでいる。
  4. ^ 石川才顕『捜査における弁護の機能』(日本評論社)
  5. ^ 井戸田侃『刑事訴訟理論と実務の交錯』有斐閣
  6. ^ 土本武司『犯罪捜査』弘文堂
  7. ^ 佐藤英彦『治安復活の迪』(立花書房)
  8. ^ 憲法31条,刑事訴訟法197条1項但書
  9. ^ 刑事訴訟法197条1項本文

参考文献[編集]

  • 平野龍一『刑事訴訟法』(有斐閣)
  • 渥美東洋『刑事訴訟法』(有斐閣)
  • 池田修/前田雅英『刑事訴訟法講義』(東京大学出版会)
  • 田宮裕『変革のなかの刑事法』(有斐閣)
  • 田宮裕『捜査の構造』(有斐閣)
  • 熊谷宏/松尾浩也/田宮裕編『捜査法大系』全3巻(日本評論社)
  • 平良木登規男『捜査法』(成文堂)
  • 土本武司『犯罪捜査』(弘文堂)

関連項目[編集]

組織

外部リンク[編集]