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後にスバルはこの技術を応用してECVTの動力伝達機構として再起を図ったが、ECVTが採用された当時の技術では、通常のMT車で使うテクニックである[[半クラッチ]]の制御が不十分であり、低速走行においてはギクシャク感が目立ち、また上り道でブレーキを使わずにアクセルだけで停止したり、(特に[[スバル・サンバー]]においては)荷物の過積載で走行したりするなど、通常のAT車ではさほど問題とならないような運用であっても電磁クラッチにとっては大きな負担となり、電磁クラッチ部分の故障が頻発。通常の乾板クラッチと比較して部品代が高価であることもネックとなり、ECVTのイメージ悪化の一因となった。この点を反省点として、サンバー・ヴィヴィオのマイナーチェンジでは、一部グレードを除いて通常のATミッションに変更され、プレオ以降は、CVTミッションを全機種採用としながらもロックアップ付トルクコンバータを使用する方式に変更され (i-CVT)、電磁クラッチは今日では自動車のエンジン動力伝達機構としては用いられなくなっている。 |
後にスバルはこの技術を応用してECVTの動力伝達機構として再起を図ったが、ECVTが採用された当時の技術では、通常のMT車で使うテクニックである[[半クラッチ]]の制御が不十分であり、低速走行においてはギクシャク感が目立ち、また上り道でブレーキを使わずにアクセルだけで停止したり、(特に[[スバル・サンバー]]においては)荷物の過積載で走行したりするなど、通常のAT車ではさほど問題とならないような運用であっても電磁クラッチにとっては大きな負担となり、電磁クラッチ部分の故障が頻発。通常の乾板クラッチと比較して部品代が高価であることもネックとなり、ECVTのイメージ悪化の一因となった。この点を反省点として、サンバー・ヴィヴィオのマイナーチェンジでは、一部グレードを除いて通常のATミッションに変更され、プレオ以降は、CVTミッションを全機種採用としながらもロックアップ付トルクコンバータを使用する方式に変更され (i-CVT)、電磁クラッチは今日では自動車のエンジン動力伝達機構としては用いられなくなっている。 |
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電磁クラッチは自動車パーツには用いられなくなった一方、産業用では現在も使用されている。 |
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== 自動車等の走行クラッチ == |
== 自動車等の走行クラッチ == |
2015年8月14日 (金) 10:14時点における版
クラッチ(英: Clutch)は、2つの動力伝達軸の間で回転を伝達したり遮断したりする機械要素である[1]。機械的に噛み合う構造や摩擦力を利用した構造のほか、粘性や電磁力を用いる方式がある。
概要
クラッチは伝達元となる軸の回転させたまま、伝達先となる軸の回転を停止させる必要がある場合に用いられる。たとえば、電動モーターにより動作のきっかけを作り、定常運転中はモーターを動力として利用しない機械では、モーターが回転抵抗とならないようにクラッチを利用して回転を遮断する場合がある。また自動車などで原動機に内燃機関を用いる場合、内燃機関は停車中も原動機の運転状態を維持し、発進時などに滑らかにトルクを伝達するために走行用のクラッチが利用される。あるいは1つの動力源から複数の要素を選択的に駆動する際にもクラッチが用いられて動力の伝達先が切り替えられる。
動力がまったく伝わっていない状態を「クラッチが切れている」と表現し、この状態にすることを「クラッチを切る」という。反対に、動力を完全に伝えている状態を「クラッチがつながっている」と表現し、この状態にすることを「クラッチをつなぐ」という。
種類
クラッチの種類はトルクを伝達する機構や、切断と接続を切り替える方式により分類される。トルクの伝達には機械的な噛み合いや摩擦のほか、流体による伝達や磁力による伝達が利用される。断接機構には人力を油圧やリンク機構、コントロールケーブルを介して操作する方式や、ソレノイドや負圧アクチュエータにより動作する方式、クラッチ自身の回転で生じる遠心力を利用した方式がある。
噛み合いクラッチ
ドグクラッチや確動クラッチとも呼ばれ、互いに噛み合う爪により動力を伝達する方式である、爪の断面形状には矩形や三角形、台形などがあり、逆方向の回転にはトルクを伝達せずに噛み合わない形状としたものもある。滑ることなくトルクを伝達する一方、伝達トルクを調整することはできず、回転速度の差が大きい場合は互いの爪が弾き合って噛み合うことができない。
代表的な例としては常時噛み合い式マニュアルトランスミッションで軸と歯車の間でトルクを伝達するクラッチや自動式デフロックの内部の伝達機構、スターメーアーチャー社が開発した自転車用の内装変速機にて用いられている。
摩擦クラッチ
摩擦力により動力を伝達するクラッチである。入力軸と出力軸の回転速度に差があっても、圧着荷重を調節することで滑りながらなめらかにトルクを伝達することができる。また、機械的に噛み合う構造ではないため、入力軸と出力軸の位相差に関わりなく接続が可能である。摩擦部は平面の円板形のものと円錐形のものがある。円錐形の物はコーンクラッチとも呼ばれ、同じ外径で同じ圧着加重の円板形の摩擦面に比べると面圧を高くでき、トルク伝達の許容量をより高くできる。また、摩擦面が潤滑油で潤滑された湿式と、潤滑されない乾式があり、湿式は耐摩耗性や冷却性に優れ、潤滑油がクラッチ接続時の衝撃を吸収する。これに対して乾式は構造が単純で保守性が高く、潤滑油の粘性による動力の伝達が生じない。いずれの場合も急速にクラッチを接続した際のトルク伝達の衝撃を和らげるためにバネやゴムによる衝撃吸収機構を備える場合がある。トルク伝達の許容量を保ったまま外径を小さくするため、複数の円板を交互に重ねた多板クラッチとする場合もある
湿式クラッチはオートバイで広く用いられているほか、一部の農業機械で用いられている。オートバイでは湿式多板クラッチを採用する場合が多い。
乾式クラッチはマニュアルトランスミッションの自動車の大半に、1枚の出力円板を持つ単板のものが用いられているほか、スポーツカーの一部やレーシングカー、オートバイに多板のものが用いられている。エンジンをチューンしてパワーアップした乗用車では摩擦材をブレーキパッドと同じメタル系の材質に替えたシングルプレートクラッチのほか、ツインプレートやトリプルプレートといった多板クラッチに換装することがある。こうしたクラッチ板は一般的に強化クラッチと呼ばれている[2]。ドゥカティや一時期のレーサーレプリカなどでは乾式多板クラッチを採用している車種もあり、クラッチが切れた状態ではカラカラと特徴的な音がする。エンジンオイルの攪拌抵抗を受けず交換が容易など、レースの世界ではメリットがあるが、耐久性に難がありジャダーが出やすく、コストも手間もかかるので一般的ではない。またBMW、モト・グッツィなどの縦置きエンジン車は、四輪と同じ構造の乾式単板である。
円錐クラッチは戦前以前の自動車(フォード・モデルTなど)や戦車などの軍用車両のマニュアルトランスミッションで一般的であった。パワーボートでも円錐クラッチが用いられているほか、自動車のマニュアルトランスミッションに内蔵されるシンクロメッシュ機構に小型の円錐クラッチが用いられている。なお、自動車用として円錐クラッチを用いる例としては、レース、ラリーあるいはエンデューロ等の競技車両がある。
流体クラッチ
液体で満たされた密閉容器の中に2つの羽根車が対峙しており、それぞれが入力軸と出力軸に連結されている。入力軸側の羽根車が回転して液体に流れを生じさせ、出力軸側の羽根車が液体の流れを受け止めて回転する。この原理を発展させて、流体の運動エネルギーを回生してトルクを増幅する機構を持ったものはトルクコンバータと呼ばれる。
自動車用途ではAT搭載車で広く普及しているほか、MT搭載車でも摩擦クラッチと組み合わせて採用された例がある。三菱は主に大トルクを発生するエンジンにおいてクラッチの繋がりをスムーズにする目的で[要出典]、1980年に発売された4代目三菱・ギャランΣのガソリンターボ車とディーゼルターボ車に「フルードカップリング」として採用した。マツダは低回転域のトルクが弱いロータリーエンジンのトルク増幅効果を狙い[要出典]、2代目ルーチェ・ロータリーやパークウェイ・ロータリー26などのロータリーエンジン車に「トルクグライド」として採用した。いずれも、通常の5速MTのパターンにATと同じく駐車用のPポジションが設けられている。
ワンウェイ・クラッチ
トルクリミッタとワンウェイ・クラッチは幾分、特殊なクラッチであり、トルクリミッタは規定以上の回転トルクが軸に掛かると回転が滑るようになっており、ワンウェイ・クラッチは定められた一方向の回転しか出力側に伝達せず、逆回転では空回りになる。ワンウェイ・クラッチの中でも代表的なものに「スプラグ・クラッチ」があり、スプラグ (Sprag) と呼ばれるいびつな形状の小片が多数、内蔵されており、片方向に回転する場合にのみ突っ張り合って回転力を伝える構造になっている[3][4]。
磁性粉体クラッチ
わずかな隙間で対向させた1対の円板などの間に磁性体の粉末を入れておき、磁力を作用させて回転を伝えるクラッチのことを電磁粉体クラッチと呼ぶ。
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遠心クラッチ
遠心クラッチとは、主として車や自動二輪において原動機の回転力を駆動力として伝達するために用いられており、原動機より伝達された回転力を摩擦抵抗の大きな物質(クラッチシュー)により、同軸上にある受け側の装置(クラッチアウター)に回転力を伝える装置である。
構造が簡単で、動力の伝達・遮断を原動機の回転数の増減という単純な操作で行うことができる。小型バイク(50cc程度)、エンジン式刈り払器、エンジン式ラジコンヘリ(ラジコンカー)等に採用されている。
行程としては、
- 原動機の回転数が上がる
- 原動機より伝達された回転力が遠心力となり、クラッチシューが原動機の回転数に応じて外周方向へ開き始める
- クラッチシューが開くにつれ、外周にある受け側の装置と徐々に接触してゆく(俗に半クラと呼ばれる状態にある)
- 完全に接触しきると、原動機側の動力が受け側の装置に最大限伝達される
また、原動機の回転数を下げて遠心力を弱くすることで内部に組み込まれているバネ(クラッチスプリング)によってクラッチシューが中心軸側に引き寄せられ、外周との接触部分がなくなると、動力の伝達は遮断される。
小型エンジンやスクーターなどの遠心クラッチは上記の制御のみで遠心クラッチの動作が行われているが、ホンダ・スーパーカブに代表されるマニュアルトランスミッションのオートバイの場合には、さらに下記のような制御が加わった自動遠心クラッチが用いられることが一般的である。
- 自動遠心クラッチの場合にはクラッチの構造自体は湿式多板クラッチと同様である。
- 原動機がアイドリング状態の時にはクラッチスプリングが湿式多板クラッチを押し広げ、伝達が遮断される。
- 湿式多板クラッチの外側には、クランクシャフトと共に回転するドライブプレートに取り付けられたクラッチウエイトが設けられている。
- 原動機の回転数が上がるとクラッチウエイトが遠心力で内側に倒れ込み、湿式多板クラッチを押し付けて動力が伝達する。
- 原動機の回転数が下がるとクラッチウエイトは垂直に起きあがり、伝達が遮断される。
- シフトチェンジの際には変速シャフトに連結されたクラッチカムがクラッチアウター全体を押し込み、強制的にクラッチを切る。
- シフトペダルを踏み続けると、いくら回転が上がっても倒れたクラッチウエイトが湿式多板クラッチに接触できなくなるため、伝達が遮断し続けられる。
- シフトペダルを少しずつ戻すことで徐々にクラッチカムが戻っていき、半クラッチ状態を起こす事が出来る。
自動遠心クラッチの伝達機構自体はクラッチスプリングの強さとクラッチウエイトの数のみで制御され、原則として部品組み替え以外に微調整は不可能[5]であるが、唯一クラッチカムの動作タイミングのみはアジャストスクリューで調整可能であることが一般的である。この調整が不十分の場合、シフトペダルを踏んでもクラッチが切れず、逆にペダルを戻しても半クラッチ状態のままになってしまったりするため、注意が必要である。
自動車においては、オートクラッチと呼ばれる形式の手動変速システムにおいて、サーブ・オートモービルがen:Saxomatの商標でこの形式のクラッチを採用した事[6]が知られている。
電磁クラッチ
機構そのものをプーリーに内蔵できるため、サイズを小型化できるメリットがあり、「常時動力伝達の必要のない製品」に多く用いられる。身近な例ではカーエアコンの動力伝達に採用されている(多くの採用例はコンプレッサなどの圧縮装置である)。また、スーパーチャージャーを装備するエンジンの多くで電磁クラッチが採用され、高回転域に置けるスーパーチャージャーの駆動ロスを低減してスムーズな回転フィールを生み出すことに貢献している。
電磁クラッチは動力の伝達率(自動車で云う半クラッチ領域)を、電流の強さでほぼ無段階に調整できる強みがあり、CVT(無段階変速機)との組み合わせでトルクコンバータの代わりとして用いられる例もある。高度電子化の著しい現代の自動車に於いて、電気で直接制御できる電磁クラッチの強みを生かした例といえた。
マニュアルトランスミッションではオートクラッチの名称で、昭和39年式スバル・360に初めて採用された[7]。それ以外ではスバルのECVT (Electro Continuously Variable Transmission) に採用。
オートクラッチはシフトノブの操作とクラッチ断続の電子制御を連動させる事で、クラッチペダルを装備しない操作体系である2ペダル式MTを実現、まだオートマチックトランスミッションが普及の途上にあった昭和40年代初頭においては、女性や足に負傷や障害を持つ者であっても運転が容易な形式として、一定の需要を喚起する事となった。しかし、オートクラッチはオートマチックトランスミッションの技術の進歩、特にトルクコンバーターの効率向上と量産による製品価格の低廉化などが原因で、オートマチックトランスミッションに取って代わられる事となった。
後にスバルはこの技術を応用してECVTの動力伝達機構として再起を図ったが、ECVTが採用された当時の技術では、通常のMT車で使うテクニックである半クラッチの制御が不十分であり、低速走行においてはギクシャク感が目立ち、また上り道でブレーキを使わずにアクセルだけで停止したり、(特にスバル・サンバーにおいては)荷物の過積載で走行したりするなど、通常のAT車ではさほど問題とならないような運用であっても電磁クラッチにとっては大きな負担となり、電磁クラッチ部分の故障が頻発。通常の乾板クラッチと比較して部品代が高価であることもネックとなり、ECVTのイメージ悪化の一因となった。この点を反省点として、サンバー・ヴィヴィオのマイナーチェンジでは、一部グレードを除いて通常のATミッションに変更され、プレオ以降は、CVTミッションを全機種採用としながらもロックアップ付トルクコンバータを使用する方式に変更され (i-CVT)、電磁クラッチは今日では自動車のエンジン動力伝達機構としては用いられなくなっている。
電磁クラッチは自動車パーツには用いられなくなった一方、産業用では現在も使用されている。
自動車等の走行クラッチ
自動車をはじめ、陸上を走行する乗り物や作業機械には原動機の動力を駆動輪に伝達する過程にクラッチを介している場合が多い。
マニュアルトランスミッションを搭載した自動車や農業機械では多くの場合、運転席に備えられた足踏み式のクラッチペダルで操作される。また、ほとんどの場合には運転者から見て左端に配置されており、左足で操作を行う。ペダルを完全に踏み込んだ状態でクラッチが切れ、放した状態でクラッチが繋がる。踏み加減を中間の状態にすると「半クラッチ」と呼ばれる、滑りながら動力を伝達する状態となる。発進するときやギアチェンジするときに、急にクラッチを繋ぐとエンストを起こたり車体挙動が不安定になったりするため、半クラッチを利用することで滑らかにトルクの伝達を行うことができる。
トルクコンバータを搭載したATではトルクコンバータが流体クラッチとしての機能を併せ持っているため、MTのようなクラッチ自体が存在しない。ほかのATでは自動的にクラッチの操作が行われている。
自動クラッチ
オートマチックトランスミッションが普及する1960年代より以前には、マニュアルトランスミッションのシフト操作と連動してクラッチを自動的に動作させ、クラッチペダルを廃して2ペダル式とした車種が存在し、日本ではオートクラッチと呼ばれた。オートマチックトランスミッションの普及と共に一時は廃れたが、デュアルクラッチトランスミッションの実用化などにより、再び自動クラッチを採用する車種が増えている。
オートバイ
一部の車両を除き、動力の接続は油圧またはワイヤーを介して左手レバーで操作する。ほとんどの車種はリターンスプリングが組み込まれた湿式もしくは乾式多板クラッチが用いられる。左手レバーを握るとクラッチが切れ、レバーの操作を途中で止めることで半クラッチ状態にできる。
創成期には四輪の自動車と同様に、手動レバーによる変速(ハンドシフト)と足踏み式クラッチの組み合わせが一般的だった。足踏み式クラッチの場合、操作方法の違いによりロッカークラッチ (英: Rocker Clutch) とノンロッカークラッチ (英: Non-Rocker Clutch) に区別される。いずれもレリーズシャフトを軸に揺動するペダル付きのレバーであるが、ロッカークラッチは軸の前後にペダルがありいずれか一方を踏んでクラッチを切り、もう一方を踏んでクラッチを繋ぐ。メーカーによって操作方法が異なり、たとえばハーレー・ダビッドソンの場合、後ろのペダルを踏むとクラッチが切れ、足を離してもクラッチはつながらず、前を踏むことでクラッチが繋がる[8]。ノンロッカークラッチは軸の前か後ろの一方にのみペダルがあり、踏み込むとクラッチが切れ、足を離すとリターンスプリングの作用によりクラッチが繋がる。ハンドシフトと足踏み式クラッチの組み合わせはスーサイド・クラッチ(自殺クラッチ、en:Suicide clutch)とも呼ばれる。
クラッチのメンテナンス
クラッチは経年使用により摩擦材が摩耗し、最終的には滑り症状が発生して動力の伝達が不可能となるために、定期的に交換するか、滑りの症状が見られ始めたら直ちに交換することが必要である。
一般的な乾式単板クラッチの場合、「加速の際にスピードが上がらず、エンジン回転数のみが上昇する現象が度々起こり始める」ことが滑りの初期症状である。オートマチックトランスミッションなどの湿式多板クラッチの場合はこの滑り症状がある日突然現れ、一気に症状が悪化する[9]ことが特徴的である。
仮にこの状態を放置した場合、摩擦板が完全に失われたクラッチプレートの金属部分がフライホイールやクラッチカバーのプレッシャープレートを切削してしまうため、最悪の場合フライホイールも使用不能となってしまう場合もある。
滑り症状の原因として、クラッチ板自体の極端な摩耗の他にクラッチ機構の調整不良も原因として挙げられる。現在の油圧式クラッチの多くはクラッチの遊びを自動調整するため、滑り症状の発生は摩擦材の寿命とほぼイコールであるが、比較的設計が古い車両に見られるワイヤー式クラッチの場合は、クラッチの遊びが手動で調整できるためにまずこの機構を用いて遊び調整を行ってみるのも良い方法である。
逆に、クラッチの遊びの設定が極端に少ない場合、クラッチの切れ不良と呼ばれる現象が発生する。クラッチペダルを踏み込んでも完全に動力が断絶されないために、かつてのノンシンクロミッションでは走行中の変速が非常に難しくなるトラブルとなって判明する場合が多かった。現在のフルシンクロトランスミッションではある程度の切れ不良でもシンクロ機構が同調を行うために変速その物は可能な場合が多いのだが、放置すればシンクロ機構に余計なダメージを与えることになる。現在の車両においてこの症状を判別する最も簡単な方法は、1速で少しだけ前進した後にクラッチを踏み、後退ギヤに変速してみることである。極端なギヤ鳴りを起こして後退ギヤにシフトレバーが入らないような場合にはクラッチ切れ不良を疑うべきである。
なお、クラッチ切れ不良はワイヤー式クラッチの場合はワイヤーの遊び調整機構の微調整で解決出来るが、油圧式の場合はクラッチカバーその物の不良による自動調整機構の作動不良が原因のため、この症状が現れた場合には原則としてクラッチカバーの交換が必要になる。
クラッチの不具合の中ではやや特殊な事例ではあるが、クラッチプレートのダンパースプリングが破断することで半クラッチ操作での衝撃が極端に大きくなったり、破断したスプリングの一部がクラッチプレートとフライホイール、或いはクラッチカバーの間に挟まり、クラッチが切れなくなるトラブルが稀に発生する場合がある。これは半クラッチを余り行わずに一気にクラッチを繋ぐ操作を多用することで発生しやすい。この場合も、摩擦材の多寡にかかわらずクラッチプレートの交換が必要となる。
原則としてクラッチ交換の際にはクラッチプレート、クラッチカバー、レリーズベアリング、パイロットベアリング(装備されていない車両もある)の4点交換が推奨されるため、市販のクラッチ交換部品の中にはプレート、カバー、ベアリングの3点ないし4点セット(海外のキットの場合は更にパイロットシャフトガイドツールも付属することが多い)として一括販売される場合も多い。旧車などでクラッチキットが純正、社外互換共に手に入らない事例の場合はやむをえずクラッチカバーを再使用[10]し、クラッチプレートは摩擦材の張り替えで対処する場合もある。
なお、1990年代以前に製造されたクラッチプレートの摩擦材には石綿(アスベスト)を使用したものも多いため、製造時期が不明なクラッチプレートを使用している車体や、1990年代以前に製造された旧車でクラッチプレートの交換履歴が不明な場合には、クラッチの分解整備の際にクラッチの粉塵を絶対に飛散させないように注意する必要がある。
脚注
- ^ 大西1997 pp9-19
- ^ なお、こうした強化クラッチではクラッチ接続時のロスを極限まで減らすことや、クラッチ板自体の重量を軽量化する目的で一般的な単板クラッチで設けられているダンパースプリングを省略する場合がある。
- ^ Technology Introduction - EPILOGICS
- ^ 岡村大著、『機械設計』、日刊工業新聞社、2010年9月30日初版第1刷発行、ISBN 9784526065354
- ^ アイドリング状態から回転を上げてもクラッチが滑り続ける場合には、原則としてクラッチプレートの交換が必要である。
- ^ Saab Gearbox: new & used Monster car gearboxes 99, 900 models.
- ^ オートクラッチ
- ^ ハーレーのクラッチ&シフト(ハンドシフトの仕組み)
- ^ ATの場合は前進も後退も全く不可能となる。
- ^ 場合によってはプレッシャープレートを修正研磨するか、新規にプレッシャープレートを製作して分解交換する
参考文献
- 大西清『JISにもとづく機械設計製図便覧』理工学社、1997年。ISBN 978-4-8445-2024-5。