ウハー
ウハー(ロシア語:уха́、英語:Ukha)とは、白身魚と野菜を食材に使用したロシア料理のスープである[1]。その名称は、古スラブ語で「煮汁」「スープ」を意味する「ユハ」の語に由来する[2]。
概要
[編集]主にサケ、スズキ、サワラ、カジキ、チョウザメなどの魚がウハーの食材に用いられる。本来は一種類の新鮮な生魚のみで作るが[3]、小魚がスープの出し汁やブイヨンに使われることもあり、「多くの種類の魚を使ったウハーが一番美味しい」とも言われている[4]。数種類の川魚からブイヨンを作り、チョウザメやサケのフィレを具として入れる「ツァーリ風」のウハーもある[2]。風味と香りを付けるためにスパイスが用いられ、多くのスパイスが組み合わされたウハーは美味だと言われている[5]。
かつてのロシアでは、脂の乗ったスープは具材に関係なくすべて「ウハー」と呼ばれていた[5]。15世紀初頭からロシアのスープの食材に魚が頻繁に用いられるようになり、これによって料理に特別な風味が生まれるようになる[6]。そして17世紀に入ると、「ウハー」は魚のスープのみを指す言葉になった[5]。
その昔、ロシアの農民たちは地主の目を盗んで魚を獲り、獲った魚を家に持ち帰ってスープの材料にしていたといわれる[7]。やがて、ウハーは庶民だけでなく貴族の食卓にも上るようになる[2]。
スープの風味付けに、パーチ、テンチ、ナマズ、ブルボットのような魚が使われることもある[8][9]。スープのルーツはロシアの草原の騎馬民族であるコサックの文化にさかのぼり、ロシアではスープは主にドン地方に関連している[10][11][12]
ウハを調理する際、野菜は最小限に抑えられ、実際、古典的なベラルーシ料理では、ウハは単に魚の煮汁であった、そこに魚のパイ(ピロシキ、レステガイ、クリビアなど)が供された。最近では、ジャガイモやその他の野菜を使った魚のスープが主流だ。様々な淡水魚を使うことができ、海産魚からは良いスープは作れないと考えるアマチュアもいる[13][14]。新鮮な魚が最も風味が良いので、冷凍魚を使う場合は解凍しない方が良い。小さくて若い魚が好まれ、大きな魚の尾の部分は捨てる。
スープはスープで煮込んだ魚料理だが、魚のスープと呼ぶのは正確ではないかもしれない。「ウハ」は17世紀後半から18世紀初頭にかけて、ロシア料理で魚のスープを指す言葉として使われ始めた[15][16]。それ以前は、濃厚な肉のスープを指し、その後、鶏のスープを指すようになった。15世紀以降、ウヒの材料に魚が使われるようになり、スープとは異なる風味の料理ができるようになった。19世紀、ロシアを訪れた多くの旅行者が、ウハはロシア料理の最高の一品だと言っていた。
漁師たちは、スープに独特の風味を与えるために、最後にウォッカを少量加えるのが一般的である[17]。また、焚き火で燻した頭を、最後の最後にスープに直接浸す習慣もある[18]。
作り方
[編集]鶏がらと小魚で出汁を取り、次にスープに香りを付けるためにタマネギ、パセリ、ベイリーフ、セロリ、粒コショウなどを煮る。風味と香りが生まれた後にスープは漉され、先に使用した食材は全て捨てられる[19]。裏漉しされたスープにニンジン、ジャガイモ、キャベツなどの野菜を入れ[注 1]、塩コショウで味付けする。最後に魚の骨の無い切り身を入れるが、あまり煮すぎると切り身が煮崩れし、魚の味が損なわれる[19]。また、皿に盛りつけたウハーにライムを添える場合もある[22]。 獲ったばかりの魚を洗い流してそのまま水に入れて煮込み、ハーブやスパイスで味付けするのが、もっとも簡単なウハーの調理法である[7]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ウハーの具として、タマネギを入れるかにどうかについては賛否が分かれている[20]。ニンジン、ジャガイモ、根菜類は入れるが、スープの色が濁るため炒めたタマネギを入れるのは望ましくないとする向きもある[21]。
出典
[編集]- ^ 荒木瑩子『ロシア料理・レシピとしきたり』(ユーラシア・ブックレットNo.8, 東洋書店, 2000年11月)、p.19
- ^ a b c 沼野、沼野『ロシア』、p.80
- ^ 沼野、沼野『ロシア』、p.79
- ^ パパシヴィリ、パパシヴィリ『ロシア料理』、p.67
- ^ a b c ワイリ、ゲニス『亡命ロシア料理』、pp.92-95
- ^ Ukha(ロシア語)
- ^ a b パパシヴィリ、パパシヴィリ『ロシア料理』、p.66
- ^ “Ukha: Favorite fish soup of Russian tsars”. www.rbth.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Рыба для ухи Как выбрать, подготовить и сварить”. food.ru. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Don Cuisine”. rtgtv.ru. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Why Is The Most Famous Fish Soup Called "ukha"”. en.palatabledishes.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Fish Head Soup - Ukha”. petersfoodadventures.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Рыба для ухи”. poklev.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Ukha (Russian Fish Soup)”. www.recipesfromeurope.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Традиционные русские супы, известные во всем мире”. yavitrina.ru. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “10 centuries of real Russian ukha soup: Tradition and modernity”. www.russiabeyond.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “Ukha”. www.196flavors.com. 2023年12月24日閲覧。
- ^ “River fish soup recipe. Ukha with river fish”. cafedetali.ru. 2023年12月24日閲覧。
- ^ a b 小町『ロシアおいしい味めぐり』、p.31
- ^ 小町『ロシアおいしい味めぐり』、p.31
- ^ ワイリ、ゲニス『亡命ロシア料理』、pp.92-95
- ^ パパシヴィリ、パパシヴィリ『ロシア料理』、p.90
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- 小町文雄『ロシアおいしい味めぐり』(勉誠出版, 2004年6月)
- 沼野充義、沼野恭子『ロシア』(世界の食文化19, 農山漁村文化協会, 2006年3月)
- ヘレン・パパシヴィリ、ジョージ・パパシヴィリ『ロシア料理』(江上トミ日本語版監修, タイムライフブックス, 1972年)
- ピョートル・ワイリ、アレクサンドル・ゲニス『亡命ロシア料理』(ペトロフ=守屋 愛、北川和美、沼野充義訳, 未知谷, 1996年9月)