Woke

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「Stay Woke: Vote」と書かれたTシャツを示すアメリカ合衆国下院議員マーシア・ファッジ(2018年)

Woke(ウォーク、[ˈwk] WOHK)は、「目覚めた/悟った」を意味する「Wake」の過去形からきた黒人英語(AAVE)に由来する[1]、「人種的偏見差別に対する警告」を意味する英語形容詞

概要[編集]

2010年代以降、性差別などの社会的不平等に関する幅広い概念が含まれるようになり、白人特権アフリカ系アメリカ人に対する奴隷制の賠償など、アメリカ合衆国におけるアイデンティティ政治社会正義を含む左翼思想の省略形としても使用されてきた。日本語では揶揄も含めて「お目覚め文化」と訳されることもある[2]

「stay woke」(ウォークでいよう)というフレーズは、1930年代までに黒人英語で登場した。一部の文脈では、アフリカ系アメリカ人に影響を与える社会的および政治的問題の概念に言及している。このフレーズは、レッドベリーによって、後にエリカ・バドゥによって発声された。2014年ミズーリ州ファーガソンマイケル・ブラウン射殺事件が発生した後、このフレーズは、アフリカ系アメリカ人に対する警察による銃撃についての意識を高めようとしているブラック・ライヴズ・マター(BLM)の活動家によって広められ、SNSで使われ出して流行した[3]。主にミレニアル世代に関連するこの用語は国際的に広まり、2017年オックスフォード英語辞典に追加された。

2020年までに、いくつかの西側諸国の政治の中道派右翼の一部は、「排他的」「大げさ」「パフォーマンス的」「不誠実」と見なされる様々な進歩的な左派の運動やイデオロギーに対する侮辱として、しばしば皮肉な方法で、「woke」という用語を使用した。また、一部の評論家は「アイデンティティと人種を含む政治思想を推進する人々を否定的に描写する不快な用語である」と考えるようになった。2021年までに、wokeは蔑称としてほぼ独占的に使用されるようになり、この言葉は軽蔑的な文脈で最も顕著に使用されている[4][5]

「woke」と類似する日本のインターネットスラングに、「ネットde真実」というものが存在する。2000年代初めに匿名掲示板に書き込まれたマスコミ批判の投稿に「俺たちはネットで真実を知ることが出来る」とあったことが始まりとされていて[6]、「インターネットで真実に目覚めた」という意味合いがあり、インターネット上の情報を鵜呑みにしてそれを全て正しいと思い込むことや、そのような状態になった人を揶揄する言葉である。語源的にも揶揄的に用いられている点でも「woke」と類似点が多い。「ネットde真実」という用語は、政治的左派に対して使われることもあるが、マスメディアにおいてはネット右翼に対して用いられることが多い。

ウォーク・アウェイ[編集]

一方で「RedPillBlack」や「#WokeAway」といったリベラル派がWokeとの決別を主張する運動が広がっている。前者のリーダーは黒人女性のキャンディス・オーウェンズ、後者のリーダーはゲイ男性のブランドン・ストラカであるなど、Woke主張者が救済対象とする社会的少数者からの意思表示も目立つ。

Wokeを主張する人々は、多数派に属すると考えられる人々のアイデンティティや利益関心に十分に配慮しないことが多い。マイノリティとされる人々を社会的弱者と見なし、そのアイデンティティと利益関心の実現が追求される。アメリカの多文化主義者はしばしば、マイノリティの文化を擁護するよう主張する一方で、伝統的な主流派文化を「白人に有利なように偏ったもの」と位置付け、白人(とりわけ男性)を既得権益者とみなす傾向が強い。論者によっては、白人(男性)を「マイノリティを無意識のうちに見下す差別主義者」と位置づけることもある。だがドナルド・トランプ現象が明らかにしたのは、アイデンティティ・ポリティクスの担い手や多文化主義論者が既得権益者と見なした人の中でも、労働者階級の白人は、自分たちを被害者とみなしていることだった。

第一に、彼らは「社会的に成功した白人から見下される」「マイノリティから積極的差別是正措置という名の逆差別を受ける」「家庭内で妻に見下されている[注 1]」という三重の被害者意識をしばしば抱えている。ある論者は、このような労働者階級の白人(男性)のことを「新しいマイノリティ」と呼んでいるが、彼らはアイデンティティ・ポリティクスに代表されるリベラル派の議論の射程には入ってこず、民主党とリベラル派に不満を感じているのである。

第二に、「Wokeを重視する論者は、差異を強調するあまりに対話を拒否し、アメリカ国民全体に共通する利益の実現を目指していない」とみなされることがある。リベラルの立場からリベラルの再生の道を模索するマーク・リラが指摘するように、Wokeを重視する人々が自らの立場を絶対視する態度をとり始めると、立場を異にする人々が議論を積み重ねることで互いに歩み寄り、共通の利益の実現を図るという、リベラル・デモクラシーが目指してきたものが達成されなくなってしまう。ニューディールの実現を目指したリベラル派が目指していた社会政策を実施するには、国民の間で何らかの一体性の感覚や連帯感が存在することが不可欠だった。だが、アイデンティティ・ポリティクスの提唱者が異なる立場を尊重するよう他者に要求する一方で、自らとは異なる立場に徹底的に不寛容な態度をとるようになると、対話が成立しなくなり、全体に共通する価値や利益の実現を目指すことができなくなってしまう。

第三に、アイデンティティ・ポリティクスを重視する論者の暴力性が指摘される。「Wokeの提唱者やリベラル派は、集団の尊厳や人権など、それ自体としては誰も否定しない価値を掲げ、異論を認めず敵対者を非難・攻撃する人」と見なされることがある。その非難・攻撃というスタイルはじつは暴力的だが、その暴力性に無自覚な人も多い。仮にその暴力性を認識していたとしても、自らは弱者の味方で、正しい規範に依拠していると考えているため、その暴力性を正当化する人もいる。そして、自らに対する批判をリベラルな規範の否定と捉え、糾弾者をさらに批判する。その際には、批判者の発言内容だけではなく、人格や動機も含めた批判がなされることもある。

このような状態は、「自らの奉じる価値規範は絶対視するのに、他者に対する敬意を欠く」と見なされ、とりわけ非難されている人には「典型的なダブルスタンダードの極致」に映る。それがリベラルに対する敵意を生み出す要因になっている[7]

Get woke,go Broke[編集]

アメリカの作家ジョン・リンゴーの言葉であり、英語圏のオタク界隈でネットミームとなっている言葉に「Get woke,go Broke」がある。「目覚めた、破産した」という意味であり、クリエイティブな企業が「woke」的価値観に組織的に傾倒してしまうのは作品の(真の意味での)多様性を失うだけではなく、経済的な意味でも破滅をもたらすということを説いており、業界の衰退が危惧されている[要出典]

保守系のウェブメディアザ・フェデラリスト英語版[8]は、 wokeを主張する人々は、エンターテインメント作品に「wokeでない」と言い掛かりをつけることはあっても、彼らの言うことを聞いて「修正された」作品(「KKKと戦うスーパーマン」「バイセクシャルで、Wokeの活動を行うスーパーマンの息子」[9][10]、「黒人のバットマン」[11]、「バイセクシュアルウルヴァリン」など)の消費者になることは無いと主張している。またそれらのタイトルは本来のファン達に離れられ、収益が下がっていると主張している[12]。実際、スーパーマンの息子をバイセクシャルに設定した Superman: Son of Kal-El 誌は一部から敵意が寄せられており、出版社や作者には殺害予告さえ向けられた[13]。作者トム・キング英語版は、同誌がGoing woke and broke(→woke路線のせいで潰れた)という報道に対し、同誌第16号がAmazonのセールスランキングで首位を占めた事実を挙げて反論している[14]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 製造業の衰退によって、主たる家計支持者としての立場をサーヴィス業に従事している妻に奪われた場合は特に顕著である。

出典[編集]

  1. ^ https://courrier.jp/columns/254152/ 知っておきたい英語のスラング “woke” ってどういう意味?
  2. ^ https://courrier.jp/news/archives/250181/ 脱北ヒロイン 米エリート校に広がる“お目覚め文化”に「北朝鮮と似ている」と苦言
  3. ^ https://front-row.jp/_ct/17170318 【英会話】流行りのスラング「woke」ってどういう意味?ここ数年で使用頻度が激増の深いワケ
  4. ^ Bacon, Perry Jr. (2021年3月17日). “Why Attacking 'Cancel Culture' And 'Woke' People Is Becoming The GOP's New Political Strategy”. https://fivethirtyeight.com/features/why-attacking-cancel-culture-and-woke-people-is-becoming-the-gops-new-political-strategy/ 
  5. ^ McWhorter, John (2021年8月17日). “Opinion | How 'Woke' Became an Insult”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2021/08/17/opinion/woke-politically-correct.html 
  6. ^ 「ネットde真実」に目覚めた高齢の親、息子はタブレットを贈ったことを後悔も”. NEWSポストセブン (2022年11月13日). 2023年1月8日閲覧。
  7. ^ https://synodos.jp/opinion/international/22308/ ウォーク・アウェイ運動――アメリカのリベラル派はなぜ嫌われるのか
  8. ^ The Federalist as “Medical Journal” in the Time of the Coronavirus”. The New Yorker (2020年4月12日). 2023年1月3日閲覧。
  9. ^ https://www.esquire.com/jp/entertainment/entertainment-news/a37960695/new-superman-bisexual-dc-comics/
  10. ^ https://www.dailymail.co.uk/news/article-11308083/DC-Comics-cancels-gay-Superman-book-series-just-18-issues-sales-fall-flat.html
  11. ^ https://hypebeast.com/jp/2020/12/dc-comics-first-black-batman-news
  12. ^ https://thefederalist.com/2021/01/07/what-u-s-nerd-entertainment-must-learn-from-japanese-comics-and-the-mandalorian/
  13. ^ DC Comics illustrators call police after ‘receiving death threats’ over Superman’s bisexuality”. Independent (2021年11月3日). 2023年1月3日閲覧。
  14. ^ Superman Writer Tom Taylor Debunks Claims Jon Kent's Solo Comic Was 'Canceled'”. CBR.com (2021年11月3日). 2022年10月13日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • ウィクショナリーには、Wokeの項目があります。