森林破壊
森林破壊(しんりんはかい)とは、自然の回復力を超える樹木の伐採により森林が減少もしくは存在しなくなる状況を指す。国連食糧農業機関の統計によれば、全世界の森林面積は1990年には4,077,291千haであったが、2005年には3,952,025千haとなった。すなわち、この間に125,266千haの森林が消滅した(全世界の3.1%にあたる)。森林面積の変化は地域の差がある。東アジアは増加、ヨーロッパは微増、しかし東南アジアやアフリカや南アメリカでは大きく減少している。すなわち、熱帯雨林の森林減少が地球規模で進行している[1]。
日本は森林の割合(森林率)が国土の68.9%を占め、森林大国と言われる(森林大国として名高いカナダでも森林の比率は45.3%)[2]。ただし、人口が多いため、一人当たりの森林蓄積量は世界平均の6分の1ほどである[3]。
問題点
森林の保水力が失われる結果、土壌栄養分の流亡や洪水、土砂崩れを引き起こすことがある(水源涵養機能の低下)。また水質・大気浄化能力を低下させる。さらに、二酸化炭素の固定機能の低下の結果地球温暖化につながると指摘される。生態学的な観点から見た場合、陸上生態系の基盤となる森林を失うことで生態系自体の安定性を低下させ、森林で生きる動植物や昆虫の住みかを奪うことになる。
基本的かつ公共性の高い社会資本の喪失という側面もあるため、途上国における森林破壊は国際的な経済格差拡大の原因のひとつともなっている。
森林破壊の原因
木材としての伐採による森林破壊
日本では戦後、高度経済成長に伴う木材需要に対応するため、大規模に天然林が伐採され、住宅の梁や柱、家具材などとして消費された。こうして伐採された所にスギなどが大量に植林がなされた。現在では安価な外材の輸入の増加とともに国産木材が売れなくなったことと林業就労者の収入減少が影響し、林業就労者の減少がおき、間伐や間引きなどの手入れの行き届いていない不成績造林地が増加して全国各地で問題になっている。手入れの行き届いていない所では木々が密集した状態で日光が十分に当たらず細い木ばかりになっている。
燃焼材木(薪炭材)としての利用
アフリカや中南米の熱帯地域では、木質燃料の比率が非常に高い状況にあり、薪炭材の利用が急増しているとの指摘がある。これらの地域では、貧困のためエネルギー源は安価な薪炭材に頼らざるを得ず、熱効率の悪い調理用カマドが使用されている等の事情から、人口の急増に伴って、家庭用エネルギー源としての薪炭利用が増加したとの見方もある一方、家庭用の薪炭については、枯木や枝木を採取することが主で、大木を伐採して薪炭材として利用することは少ないとの意見も存在する。これら薪炭材をめぐる森林伐採の問題については、世界銀行の研究報告によると「世界で伐採される(建材も製紙用の伐採も全て含んだ)木材の6本に1本は、葉タバコを乾燥するために使用されている」。[4][5]また、1998年には、世界公衆衛生協会連盟(WFPHA)の政策文書においても「森林破壊がタバコによる主要な害悪」の1つとして掲げられており、WHO(世界保健機関)からも「途上国でのタバコ栽培と森林破壊についてのカラー図版」が公開されている。[6]なお、タバコの乾燥に使用される木の伐採の具体的な事例の1つとしては、タンザニアの森林破壊がある[7]。
施設建設のための伐採による森林破壊
道路の敷設に関しては、森林が分断化されることで動物や昆虫などの移動が制限される、車に轢かれるなどの問題が起こっており、森林生態系への影響が懸念される。また、法面の緑化には外国からの生命力の強い植物の種子が用いられることが多く、在来植生を凌駕する場合がある。
農地開発
現在、森林破壊で問題になっているのは農地開発である。
- 世界の総人口は2019年の77億人、2030年の85億人へ、さらに2050年には97億人へと増えると予測されている[8]。増え続ける人口の食糧を確保するために森林を切り開き農地開発が進んでいる[9]。人口増加と貧困、環境破壊は互いに関連しあい悪循環を繰り返している。彼らには環境の事を考える余裕はない、学ぶ機会すらない状態の地域もある[10]。
- バイオ素材需要の農地開発
- 需要が急増しているバイオ燃料やバイオプラスチックの材料となる作物を生産するための農地開発。ブラジルでは1970 ~ 1980 年代に焼畑による牧場開発が進んだが、「ハンバーガーコネクション」として世界的な批判を浴び一時は森林破壊と農地開発は止まるかと思われたが農地開発は止まらなかった。食料用の農地に加え、近年の世界的な大豆需要やバイオ素材需要の増加のする中、農地需要は増え、農地を求めてアマゾンへと侵入し、大規模な農地開発がふたたび熱帯林破壊につながっている。[11]
畜産のための森林破壊
アマゾンでは伐採された森林の7割が畜産での放牧による[12]。牛肉が主な輸出品となっている中米のニカラグアでは、2011年から2016年の5年間に540km2の森林が草地に変わり牛の放牧が広くみられる[13]。1970年代後期から1980年代中期には牛肉生産のための熱帯林破壊に抗議する「ハンバーガーコネクション」という運動も起こった[14]。
山火事
近年世界中で大規模な山火事が起き、多くの森林が失われている。自然発火することもあるが、人が原因の火事も多くある。 南米、北米、オーストラリアなどで甚大な被害が出ている。[15]
森林破壊の歴史
中世ヴェネツィアと森林破壊
海の女王として栄えた中世のヴェネツィア共和国では、農業の他に海上貿易に必要な輸送船や艦船を建造するための木材確保が重要だった。森林資源の枯渇が進むにつれて木材の確保に苦しむようになり、森林資源の保護や木材の使用を制限する法律が出されるようになった。
ヨーロッパの産業革命と森林破壊
18世紀後半にイギリスからはじまった産業革命の背景の1つに森林破壊が関わっている。燃料として使用していた木炭の消費により森林資源の枯渇が進み、代替燃料として当時はまだ扱いが困難だった石炭への転換が進められた。いわば必要に迫られての技術革新が産業革命をおこすきっかけの1つとなった。
対策
植林
破壊された森林を回復するために植林をすることは有効な取り組みの一つである。 行政や様々な団体、企業が植林事業を行っている。 環境意識が高まる中、企業(林業関係以外の)が植林活動に参加することは「環境に配慮している企業」として企業イメージの向上を図る事ができる、そのため多くの企業が植林事業に参加して来ている。[16][17]
しかし、保全生態学の観点からは潜在的な(その場所のもともとの)植生や地理的な遺伝変異などを考慮した植林がなされるべきだが、現在一般的に行われている事例ではそうしたことを意識すらされていない場合も多い。[18] 植林は一般的に挿し木で行われることが多いが、挿し木で植えるのではなく現地で採取した種から実生の苗を育て、混植・密植植樹方式で行うことで木の根は絡み合い土の流出を抑え根をしっかりと張り成長する。そのため災害に強い林が形成される。[19][20]
発展途上国支援
発展途上国での植林活動、森林を保全しつつ森林を活用したビジネスの提案、技術支援。人材育成、教育支援などを行い森林の重要性や持続性可能な森林の活用法を周知する。[21][22]
違法木材の排除
違法伐採された木材を利用しない。合法で持続可能な森で伐採された木材を利用する。[23]消費者は商品を選ぶ際に目安として、管理された森で合法的に伐採された木材を利用した製品に付けられる森林認証マーク[24]の付いた商品やエコマーク等の付いた環境に配慮された商品を選ぶとよい。
代替素材
木材に替わる非木材を利用する。
非木材パルプ(紙)
- 麻 森林破壊を食い止めるための有効な解決手段として、世界では麻(亜麻、ケナフなど)の栽培が注目されている。メリット 麻は一般的に繊維の一つとして認識されているためあまり知られていないがパルプ原料として栽培も収穫も非常に簡単で、木材はパルプの原料として栽培するために20年以上かかるが、麻は約100日で栽培でき毎年の収穫が可能である。麻が世界で栽培されるようになれば、今までの10分の1のコストで一本の木も切らずに全世界へパルプの供給ができるという試算もある。また、麻は落葉樹の3 - 4倍もの二酸化炭素を吸収するため、麻の栽培・収穫によるパルプの生産がそのまま地球温暖化の防止にもつながる利点がある。デメリット麻薬成分を含む大麻の場合、免許を得ずに所持・栽培を行うと大麻取締法で規制される。それに加え、麻は成長が速い分地中の栄養分を異常に早く吸収するので、土地の劣化が進み砂漠化という別の地球環境問題を引き起こす可能性が指摘されている。
- バガス サトウキビの絞りカスであり、古くから紙の原料として使われている。環境面から見ても注目されている。メリット、砂糖を作る時に出る廃棄物であり、資源の有効活用になる。現在生産されているだけでも年間約370万トン生産されている。デメリット、パルプ意外の用途もあり生産されるバガスを全てパルプとして使えるわけではない。
- ストーンペーパー 石灰石から作る紙。メリット、石灰石は地球上に多く存在する。生産に水をほとんど使わない。強度があり水に強い。デメリット、添加物としてプラスチック樹脂が必要(バイオプラスチックなどを利用し解決する試みがある)
環境省の取り組み
森林保全対策事業の実施
- フォレスト・パートナーシップ・プラットフォームの管理、運営。世界の森林の保全に貢献する企業と、海外で保全活動を行っているNGO、NPO等との連携を促進し、世界の森林の保全活動を推進することを目的としている。[25][26]
- 熱帯地域におけるスタディ・ツアーの開催。森林保全活動に取り組む日本の民間企業と、東南アジア諸国で持続可能な森林経営に取り組んでいる現地NPOとの連携を促進するツアー。ツアー後には東京近郊にて、専門家とツアー参加者による報告会を開催している。[27]
- 法伐採問題や森林認証制度の普及啓発。消費者に対して合法性、持続可能性が証明された木材製品の調達に取り組んでもらうためにパンフレット、ポスター、チラシの配布を行っている。[28]
注釈と出典
- ^ 世界の森林 (独立行政法人 森林総合研究所)の数値による。元データは(FAO)の『森林資源評価報告書(Forest Resource Assessment)』。
- ^ “森林大国ニッポン”にチャンスあり! 地方銀行が、新たな「森」と「ビジネス」を育てる|この「環境ビジネス」をブックマークせよ!(ダイヤモンド・オンライン、2009年2月18日) ※ 面積の算出根拠などが違うため統計により数値は異なる。
- ^ 林野庁編纂『森林・林業白書 平成20年版』
- ^ [1] 京都精華大学人文学部環境社会学科「森を煙に変える方法 ── 南北問題からみたタバコ経済」
- ^ [2]世界銀行報告書「たばこ流行の抑制 たばこ対策と経済」
- ^ [3]WHO(世界保健機関)「途上国でのタバコ栽培と森林破壊についてのカラー図版」
- ^ [4]財団法人地球環境センター「JICA研修「環境政策・環境マネジメントコース」対談:ケニア、タンザニアの環境問題」
- ^ 世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果(日本語訳)国際連合広報センター
- ^ “森林破壊の原因は? 実際に行われている対策とは”. gooddoマガジン. 2020年9月11日閲覧。
- ^ 真柄欽次「21世紀アジアの人口政策と環境保護」第3巻、2002年3月25日。
- ^ 丸山浩明 (2012-03). “ブラジルのバイオ燃料生産とその課題”. 立教大学観光学部紀要 (立教大学観光学部) 14: 61 - 73. doi:10.14992/00006318.
- ^ “Livestock a major threat to environment”. FAO. 2018年5月16日閲覧。
- ^ “Cattle ranching threatens core of Biosphere Reserve of Southeast Nicaragua”. MONGABAY. 2018年5月16日閲覧。
- ^ 高岡伸行「コンシューマーリズムとグリーンコンシューマーリズム」第44巻、2003年、ISSN 05471443。
- ^ 森林火災がアマゾンやオーストラリアで発生した原因は?消火方法はあるのかgooddoマガジン
- ^ “企業による森林保全活動の事例”. 環境省自然環境局自然環境計画課. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “さまざまなタイプの企業の森づくり”. 公益社団法人国土緑化推進機構 政策企画部. 2020年9月13日閲覧。
- ^ 日本緑化工学会 (2002). 生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言 (PDF) (Report).
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: 引数|ref=harv
は不正です。 (説明) - ^ 宮脇昭、藤原一繒、小澤正明「ふるさとの木によるふるさとの森づくり :潜在自然植生による森林生態系の再生法 : 宮脇方式による環境保全林創造」『横浜国立大学環境科学研究センター紀要』第19巻第1号、1993年3月25日、73-107頁、ISSN 0286584X。
- ^ “植物を密植・混植方式で植林”. 三菱商事株式会社. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “植林活動”. 公益財団法人 国際緑化推進センター. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “BFPRO―途上国森林ビジネスデータベース―”. 公益財団法人 国際緑化推進センター. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “フェアウッド(FAIRWOOD)”. 国際環境 NGO FoE Japan. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “FSC認証について”. FSCジャパン. 2020年9月13日閲覧。
- ^ “フォレスト パートナーシップ プラットフォーム”. 環境省自然環境局自然環境計画課. 2021年1月10日閲覧。
- ^ “環境省_自然環境局【森林対策】-環境省の取組・森林保全対策事業の実施”. 環境省自然環境局自然環境計画課. 2021年1月10日閲覧。
- ^ “熱帯地域におけるスタディ・ツアーの開催”. 環境省自然環境局自然環境計画課. 2021年1月10日閲覧。
- ^ “国際的な森林保全対策”. 環境省自然環境局自然環境計画課. 2021年1月10日閲覧。