野猫

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ウサギを捕食するイエネコ(飼い猫)

野猫(のねこ)とは、野生化したネコ(イエネコ)である。しばしば片仮名ノネコと書かれる。生物学上は野良猫もノネコも同じ種でありイエネコである。この語は一般的でなく、鳥獣保護法の狩猟に関してのみ使用される語である。

ノネコという呼称は、無主物で野生動物である野良猫のうち、狩猟可能なものとして「山野に自生いたしまして、野山におるというのを、のら犬、のらネコ等と区分いたしまして、この場合ノイヌ、ノネコと称しまして狩猟鳥獣に入れておるわけでございます」(第43回国会 衆議院 農林水産委員会 第17号)[1]と区分している鳥獣保護法においての用語であり、動物としては同じである。

飼い猫であれノネコであれ、動物愛護法において猫は愛護動物である。愛護動物に所有者の有無は関係ない。[2]

概要[編集]

野猫と野良猫[編集]

野猫(ノネコ)と野良猫(ノラネコ)は、同じ野生動物だが[3][4][5]、捕獲が可能かどうかで区別をする場合、野猫と野良猫は区別される[6]。この場合の野猫の定義は、人間の生活圏への依存が全くみられない、山野に自生するものとされる[7]。この語に対して留意すべきことは、ノネコという分類があるわけではないという点である。ネコは飼い猫(飼養動物:所有者あり)と野良猫(野生動物:所有者無し)に分類されこの2つは飼養と野生という別のものである。野良猫は野生動物であり原則捕獲はできないが、野良猫のうちの「山野に自生し野山におる」ものだけを狩猟免の上でその他法に従えば捕獲してよいとする枠組みをノイヌ・ノネコと称する、鳥獣保護法下の用語である。

野猫(ノネコ)と野良猫(ノラネコ)の両者に遺伝的な違いは全くなく、人間の関与、主に食生活によって区別するとされるが、人間の関与が不明の場合は解剖でもしない限り個体による判別は困難とされる[6]。両者は生物分類上はいずれもイエネコで厳密な区別はなく、人間が関与するかどうかという生活圏の違いで区別される。しかし野良猫がその本来の習性に則って野猫のように狩りをしたとしても、それをもってその個体が野猫であるということにはならない。「ノイヌ、ノネコ以外の犬、ネコを狩猟すれば違反」と国が示している[6]傍らその判別が困難であるため、ノイヌ、ノネコを狩猟鳥獣から削除すべきという見解もあるが長年それは前進していない。[8] なお狩猟とは捕獲の一手段であり、捕獲とは「鳥獣を自己の実力支配内に入れようとする一切の方法を行うことをいい、鳥獣を現に自己の実力支配内に入れたか否かを問わない」[9] 事を言う。ノネコは法に従った手法であれば罠等で捕獲できる。

野猫(ノネコ)は山野に自生するイエネコで、飼い猫と比べて広い縄張りを持つ。野猫は通常は人間からは全く餌を与えられず、野生のヤマネコ山猫)と同様に、ネズミなどの小動物を獲って自生している。人里にはあまり近づかないが、まれに田畑などに住むノネズミなどを獲る姿が見られる。野猫は非常に警戒心が強く、人にはなつきにくい。しかし餌付けされて野良猫化したり、さらには飼い猫となることもある。

種としてのイエネコ[編集]

イエネコは従来、ネコ科ネコ属のネコという (Felis catus) とされてきたが、最近になって、ヨーロッパヤマネコ (Felis silvestris) の一亜種 (Felis silvestris catus) もしくはそれ以下の変種等とみなされるようになった。すなわち、野生化したイエネコである野猫と、本来的な野生動物であるヨーロッパヤマネコとは、亜種という区分においてのみ遺伝的に異なるグループである。従って、イエネコとその他のヨーロッパヤマネコとは交雑する。

ただし、日本に生息する対馬ツシマヤマネコ (Prionailurus bengalensis euptilura) 、および西表島イリオモテヤマネコ (Prionailurus bengalensis iriomotensis)では、イエネコと交雑した例は見つかっていない。この両者は共にベンガルヤマネコ Prionailurus bengalensisの亜種であるが、ベンガルヤマネコの他の亜種では飼育下で交雑した例があり、それにより生まれた子猫がイエネコの品種の一つベンガルの基になったと言われる。

日本列島には縄文時代には野生のヤマネコ(オオヤマネコなど)も生息しており、狩猟対象であったと見られ[10]るが、それ以降の自然界に存在するネコ科の動物は、イリオモテヤマネコとツシマヤマネコだけであったが、例えば奄美大島では、集落周辺には猛毒を持つハブが棲息しており、餌となるネズミを求めて人の生活圏にも出没する。そのため、ネコを放し飼いにしてネズミを獲らせ、ハブが近づかないようにした。このように人が持ち込んだネコが放し飼いにされ、自力で小動物を捕食して生きていけるようになったネコが「ノネコ」と言われる[11]

狩猟の対象として[編集]

鳥獣保護法[12]では狩猟に関して定めがあり、狩猟してよい動物について環境省令で定められている[13][14]

ノネコは狩猟鳥獣で、他の狩猟鳥獣に同じく狩猟期間に狩猟免許受けて狩猟者登録の上で許可区域において銃(装薬銃、空気銃)や罠(くくりわな、はこわな(かごわな)など)による狩猟をし、あるいは同期間に自由猟法により捕獲することが可能である。「狩猟期間以外、それからノイヌ、ノネコ以外の犬、ネコを狩猟すれば違反」とあり[15]、野良猫は狩猟鳥獣ではないため狩猟できない。狩猟のみならず目的を問わず非狩猟鳥獣は捕獲そのものができない[16]。狩猟とは捕獲した後の行為に関わらず捕獲する手段の一つを言い、狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲は鳥獣保護法の罰則として八十三条に「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」と定められている。[17]しかし狩猟鳥獣の野猫と、非狩猟鳥獣の野良猫や放し飼いの飼い猫の相互の区別は個体だけでは困難で、首輪マイクロチップの有無および、野山に住むか人の営みの中に住むかの差くらいしか判断基準がないが、人間がエサを与える等の関与があれば野良猫として扱われる場合がある。いずれの形態であっても猫は愛護動物に指定されており、みだりに殺したり、虐待することに関しては動愛法の罰則が適用される。以上のことから野猫を主要な狩猟対象として活動する者はほとんどいないとされる。

2023年2月11日に動画投稿サイトYouTubeにて「むめひ」という男性が罠にかかったノネコを殺害し調理した動画が物議を呼んだ。本人は捕獲したものは「ノネコ」だと主張したようであり法令に基づいて行われた「合法」な活動と主張していた。2023年3月22日に動画を投稿した男性は動物愛護法違反の被疑で起訴された。同法四十四条にある「愛護動物をみだりに殺し」に該当するものとも読み取れるが、動物愛護法の何条に違反であるのかは明確に報道されていない。後に嫌疑不十分として釈放された。[18]

野猫による影響[編集]

野猫は侵略的外来種に該当し「総合的に対策が必要な外来種」として定義され「防除、遺棄・導入・逸出防止等のための普及啓発など総合的に対策が必要」とされている[19]オーストラリアでは、ネコが1年間に殺す固有種は数十億匹にのぼることが判明している[20]

なお、生物を在来種・外来種に二分して外来種を排斥する政策については、フレッド・ピアス英語版[21]池田清彦[22]岸由二らが批判を展開している。

日本での対策[編集]

飼育登録などを求める条例が制定され、飼い猫が人間の生活圏にいる「野良猫」になり、さらに「野猫」化しないよう、野良猫の不妊・去勢手術といった対策が行われている[23]

野猫が固有種の脅威とされているのは主に島嶼部で、環境省ヤンバルクイナなどの希少動物が野猫に食害され、深刻な被害を与えるとして問題視している[24]

このうち沖縄県西表島ではイリオモテヤマネコへの猫エイズの感染拡大などが、人の活動による交通事故や好適生息地の消失と改変とともに生息を脅かす要因として懸念されていたが[25][26]、野猫を捕獲したのちに里親を探し譲渡するという活動に取り組み、全頭譲渡成功という成果を達成している[27]

北海道天売島では、捕獲された野猫をボランティアが馴化し、譲渡に繋げる取り組みが行われている[28]。また天売島では猫の適正飼養を推進する条例が制定され、飼い猫へのマイクロチップの埋め込みと登録が義務化されている[29]

小笠原諸島では、島固有の生物を襲う野猫を殺処分せず、本土(東京都)の動物病院が馴化しながら飼い主を探す取り組みが行われている[30]

奄美大島では、野猫による希少な在来動物であるアマミノクロウサギケナガネズミなどを襲う被害が発生し、在来生態系への影響が問題になっている[31]。このため希少種が生息する森林から野猫を捕獲排除する対策が実施されている[32]。具体的には、奄美市では2011年に飼い猫条例が施行され、登録の際の鑑札の交付、2017年からはマイクロチップ装着を義務化し、飼い猫の明確化を進めている。また、奄美大島は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録される見通しとなり、環境省・鹿児島県・奄美大島5市町村は2018年3月に同島独自の在来生態系の保全に資することを目標とした「奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画」を策定し、連携して対策に取り組んでいる。さらに奄美大島5市町村で構成する「奄美大島ねこ対策協議会」では計画に基づき、環境省が捕獲した野猫の譲渡を希望する飼い主を募集している。

また野猫による脅威とは別に、奄美大島ではアマミノクロウサギなど希少種動物の交通事故件数が増加しており、国際自然保護連合 (IUCN) から事故減少へ取り組むよう要請を受けた[33]。専門家からは、野生生物を襲うマングースの駆除が進んだことでアマミノクロウサギの分布域が拡大し、動きが活発化したことが一因と指摘されている[33]。 

ネコの排除にほぼ成功した小笠原諸島でも、天敵のネコがいなくなったことで外来種のネズミが増え、食害により固有種の植物が数を減らす結果ともなった[34][35]。天売島でもネコへの対策を始めてからドブネズミによる島民生活への被害が出始めたとして、因果関係は判明していないもののネズミへの対策も行われるようになった[36][37]。このように、有害とされる野生動物の駆除・排除については生態系のバランスを保つ面からも注意が必要とされる。

ネコとタヌキ[編集]

タヌキは哺乳綱 ネコ目(食肉目) ネコ亜目(裂脚亜目) (イヌ上科) イヌ科 タヌキ属であり、ネコ亜目 (ネコ上科) ネコ科 ネコ属であるイエネコとは、科の水準で異なるグループに属している。かつて中国ではネコに「狸」の字を当てており、日本でも、ネコやヤマネコと、それらと同様によく木に登るタヌキとの間に、古代から近世までは表記・イメージの混雑がしばしば見られた。

近世には中国の例に倣って、タヌキ (Nyctereutes procyonoides) を「野猫」と表記した書籍もあるが、後述するように、イヌ科のタヌキと(現在「野猫(のねこ)」と呼ばれる)野生のイエネコとはまったく別の生物である。

このように日本では近世まで、ネコとタヌキが表記上でしばしば混同した例がある。『和漢三才図会』などに記される「野猫」はタヌキのことであり、本項で述べるところの野猫とは、言うまでもなく別物である[38]

脚注[編集]

  1. ^ 国会会議録検索システム”. kokkai.ndl.go.jp. 2024年1月11日閲覧。
  2. ^ 愛護動物の遺棄・虐待は犯罪です|門真市”. www.city.kadoma.osaka.jp. 2024年1月11日閲覧。
  3. ^ 猫の不思議サイエンス 野猫はいかに「縄張り」を共有するのか? 監修/どうぶつ行動クリニック・ファウ 尾形 庭子先生 花王
  4. ^ 野生鳥獣の保護について 日高市
  5. ^ のねこ 大辞泉
  6. ^ a b c 衆議院会議録情報 第043回国会 農林水産委員会 第17号 林野庁指導部長による発言
  7. ^ 国会会議録検索システム”. kokkai.ndl.go.jp. 2021年6月4日閲覧。
  8. ^ トップページ”. 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva. 2024年1月26日閲覧。
  9. ^ 裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan”. www.courts.go.jp. 2024年1月26日閲覧。
  10. ^ 日本における後期更新世~前期完新世産のオオヤマネコLynxについて - 群馬県立自然史博物館研究報告(15):群馬県立自然史博物館研究報告(15):43-80,2011
  11. ^ 一体なぜ…世界遺産になる奄美大島で「ノネコ3000匹殺処分計画」が進行中”. 現代ビジネス. 講談社 (2021年5月14日). 2021年5月16日閲覧。
  12. ^ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 | e-Gov法令検索”. elaws.e-gov.go.jp. 2021年6月4日閲覧。
  13. ^ 狩猟制度の概要 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]”. www.env.go.jp. 2021年6月4日閲覧。
  14. ^ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則 | e-Gov法令検索”. elaws.e-gov.go.jp. 2021年6月4日閲覧。
  15. ^ 国会会議録検索システム”. kokkai.ndl.go.jp. 2024年1月19日閲覧。
  16. ^ [狩猟への誘い]狩猟鳥獣|大日本猟友会”. j-hunters.com. 2024年1月30日閲覧。
  17. ^ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 | e-Gov法令検索”. elaws.e-gov.go.jp. 2024年1月11日閲覧。
  18. ^ 動物愛護法違反の疑いで逮捕の男性不起訴 広島地検呉支部 | 中国新聞デジタル”. 動物愛護法違反の疑いで逮捕の男性不起訴 広島地検呉支部 | 中国新聞デジタル (2024年1月5日). 2024年1月26日閲覧。
  19. ^ 我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト 掲載種の付加情報(根拠情報) <動物(哺乳類)> 環境省、2020年5月18日閲覧
  20. ^ Feral and pet cats are hunting and killing billions of animals each year in Australia ABC NEWS、2020年5月26日閲覧
  21. ^ 外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD フレッド・ピアス 著 /藤井留美 訳
  22. ^ 環境問題のウソ 池田清彦著
  23. ^ --奄美「野生化ネコ」増殖防げ/希少動物捕食、問題に/世界遺産登録にらみ官民対策進む『日本経済新聞』夕刊2018年8月24日(社会・スポーツ面)2018年8月25日閲覧。
  24. ^ 希少種とノネコ・ノラネコ環境省 2020年5月18日閲覧
  25. ^ イリオモテヤマネコ”. 政策分野・行政活動「自然環境・生物多様性」. 環境省. 2018年6月24日閲覧。
  26. ^ 竹前朝子「「希少野生動物の保護と自治行政」によせて」(PDF)『神奈川大学法学研究所ニュースレター』第13号、神奈川大学法学研究所、2009年3月、13頁、2018年6月24日閲覧ニュースレター(目次)《神奈川大学法学研究所Webサイト内『法学研究所について~刊行物』より》” 
  27. ^ 「奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム」記録集”. 鹿児島大学 鹿児島環境学研究会. 2019年2月10日閲覧。
  28. ^ 天売猫 預かりボランティア 北海道地方環境事務所
  29. ^ 天売島ネコ飼養条例
  30. ^ 「小笠原の野猫本土でペットに/野生化した猫、捕獲し「引っ越し」/13年前から、天然記念物のハトなど守る」『読売新聞』朝刊2018年6月30日(くらし面)
  31. ^ ノイヌ、ノネコ対策 奄美野生生物保護センター、2020年5月20日閲覧
  32. ^ 奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画 環境省、2020年5月20日閲覧
  33. ^ a b クロウサギ事故死過去最多 地元と協力し対策”. 奄美新聞社 (2021年5月13日). 2021年5月16日閲覧。
  34. ^ 小笠原で異変…外来ネコ捕獲、明暗分けた固有種”. アーカイブ. 読売新聞 (2013年11月15日). 2019年2月13日閲覧。
  35. ^ 猪野元健(朝日小学生新聞・朝日中高生新聞記者) (2017年2月23日). “島で野生化したネコが希少動物を襲う 一歩先を進む小笠原の対策とは”. ハフポスト. 朝日小学生新聞. https://www.huffingtonpost.jp/takeshi-inomoto/ogasawara-cat_b_14651020.html 2018年6月24日閲覧。 
  36. ^ 北海道・天売島 今度はネズミ被害 ネコ捕獲の副作用”. 毎日新聞. 2021年5月16日閲覧。
  37. ^ 平成 28 年度ウミガラス保護増殖検討会 議事要旨
  38. ^ 和漢三才図会 第三十八 獣類』57頁 - 国立国会図書館デジタルコレクション

関連項目[編集]