アマミノクロウサギ

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アマミノクロウサギ
アマミノクロウサギ
保全状況評価[1]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 EN.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 兎形目 Lagomorpha
: ウサギ科 Leporidae
: アマミノクロウサギ属
Pentalagus Lyon, 1904[2]
: アマミノクロウサギ P. furnessi
学名
Pentalagus furnessi (Stone, 1900)[2][3]
シノニム

Caprolagus furnessi Stone, 1900[2]

和名
アマミノクロウサギ[4][5][6]
英名
Amami rabbit[1][2]

分布域

アマミノクロウサギ(奄美野黒兎[7]Pentalagus furnessi)は、兎形目ウサギ科アマミノクロウサギ属に分類されるウサギ。本種のみでアマミノクロウサギ属を構成する。

分布[ソースを編集]

日本奄美大島徳之島[3][4][5][6][8]固有種

形態[ソースを編集]

体長41.8 - 51センチメートル[3][5]。尾長1.1 - 3.5センチメートル[3]体重1.3 - 2.7キログラム[3]。全身は光沢のある長い体毛と、柔らかく短い体毛で密に被われる[5]。背面の毛衣は黒や暗褐色、腹面は灰褐色[5][6]

眼は小型[3][5][6]。耳介も小型で[3][4][6]、耳長4.1 - 4.5センチメートル[3][5]。四肢は短く[3][4][6]、特に後肢は短い[5][8]。後足長8.5 - 9.2センチメートル[3]。指趾には爪が発達し[6]、穴を掘るのに適している[3][5]

属名Pentalagusは「5つの歯のあるウサギ」の意で、模式標本となった個体の上顎臼歯が左右5本ずつしかなかった(ウサギ科は通常左右6本ずつ)ことに由来する[5]。本種も通常は上顎臼歯が左右6本ずつある[5]。椎骨の突起は水平方向に長い[6]

出産直後の幼獣はほとんど体毛が無く、眼も閉じている[5]

分類[ソースを編集]

種小名furnessiは、1896年に本種の模式標本となった個体を採集したW. H. Furnessへの献名[5]

形態およびDNAによる分子系統学的解析、生態からウサギ科内でも原始的形態を残した種と考えられている[5][6][8]。奄美群島に本種のような原始的形態を残した遺存種が分布する理由として、中新世に南西諸島が台湾と陸伝いだった際に侵入したが海水面の変動により島嶼に隔離されたこと、ノウサギ属が侵入しなかったためと考えられている[5]

生態[ソースを編集]

山地や海岸の斜面にあるカシやスダジイからなる常緑広葉樹林や二次林に生息する[5][6]。高齢樹林の内部や林縁に伐採跡・二次林・沢などの疎開地が多い環境を好む[3]。単独で生活するが、野生下および飼育下でも1つの巣穴を複数個体が同時に利用した例がある[5]。複数の鳴き声を発したり[5]、後肢で地面を叩くことから個体間でコミュニケーションを行うと考えられている[6]。オスは平均1.3 - 4ヘクタール、メスは平均1 - 3ヘクタールの行動圏内で生活する[2]。行動圏は同性では重複しないが、オスの行動圏はメスと重複する[2]。渓流の周辺にある石や砂の上、林道などの一定の場所に糞をする[5]夜行性で、昼間は斜面に掘ったアルファベットの「L」字状の入口が高さ10 - 20センチメートル・幅12 - 25センチメートル、長さ30 - 200センチメートルのトンネルと直径60 - 185センチメートルの落ち葉を敷いた部屋からなる巣穴や、樹洞や岩の隙間を拡張した入口が高さ15センチメートル・幅20センチメートル巣穴などで休む[5][6]

食性は植物食で、ススキボタンボウフウPeucedanum japonicumなどの草本アマクサギエゴノキなどの木本、スギミカンなどの樹皮、スダジイの果実、タケノコなどを食べる[5][6]。飼育下では主にイゲシオオタニワタリサツマイモホソバワダンなどを食べ、サトウキビシュンギクダイコンホテイアオイの葉、ナシバナナリンゴの果実なども食べた例がある[5]。捕食者はハブで、外来種ではフイリマングース・野犬も挙げられる[2]

繁殖形態は胎生。直径10 - 20センチメートル、長さ100 - 200センチメートルに達する繁殖用の巣穴を掘る[5]。飼育下では4 - 5月と10 - 12月に1回に1匹の幼獣を産んだ例がある[3]。一方で年間を通して幼獣の糞が発見されていることから、周年繁殖している可能性もある[3]。メスは幼獣のいる巣穴に立ち寄って授乳し、授乳が終わると巣穴の入り口を塞ぐ[2][3][5][6]。飼育下での寿命は15年[3]

人間との関係[ソースを編集]

幕末薩摩藩士・名越左源太が著した奄美大島の地誌『南島雑話』には「大島兎」の名で登場し、「耳短くして倭の兎と異なり猫に似る」と説明されている[9]

1920年までは肉が食用とされたり、婦人病の薬になると信じられていた[5]。毛皮がふいごに利用されることもあった[5]。農作物や植林されたスギやヒノキを食害することもある[5]

1950年代以降のパルプ材目的の森林伐採や道路建設・河川改修・リュウキュウマツの植林などによる生息地の破壊や分断化、交通事故、人為的に移入されたノイヌやノネコ・フイリマングースによる捕食などにより生息数は減少している[3][4][6]。2000年から環境省によりフイリマングースの駆除事業が進められ、フイリマングースの減少に伴い本種の生息数も回復傾向にあると推定されている[3]。日本では1921年に国の天然記念物1963年に特別天然記念物に指定されている[3][5][8]2004年種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている[10]1995年に自然保護団体により日本では初めて本種・アマミヤマシギオオトラツグミルリカケスを原告とし、奄美大島でのゴルフ場建設の許可取り消しを求めた訴訟が鹿児島地方裁判所に提訴された[11]。原告を動物とすることは却下されたため、その後に動物の代弁として人名を挙げ訴状を訂正した[11]1992 - 1994年の糞調査における奄美大島の分布域・生息数は334.7平方キロメートル(奄美大島の47%)・2,500 - 6,100匹、2002 - 2003年の糞調査における奄美大島の生息数は2,000 - 4,800匹と推定されている[2][3]。1992 - 1994年の糞調査における徳之島の分布域・生息数は33平方キロメートル(徳之島の13%)120 - 300匹と推定されている[2][3]。2003 - 2004年における徳之島の生息数は100 - 200匹と推定されている[3]

絶滅危惧IB類(EN)環境省レッドリスト[3]

Status jenv EN.png
  • 鹿児島県版レッドリスト 絶滅危惧I類

日本では鹿児島市平川動物公園が1984 - 1989年に11匹(3月下旬から5月に4匹、9 - 12月に7匹)の繁殖に成功している[2]

参考文献[ソースを編集]

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  1. ^ a b Yamada, F & Sugimura, K. 2008. Pentalagus furnessi. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T16559A6063719. http://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T16559A6063719.en . Downloaded on 28 October 2015.
  2. ^ a b c d e f g h i j k Fumio Yamada and Fernando A. Cervantes, "Pentalagus furnessi," Mammalian Species, No. 782, American Society of Mammalogists, 2005, pp. 1-5.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 山田文雄 「アマミノクロウサギ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい2014年、56-57頁。
  4. ^ a b c d e 石井信夫 「アマミノクロウサギ」『絶滅危惧動物百科2 アイアイ―ウサギ(アラゲウサギ)』財団法人自然環境研究センター監訳、朝倉書店2008年、94-95頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 川道武男 「アマミノクロウサギ 生きた化石の謎めいた生活」『動物大百科5 小型草食獣』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社1986年、142-143頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 山田文雄 「アマミノクロウサギ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社2000年、71、165頁。
  7. ^ 九州大学総合研究博物館ニュース March 2008 No.10,p.4 「アマミノクロウサギとアマミヤマシギの標本」丸山宗利[リンク切れ]
  8. ^ a b c d 加藤陸奥雄、沼田眞、渡辺景隆、畑正憲監修 『日本の天然記念物』、講談社、1995年、624、626頁。
  9. ^ 名越左源太、国分直一、恵良宏 『東洋文庫 南島雑話2』、平凡社、1984年、42頁。
  10. ^ 国内希少野生動植物種環境省 ・2015年10月28日に利用)
  11. ^ a b 永戸豊野 「原告はアマミノクロウサギ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、72頁。

関連項目[ソースを編集]