首相官邸ネズミ捕獲長

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グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
首相官邸ネズミ捕獲長
Chief Mouser to the Cabinet Office
Royal Coat of Arms of the United Kingdom (HM Government).svg
Flag of the United Kingdom (3-5).svg
官邸ダウニング街10番地(首相官邸)
イギリス・首都ロンドン
任命イギリスの首相
任期規定なし。
引退あるいは死亡により退任。
初代就任不明
創設1500年代初期
俸給年100ポンド
オバマ米大統領と面会するラリー。中央奥がキャメロン英首相

首相官邸ネズミ捕獲長(しゅしょうかんていネズミほかくちょう、: Chief Mouser[1] to the Cabinet Office)は、ダウニング街10番地イギリス首相の官邸)の公式な飼い猫に与えられる肩書である。

昔からダウニング街ではネズミが多く住み着いていたため、その対策として猫をネズミ捕りペットとして「雇う」という習慣が1500年代の初期からあった。

1924年からは「首相官邸ネズミ捕獲長(Chief Mouser to the Cabinet Office)」として正式に「雇用」されている。

ダウニング街で最も長く務めた猫はウィルバーフォースであり、彼はエドワード・ヒースハロルド・ウィルソンジェームズ・キャラハンマーガレット・サッチャーの下で働いた。

身分[編集]

これらの猫は公務員とみなされるため[2]、官邸に住む首相の私物ではなく、ネズミ捕獲長の「任期」が首相のそれと一致することはまず無い。

この肩書きは非公式な習慣であったが、ハンフリーには公式にこの肩書が与えられた[3]。その他の猫は通常、イギリスのマスコミから愛称としてこの肩書きで呼ばれる。

生活費として年間100ポンドほどが給与として認められているほか、職員がおやつ代を自己負担している[4]

人間の公務員と同じように定期的な健康診断も受けている[4]

歴史[編集]

大蔵省ダウニング街に住みついた猫をネズミ捕り役およびペットとして「雇う」ことはヘンリー8世の時代[5]ウルジー枢機卿大法官として執務中に自分の飼い猫を傍らに置いたことまで遡る[6]

1929年6月3日までの分に限った『2000年情報自由法英語版』の一環として2005年1月4日パブリックドメインになった公文書によると[7][8]、1929年当時、大蔵省のAE・バンハムは「有能な猫の生活費として雑費から1日あたり1ペニーを支出する」ことを事務員に認めている[9]

1932年4月、手当は週あたり1シリング6ペンスまで増えた。21世紀の時点で経費は年100ポンドである[10]

2011年2月14日に、ラリーがこの任に就くと報道された。その年の1月、ITNによるとテレビ・ニュースの中継中、首相官邸の玄関前を駆け抜けて行くネズミが目撃された[11]。当時ネズミ捕獲長は空席だったが、首相の報道官はこの問題解決のため猫を雇う計画は無いと述べた[12]。しかし翌日の新聞は、その報道官が官邸内の「ネコ賛成派」について述べたことを報じ、その結果、問題対処のため今の衛生業者から猫への鞍替えが本当にあるかもしれないという憶測が生まれた[12]。2011年2月14日、このネズミ問題に取り組むため「ラリー」という名の猫がやって来たと報道された[13]イブニング・スタンダード英語版によると、この猫はデーヴィッド・キャメロンとその家族がバタシー・ドッグス・アンド・キャッツ・ホーム英語版で選んだものだった[13]。しかしラリーは翌年の2012年の6月を過ぎた頃から、職務に対し不熱心な様子が報道されるようになり[14]、9月になって遂に更迭されることになった[15][16]

後任の首相官邸ネズミ捕獲長として、財務大臣であるジョージ・オズボーンが飼っているフレイヤが就任することになった。フレイヤは外で暮らしていた経験があり、職務遂行能力の高さが期待されている[15][16]。なお、ラリーは捕獲長ではなくなったものの、ネズミ捕獲員としては留任となった[16][17]

2014年8月、フレイヤは官邸から離れた路上で交通事故に遭い、それまでも度重なる脱走が問題になっていたことから同年11月に引退、ロンドンを離れた。それにともないネズミ捕獲長の任はラリー単独で当たることとなった[18]

2016年イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票の結果を受けてキャメロンは首相を辞任したが、ラリーは新首相テリーザ・メイの就任後もネズミ捕獲長に留任することとなった[19]

猫の一覧[編集]

名前 就任 退任 首相 出典
トレジャリー・ビル 1924年 ラムゼイ・マクドナルド [20]
ピーター 1929年頃 1946年 スタンリー・ボールドウィン、ラムゼイ・マクドナルド、ネヴィル・チェンバレンウィンストン・チャーチルクレメント・アトリー [7]
ミューニック・マウサー 1937年-1940年 1943年 ネヴィル・チェンバレン、ウィンストン・チャーチル [21][22]
ネルソン 1940年代 ウィンストン・チャーチル [22][23]
ピーター2世 1946年 クレメント・アトリー [7]
ピーター3世 1946年 1964年 クレメント・アトリー、ウィンストン・チャーチル、アンソニー・イーデンハロルド・マクミランアレック・ダグラス=ヒューム [7]
ペトラ 1964年 1976年頃 アレック・ダグラス=ヒューム、ハロルド・ウィルソンエドワード・ヒース [7]
ウィルバーフォース 1970年 1988年 エドワード・ヒース、ハロルド・ウィルソン、ジェームズ・キャラハンマーガレット・サッチャー [24]
ハンフリー 1989年 1997年 マーガレット・サッチャー、ジョン・メージャートニー・ブレア [25]
シビル 2007年 2009年 ゴードン・ブラウン [26]
フレイヤ 2012年 2014年 デーヴィッド・キャメロン [16]
ラリー 2011年、2014年 現職 デーヴィッド・キャメロン、テリーザ・メイボリス・ジョンソンリズ・トラスリシ・スナク [13][19]

首相官邸以外の省庁[編集]

首相官邸以外の省庁としては、2016年4月に保護施設から引き取られ、「パーマストン」と名付けられたオス猫が、外務省にネズミ捕り長官として就任した[27]。2020年8月7日、パーマストンおよびサイモン・マクドナルド英語版外務事務次官の公式ツイッター上で、パーマストンが同年8月末に公務を引退する旨が発表された[28][29]

2017年11月に在ヨルダン英国大使館にネズミ捕獲長のポストが新設され、同ポストの直属の上司は本国外務省のネズミ捕獲長とされている[30]

2016年7月末には大蔵省が1歳半の黒猫グラッドストン」(名前は4度にわたり首相を務めたウィリアム・グラッドストンにちなむ)を採用した[31][32]

脚注[編集]

  1. ^ : mouser:ネズミを捕る猫
  2. ^ Fenton, Ben (2005-01-04), “Cats that left a mark in the corridors of power”, デイリー・テレグラフ, オリジナルの2005-05-23時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20050523101413/http://telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2005/01/04/nfoi404.xml 2011年12月29日閲覧。 
  3. ^ Purr-fect ending fur Humphrey!, BBCニュース, (1997-11-25), http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/34455.stm 2011年12月26日閲覧。 
  4. ^ a b 日本放送協会. “イギリス首相官邸のネコが減量へ 外出制限で太りすぎ”. NHKニュース. 2021年3月11日閲覧。
  5. ^ Davies, Caroline (1997-11-24), “More questions over how No 10 handled the kitty” (英語), デイリー・テレグラフ, オリジナルの2007-12-05時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20071205223254/http://www.telegraph.co.uk/htmlContent.jhtml?html=/archive/1997/11/24/nmog124.html 2011年12月28日閲覧。 
  6. ^ Chapter Six. The Cat and the Law. Van Vechten, Carl. 1922. The Tiger in the House” (英語). Bartleby.com. 2011年12月28日閲覧。
  7. ^ a b c d e (英語) Home Office cat history revealed, BBCニュース, (2005-01-04), http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4143423.stm 2011年12月28日閲覧。 
  8. ^ The official Home Office cat” (英語). イギリス政府. 国立公文書館 (1929-1976). 2011年12月28日閲覧。
  9. ^ “Tale of Home Office cat” (英語), メトロ英語版 (アソシエイテッド・ニューズペーパーズ英語版), (2005-01-04), http://www.metro.co.uk/weird/article.html?in_article_id=6981&in 2011年12月28日閲覧。 
  10. ^ Millward, David (2005年3月15日). “Humphrey... the Downing Street dossier” (英語). デイリー・テレグラフ. http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/1485584/Humphrey...-the-Downing-Street-dossier.html 2011年12月25日閲覧。 
  11. ^ “Another rat spotted on steps of Number 10”. ITN (MSN). (2011年1月24日). http://news.uk.msn.com/articles.aspx?cp-documentid=155956883 2011年12月28日閲覧。 
  12. ^ a b “"Pro-cat faction" urges Downing Street rat rethink” (英語). BBCニュース. (2011年1月25日). http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-12265112 2011年12月28日閲覧。 
  13. ^ a b c Woodhouse, Craig (2011年2月14日). “Larry the tabby lands No10 job as rat catcher” (英語). イブニング・スタンダード英語版. 2011年12月28日閲覧。
  14. ^ 「殺し屋の本能を失った」イギリス首相官邸ネズミ捕獲長のラリー氏に批判の声 9月19日閲覧。
  15. ^ a b 「英国首相 公邸の猫を更迭」The Voice of Russia 18.09.2012, 13:53 9月19日閲覧。
  16. ^ a b c d A paw performance! Larry the Downing Street cat is sacked as Number 10's chief mouse catcher after chillaxing too much on the job”. デイリー・メール. 2012年9月16日閲覧。
  17. ^ “A paw performance! Larry the Downing Street cat is sacked as Number 10's chief mouse catcher after chillaxing too much on the job”. デイリーメール. (2012年7月16日). http://www.dailymail.co.uk/news/article-2204009/Larry-Downing-Street-cat-sacked-Number-10s-chief-mouse-catcher-chillaxing-job.html 
  18. ^ Dearden, Lizzie (2014年11月9日). “George Osborne's family cat Freya sent away from Downing Street to Kent”. The Independent. 2015年2月7日閲覧。
  19. ^ a b Larry the cat escapes Downing Street eviction”. BBC news (2016年7月12日). 2016年7月14日閲覧。
  20. ^ Campbell, Mel (2010-05-19), “‘Miaow, Prime Minister’: the bureaucats of Downing Street”, Crikey英語版, http://www.crikey.com.au/2010/05/19/miaow-prime-minister-the-bureaucats-of-downing-street/ 2011年12月26日閲覧。 
  21. ^ Irving, David (2001), Churchill's War Volume II: Triumph in Adversity, Focal Point Publications, p. 833, ISBN 1-872-19715-9 
  22. ^ a b “Riddles, Mysteries, Enigmas”, Finest Hour (The Churchill Centre) (110), (Spring 2001) 
  23. ^ “Riddles, Mysteries, Enigmas”, Finest Hour (The Churchill Centre) (109), (Winter 2000-2001) 
  24. ^ Merrick, Jane (2007-09-11), “Ten years after the Humphrey hoo-ha, a cat returns to Downing Street”, デイリー・メール (Associated Newspapers), http://www.dailymail.co.uk/news/article-481206/Ten-years-Humphrey-hoo-ha-cat-returns-Downing-Street.html 2011年12月25日閲覧。 
  25. ^ Humphrey the Cat (PDF)”. 内閣府. 2007年10月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月25日閲覧。
  26. ^ Morning press briefing from 11 September 2007”. The official site of the British Prime Minister (2007年9月11日). 2008年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月25日閲覧。
  27. ^ 野良から英外務省のネズミ捕り長官に 自分の食いぶちは自分で”. BBC NEWS JAPAN. BBC (2016年4月14日). 2016年4月14日閲覧。
  28. ^ ! Important news !” (日本語). Twitter. Palmerston. 2020年8月7日閲覧。
  29. ^ DiploMog retires at end of August” (日本語). Twitter. Sir Simon McDonald. 2020年8月7日閲覧。 “In 2016 Palmerston arrived from @Battersea_, mouser & social media phenomenon, with 105K @Twitter followers. After 4 1/2 happy years @DiploMog retires at end of August: he’s enjoyed lockdown life in countryside so much, he’s decided to stay. Everyone @foreignoffice will miss him”
  30. ^ “ヨルダンの英大使館、ネコの「ネズミ捕獲長」が就任”. ロイター. ロイター. (2017年11月21日). https://jp.reuters.com/article/jordan-idJPKBN1DL09O 2017年11月22日閲覧。 
  31. ^ 英財務省、ネズミ駆除の「ネコ」配属 政府機関で3匹目”. CNN.co.jp. CNN (2016年7月31日). 2016年4月14日閲覧。
  32. ^ Gladstone the cat lands Treasury job”. BBC (2016年7月29日). 2016年8月1日閲覧。

関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]