ヨーロッパヤマネコ

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ヨーロッパヤマネコ
ヨーロッパヤマネコ
保全状況評価[1][2][3]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svgワシントン条約附属書II
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: ネコ科 Felidae
: ネコ属 Felis
: ヨーロッパヤマネコ F. silvestris
学名
Felis silvestris
Schreber1777[4][5]
和名
ヨーロッパヤマネコ[4]
英名
European wildcat[5]
分布域
緑色が現在の、淡緑色が過去の分布域

ヨーロッパヤマネコは、食肉目ネコ科ネコ属に分類される動物。家畜化されたイエネコと近縁で、イエネコやその起源と考えられるリビアヤマネコ亜種として含める場合もあるが、本項目では特に断らない限りヨーロッパに生息する野生種について述べる。

形態[編集]

リビアヤマネコやイエネコと比べ体格が大きく、分厚い毛と身体の大きさが大きな特徴となっている。黒い縞の入った中間調の褐色で、体長45-80cm、体重3-8kg、尾長は30cmほどである[6]

生態[編集]

おもに広葉樹混交林に生息しているが、草原ステップ、あるいは河畔林や沼沢地などにも出現する。ピレネー山脈では2,250mの高地で発見されている。その一方で、通常は人間の手の入った耕地や集落を避ける[6]

基本的には夜行性だと考えられているが、人間の活動が少ない地域では日中にも活動している。単独で生活し、行動圏は1平方キロメートルから、広い場合で9平方キロメートルに及び、雄の方が広い傾向にある。木登りは上手であるが、狩は地上で獲物を付け狙い急襲する。齧歯類のほか、ウサギがいればそれも主要な獲物となる。他にモグラ、鳥類、昆虫、カエル、トカゲ、イタチなども捕食する。繁殖期は冬の終わり頃で、70日弱の妊娠期間を経て春先に出産する。4ヶ月程度で離乳して徐々に狩を覚え、遅くても10ヶ月で独り立ちして性的にも成熟する[6]

分布[編集]

かつてはフェノスカンジアを除くヨーロッパ全域に分布していたが、18世紀末から20世紀中頃にかけて大きく減少し、その後やや回復した地域もあるがそれ以外では根絶したと考えられている。各地でイエネコとの交雑が進んでいるが、東欧の集団は比較的純血に近いと考えられている[6]

北限はスコットランドだが、グレートブリテン島の他の地域ではすでに見られない[7]。ヨーロッパ本土ではアルデンヌ周辺とピレネー山脈からイベリア半島にかけて[8][9]カルパティア山脈[10][11]ジュラ山脈[12]イタリア半島からバルカン半島にかけてとシチリア島に分布している[13]

分類[編集]



スナネコ




bieti




silvestris




cafra



ornata



lybica + イエネコ






スナネコ外群としミトコンドリアDNAのND5およびND6遺伝子から推定した系統関係[14]

ヨーロッパヤマネコは更新世の化石記録にあるFelis lunensisから分化したものと考えられている[6]

ヨーロッパヤマネコと近縁なヤマネコ類には、遺伝学的に異なる5つの集団(右図)が存在していることが知られている[14]。このうちどれをヨーロッパヤマネコの亜種としどれを独立種とするか、また家畜化されたイエネコを独立の種または亜種とみなすかどうかは見解が一致していない[3]。これらを全てヨーロッパヤマネコの亜種とする場合もあり[14]、逆に全てを独立種とする見解もある[5]。あるいはsilvestrisは長期にわたって分布域が分断され生態や形態からも明確に区別ができることから別種とし、またbietiornataと同所的であるにも関わらず明瞭に区別できることからやはり別種とする見解もある[15]

以下の分類はIUCN SSC Cat Specialist Group (2017)[5]にしたがっており、silvestrisをその他4つの集団とは別種としている。

残り4集団については以下の各記事を参照のこと。

これら以外にも、過去には非常に多くの地域的な亜種が記載されているが、実態が詳らかになっているものはほとんどない[17][5]

イベリア半島の集団[編集]

イベリア半島では、ドゥエロ川エブロ川の北に住むヨーロッパ型と、その他の地域に住む大型のイベリア型で過去にF. s. tartessiaと言われる別の亜種と考えられていた種類と、大きく分けて二種類のタイプが生息している[18]。イベリア型の雄は最大で体長65cm、尾長34.5cm、体重7.5kgにまで及ぶ。彼らはまた、あまり広がっていない縞模様と体格に応じて大型の犬歯を持ち、ドゥエロ川・エブロ川以北のグループが小型齧歯類を餌とするのに対し、イベリア型はウサギ類を捕食する割合が高い[19]古生物学者ビョーン・クーテン博士は著書の「ヨーロッパにおける更新世哺乳類」(1963)の中で、このいわゆるイベリア型亜種は更新世氷河期にヨーロッパ全土で見られた体型と大きさを特異的に保持しているのだと記している。両タイプの生息環境も異なり、北部のヨーロッパ型が主に落葉性のヨーロッパナラ(Quercus robur)の森林に棲むのに対し、南部のイベリア型は常緑性のセイヨウヒイラギガシ(Quercus ilex)の森に棲む[19]スペインポルトガルは西ヨーロッパでも特にヤマネコの生息数が多いとされているが、この地域では野猫との交配による危機で生息場所も失っている。

学名[編集]

属名Felisはネコ、種小名silvestrisは「森の」の意。

命名規約上の学名の起点以降、ヨーロッパヤマネコをFelis silvestrisと呼んだのは1762年のマチュラン・ジャック・ブリソンが最初であるが、彼の著作は二名法を採用していないためこれは学名として不適格とされる。これに続いてヨハン・クリスチアン・フォン・シュレーバーが1777年にFelis (catus) silvestrisとしたのが現在まで使われている。困ったことにシュレーバーは先行して図譜を出版しており、1775年刊行のヨーロッパヤマネコの図にはFelis Catus Linn. ferusと記されている。命名法上の原則によれば種小名ferusに先取権があることになるが、これはほとんど用いられたことがなく不合理である。そこで1957年にICZNの強権により、種小名ferusの先取権を抑制し種小名silvestrisが有効名とされた[20]

イエネコの起源はリビアヤマネコであり、これらはヨーロッパヤマネコの亜種とされることもある。その場合イエネコを含むヨーロッパヤマネコの学名は、記載が古いFelis catusとなるのが命名法上の原則である。しかしこれを原則通りに運用すると様々な支障が出ることから、2003年にICZNの強権によりイエネコを含める場合でもヨーロッパヤマネコの学名としてFelis silvestrisを使用することが認められた[21]。これにより、イエネコを含めるか否かという分類学的判断に関わらず、ヨーロッパヤマネコの学名としてFelis silvestrisを使用できる。

人間との関係[編集]

イエネコとの競合や感染症の伝搬・遺伝子汚染、交通事故、害獣としての駆除などにより生息数が減少している[3]。1977年にネコ科単位でワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

イエネコの起源と考えられるリビアヤマネコを本種の亜種と位置づける場合もあり、その場合は本種はイエネコの原種であるということができる。

出典[編集]

  1. ^ Appendices I, II and III<https://cites.org/eng>(Accessed 28/10/2017)
  2. ^ a b UNEP (2017). Felis silvestris. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (Accessed 28/10/2017)
  3. ^ a b c Yamaguchi et al. (2015年). “Felis silvestris”. The IUCN Red List of Threatened Species. IUCN. doi:10.2305/IUCN.UK.2015-2.RLTS.T60354712A50652361.en. 2018年11月13日閲覧。
  4. ^ a b 成島悦雄 「ヨーロッパヤマネコ」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、163-164頁。
  5. ^ a b c d e f IUCN SSC Cat Specialist Group (2017). Genus Felis. “A revised taxonomy of the Felidae”. Cat News (Special Issue 11): 11-21. https://repository.si.edu/bitstream/handle/10088/32616/A_revised_Felidae_Taxonomy_CatNews.pdf. 
  6. ^ a b c d e European wildcat”. IUCN/SSC Cat Specialist Group. 2018年11月14日閲覧。
  7. ^ Davis, A.R. and Gray, D. (2010). The distribution of Scottish wildcats (Felis silvestris) in Scotland (2006-2008). Scottish Natural Heritage Commissioned Report.
  8. ^ Say, L., Devillard, S., Leger, F., Pontier, D. and Ruette, S. (2012). Distribution and spatial genetic structure of European wildcat in France. Animal Conservation 15: 18–27.
  9. ^ Hartmann, S. A., Steyer, K., Kraus, R. H. S., Segelbacher, G. and Nowak, C. (2013). Potential barriers to gene flow in the endangered European wildcat (Felis silvestris). Conservation Genetics 14: 413–426.
  10. ^ Okarma, H., & Olszańska, A. (2002). The occurrence of wildcat in the Polish Carpathian Mountains. Acta Theriologica 47(4): 499–504.
  11. ^ Zagorodniuk, I., Gavrilyuk, M., Drebet, M., Skilsky, I., Andrusenko, A., & Pirkhal, A. (2014). Wildcat (Felis silvestris Schreber, 1777) in Ukraine: modern state of the populations and eastwards expansion of the species. Біологічні студії 8 (3-4): 233–254.
  12. ^ Weber, D., Roth, T., Huwyler, S. (2010). Die aktuelle Verbreitung der Wildkatze (Felis silvestris silvestris Schreber, 1777) in der Schweiz. Ergebnisse der systematischen Erhebungen in den Jurakantonen in den Wintern 2008/09 und 2009/10. Hintermann & Weber AG, Bundesamt für Umwelt, Bern.
  13. ^ Mattucci F., Oliveira R., Bizzarri L., Vercillo F., Anile S., Ragni B., Lapini L., Sforzi A., Alves P.C., Lyons L.A., Randi E. (2013). “Genetic structure of wildcat (Felis silvestris) populations in Italy”. Ecology and Evolution 3 (8): 2443–2458. doi:10.1002/ece3.569. 
  14. ^ a b c Driscoll et al. (2007). “The Near Eastern origin of cat domestication”. Science 317 (5837): 519-523. doi:10.1126/science.1139518. 
  15. ^ Kitchener & Rees (2009). “Modelling the dynamic biogeography of the wildcat: implications for taxonomy and conservation”. J. Zool. 279: 144–155. doi:10.1111/j.1469-7998.2009.00599.x. 
  16. ^ 白井祥平『世界動物名検索大辞典(第2期) 世界哺乳類名検索辞典・学名篇』原書房、1993年、167頁。ISBN 4-562-02466-6
  17. ^ W. Christopher Wozencraft, "species Felis silvestris," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 536-537.
  18. ^ Purroy, F.J. and Varela, J.M. (2003). Guia de los Mamiferos de Espana. Peninsula, Baleares y Canarias. Lynx Edicions, Barcelona.
  19. ^ a b "Felis silvestris Schreber, 1777", pp. 333?338 in Red Book of Iberian Mammals (Spanish). magrama.gob.es
  20. ^ Francis Hemming, ed. “Opinion 465. Validation under the Plenary Powers of the specific name silvestris Schreber, [1777], as published in the combination Felis (Catus) silvestris, for the European Wild Cat (Class Mammalia)”. Opinions and declarations rendered by the International Commission on Zoological Nomenclature. 16. pp. 43-52. https://www.biodiversitylibrary.org/item/107766#page/107. 
  21. ^ Bulletin of Zoological Nomenclature. "International Commission on Zoological Nomenclature, Opinion 2027 (Case 3010). Usage of 17 specific names based on wild species which are predated or contemporary with those based on domestic animals (Lepidoptera, Osteichthyes, Mammalia): conserved". Bulletin of Zoological Nomenclature, Volume. 60, 2003, pp. 81-84.

関連項目[編集]