ヨーロッパヤマネコ

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ヨーロッパヤマネコ
ヨーロッパヤマネコ
ヨーロッパヤマネコ Felis silvestris
保全状況評価[1][2][3]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svgワシントン条約附属書II
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: ネコ科 Felidae
: ネコ属 Felis
: ヨーロッパヤマネコ F. s. silvestris
学名
Felis silvestris
Schreber, 1777[4][5][6]
和名
ヨーロッパヤマネコ[4]
英名
Caucasian wildcat[5]
European wild cat[5]
Wildcat[6][7]
Wild cat[4]
分布域
Driscoll et al.(2007)より広義の本種の分布域

ヨーロッパヤマネコFelis silvestris)は、食肉目ネコ科ネコ属に分類される食肉類。

スカンジナビアイングランドウェールズでは絶滅して生息していない。

呼称[編集]

日本では一般に野生の小型ネコ類を「山猫(やまねこ)」と総称するが、本項で解説するヤマネコ(Felis silvestris)はそれらのうちの1種である。広義の山猫については「ヤマネコ」を参照のこと。本種はツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコなどとは属の水準で別系統であり、日本には、家畜種であるイエネコを除きヤマネコ種の動物は棲息しない。

本種は「ヨーロッパヤマネコ」と呼ばれることもあるが、これは本種に含まれる亜種の一つ・F. s. silvestris和名でもある[要出典]

概要[編集]

小型の哺乳類、その他の生物を捕食する。地域により異なった亜種が知られているが、近年はイエネコ(いわゆるネコ)がFelis silvestris catusとして本種に含められることが多い。イエネコは後述するように、人類によってヤマネコの亜種の1つから作出された家畜種であるが、世界中の居住可能な大陸のすべてと大きなのほとんどに導入されており、それらの環境の多くで野生化し、ノネコ野良猫)となっている。

原生地の環境において、本種はサバンナ疎林ステップなどさまざまなタイプの棲息地に適応可能である。家畜種であるイエネコには多様な形態と毛色が見られるが、黒い縞の入った中間調の褐色で、体長45-80cm、体重3-8kg、肩高は平均35cmほど、尾長は30cmほどである。アフリカに分布する亜種はやや小柄で、色も明るめの褐色であることが多い。

非常に臆病であり、人間の居住地に近づきすぎることを避ける。単独で生活し、約3平方キロメートルのなわばりをもつ。

分類[編集]



スナネコF. margarita




ハイイロネコF. s. bieti




F. s. silvestris




F. s. cafra




F. s. ornata



イエネコF. s. catus
リビアヤマネコF. s. lybica
F. s. ornata







Driscoll et al.(2007)よりミトコンドリアDNAのND5およびND6遺伝子から推定した系統図[8]


スナネコF. margarita




F. s. silvestris




F. s. cafra





ハイイロネコF. s. bieti



F. s. ornata





リビアヤマネコF. s. lybica
イエネコF. s. catus




アジア産イエネコF. s. catus



ヨーロッパ産イエネコF. s. catus








Driscoll et al.(2007)よりマイクロサテライト遺伝子から推定した系統図[8]

本種をイエネコFelis catusのシノニムとする説もあったが、2003年にICZNの強権によりF. catusはイエネコのみを指す学名として、野生種の学名はF. silvestrisを引き続き使用することが認められた[9]

本種と系統的に最も近いネコ類はスナネコである。

以下の分類はMSW3(Wozencraft,2005)に、分布はIUCN SSC Cat Specialist Group(2017)に従う[6]

Felis silvestris silvestris Schreber, 1777
ヨーロッパの大陸部(スペインからロシア西部にかけて)
Felis silvestris cafra Desmarest, 1822
南アフリカ
Felis silvestris caucasica Satunin, 1905
トルコ、コーカサス地方
Felis silvestris caudata Gray, 1874
トルキスタンから天山山脈・イラン・アフガニスタンにかけて
Felis silvestris cretensis Haltenorth, 1953
クレタ
Felis silvestris foxi Pocock, 1944
ナイジェリア北部
Felis silvestris gordoni Harrison, 1968
アラブ首長国連邦、オマーン
Felis silvestris grampia Miller, 1907
スコットランド北部および中部
Felis silvestris griselda Thomas, 1926
アンゴラ南部、ナミビア、ボツワナ
Felis silvestris haussa Thomas & Hinton, 1921
ナイジェリア
Felis silvestris iraki Cheesman, 1921
イラク、クウェート
Felis silvestris jordansi Schwarz, 1930
バレアレス諸島
Felis silvestris lybica Forster, 1780
アルジェリア、エジプト、スーダン、チュニジア、モロッコ
Felis silvestris mellandi Schwann, 1904
コンゴ民主共和国南部、ザンビア、マラウイ
Felis silvestris nesterovi Birula, 1916
イラン南部、イラク
Felis silvestris ocreata Gmelin, 1791
エチオピア
Felis silvestris ornata Gray, 1832
ガンジス川以南のインド中部および西部
Felis silvestris reyiLavauden, 1929
コルシカ島
Felis silvestris rubida Schwann, 1904
コンゴ共和国
Felis silvestris tristrami Pocock, 1944
イスラエル、シリア、ヨルダン、レバノン、アラビア半島南部および西部
Felis silvestris ugandae Schwann, 1904
ウガンダ、ケニア、コンゴ民主共和国北東部、南スーダン。タンザニアにも分布する可能性がある。
Felis silvestris vellerosa Pocock, 1943
陝西省と内モンゴル自治区の境界付近

2007年に発表されたマイクロサテライト遺伝子の分子系統解析では主に以下の5系統に分かれるという解析結果が得られた[8]

  1. Felis silvestris silvestris European wildcat
  2. Felis silvestris bieti ハイイロネコ Chinese desert cat
  3. Felis silvestris cafra アフリカヤマネコ Southern African wildcat
  4. Felis silvestris lybica リビアヤマネコ Near Eastern wildcat + Felis silvestris catus イエネコ Domestic cat
  5. Felis silvestris ornata ステップヤマネコ Central Asian wildcat

以下の亜種のみを残してハイイロネコ・リビアネコを独立種とする説もある。以下の分類はIUCN SSC Cat Specialist Group(2017)に従う[5]

Felis silvestris silvestris Schreber, 1777
ヨーロッパ(スコットランド、シチリア島、クレタを含む)
Felis silvestris caucasica Satunin, 1905
トルコ、コーカサス地方

リビアヤマネコ、アフリカヤマネコ、ステップヤマネコをFelis lybicaに分化しており、ヨーロッパヤマネコの亜種としてコーカサスヤマネコ[10] Felis silvestris caucasicaを認めている[5]

2007年アメリカ国立癌研究所などアメリカドイツイスラエルスペインフランススコットランドの研究者からなる国際研究チームが、世界各地のイエネコと3大陸に棲息するヤマネコ類5グループ、計979頭から採取されたミトコンドリアDNAを分析した。

その結果、これらがいずれも同一種Felis silvestris(ヤマネコ)の亜種であることが確認された(亜種を参照)。さらに、イエネコは10万年以上前の中東地域に棲息していたリビアヤマネコF. s. libyca)の一群を祖先とし、地中海東部沿岸地域で少なくとも5種類の母性系統から家畜化されたことが明らかになった[11][12][13][要検証 ]

以下に示すのは、MSW3による分類である。

  • アフリカ系亜種
    • Felis silvestris cafra:アフリカ南部
    • Felis silvestris foxi:アフリカ西部
    • Felis silvestris griselda:アフリカ中央部
    • リビアヤマネコ Felis silvestris lybica:アフリカ北部
      • イエネコ Felis silvestris catus:家畜種
    • Felis silvestris ocreata:中央アフリカ東部
    • Felis silvestris mellandi:中央アフリカ西部
  • アジア系亜種
    • Felis silvestris caudataカスピ海地域
    • ステップヤマネコ Felis silvestris ornata:インドからイランにかけて
    • ハイイロネコ Felis silvestris bieti:(亜種である可能性のある個体群)
リビアヤマネコや家猫と比べ体格が大きく、分厚い毛と身体の大きさが大きな特徴となっている。通常、ヤマネコは家猫とは混同されることはないが、一方でどのようにして正確にこの二つを区別しているのかははっきりしていない(ある調査によると区別の間違いは39%の確率で発生していたとも言われる)[14]。家猫と違い、昼間に活動的なのも特徴とされる。
更新世の時代にヨーロッパに多く生息した。氷河が消え去ると森の中での生活に適応したが、多くのヨーロッパの国々では最近はあまり見られなくなった。法的に保護されてはいるが、家猫と見間違えられてハンターに撃たれることがある。スコットランドでは野猫との交配もヤマネコの数に危機を及ぼしているとされる。しかし、どれだけの野猫との交配がヤマネコの数に影響を与えているのか、実際にどれほど純血のヤマネコが存在するのかは分かっていない。また、ヤマネコと野猫が問題なく交配していることは、ヤマネコと野猫の雑種が野生の猫(タビーや色の濃いタイプで大きい猫)として順応していることからも、生態という観点からすれば純血であるということはさして大きな問題ではないともいえる。
イベリア半島では、ドゥエロ川エブロ川の北に住むヨーロッパ型と、その他の地域に住む大型のイベリア型で過去にF. s. tartessiaと言われる別の亜種と考えられていた種類と、大きく分けて二種類のタイプが生息している[15]。イベリア型の雄は最大で体長65cm、尾長34.5cm、体重7.5kgにまで及ぶ。彼らはまた、あまり広がっていない縞模様と体格に応じて大型の犬歯を持ち、ドゥエロ川・エブロ川以北のグループが小型齧歯類を餌とするのに対し、イベリア型はウサギ類を捕食する割合が高い[16]古生物学者ビョーン・クーテン博士は著書の「ヨーロッパにおける更新世哺乳類」(1963)の中で、このいわゆるイベリア型亜種は更新世氷河期にヨーロッパ全土で見られた体型と大きさを特異的に保持しているのだと記している。両タイプの生息環境も異なり、北部のヨーロッパ型が主に落葉性のヨーロッパナラ(Quercus robur)の森林に棲むのに対し、南部のイベリア型は常緑性のセイヨウヒイラギガシ(Quercus ilex)の森に棲む[16]
スペインポルトガルは西ヨーロッパでも特にヤマネコの生息数が多いとされているが、この地域では野猫との交配による危機で生息場所も失っている。
東側の生息地はウクライナモルドバコーカサス地方で、家猫との雑種も最も少ないとされている[14]
  • 不明
    • Felis silvestris chutuchta
    • Felis silvestris gordoni
    • Felis silvestris haussa
    • Felis silvestris iraki
    • Felis silvestris nesterovi
    • Felis silvestris rubida
    • Felis silvestris tristrami
    • Felis silvestris ugandae
    • Felis silvestris vellerosa[要出典]

人間との関係[編集]

亜種リビアヤマネコを含む広義の本種が家畜化され、イエネコになったと考えられている。2007年には発表されたネコ属から採取した979組織のミトコンドリアDNAとマイクロサテライト遺伝子の分子系統解析では、共に亜種リビアヤマネコとイエネコが同じ系統に含まれるという解析結果が得られたため亜種リビアヤマネコを起源とする説を支持している[8]。ミトコンドリアDNAの解析からイエネコが亜種リビアヤマネコと分岐したのは131,000年前という解析結果が得られ、他のデータも含めると155,000 - 107,000年前に分岐したことが示唆されている[8]。このミトコンドリアDNAの解析では、解析に用いられたイエネコでは母系をさかのぼると少なくとも5つのミトコンドリアDNAハプロライプに起源があることが示唆されている[8]。この解析では9,000年以上前にFertile Crescent地域で初期の農耕の成立に伴い、家畜化されたと推定している[8]。紀元前3,000年前の古代エジプトの遺構から大量に出土するようになったことから、この時期に家畜化されたとする説もある[17]。古代エジプト起源説では小麦や大麦などの栽培が盛んであったため、貯蔵している穀物を食害するネズミを食べることが家畜化のきっかけとなったとされる[17]。頭がネコ・首から下が女性の愛の女神バステトへの信仰や、彫像やレリーフなどの出土品が見られる[17]。ギザの墳墓からミイラとなったネコが約190匹の発見された例があり、一部は大型なためジャングルキャットのものとされるが大半は亜種リビアヤマネコもしくはイエネコのものと推定されている[17]。ヘロドトスなどによる古代エジプトについての記録ではネコが死ぬと飼っていた家族が弔いのために眉を剃る、ネコを誤って殺した外国人が民衆によってリンチに遭うなどといった記録がある[17]。 これより古くは紀元前6,000年前のアナトリアの作られたと思われる女性とネコの偶像、紀元前4,000 - 5,000年前のヨルダン河岸のイェリコの遺構から出土したという報告例もあるが起源について主流な説とはならなかった[17]。後者についてはイエネコかどうか不明で、毛皮目的で殺された個体である可能性もある。紀元前9,500年前の本種が分布しないキプロスの遺跡から人間と亜種リビアヤマネコ(大きさや額の傾斜・頬歯の長さから)と推定される骨が約40センチメートル離れて同じ向きで出土した例があり、これをもって最古の飼育例とする説もある[18]。 日本でのネコの最古の記録は平安時代初期で、日本霊異記宇多天皇御記で記述がみられる[17]

イエネコとの競合や感染症の伝搬・遺伝子汚染、交通事故、害獣としての駆除などにより生息数が減少している[3]。1977年にネコ科単位でワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

出典[編集]

  1. ^ Appendices I, II and III<https://cites.org/eng>(Accessed 28/10/2017)
  2. ^ a b UNEP (2017). Felis silvestris. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (Accessed 28/10/2017)
  3. ^ a b Yamaguchi, N., Kitchener, A., Driscoll, C. & Nussberger, B. 2015. Felis silvestris. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T60354712A50652361. http://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2015-2.RLTS.T60354712A50652361.en. Downloaded on 28 October 2017.
  4. ^ a b c 成島悦雄 「ヨーロッパヤマネコ」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、163-164頁。
  5. ^ a b c d e IUCN SSC Cat Specialist Group, "Felis bieti,""Felis silvestris,""Felis lybica," Cat News, Spacial Issue 11, 2017, Pages 15-20.
  6. ^ a b c W. Christopher Wozencraft, "genus Lynx," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 536-537.
  7. ^ フィオナ・サンクイスト、メル・サンクイスト 『世界の美しい野生ネコ』 テリー・ホイットテイカー写真、今泉忠明監修、山上佳子訳、エクスナレッジ、2016年、225-231頁。ISBN 978-4-7678-2153-5
  8. ^ a b c d e f g Carlos A. Driscoll, Marilyn Menotti-Raymond, Alfred L. Roca, Karsten Hupe, Warren E. Johnson, Eli Geffen, Eric Harley, Miguel Delibes, Dominique Pontier, Andrew C. Kitchener, Nobuyuki Yamaguchi, Stephen J. O’Brien, David Macdonald, "The Near Eastern origin of cat domestication," Science, Vol. 317, Issue 5837, 2007, Pages 519-523.
  9. ^ Bulletin of Zoological Nomenclature. "International Commission on Zoological Nomenclature, Opinion 2027 (Case 3010). Usage of 17 specific names based on wild species which are predated or contemporary with those based on domestic animals (Lepidoptera, Osteichthyes, Mammalia): conserved". Bulletin of Zoological Nomenclature, Volume. 60, 2003, Pages 81-84.
  10. ^ 白井祥平 『世界動物名検索大辞典(第2期) 世界哺乳類名検索辞典・学名篇』 原書房1993年、167頁。ISBN 4-562-02466-6
  11. ^ 「人類史上初のイエネコは1万年前に中東でネズミを捕っていた」 AFP, 2007年06月29日.
  12. ^ 「イエネコの祖先は近東出身」 Archived 2007年7月1日, at the Wayback Machine. Science, 今週のハイライト, 2007年6月29日.
  13. ^ Study Traces Cat's Ancestry to Middle East”. 2007年6月29日閲覧。
  14. ^ a b European Wildcat”. IUCN/SSC Cat Specialist Group (IUCN - The World Conservation Union). 2007年1月2日閲覧。
  15. ^ Purroy, F.J. and Varela, J.M. (2003). Guia de los Mamiferos de Espana. Peninsula, Baleares y Canarias. Lynx Edicions, Barcelona.
  16. ^ a b "Felis silvestris Schreber, 1777", pp. 333?338 in Red Book of Iberian Mammals (Spanish). magrama.gob.es
  17. ^ a b c d e f g 野澤謙 「ネコの家畜化」『動物たちの地球 哺乳類II 1 トラ・ライオン・ヤマネコほか』第9巻 49号、朝日新聞社、1992年、26-27頁。
  18. ^ Jean-Denis Vigne, Jean Guilaine, K. Debue, Patrice Gerard, "Early taming of the cat in Cyprus," Science, Volume 304, Issue 5668, 2004, Page 259. [http://science.sciencemag.org/content/sci/suppl/2004/04/07/304.5668.259.DC1/vigne.SOM.pdf Online material

関連項目[編集]

外部リンク[編集]