コンテンツにスキップ

異人たちとの夏 (映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
異人たちとの夏
The Discarnates
監督 大林宣彦
脚本 市川森一
原作 山田太一
異人たちとの夏
製作 杉崎重美
出演者 風間杜夫
片岡鶴太郎
秋吉久美子
名取裕子
永島敏行
音楽 篠崎正嗣
撮影 阪本善尚
編集 太田和夫
製作会社 松竹
配給 日本の旗 松竹
公開 日本の旗 1988年9月15日
上映時間 110分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
テンプレートを表示

異人たちとの夏』(いじんたちとのなつ)は、1988年日本ファンタジードラマ映画。監督は大林宣彦、出演は風間杜夫片岡鶴太郎秋吉久美子など。原作は山田太一の1987年の同名小説

なお、同原作は2023年イギリスで『異人たち』として再映画化されている。

ストーリー[編集]

壮年の人気シナリオライターである原田は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある晩、若いケイという女性が、飲みかけのシャンパンを手に部屋を訪ねてきた。「飲みきれないから」という同じマンションの住人である彼女を冷たく追い返す。数日後、原田は幼い頃に住んでいた浅草で、彼が12歳のときに交通事故死した両親に出会う。原田は早くに死に別れた両親が懐かしく、少年だった頃のように両親の元へ通い出す。「ランニングになりな」とか「言ってる先からこぼして」などという言葉に甘える。

原田はそこで、ケイという女性とも出会う。チーズ占いで木炭の灰をまぶしたヤギのチーズを選ぶと、「傲慢な性格」だといわれる。不思議な女性だと感じながら彼女と愛し合うようになる。父とキャッチボールをしたり、母手作りのアイスクリームを食べたり、徐々に素直さを取り戻して行く。両親を失ってから一度も泣いたことはなく、強がって生きてきたのだった。

しかし2つの出会いと共に、原田の身体はみるみる衰弱していく。ケイもまたあの日、チーズナイフで自殺していたのだった。「たとえ妖怪、バケモノでもかまわない。あの楽しさ、嬉しさは忘れられない」というが、別れの時が来る。両親と、浅草今半別館ですき焼きを食べることになるが、「たくさん食べてよ」といっても、ふたりは微笑むだけだった。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

製作[編集]

元々、松竹からの大林への発注は夏に観客をぞっとさせるゾンビ映画だった[1]。一人の女がいろんな人を惑わせて、都会のマンションでホラーを描くという薄いシノプシスが松竹から送られてきた[1]。公開時に物議を醸したエンディングのCGはその名残りである[1]

主人公の父親役は、監督の大林が片岡鶴太郎の江戸弁を気に入り抜擢したもの[2]。大林は鶴太郎がまだ無名だった1978年頃[3]、鶴太郎が劇団未来劇場に出た芝居を観て「エノケン八波むと志渥美清の系譜を引く凄い可能性を持った役者だな」と感想を持っていて[3]、その後、鶴太郎がどんどん売れっ子になり、一緒に仕事をする機会を失ったが、この役なら適役と考え、鶴太郎に「あの頃のあなたの味わいでやってもらえないか」とオファーした[3]。ところが原作者の山田が「あんな太ったヤツの寿司は食えない」と反対した。それを聞いた鶴太郎は必死のトレーニングにより減量し、撮影に間に合わせた[2]

大林は父親役にエノケンをイメージし、主題曲はエノケンの浅草オペラから「リオ・リタ」を起用した[4][5]

大林映画には珍しく、名取が扮する魔女(ケイ)と風間の大胆なベッドシーンがある。また初期構想では、魔女役は秋吉(実際には主人公の母親役)が演じる予定だった[4]。秋吉は「私は一般的、世間的に“自由奔放、小悪魔”といったイメージの報道のされ方をすることが多いのですが、大林監督の作品では全部違うんです。『異人たちの夏』でも、片岡鶴太郎さんが演じる、すぐに仕事を辞めちゃう、稼がないお父さんの横でケラケラ笑っているような自然体のお母さんの役で。大林監督にとっては『それが君だ』という自信があるんですよね。それでお手紙も頂いたくらい」と、やり取りがあったことも明かし、「この作品で、セクシャリティというのは装うものじゃないんだな、ということと、人が『こういうものがセクシャリティ』と決めつけるものではない。それを教えていただいた」となど話した[1][6]。秋吉は本来矛盾するはずの母性と色気を放つ母親役を好演した[7]

映画全体の87パーセントがセットでの撮影[1]松竹大船撮影所に浅草の佇まいが再現された[3]。撮影は1988年春[3]

ケイ(藤野桂)が宙に浮き形相が変わるシーンでは、500万円を費やしてハイビジョンが使用された[8]

評価[編集]

  • 雑誌『シティロード』の封切時の映画批評★★★★★…ぜったいに見る価値あり! ★★★★…かなり面白かったです ★★★…見て損はないと思うよ ★★…面白さは個人の発見だから ★…どういうふうに見るかだね)。出典:[9]。以下、〔ママ
    • 川口敦子「あちらとこちらと思っていたらこちらもやっぱりあちらだった、という設定は“どんな顔”“こんな顔”と安心がたちまち突き崩されるあの“むじな”話的大逆転があってこそ生きてくるんだと思う、とすればびんびんに作り上げたあちらの世界に対し、こちらの世界の自然さがいまひとつで自然でないのがウラメシ~、とはいうものの片岡、秋吉の夏姿はなかなか素敵」(★★★)。
    • 中野翠「地下鉄から奇怪体験に滑り込んでいくところジャック・フィニイの『レベル3』で、あとは『ゲイルズバーグの春を愛す』みたいだ。私はこういうアイデアのある映画や小説がすごく好き。秋吉久美子が昔風の安っぽい花柄ワンピースが妙に似合っていた。名取裕子のシーンはかったるいですね。あの役は小林麻美でしょ」(★★★★)。
    • 松田政男「本年度ベストワンに推すべきか、それともワーストワンなのか。ベッドシーンも濃厚な大林宣彦の大変身を目の当たりにして、迷いに迷っている最中だ。主人公の風間を誘い込む鶴太郎=久美子は善霊、裕子は悪霊という二分法に異和が残り、その異和こそが一篇の主題とも見えて〈異人たち〉の側に思い入れれば入れるほど跳ね返えされる構造になっているからだろう」(★★★★★)。
    • 利重剛「この映画、期待している人ってほとんどいないんじゃない? だからその分だけ“案外面白かった”と思う人が多いんじゃないかな、ひどい言い方だけど」(★★★)。

受賞歴[編集]

出典[10]

  • ファンタスティック映画祭審査員特別賞
  • 毎日映画コンクール優秀賞
    • 監督賞(大林宣彦)
    • 女優助演賞(秋吉久美子)
  • ブルーリボン賞
    • 助演女優賞(秋吉久美子)
    • 助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • キネマ旬報
    • 助演女優賞・助演男優賞(片岡鶴太郎)
  • 第12回日本アカデミー賞[11]
    • 優秀作品賞
    • 優秀監督賞(大林宣彦) ※他作品と合わせて
    • 最優秀脚本賞(市川森一)
    • 優秀主演男優賞(風間杜夫) ※他作品と合わせて
    • 最優秀助演男優賞(片岡鶴太郎) ※他作品と合わせて
    • 優秀助演女優賞(秋吉久美子) ※他作品と合わせて
    • 優秀撮影賞(阪本善尚)
    • 優秀照明賞(佐久間丈彦)
    • 優秀美術賞(薩谷和夫) ※他作品と合わせて
    • 優秀録音賞(島田満・小尾幸魚)
    • 優秀編集賞(太田和夫) ※他作品と合わせて

出典[編集]

  1. ^ a b c d e 変わらぬ美しさ 秋吉久美子さん登壇!! 第32回 東京国際映画祭「異人たちとの夏」舞台挨拶/前編中編後編TokyoBorderlessTube
  2. ^ a b 『週刊現代』2010年10月9日号, pp. 86–88.
  3. ^ a b c d e 『シティロード』1988年6月, p. 27.
  4. ^ a b 大林 1998, p. 79.
  5. ^ 大人のためのファンタジーホラー『異人たちとの夏』[映画]”. All About (2013年8月28日). 2022年12月20日閲覧。
  6. ^ イベントリポート 秋吉久美子、大林監督作『異人たちとの夏』の泣きどころは「前掛けを振るシーン」”. 東京国際映画祭ニュース. 第32回東京国際映画祭 (2019年11月4日). 2023年12月10日閲覧。
  7. ^ 渡辺武信「映画少年魂の開花とその持続」」『ユリイカ 2020年9月臨時増刊号 総特集 大林宣彦 1938-2020』青土社、2020年8月、62–69頁。ISBN 978-4-7917-0389-0 第52巻第10号。
  8. ^ 石井博士 ほか『日本特撮・幻想映画全集』勁文社、1997年5月、315頁。ISBN 978-4-7669-2706-1 
  9. ^ 「ロードショー星取表 『異人たちとの夏』」『シティロード』1988年9月号、エコー企画、32-33頁。 
  10. ^ 異人たちとの夏”. 映連. 一般社団法人日本映画製作者連盟. 2022年12月20日閲覧。
  11. ^ 第12回 日本アカデミー賞 優秀賞”. 日本アカデミー賞公式サイト. 2024年6月5日閲覧。

参考文献[編集]

  • 野村正昭「FRONT LINE CINEMA 松竹―大船―大林。これまでの大林ワールドと一味ちがう『異人たちとの夏』撮影快調!」『シティロード』1988年6月号、エコー企画、27頁。 
  • 大林宣彦『大林宣彦ワールド 時を超えた少女たち』PSC(監修)、近代映画社、1998年8月、79頁。ISBN 978-4-7648-1865-1 
  • 『週刊現代』2010年10月9日号、講談社、2010年10月、86-88頁、JAN 4910206421003 

外部リンク[編集]