オイディプス症候群

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オイディプス症候群
作者 笠井潔
日本
言語 日本語
ジャンル 探偵小説
発表形態 雑誌連載
初出情報
初出 EQ No.95- No.102
出版元 光文社
挿絵 宇野亜喜良
刊本情報
刊行 四六上製本
出版元 光文社
出版年月日 2002年3月
受賞
2003年 第3回本格ミステリ大賞受賞
シリーズ情報
前作 哲学者の密室
次作 吸血鬼と精神分析
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オイディプス症候群』(オイディプスシンドローム)は、笠井潔探偵小説

ミステリ総合誌『EQ1993年9月号~1994年11月号で連載され、全面的に加筆改稿後[1]2002年3月に書籍化された。2002年週刊文春ミステリーベスト10』第4位[2]、同年『このミステリーがすごい! 2003年版』第10位[3]2003年、第3回『本格ミステリ大賞』受賞[4]

1970年代パリを主要舞台に、謎の日本人青年矢吹駆(ヤブキカケル)と大学生ナディア・モガールの活躍を描いた、連作ミステリーの第5作である。今作はギリシャクレタ島沖にある孤島を舞台にしたクローズド・サークル[5]で、1980年代から世界的に感染拡大したウイルス性疾患AIDS」をモデルにした感染症の脅威を軸に、古代ミノア文明ギリシア神話を修飾として展開する。恒例のカケルとの討論相手はフランスの哲学者ミシェル・フーコーをモデルにした人物で、その著作「監獄の誕生」を出処に"まなざし"に関する対話が交わされる。

あらすじ[編集]

ナディアはパリのクロード・ベルナール病院で、死の床にある友人のフランソワ・デュヴァルを見舞ったが、彼から重要な依頼を受ける。ザイールで研究していたウイルス感染症の研究報告書が封印された大判封筒を、ギリシャにいる共同研究者ピエール・マドック博士に手渡すことを旅費を添えて任された。同行者の必要を勧めるカケルを伴って翌日出立したが、アテネ空港で出迎えた製薬会社支社長に、さらにクレタ島南岸のスファキオン村まで向かうよう伝えられる。カケルとは空港ではぐれたため伝言を頼んで、単身カニア空港行きに乗り継いだが機中で、同じ村へ向かう女医のソーニャ・ラーソンと隣り合わせる。空港のバス乗り場でナディアは旧友のコンスタン・ジュールと再会したが、彼は特にあてのない旅行中だと語った。コンスタンを含めた三人は博士が滞在している、村のホテルに同宿することになった。

ホテルのフロントでナディアは、博士は外出したまま戻らぬと伝えられる。夜になってカケルから知人とアテネにいると電話が入ったので村へ誘うが、互いに面識のない者として振るまうという奇妙な条件を付けられた。否応なく承諾したナディアは明朝の船で博士が出向いた沖にある"ミノタウロス島"へ渡って封筒を手渡すので、午後3時に埠頭で待ち合わせることなった。しかし翌朝の船に乗り遅れたナディアは、村の滞在理由を曖昧にしていたソーニャが、同宿の2人のアメリカ人と見知らぬ大柄な男ら4人で9時の船に乗り込むのを目撃する。やむなくナディアはコンスタンと午後3時の船に乗ることにしたが、桟橋で哲学者のミシェル・ダジールとカケルの2人も同じく乗船しようとしていた。アメリカ人の大学教授を含めた5人は、平たい箱を重ねたようなミノア様式の"ダイダロス館"で接待役のマドック博士に迎えられる。

ナディアが充てられた部屋で晩餐の支度を終えた頃に、各部屋を廻っていた博士が訪れた。ようやく封筒を手渡したが博士は思い出したように受け取ると、その場で開封し「オイディプス症候群」と表題の打たれた書類の束を確認した。博士に大げさな感謝をされたナディアがなにげなく、スファキオン村でこの会合の招待主ロレンス・ブルームが行方不明になった話をすると、博士は慌てた様子で部屋を後にした。

国籍も社会的地位も異なる十人の男女は、秋から冬の変わり目の嵐に襲われたエーゲ海に浮かぶ孤島に閉ざされた。彼らの思惑と無意識な行動の因果は錯綜とした紋様を描き、血で染められた情念のタピストリーを紡いでゆく。招待客たちは"ダイダロス館"中庭の周囲に立ち並んだ、十体の牛神像への供物に捧げられる。

主な登場人物[編集]

  • フランソワ・デュヴァル キンシャサの疫学研究所に赴任していた、マルティニク出身のパストゥール研究所研究員
  • オーサ・カールストゥルム スウェーデン人のオイディプス症候群を発見したアブバジ村の女医
  • ディーダラス スファキオン村の崖から墜死したホテル・クセニアの宿泊者
  • ロレンス・ブルーム CDCの研究員"ミノタウロス島"の会合の招待主
  • ピエール・マドック パストゥール研究所の研究員"ミノタウロス島"の会合の接待役
  • コンスタン・ジュール グルノーブル在住の新哲学派の哲学者、元マオイストの活動家
  • ソーニャ・ラーソン ストックホルム国立病院の内科医
  • アーノルド・ダグラス サンフランシスコの市政委員
  • サイモン・デリンジャー ニューヨーク州イサカの大学教師で小説家
  • ミシェル・ダジール フランス人の著名な哲学者、コレージュ・ド・フランスの教授
  • ウイリアム・ロビンソン 古代ミノア文明研究家、UCLA教授
  • ハワード・ポッツ 保険会社の調査員、元ニューヨーク市警察の刑事
  • マリユス・マルボー 未到着の招待客、モントリオール在住
  • ポール・アリグザンダー 製薬会社バイオクロス社の経営者で"ダイダロス館"の所有者
  • イレーネ・ベロヤニス (エレニ) ポールの妻、スファキオン村出身の元舞台俳優
  • ジョージ・アリグザンダー (ヨルギオス) ポールとイレーネの息子
  • バシリス "ダイダロス館"の管理人
  • ダナエ バシリスの妻、イレーネの従妹
  • マルコ イタリア人のホテル・クセニアのフロント係
  • レオニダス スファキオン村の老漁師
  • ナディア・モガール パリ出身の大学生
  • 矢吹駆 (トラン・バン・ドン) 謎の日本人青年
  • ニコライ・イリイチ・モルチャノフ 秘密政治結社"ラモール・ルージュ"の中心人物

主な関連項目[編集]

序章 死の災厄
ベルギー領コンゴ

エボラ熱

リヴィングストン

スタンレー

WHO

エボラ川

イシロ

コロニアル様式

フランスの海外県

フランツ・ファノン

コンゴ内戦

モブツ将軍

日和見感染

女子割礼

第一章 テセウスの背信
神曲

ギュスターヴ・ドレ

DST

ハリー・ベラフォンテ

弁証法

収容所群島

官能の帝国

エマニュエル夫人

O嬢の物語

ニンフォマニア

ゴーリスト

ヒンドゥー教

フッサール現象学

イギリス経験論

胡蝶の夢

カトリック文化

キッシュ・ロレーヌ

五月革命

二月革命

ルイ=ボナパルトによる軍事クーデタ

極左

モロ暗殺

インディオ

アボリジニ

公民権運動

世界人権宣言

社会契約

モーセの十戒

ラスコーリニコフ

スタグローギン

クノッソス

イラクリオン

ドイツ軍の鉄兜

アテナ

ナクソス島

ナクソス島のアリアドネ

ピレウス

不条理演劇

イレーネ・パパス

メリナ・メルクーリ

第二章 ダイダロスの墜死
片足の海賊

アブサント

ウーゾ

モンブラン

スカンジナヴィア

インゲマル・ステンマルク

プロシェット

パイストス

レティーナ

血液製剤

薬害肝炎

迷宮

トロイア

王家の谷

アーサー・エヴァンズ

ジョン・レノン

ヒッピー

ギリシア棺の謎

アガサ・クリスティ

世界最初の探偵小説

ルコック

ルルタビーユ

ロレンス・ダレル

ウエスタン

デリンジャー

審判

アンチロマン

フラワーチルドレン

そして誰もいなくなった

ユリシーズ

シンタグマ広場

ベルナール

アンドレ

クー・クラックス・クラン

紅衛兵

カンボジア共産党

人民裁判

ベニー

ヴァンセンヌ校

アレクサンドリア四重奏

ドクター・ノオ

第三章 ミノタウロスの神像
ファラオを演じた映画俳優

アルゴ探検隊

アイルランド人の作家

オデュッセイア

イリヤス

ケルト語派

線文字A

サントリニ島

ミノア噴火

ミュケナイ人

ジブラルタル海峡

ストーンヘンジ

シュリーマン

パルテノン神殿

古典期

アルカイック期

アカイア人

ドーリア人

線文字B

ヴェントリス

ロゼッタ石

炭素測定法

チャーチワード説

フレスコ画

ディクテ山の洞窟

円形闘技場

ロングアイランド

双斧

アヌビス

ヴァイキング

ダルタニアン

ドン・キホーテ

クレタ島の戦い

カロン

ギリシャ正教

ディアディム

プリアモスの財宝

第四章 イアソンの遭難 第五章 オイディプスの疫病
エディプス・コンプレックス

レトロウイルス

メアンダー

ハイヌヴェレ

イニシエーション

インディアン人形

ゲイ関連免疫不全

アメリカ合衆国におけるLGBTの人々に対する暴力の歴史

ナチス・ドイツとホロコーストによる同性愛者迫害

トロブリアンド諸島

ゲイ・コミュニティ

LGBTの社会運動

ソドム

レプラ

ペスト

デカメロン

現象学の創始者

ヤヌス

懐疑論

聖テレジア

コルシカ人

オイディプス王

イージー・ライダー

ジキルとハイド

殉死

シャーマニズム

錬金術

スーフィの神聖舞踏

座禅

刑罰の一覧

プロメテウス

大審問官のモデル

ツタンカーメン

ニコライ2世

キュプロス・ミノア文字

第六章 ヒュアキントスの流血 第七章 アポロンの神託 第八章 ペルセポネの森林
ストーンウォールの反乱

シラキュース

アメシスト

ヒヤシンス

カサノヴァ

シュルレアリスト

パノプティコン

ジェレミー・ベンサム

モンテ・クリスト伯

ヴィドック

犯罪小説

公開処刑

ボードレール

犠牲の祭壇

神明裁判

コロス

アクロイド殺し

市民革命

法の支配

生権力

王権

否定神学

CRS

強制収容所

ホロコースト

大粛清

カンボジア大虐殺

ポアロ

ルイ14世

北欧神話

規律権力

グリニッジ・ヴィレッジ

ゲイ・タウン

サイトメガロウイルス

第九章 アレキサンドロスの漂流 第十章 アリアドネの復讐 終章 生の災厄
漂流者ロビンソン

感染経路

生物兵器

パウサニアス

エレウシスの秘儀

ポラロイド

サンクチュアリ (フォークナー)

メタレヴェル

王妃ヘカベ

ルーヴル宮

薬害

バタフライ効果

ポール・ゴーギャンの作品一覧

マオリ族

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書籍[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 〈ロング対談〉新世紀本格の最前線 笠井潔×歌野晶午”. 本の話 文藝春秋. 2024年2月27日閲覧。
  2. ^ 『週刊文春 2002年12月26日号』文藝春秋、2002年12月。 
  3. ^ 『このミステリーがすごい! 2003年版』宝島社、2002年12月。 
  4. ^ 2003年度 第3回本格ミステリ大賞”. 本格ミステリ作家クラブ. 2023年11月28日閲覧。
  5. ^ 脱出不可能!? クローズド・サークルミステリーのおすすめ小説”. BOOK OFF ONLINE. 2023年11月28日閲覧。